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余命十五年のチート転生 〜クズから始まる異世界成長物語〜  作者: 三太華雄
第二章 ネロエルドラゴ編

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形勢逆転


「こ、この、凛々しい剣士があの黒だって?」

「信じられん。いや、確かによく見たらそうだが、雰囲気変わりすぎじゃないか?」


 金と銀の騎士は未だ信じられないと言わんばかりにマルスの顔をまじまじと見る。

金の騎士に関しては自分の特徴ともいえる独特な語尾すら忘れている。


「まあ驚くのも無理はない、それだけ以前の俺は情けない格好をしていたんだろう。あれから身だしなみも整えたからな。」


 マルスは後ろにくくった長い髪や剃り落とした顎鬚を撫でながら小さく笑う。


――いや、それだけでここまで変わらないだろう。


……と、二人が心中でツッコんだ。


「……えーと、とりあえず彼は我らの味方と思っていいのかね?」


 話について行けないリングがポールにそっと尋ねる。


「はい、俺達の仲間です。」


 ポールが力強くそして誇らしげに返事をすると、マルスもその期待に応えるように剣を取り出し敵であるヘルメスたちの方に剣先を向ける。


「さて、話は一旦ここまでだ。各員離れた場所に散らばってくれ、そして戦況に応じて赤はスキルでそれぞれの場所に俺をそこに移動させてくれ、そうすればこいつらは俺一人で何とかしてやる。」


 マルスが堂々と言い張ると、その一言にヘルメスがピクリと反応を見せる。


「一人でだと?随分舐められたものだな、まだ後ろには無数の魔物の軍勢が、そしてここには最強民族であるオーマ族の精鋭部隊、我らオーマ卿がいるのだぞ?たかだか一魔法を防いだ程度で少々侮りすぎではないか?」


 ヘルメスが片手を上げると、それに反応しすぐさま他のオーマ卿たちが動き出しマルスを囲う。


「やれ。」


 静かにそう指示を出すと、オーマ卿たちは四方からマルスに向かってお経のような呪文を唱え始める。

 しかし……


「詠唱するとは随分余裕なんだな。」


 そう言ってマルスが握りから手を放さないまま剣を一度鞘に納める。


「隼……」


 マルスが呟くように技名を言う。するとマルスを囲んでいたオーマ卿の四人から一斉に血しぶきが飛ぶ。


「なっ⁉」


 一斉に四人が崩れ落ちると、オーマ卿は誰一人動かなくなる。


「あの四人を一瞬で……いったい何をしたというのだ⁉」

「普通に斬っただけですよ、基本上級剣術隼……上にいる剣士なら大体は使える珍しくない技ですよ。」


 驚きを見せたリングにマルスは当たり前のように説明するが、その話を聞いていた他の騎士たちも驚いていた。

 確かにここにいる騎士達も一流にいる者たちなので皆がこの技を使える。

 しかし、マルスの様に距離がある四人を一瞬で斬るほどの速さなど誰も持ち合わせてはいない。

 マルスは普通の隼の様に言っているが傍から見れば最早次元の剣技である。


「己……よくも我が同胞たちを……」


 ヘルメスが怒りに小さく肩を振るわすと、その際に暴発したマナの影響により仮面にひびが入りポトリと落ちる、そして仮面の中からは鬼のような形相をした白髭を生やした老人の顔が露わとなる。


