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余命十五年のチート転生 〜クズから始まる異世界成長物語〜  作者: 三太華雄
第二章 ネロエルドラゴ編

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亡霊同士の戦い

「この歓声……試合が決まったか。」


 控室のベンチに座っていたブランが、扉越しから聞こえた大歓声を聞くと、ゆっくりと腰を上げる。


 控室は中からも試合が見える仕様になっているが、ブランは試合を見ずに精神統一に集中していたので誰が勝ったかはわからない。だが順調に進んでいれば勝ったのは恐らくあのネロとか言う少年だろう。


ホワイトキャニオンでリンスから聞いた彼のレベルは四〇〇〇を超えているという話だった。

 レベルが一〇〇〇を超えれば歴史に名を刻める中、四〇〇〇と言うレベルはもはや規格外であり、優勝もよっぽどの大番狂わせがなければ彼で決まりだろう。

 ブランはそんなネロの桁違いなレベルにも驚きを見せることはなかった。世の中には自分達が予想もできないものや、予想できない事など沢山ある事を長年生きてきたブランは知っている。

 リグレットだってその一人だし、リンスの事(・・・・・)に関してもそうだ。


 だからこそ、ブランはこの組み合わせを運命と感じていた。もし自分が初めにネロと当たっていたら、勝ち上がれず、仮にミーファスと当たっていたのなら勝ち上がれたとしても、モールズはネロに敗れていたであろう。

 ブランがカイル・モールズと戦うにはこの組み合わせ以外の他になかったのだ。


「散々今まで悲惨な目に合わせてきた神なんかを信じるつもりはないが、この組合わせに関しては感謝しよう」


 ブランは一度大きく息を吐き扉の前に立つと、静かに扉が開くのを待っていた。


――


「勝者、ネロ!」


 勝者の名前を呼ばれると、闘技場は歓声に包まれ、ネロは拳を突き上げその歓声に応えた。


「ま、こんなもんか。」


 ネロが拳を下すと気絶して倒れているミーファスを見下ろす。

 当然ではあるが、気絶しているミーファスはピクリとも動かない。


――きっとこいつも他の奴らからしてみればかなりの強さなんだろうな。


 このミーファスと言う女性は、世界的に名の知れ渡った戦士だけあって今までネロが戦った相手の中でも最も速く鋭い攻撃をしてきた。

 だがそれでも、ネロを傷一つ付けることはできなかった。

 カラクの計算違いで集まった世界各国の猛者たちの集まる大会も次で決勝になるが、未だに誰もネロを傷つけることはできない。


――今の俺ならば十分、不幸を乗り越えられるんじゃないか?


 その実力にそんな考えが脳裏をよぎったが、すぐに振り払う。


――馬鹿か俺は、前もそれで失敗したじゃねぇか。だいたい俺の敵は人じゃない。


 ネロは浮ついた考えを瞬時に振り払うと、一度その事について考えるのをやめる。


――とりあえず、運命の日までまだまだある。その事はこれからゆっくり考えるとしよう。………それに他にも問題はあるしな。


ネロがリングから降り、自分のいた控え室の扉へと進んで行く。

そして扉を開けると扉の前で待機していた仮面を被った男と鉢合わせとなる。


――カイル・モールズ……


 ネロが男の姿に一度足を止める。この人物こそネロにとってのもう一つの問題である。

 前世の自分を名乗る仮面の男をネロはじっと見るが、男は反応する事なく扉の外へと歩いて行く。


――……


 ネロは遠のいていく背中を気にしつつも、何もする事なく控え室の方へと戻っていった。


――


「さあ、続いて第二試合!次の対戦は大剣のブランとカイル・モールズです。」

 

 実況のリグレットが二人の名前を呼ぶと、ブランとカイルがリングの中央へと進み、向かい合わせに立つ。

すると向き合うはいなや、モールズに対してブランが口を開いた。


「……十六年ぶりだな、カイル・モールズ。」


 ブランがモールズに話しかける。

 周りの歓声の声に話の内容は近くにいるモールズにしか聞こえてないだろう。

しかし、そのモールズはブランの言葉になんの反応も見せない。

ブランは構わず話を続ける。


「……なんて言ってもお前は俺の事なんてわからないよなあ?モールズの偽物であるお前には。まあ、今の俺には本物かどうかなんてどうでもいい。……ただ、その名前を名乗る奴を倒したい。それだけだ!」


