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余命十五年のチート転生 〜クズから始まる異世界成長物語〜  作者: 三太華雄
第二章 ネロエルドラゴ編

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過去の思い出


ポールはふと昔の事を思い出していた。

それは自分が幼少の頃の出来事で、同じ街に住む自分が憧れていた一人の剣士が旅立った時のことだ。


「いつか、俺も兄ちゃんみたいな剣士なる!そして世界中の人達を悪いモンスターから守るんだ!」


 まだ剣すら握ったことのなかったポールが旅立つ剣士にそう宣言すると、その剣士は優しくポールの頭を撫でて微笑んだ。


「そっか、じゃあそん時は俺も一緒に戦ってやるよ。」


そんな約束を交わした後、剣士は旅立ちポールはその約束を果たすため、ベルセイン流の門を叩き鍛錬に励んだ。

それがおよそ二十五年前の話である。



――


「俺は、何をしてたんだろうな。」


 ポールは押し寄せてきたモンスターを斬りながらふと過去のを振り返る。

 かつて憧れていた剣士、マルスと交わした約束から二十五年、その約束は最早過去の思い出となっていた。


 共に戦うと言う約束は果たされたが、それは幼少の頃に想像していたものと大きく違った。

 憧れていたマルスは落ちぶれ、約束など覚えておらず、そして自分も腕試しに挑んだスカイレスに惨敗し、その際に交わした条件により自分のパーティーであるナイツオブアークは帝国傘下の冒険者となり、帝国の言いなりになっていた


――どちらも情けないことだ。


 そんなことをどうして今、この状況で思い返しているのであろうか?

 底の見えぬモンスターの大群に勝機が見えず、死を悟って今までの出来事でも振り返り始めたのか?


