仲間への信頼
ネロ達のいる世界、アムタリアとは違う次元に存在すると言われている妖精界。
まるで覆われているように上空一面に広がる七色の空と、濃度の高いマナの影響を受けた草木や水が特徴の場所である。
妖精以外に生物はいなく、一体ここがどういう場所なのか、それは妖精達にもわかっていない。
妖精たちは自分達には大きすぎるその草木を利用し生活し、濃度の高いマナを生み出している大樹の中に城を作り、妖精の国を築きあげていた。
――妖精の城 城内
「フローラ様、風の妖精部隊の戦闘準備が整ったこと。」
「わかりました。では、続けて辺り一帯の防御を固めてください。」
フローラは兵士から報告を受けると、続けて指示を出す。
今、妖精の国では迫り来る国の危機を脱する為に国中の妖精達が総出で準備を始めていた。
それは 第二王女であるフローラも例外ではなく、フローラは他の作業で手が離せない女王に代わり城内の指揮をとっていた。
「ふう……。」
フローラが一通りの指示を終えると、肩の力を抜き大きく息を吐く。
母親である女王から伝えられた通りに指示を行っているだけだが、生真面目なフローラは例え指示通りに行っているだけだとしても人の上に立つ立場に責任感を持ち、大きな重圧を感じていた。
妖精の女王が予言した獣人族との決戦の日までの期日が刻々と迫り、迎撃準備が着々と進んでいる。
女王の指示はどれも的確で、感心させられることばかりではあったが、一つ、フローラは疑問に思うことがあった。
それは女王が外界に救援を要請した相手である。
妖精の体長は他の人種の掌に乗る程度、攻撃魔法も得意としない妖精達が身体能力の高い獣人族に勝つのは至難であり、そのため、女王は他の種族の者へと救援を要請していた。
他の種族とはあまり交流もないため救援を求める相手は限られている、しかしそれを踏まえても今回の人選はあまりにもありえない者達であった。
女王が救援を要請した相手はいないものを含めて全員で七人。
外界でも有名な戦士もいれば聞いたことのない名前の者もいる。
立場もバラバラで中には一国の主だというものもいた。
その中でも驚くべきなのは要請した人物の殆どが、種族にバラつきがあり、全員、一切接点を持っていないにも関わらず皆が二つ返事で了承したと言うところだった。
――陛下は一体どうしてこの方たちに助けを?
幾ら親交のあるものでも実力のない相手に助けを求めたりはしない、外界の通貨はないが、金銀の蓄えはこの城にもあり、それを使えばちゃんとした戦士や、ギルドのパーティーを雇うことだって出来たはず。
そんな疑問に悩んでいると、ふと脳内に声が響き渡る。
『状況はどうですか?フローラ。』
脳内に語り掛けてきた声の主は妖精の女王であった。
フローラは女王の声に対し、その場で慌てて頭を下げる。
「あ、お母さ……女王陛下!はい、陛下の指示通り作業を進め迎撃準備は順調に進んでいます。」
『それは何より、フローラもご苦労様です。』
「め、滅相もございません!」
女王のねぎらいの言葉に心なしかフローラの声色が上がる。
『では、引き続き城の指揮を任せます。私はもう少しやらなければいけないことがあるので。』
「は!」
フローラが大きく返事をすると、脳内に聞こえてきた声が途絶える。
しかし……
「あ、あの、女王陛下!」
すぐさまフローラが女王に呼びかける。
『……なんですか?』
「その、あの……勝手なことをして申し訳ありませんでした。」
以前、フローラが独自の判断でエーテル達を騙して妖精界から遠ざけた事を改めて頭を下げて謝罪する。
女王はそんなフローラに対し妖精の国を統べる王としてではなく一人の母親として接した。
『フフ、あなたは、エーテルと違って大人しいと思っていたけれど、時に見せるそう言う大胆さは姉妹そっくりですね。ただ、一つ言わせてもらうとすれば、もう少し姉の仲間をもっと信じてあげなさい。』