「これが五大剣術、ベルセイン流の正統後継者の実力か。」

「あらめて、こんな人にあそこまで自信を無くさせた相手の面を拝みたくなったっさ」


 先程まで終局を迎えていたはずなのにたった一人の剣士によって局面が一気にひっくり返る。

 そしてこの後、更にヘルメスの追い打ちをかけるような一報が、リングの兵士によって送られてくる。


――


――終わった……何もかも……


 ネロは地面に膝をつけると、そのまま糸の切れた人形のように静かに項垂れていた。

 周りではリンスやリグレットが戦意を喪失したネロを呼びかけているが、今のネロにはその言葉は何一つ届いていなかった。


――どう頑張っても助からないし助けられない。何もすることができない、何も……


 頭の中ではひょっとして……と古い記憶にある漫画の様な展開を想像するが、何度想像しても助かる方法がが浮かばない。

 ガガ島の戦力は決して多くはないし、ポールたちは満身創痍、そんな面子でモンスターの大群と山賊達を相手にできるはずがない。


 ピエトロならもしかしたらとも考えるが、相手はその兄であるテリアで今回も出し抜かれている。


――俺のせいだ……


 ネロが初めてテリアと出会った時の言葉を思い出す。


『俺が一声上げれば国が動く、お前の言葉一つでお前の故郷が地図から消えるかもしれないんだぜ?』


 テリアが言った脅し文句だ。

 そしてそんなテリアの言葉に対しネロは自分は世界最強だからと強気に跳ねのけた。


――もしこの時俺がしっかり頭を下げていればこんなことには……


 勿論、この時からテリアの計画は始まっており、下げたところで何も変わらなかったであろう。

 しかし、絶望しているネロにはそんな考え方しかできなかった。


「ハハハハ、哀れだなあ最強!どうだ?絶望を味わった感想は?」


――本当、最悪だよ。


 テリアが望んでいた通りネロは絶望している、そしてそれを見たテリアは更に容赦なく煽りたてる。


「さて、じゃあそろそろ現場に向かったヘルメスに今の状況でも聞いてみるかな?」


 テリアが意気揚々とした表情でボイスカードを起動させる。


「ハハハ、こちらテリアだ!どうだヘルメス?そっちはもう片付いているか?」


 自分にも聞かせるためにかテリアはわざとらしい大声でボイスカードに話しかける。

 しかし上機嫌に聞いていたはずのテリアが徐々に困惑を見せる。


「……は?なに?劣勢?全滅?おい、どういうことだ?」

『言葉の通りですよ、突如現れた剣士に我らパーティーは全滅、そしてモンスター達は西から現れたグリフォンに乗った騎士団の襲撃を受け次々と撃墜されています。このままでは壊滅も時間の問題かと』

「は、はぁ⁉︎ふざけんなよ!なんでそんな事になってるんだよ!そんな予定俺の計画にはなかったぞ!グリフォンの騎士団といやあ、オルダのところの部隊だろ?なんでそんなところが加勢に来るんだ⁉誰だよ、俺の計画を邪魔してきやがったやつは!」


 上機嫌に話してたかと思えば今度は怒鳴りだす、そんなテリアの大声にネロも少しずつ正気を取り戻していく。


「あ、ネロ君、道具袋が光ってるよ!」


 今度は届いたリグレットの声にネロが腰につけた道具袋を見るとボイスカードが淡く光っている。


――これは……ピエトロから⁉︎


 ネロは慌てて繋げると、そのまま同時に話しかける。


「おい、ピエトロか⁉︎そっちは全員無事なのか?」

『フフ、そんなに慌てなくても大丈夫、僕もエレナもエーテルも、この島にいる人全員無事だよ。ロールは少し怪我が酷いけど命に別状はないよ。』


 話が聞こえる距離で聞いていた同じパーティーの二人もその言葉を聞いてホッと胸を撫でおろす。


「そうか、本当に良かった……でもどうして無事なんだ?」

『ああ、実際絶望的な状況だったんだけど、ちょうどある人から君の家に連絡がきていてね』

「ある人?」


ああ、それはね――


――


ガガ島前 海上


「さあ、戦乙女の名を受け継ぐ十人の聖騎士(ワルキューレ)達よ!我らオルダ王国の盟友であるミディール王国の敵為すものを打ち滅ぼせ!」


 光り輝く鎧を付けたオルダのヴァルキリアこと、ミーファス・テッサロッサの号令を合図にグリフォンに跨る十人の女騎士が一斉にガガ島を攻め入るモンスターたちへ突撃する。

 そして神速と呼ばれるその素早い攻撃で次々とモンスターを打ち落としていく。


 そんな騎士たちの戦いを船に乗りながら観戦する二人の男の姿があった。


「ふう、なんとか間に合ったようだな。」

「ええ、しかし、よくこうなることが分かりましたね?カラク王。」


 カラクの隣に立つバルゴが尋ねる。


「ああ、なんかなんとなくこうなる気がしたからな。」

「なるほど、なんとなくですか……ってなんとなく⁉まさかカラク王⁉この援軍要請には根拠がなかったのですか⁉」

「耳元でうるせえ奴だなお前は、根拠なんてある開けねーだろ」


 まるで開き直ったように答えるカラクの横でバルゴは口をパクパクさせる。


「こ、今回は見事的中しましたが、もしこれで敵が責めてこなかったらどうするつもりだったんですか⁉同盟国とはいえ他国の最高戦力をお借りしてきたのですよ⁉」

「そんときゃ、倍の報酬払って頭下げりゃ済むだけの事だろ。それより根拠がないと動けないという方が俺はどうかと思うけどねえ。」


 そう言うとバルゴもムムムといった険しい表情をしながら無言になる。

 そんなバルゴの表情を見て勝ち誇った顔をしたカラクだが、ガガ島の方に目を向けると少し真面目な顔

で島を見つめる。


「……ネロは確かに強い、贔屓目を除いたって十分世界最強を名乗れるほどだ。だがそれでも子供なんだ、精神も弱いし、不測の事態と言うものに慣れていない、だからこそ俺達大人がカバーしてやるんだよ。例えそれが早とちりだったとしてもな。それが子供に重い責務を負わせた大人の義務だ。」