違う


 ポールは気付いたのだ。今、この島の領主リングと共にモンスターの大群から人々を命がけで守ろうとしている状況こそが、自分が幼い頃に描いていた自分の姿だという事に。


 そして、それを今になって思い出していた。


「ホント、情けない。」


 ポールが今までの自分の行動を思い返し儚げに笑う。

 この状況下で笑ったポールを見て、片手で奮戦する銀の騎士が不可解な表情を見せる。


「どうした?」

「いや、なんでもない。それより、ここは何が何でも死守するぞ!」

「「おう!」」


 思いを心の内に秘めたまま、ポールは号令をかけ気合を入れ直す。

 仲間達はまだ傷が癒えず満身創痍のままながら勢いよく返事をした。


 敵の数は多いが決して強くはない、ガガ島の兵士達とパーティーの仲間との連携で持ちこたえれば島の民達を安全圏まで避難させることくらいはできるかもしれない。


 しかしそう考えていたのもつかの間、突如上から雨の様に黒い火の玉が降り注き、味方を襲う。


「なんだ⁉」


 避け切れなかった島の兵士たちの悲鳴が飛び交う中、ポールたちは上空を見上げる。

すると上空を飛び回るモンスターから髑髏の仮面をつけた男たちが次々と飛び降りてくる。


「貴様らは……」


 ポールが飛び降りて来た者達を見て顔を歪める。

 現れたのは、ついさっきパーティーを壊滅寸前に追いやったオーマ卿たちであった。


「ほほう、この軍勢相手になかなか奮闘しているようだな。」

「ヘルメス!」


 未だ崩れない前線を見て、オーマ卿のリーダーであるヘルメスが仮面を鳴らしてカタカタと笑う。


「テリア様からは様子見程度でいいと聞いていたが、これは少し手伝うとしよう。」


 そう言うと、ヘルメスが指を鳴らす。

 するとオーマ卿たちは手を合わせてお経のような呪文を唱え始めると、黒いオーラで身を包む。


「さあ、皆の者、仕事の時間だ。この島を燃やし尽くし世界の地図から消し去るのだ。」


 ヘルメスが号令をかけると、オーマ卿の一斉攻撃が始まる。

 彼らが繰り出すのは黒い炎や、黒い雷と言った闇のオーラを纏った属性魔法。

 その威力は普通の属性魔法とは段違いである。


 先程まで善戦していた島の兵士達がオーマ卿の魔法の前に次々と倒れていく。

 前線が一気に崩れていく中、さらに追い討ちをかけるように、敵の第二陣が迫ってくる。


「クソってまだ後ろが控えてるってのに!」


オーマ卿たちの攻勢にポールが思わず舌打ちをする。


「……ここはもう限界のようだ、私には後ろに家族がいるから離れられんが君達は離脱するといい。」


 領主自ら剣を奮っていたリングもこの絶望的な光景を前に、観念したのか自分の周囲を守って戦っていたポールに告げる。


「それは無理な話ですよ伯爵、うちの奴らはこの現状でも生きがいを感じてるんですから。」


 自分の特殊スキルにより、ポールに伝わってくる他のメンバーの思い、それは全員がポールと同様にこの戦闘にやりがいを感じている事だった。


「リング様、更に西側の海からもモンスターが現れていると連絡が!」

「……本当にいいのだな?」

「ええ、貴方の御息女を拐おうとした罪滅ぼしも兼ねて命を懸けてこの島を守ります!」

「そうか。ならばもう何も言わん、共に死んでもらおう。」


――ガガ島西側エルドラゴ領土


「はぁ!」


 ロールが自慢の蹴り技で山賊達を次々と蹴り飛ばす。


「クソ、このウサ公、なかなかつええ」

「お前達はどいてろ、次は俺が挑む。」

「ハァハァ……ネロ君の屋敷には絶対行かせない!」


 ロールの疲労が少しずつ溜まっていく。

 一人で相手をするには数が多く、更にまだ後ろには頭領のバラバモンだけでなく山賊達の幹部達も控えている。


「チッこんなやつ一匹に計画を潰されちゃあたまんねぇ、こいつは放っておいて屋敷に向かうぞ!」


 バラバモンの指示に従い、山賊達が、ロールを無視して屋敷へと向かいだす。


「行かせない!屋敷には誰一人といして!」


 今いる場所は広々としており、大勢に動き回られると一人で阻むのは容易ではない、しかしロールは止めようと必死で立ち回り山賊達次ぎ次と蹴り飛ばす。


――ネロ君は、あの怪物相手に戦ってくれているんだ。だから私が、ネロ君の代わりに彼の大切なものを守ってみせる!


 今ネロの屋敷にはメイド達の他に、迫り来るモンスターから避難するために移ってきたエレナやピエトロ達も来ており、ネロの大切なものと呼べるものすべてが屋敷に集まっていた。


 ロールは疲労困憊になりながらも、一人も通してはいない。

 その必死な立ち振る舞いに凄みも現れ山賊達は怯み始めるが、突如死角から飛んできた鎖がロールの右手に絡みつく。

 気がつけばロールの周りを山賊の幹部達が囲んでいた。

 

「しまった!」


 鎖を解こうと抵抗していると他の山賊達からも次々と鎖が飛んできて両手両足の自由を奪われる。


「へへへ、よくやった。そのまま押さえつけておけ。」


 身動きの取れないロールにバラバモンがニヤリと笑うと、自慢の鉄球を上に振り回し始める。


「本当ならその体を楽しませてもらおうかと思ったが、強い奴に隙を見せるほど俺も馬鹿じゃねぇ。まあ、その分屋敷メイド達にはたっぷりご奉仕してもらうけどな。」

「クソっ」


 ロールが必死でもがき鎖から抜け出そうとするが手足に絡みつく鎖は外れる事はない。

 遠心力により、勢いづく鉄球は徐々に大きな渦をつくるほど激しく回る。


「そろそろいいだろう。あのガキには通用しなかったが、普通の人間なら即死の攻撃だ、さあ、くたばりやがれぇ!」

「くっ‼︎」


 バラバモンが周りの風をも巻き込むほど回転した鉄球をロールに振り下ろす。

 手足の自由を奪われたロールは避けることが出来ずそのまま鉄球がロールへと直撃した。


「……終わったな。」


 叩きつけた鉄球は地面を砕き、辺りに土煙が舞う。

 手応えを感じたバラバモンが、ニヤリと笑い土煙が晴れるのを待つ。

 そして煙が晴れると、そこにはバラバモンの攻撃により荒れた大地の真ん中で倒れ込むロールの姿があった。


「チッ、手間とらせやがって。」


 死んだことを確信するとバラバモン達はそのまま倒れるロールの横を堂々と通り過ぎ屋敷へと歩き出す。

 しかし、少し進んだところで背後から鋭い殺気を感じると、バラバモンは思わず立ち止まり後ろを振り返る。

 そして、振り返ると後ろには頭から血を流し、ぶらぶらと腕を揺らしながら立つロールがいた。


「バ、バカな……アレを喰らって生きてるだけじゃなく、立ち上がるだと……⁉︎」


 バラバモンはボロボロのロールを見て悪寒が走る。

 誰が見てもロールは満身創痍で立っているのがやっとだが、それでもバラバモンを始め山賊達はロールの姿に、恐怖を感じ始めていた。


「なんで、立ってられるんだよ……」

「……もう……ない……て……私は……」


 まるでゾンビの様に一歩一歩山賊達へ向かって歩き出す、山賊達もその気迫に体が硬直し動けずにいる。

 まともに声を発することもままならないロールは一度大きく息を吸うと、体にある、全ての力を振り絞り山賊達に向かって猛獣を彷彿させるような声で自らの名前を叫んだ。


「我が名はぁ!ロール・キャルロット!誇り高きガゼルの戦士なり!」


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