「しかし……」
『あなたが泉で何を見たのかは知りません。そしてその光景はどうあがこうが決して避けられぬ運命です。ですが、泉に映る光景はほんの未来の一部でしかありません。もしエーテルの連れて来た仲間たちが何か国に害する光景だとしても、私はその行動に何か理由があるのだと思います。」
「……母様は、随分とお姉さまの仲間を信用いるのですね。」
『ええ、愛する娘の仲間ですからね。もちろん、あなたが仲間を連れ来たとすればその方たちも信用するつもりですよ。』
そんな言葉を簡単に言ってのける母にフローラは少し、戸惑いを見せる。
「……どうしてそこまで」
『ん―そうですねぇ……それを口頭で説明するのは少し難しいかもしれません、でもきっとエーテルが連れてくる仲間はエーテルの事を本当に大切に思ってくれている、私はそう思うのですよ……私の仲間がそうであったように、ね。』
そう言った女王の言葉にフローラは姿が見えなくとも今、女王が笑っているように思えた。
どうして女王がそこまで仲間を信頼しているのかはわからない。
ただ、今の言葉でフローラは気づく、きっと女王が救援を要請した者達は、女王にとってその信頼できる仲間であったのであろうと。
そして、そんな女王の思いに応えるように仲間たちも動き出していた。
――
妖精の女王が救援を求めた七人の人物。
しかしそのうちの三人はもうこの世におらず、その呼びかけが届いたのは残りの四人だけだった。
――
竜人族たちが治める国、ドグ王国。
年中続く猛暑と砂漠地帯が特徴のタイタン大陸にあり、十年前、ガゼル王国と長きに渡って戦争を繰り広げ、勝ち残った国である。
その国の人里離れた場所にある小さなオアシスに一人の老いた竜人族の男がいた。
男の名はトルク
かつては竜人族最強とも言われていた剣士だが、現在年齢は平均寿命である三〇〇才を越え、竜人族の中ではかなりの高齢となっている。
現役を退き早十年、長い隠居生活により長い間剣を握ってこなかった男が再び剣を握り締めていた。
理由はたった一つ、かつて共に旅をした仲間からの呼びかけに応えるためである。
トルクが確かめるように剣を小さく振る。
軽く振った剣は、目の前にあった小さな岩を真っ二つに切り裂いた。
「……随分鈍ったもんだ、昔ならもう少し綺麗に切れたもんだが、これも歳かのう?」
トルクが髭を触りながら渋い表情を見せる。
「しかしリリアナめ、よくもこんな老いぼれに助けを求めてきたな、言えば強い剣士を紹介してやったのに」
トルクが刃に反射して映った自分の老いた顔を見てぼやく。
しかし、すぐさまその顔を見ながら嬉しそうに小さく笑って見せた。
「フッ……仕方がない、こんな老いぼれを頼ってきたんだ、もう老い先短いこの命、どうせなら仲間のために使ってやるわ。」
――
エルフには住処と言うのは特に決まっていない。
世界中の様々な場所に集落を作りそれぞれが静かに暮らしている。
そしてその中の一つである集落で一組のエルフの夫婦が旅立ちの準備をしていた。
夫のテオ・アルマーニとその妻ミトラ。
二人は集落で子供達に勉学や魔法を教えている教師である。
「あなた~準備は出来ましたか~?」
「ん~ちょっと待ってねえ、今準備中だから~」
二人共のんびりとした口調で会話をする。
「しかし、この杖を使うのも久しぶりだな~。」
テオが小箱の中から古びた杖を取り出す。
「私達が旅をやめてめっきり使うことがなかったからおよそ三百年くらいかしら?」
「えぇ!そんなに、なるのか」
「ええ、だから感覚取り戻さなきゃねー」
二人は一通りの準備をすませると、家を出る。
「あ、先生こんにちわー!」
「先生達、どこかに行くの?」
