第3話
――パカッパカッパカッパカッ! パカッパカッパカッパカッ!
早朝から馬を飛ばしていた。
背中のパオロは大人しくしている。
あれからすぐ農場主が異変に気付き様子を見にきてくれた。
近隣の人たちの話だと、ゆうべ遅くに黒塗りの4頭立ての馬車がすごい速度で農道を走っていったそうだ。
わたしは日の出を待ちパオロを背負い出かけることにした。
物取りの犯行ではないようだ。
その証拠に金貨は盗まれていなかった。
農場主に馬を借り黒塗りの馬車を追った。
◇ ◇ ◇ ◇
――パカッパカッパカッパカッ! パカッパカッパカッパカッ!
すでに昼を過ぎた。
農場主に教えてもらった近道を、馬で全速力で帝都に向かっていた。
「ハアハア……そろそろ追いついてもいいころだけど……あっ! あれだわ!」
丘の下に黒塗りの馬車が見えた!
様子が変だ。
なんと、武装した男たちに囲まれている!
「どうしよう……強盗団だわ!」
馬車の中から着飾った赤毛の女と従者らしき屈強な男が出てきた。
御者もすでに馬車を降りている。
そのとき――とつぜん馬車が走り出した!
御者台にジョージとフランがいた!
「パオロ! じっとしててよ! はあっ!」
わたしはすぐに馬車を追って馬を駆った!
――ガラガラガラガラッ! ガラガラガラガラッ!
――パカッパカッパカッパカッ! パカッパカッパカッパカッ!
4頭建ての馬車はとても速い!
なんとか先回りして前に入り込んだ!
「カルロ! わたしよ! ジュリアよ! フランー!」
「ママー! パパ、パオロもいるよー!」
「ジュリア! パオロ!」
ジョージはすぐに馬車を止めた。
わたしは馬を降りジョージとフランに駆け寄った!
「ジュリア! よかった! もう2度と会えないかと……!」
「ママー! パオロー!」
わたしたちは抱き合い再会を喜んだ。
――パカッパカッパカッパカッ! パカッパカッパカッパカッ!
――待てー!
――逃がすものかー!
「しまった! 追っ手がきたぞ!」
「たいへんだわ!」
強盗団が追いついてきた!
わたしはパオロを背負ったまま馬車に飛び乗った!
――ガラガラガラガラッ!
ジョージがすぐに馬車を発進させた!
――逃げたぞ! 追え!
――ワアアアアーッ!
――パカッパカッパカッパカッ! パカッパカッパカッパカッ!
――ガラガラガラガラッ! ガラガラガラガラッ!
馬車で逃げるわたしたちを執拗に追いかける強盗団!
やがて目の前に大きな河が見えてきた。
「たいへんだわ! 橋は……」
橋は右の前方にある!
ジョージが馬車を右に方向転換した。
だが、焦って石に乗り上げてしまった!
――ヒヒヒヒーンッ!
ビックリした馬の前足が上がり、後ろ足だけで立ち上がった!
「きゃああーっ!」
「だああーっ!」
馬車がひっくりかえりそうになる!
「待てー!」
馬で追いついた強盗団のひとりが、馬車に飛び移った!
――バッ! ガクゥンンンーッ!
――ガタガタガタガタガタッ!
――バキンッ!
「きゃああーっ!」
「だあーっ!」
馬車が不自然な角度に傾き揺れはじめた!
しっかりと息子を抱きしめる!
何かが折れる音がした。
まさか!
「馬車が馬からはずれたぞー!」
「危なーい!」
――ズザザザザーッ!
馬車の窓から見た光景は、すべてがスローモーションのようにゆっくりと進んで見えた。
馬車は馬から完全にはずれ、4頭の馬が四方に散ってゆく。
わたしとパオロの乗った馬車はかろうじて河の淵で止まった!
だが、御者台に乗っていたジョージとフランが河へ投げ出された!
「きゃあああーっ! パパ助けてー!」
「フラン! フラン!」
2人の姿はあっという間に濁流に押し流され消えていった!
「ジョージ! フラン! ああっ! 神さまー!」
――ガンッ!
「女! 大人しく出てこい!」
あとに残されたのは強盗団とわたしと息子のパオロだけだった。