 試合開始の銅鑼が鳴ると、ブランが大剣に手をかける。すると同時に観客たちがざわつき始めた。


 今までブランは一本の大剣を武器に冒険者として名をあげ、この大会でも勝ち進んできた。

 しかし今回はいつもと違った。ブランの手には今まで見せた事のない、白銀の刃の大剣と黒刀の大剣の二つの剣が握られていた。


「まさか、大剣の二刀流だと⁉」


 大剣を二つ持ち構えるブランに会場がどよめく、その中でも一番の動揺を見せていたのは、実況をしていたリグレットだった。


「ちょっとお……じゃなくて、ブラン!あんた何してんの⁉︎」

「おうリグ、悪いな。こいつには本気を出さねえと勝てそうにもないからな。」

「何言ってんの⁉それを使っちゃったら素性がバレちゃうじゃない!もしルイン王国の人たちがここにいたらどうするつもりよ?隠居どころじゃなくなっちゃうわよ!」

「ハハッそうだな、自分でも馬鹿な事をしてると思ってる。……でも、何故かな……相手が偽物だとわかっていても……俺は全てを捨ててでもこいつを倒したいらしい!」


 そう言ってブランが片方の大剣をカイル・モールズに向かって突き付ける。


「俺も世間では既に亡くなったとされてる身だ!さあ、亡霊同士の戦いを始めようじゃねぇか!」


 そう言うとブランが地面を強く蹴りモールズへと突っ込む。そして高く飛びあがるとそのまま勢いよく二つの大剣をハンマーの様に振り下ろす。


「喰らえ!モールズ」


 モールズは飛びかかってくるブランに対し微動だにせず佇んでいた。しかし……


ガキィン!


 モールズの頭に切りかかったはずの大剣が軽く弾かれる。するとカイル・モールズの手にはいつの間にか剣が握られていた。


――こいつ、いつの間に剣を……


「……フ、流石、その名を騙るだけはあるか、ならばどんどん行くぞ!」


 ブランが雄たけびを上げながら攻撃を繰り出す。

 その巨大な剣を片手で軽々と振り回し繰り出す粗々しい攻撃はまさに猛攻と言うのにふさわしく剣と剣がぶつかり合う際には周りにまで衝撃が伝わっていた。


――


「まさか、大剣の二刀流だと⁉︎」

「しかもあの剣って……」

「まさか?いや、そんなことが……」


 観客席から先程まであがっていた歓声がどよめきへと変わっていた。


「そういうことか……」


 ブランの戦いを見てピエトロが納得した表情を浮かべ呟いた。


「え?どういうこと?それになんで皆ざわついてるの?」


 一人状況についていけてないエーテルが周りに気づかれないように囁くようにピエトロのに質問する。


「見てわかると思うが大剣と言うのは、大きく重量も重いため一本でも扱うのは難しい。そんな大剣を二刀流で使う人は世界中探してもそうはいない。そして、あの白と黒の二つ大剣。あれは今から十年前に死んだとされるルイン王国の大剣の二刀流使いグランツ・ブライアン将軍が使っていた武器なんだ、そしてあれを完璧に使いこなしているブランは、恐らく死んだとされていたグランツ将軍本人という事さ。」

「えぇ⁉」

「……そしてグランツ将軍はカイル・モールズに息子を殺されている。これで彼がカイル・モールズにこだわる理由がわかったよ。」


 ピエトロはその事を踏まえて観戦する。

 するとブランの一撃一撃にカイル・モールズに対する思いがひしひしと伝わってくる。

 それは控室で観戦するネロにも同じことだった……


――


 開始から続いているブランの猛攻は未だに止まらなかった。ブランは相手に反撃させまいと、一瞬の隙も与えず振り回す。

 ……しかしその全ての攻撃は仮面を被った男が持つブランの大剣の半分の大きさもない剣に軽々と弾かれていく。


「うぉぉぉぉぉぉ!」


 ブランの雄たけびが大きくなる。

 その声に中に隠されているのは焦りである。

 ブランは剣を弾かれるたびに気づかされていく。

 この男はまるで本気を出していない、この男に自分はまるで相手にされていない……


 自分が十年間隠し通してきた素性をバラしてまでも望んだ決戦に、相手はまるで興味を持っていなかった。


――これが、俺とこいつとの間にある強さの壁……


 そしてふとした疑問が脳裏に浮かんだ。こいつはカイル・モールズよりも強いのだろうか?それともこいつより本物の方が強かったのだろうか?そんな脳裏浮かんだ微かな不安が生んだ隙を相手は見逃さなかった。


ガキィン!


 ブランの二本の剣がかつてと同じように宙を舞った。


「しまった⁉」


 剣を弾き飛ばされた所でブランに剣が突き付けられる、そしてそれと共に試合終了の銅鑼が鳴った。


「それまで!勝者、カイル・モールズ!」


 勝者の名と共に観客から再び歓声が起こる。

 そしてその観客席の中には不審な動きを見せる者達の姿もちらほらあった。


――ま、また、負けたのか……あの時の様に……


 ブランの頭にかつての敗北の記憶が蘇った。

 そしてそれと共にに蘇る当時の屈辱と怒り……


「……まだだ、まだ負けてはいない!」

「え?」


 ブランが低い声でポツリと呟いた言葉をリグレットが聞き逃さなかった。

 そしてブランの方に目を向けると大剣持ち構えるブランの姿があった。


「ちょっと、ブラン!勝負はもうついた――」

「終わっちゃいねぇ!この勝負は、終わらせちゃいけねぇんだ!」 


 リグレットの制止を振り払い、ブランがかつてと同じようにカイル・モールズ突撃する。

 そして、そんなブランに対しここにきて初めてカイル・モールズが口を開いた。


「……俺が探しているのは、お前じゃない」


 その言葉を聞き終えるとともにブランに体に激しい激痛が走る。

 一瞬何が起こったかわからなかったが、痛みを感じるとともに徐々に理解する。

 ブランにとってはこの痛みさえも懐かしい感覚だった。


――ああ、そうだ……この痛みは……


 斬られた時の痛みだ……




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