外で遊ぶ教え子の子供達が寄ってくる。
「あぁ、少し昔の友達がピンチみたいだからに助けに行ってくるよ~」
「ええ⁉先生達で大丈夫なの?」
「大丈夫よ~先生達は強いからね~」
「えー?うっそだぁー、先生たちが強いとこなんて見た事ないよー?」
そう言って子供たちはアルマーニ夫妻を笑う。
ただ子供たちは二人をバカにしているのではない。
二人は子供の教育の見返りとしてその両親から食材を受け取っているため、狩りを行なったことがなく、誰も戦う姿を見たことがないのである。
「まあ、とにかく、先生たちが帰ってくるまで自分達で、勉強しといてね~。」
「わかったー!」
子供達は元気よく返事をすると再び遊びに戻る。
そんな子供たちの背中に手を振り、二人は集落を後にした。
そして、集落のある森を抜けた先の広い平地が広がる場所でテオが試すように魔法を唱える。
「ボルケーノ~」
何とも緊張感のない口調でテオが呪文を唱えると、その口調からは想像もできないほどの巨大な炎の龍が飛び出し、辺りの大地を一気に燃え上がらせた。
「どうかな?鈍ってないかな?」
「さあ?そもそも昔の実力を覚えてないわ?」
「あはは、なら仕方ないかぁ。じゃあ、とりあえずリリアナを助けに行きますか。」
終始、緊張感を見せない二人であった。
――
アムタリアの南西の方向には少し変わった種族のいる大陸がある。
そこはエレメンタルランドと呼ばれ、その大陸の地には火、水、風、地の属性をそれぞれ操る民族がいる。
見た目は人間に近いが実際は精霊と人間の血を引くとも言われており、寿命は五〇〇年とも言われている。
それぞれの属性の民族が、それぞれの国を持ち、紅蓮の帝王、水の神子、風の皇帝、大地の長と呼ばれる四人の王によって統治されている。
しかし今、その紅蓮の帝王が治る火の国で大きな騒動が起こっていた
――火の国 火の神殿
「レ、レオパルド王!何をしているのです。」
「ん?そんなもん見てわからんか?戦闘準備だよ。」
真紅の剣と鎧を身に纏い着々と戦闘準備をする筋肉質の老人に神殿の兵士や神官たちが激しく取り乱す。
「せ、戦闘準備ってどこかに戦争でも仕掛けるおつもりですか!」
「あー、違う違う、ちょっと昔のダチが困ってるもんだから助けに行くんだよ。これは俺個人のことだから気にすんな。」
「は、はぁ!?あなた、自分立場をお分かりで?あなたはこの火の国の王なんですぞ?もし万が一何かあれば――」
「んなもん関係あるかよ!大切なダチが「この俺に」助けを求めたんだ、助けに行くのが仲間ってってもんだろ。一国の王として助けに行くんじゃねぇ、一人の男としていた助に行くんだ!」
声を荒げ、全身から漆黒の炎を噴出させるレオパルドに周りの者達は委縮する、そしてこの状況下でコツコツと音を立てながら一人の男が近づいてくる。
「帰って早々何やら騒がしいなぁ。」
「レ、レクアルド様」
現れたのはつい先日旅から帰ってきたこの国の王子である紅蓮の貴公子レクアルド。
レクアルドは炎のバラを片手に騒ぎの元凶である父の元へと歩いていく。
「おう、帰ってきたのか、放浪息子。今までどこをほっつき歩いてた?」
「この国にはない美しいものを探しね。」
「そうか。相変わらずよくわからんがちょうどいい。今からお前に王位を譲る。」
「へ?」
その一言に家臣たちが凍り付く。
「理由は?」
「仲間を助けるために王と言う立場が邪魔だ。」
「フッなるほど、野蛮な父の野蛮な理由。でもその真っすぐな思いには一つの美しさがある、仕方がない、もう少し遊んでいたかったが引き継ごう。」
「「「え……ええぇ~⁉」」」
その一言で火の国が大混乱に陥ったの後の話である。
こうして今、四人の者達が、かつての仲間である妖精の女王リリアナの呼びかけに集まろうとしていた。