「……そうですね。」


 そう言うとカラクたちはモンスターの軍勢がワルキューレ部隊に倒されていくのを遠くから静かに眺めていた。


――


「カラクが……?」

『うん、理由はわからないんだけどこうなることを予測して大会で、活躍の目立っていた人たちに応援を頼んでいたみたいなんだ。』

「ハハ、あのバカ国王は……」


 そう言いながらネロは安堵のあまりに涙を浮かべている、そして心底カラクに感謝していた。


『ところでそっちは大丈夫なのかい?』

「ああ、実は……」


 ネロは攻撃が一切効かないバルオルグスの生態についてピエトロに説明する。


『物理も魔法も無効のスキル……でも以前は剣で討伐されていたんだよね?』

「うん、昔、私がしっかり見てた。」


 横からリンスが返事をする。


『わかった、考えておくけど、まだまだ時間は稼げるかい?』

「ああ、お前らさえ無事なら大丈夫だ。」

『フフ。わかった、じゃあまた後で連絡するよ!』


 ピエトロ側から連絡が切れるとネロは勢いよく立ち上がりテリアに向かって指を差す。


「と言うことだ、形勢逆転だな。」

「うわ、立ち直り早!」

「さっきまでこの世の終わりみたいな顔してたのに……」

「う、うるせぇな!」


 カッコよく決めたのにリグレット達から横やりを入れられると少し恥ずかしそうに言い返す。


「ぐぬぬぬぬ、クソクソクソ!天才の俺の計画が狂うだと!ふざけるな!ええい!ヘルメスよ!ならばせめてこのガキの女だけでも殺してやれ!」

『御意。』


 ヘルメスに指示を出すと今度はテリアが指を差して笑い返す。


「フハハハ!どうだ、これで例え島は滅茶苦茶にできなくてもお前の連れの女も終わりだぞ!」

「ああそうかよ。」


 先程と同様に煽るテリアだが今度のネロは打って変わって余裕の態度を見せる。


「生憎今のお前の計画、なんか成功しそうな気がしないからな。」

「な⁉ふざけんな!俺様は天才なんだぞ!俺の計画が何度も外れてたまるか!ヘルメスはオーマ族第三階級の位を持つものだ!奴に任せれば女のガキ一匹殺すくらい造作もないんだぞ!」


 そう言って怒鳴り散らすテリアではあったがその言葉の裏腹にテリアの中でも計算のできない何かが起こるのではないかという胸騒ぎがしていた。


――

 テリアからの連絡を切るとヘルメスは戦況のを見る。

 仲間のオーマ卿たちは倒れ、海上では謎の騎士団が次々とモンスターを殲滅していく。

 ガガ島にいるモンスターたちも先ほどの剣士の言葉通り一人で対処されている。


「認めたくはないが我らの敗北のようだな……だが、このままでは済まさん。」


 ヘルメスが一体のモンスターに飛び乗りそのまま屋敷へと飛んでいく。


――あまり気のりはしないが我が同胞を亡き者にしたこやつらに一矢報いる。


 そして屋敷の前に着陸すると、屋敷の側でナイフで空間を切り裂きそのまま屋敷の二階にある部屋まで移動する。


「ここだな。」


 ヘルメスが扉の奥からいくつかの人の気配を感知すると、その扉の方に足を進める。


「ムッ⁉」


 すると頭上から突如巨大な氷の刃が降りかかり、ヘルメスはそれを後ろに避けていく。


「やはり来ましたか……屋敷前はピエトロ様たちに任せてここで待機しておいて正解でしたよ。」


 その声に反応して前を見ると、扉の前にはいつの間にか細い目つきをしたメイドの格好をした女性が立っていた。


「ほう、今の攻撃はそなたか……その若さであの魔法、殺すのはなかなか惜しい人材ではあるが邪魔をするなら仕方がない……死ね。」


 ヘルメスが無詠唱で黒い炎の火の玉を作り出しメイドに向かって放つ。

 しかしメイドはその魔法をなんなく手で弾いて見せる、


「バカな!暗黒魔法だぞ!手で触れればその手が灰になるまで燃え続ける炎だぞ?」


 何を起きたのかわからないヘルメスは炎を弾いたメイドの手を観察する。

 するとメイドの手にはヘルメスと同じく黒い氷を纏っていた。


「お、お前……まさか……」

「この部屋にはこの家の主人であるネロ様の大切な人達が御休息している場所です。ここより先、メイド長であるこのカトレアがネズミ一匹通しません!」


 そう啖呵を切ったメイドの細い眼の中にある黒い瞳は、いつしか紅色に変わっていた。


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