雨の日の教会
今日も曇り時々小雨。他の人にはうっとうしい天気なのだけろうけど、僕にとっては少しラッキー。
僕は、苛めを受けている。高校に入ってからずっとだ。あるグループから目をつけられたのが、1年生の夏休み明け。それから僕の地獄の日々が始まった。クラスメートとして話した事も話しかけられた事もないのに、突然、絡んでくるようになった6人グループ。
いじめは、ハブられたり悪口を言われたりするだけだと思った。違った。やつら、気分次第で俺をサンドバッグのように、殴る。しかも逃げられないように押さえつけて。
教師はあてにならない。一度、相談したら、”相手も反省してるから”とこちらが許すことになったが、当然のことながら、”反省”なんて嘘っぱちで、後でもっとひどい暴力をうけた。肋骨にひびがはいる大けがだった。
親に話したときは、父親は”男ならやられたらやりかえせ”と言うだけ。喧嘩なれしてる6人相手に、俺はどうやりかえせるんだ?そんな事したら、殺されてしまうかもしれない。相手は限度を知らない狂犬みたいなやつらだ。
小雨時がラッキーなのは、やつらに見つかりづらいって事だ。
けどその日は、違った、9月にはいり僕は受験勉強を図書室でするために、早めに登校した。だけど、途中で狂犬6人組に出くわした。
「よう、博文、ちょうど探してた処だったんだ。俺らよ、カラオケでオールして盛り上がったけど、ちょっとお金が足りなくないんだ。これから遊びに行く金、貸してくれるよな」
”それより学校へ行けよ”とツッコむところだけど、言えるわけもない。このままだと、またボコられるな。僕はお金を1円も持ってないのだから。それとも万引きを強制されるか。
俺は踵をかえすと、走って狂犬グループから逃げた。早い時間で人通りのないのが災いしたな。
小雨の中、僕はやみくもに走って逃げた。涼しい日だったけど、相当、息があがってきた。このままでいくと、僕って陸上選手になれるかもだ。ヤツラの声が聞こえる、まずいな。
僕はいつのまにか丘の入り口まできていた。里山といってもいいほどの丘の中腹に、銀色の建物がみえる。雨で少しぼやけて見えるけど、目をこらすと屋根の上に十字架があり、古びた木造の教会だった。
”あんな処に教会があったっけ?”って思いながら、そこへ一目散にかけていき逃げ込んだ。
やっぱり小雨の日はラッキーなのか。教会には神父さんが、素っ頓狂な顔をして僕を見ている。
僕といえば、びしょぬれで、はあはあ息を切らしながら飛び込んできたんだから。驚いたのもむりない。僕は、かくまってもらうようお願いした。
神父さんは、温厚そうな若干背の高いおじさんだった。
「タオルをどうぞ、まずは、濡れた頭をふいて下さい。風邪ひきますよ。事情はともかく、あなたを追ってきてる人たちが来たようですよ」
ええ!あいつら、こういう時だけ執念深い。リアル鬼ごっこのつもりか。おっとそれより、僕はここだと、丸見え。もっと奥に隠してもらおう。
が、そんな暇なかった。狂犬6人組が入ってきて、神父さんに話しかけてきた。
でも、どうしたんだ奴ら。僕は神父さんの隣にいるんだけど。
「こんにちは、友達と一緒なんですけど、雨が強くなってきて、雨宿りさせてもらえませんか?」
大人ってちょろいよな。ちょっと丁寧な言葉を使っただけで”いい子”判定だ。まわりの大人はみんなそうだった。神父さんもだまされるかもな。
「いいですよ。その先のお御堂にどうぞ。濡れているようなので、暖房をつけますね」
やっぱりな。奴らがどんな連中かは、みかけじゃわからないよな。僕は、捕まるだろうけど、人目があるから暴力だけは振るわれないだろう。
ところが予想に反して、奴らは俺の目の前を通り過ぎてった。”博之のやつ、まったく、どこへいったんだ”なんてボヤいてる。
僕は神父さんに、教会の事務室で温かいコーヒーをごちそうになり、体があったまったところで、お礼を言ってでてきた。もちろん事情は簡単に説明はしたけど、神父さんは”そうですか”とうなづくばかりだった。
*** *** *** *** *** ***
次の日は快晴。昨日の天気は嘘のような秋晴れだった。
学校では、あの6人がいなかった。心なしか、学校内全体が穏やかな雰囲気になってる。
もしかしてあの6人がいないせい?いじめられていたのは、僕だけじゃなかったのかも。
次の日もその次の日も、1週間たっても、やつらは学校に現れなかった。捜索願がだされたが、なにせ不良グループなので、親も警察も”どこかで遊んでるのだろう”と軽く考えていたようだが。今だ彼らは消息不明のままだ。
警察のほうも、ボチボチ調べ始めたが、その中で、ヤツラの素行の悪さや恐喝・暴行などの事件が明るみになり、学校側は、謝罪と対応におおあらわになった。
僕は、”彼らは最後にあの教会にいました”なんて誰にも言わなかった。ざまあって気持ちと、面倒ごとに巻き込まれたくなかったから。
それでも、少しだけ気になって教会へ神父さんに会いにいき、ヤツラがいなくなった事を話した。
「おや、まだ帰ってないんですか?それは困りましたね」
神父さんは、ちっとも困った顔してない。ずいぶんとノホホンとしてる。そして思い出したように、ポンと手を打つと、
「思い出しました。私、うっかり、お御堂じゃなく懺悔室のほうへ案内したんでした。」
「懺悔室って?」
お御堂も懺悔室も意味わからないので、聞いてみた。
「懺悔室は、罪を告白し、反省するための部屋なんです。まだ、中で反省してるんでしょうかね。ははは」
神父さんのそれ冗談、笑えないんですけど。罪の告白と反省をする懺悔室は、彼らが告白・懺悔しない場合、部屋から出られない。なんてシステムになってるとか・・・
俺は教会を出た後、学校に戻りちょっとだけ親しい保健室の先生に、ヤツラの事を話した。詳しい事は抜きにして最後で教会で見たとだけ。ところが、意外な言葉が返ってきた。
「ああそういえば、私はこの町の出身だけど、昔、丘の中腹にボロい教会があったわ。もう、とり壊されてるはずだけど。博文君、何かの建物と見間違えたのね」
え?僕は、学校を飛び出し、また教会へ向かった。ないってはずない。コーヒーもごちそうになってる。俺はも一度、神父さんに会いにいった。が、神父さんどころか、その場所には教会などなかった。そこにはマンションが建ってるだけだった。
あの時は走りまわってたので、場所を間違えたのだろうか?僕は丘のまわりをグルグルと探したが、教会らしきものはなかった。丘はマンションが多く建っているだけだった。
僕はあの日、どこに居たのだろう。そしてあの神父さんは。そういえば、ヤツラ、来たときに俺の姿見えてなかった。あれも不思議だ。
9月のおわりに、ヤツラは廃工場にいるところで、見つかった。ただ、6人とも極端におびえるだけで、記憶もなくしたらしく、今は病院に入院してると噂で聞いた。ヤツラに対し、”可哀想に”だとか、俺は感じるべきなんだろうか?
でも、これで僕は1年間の安寧は約束された。僕は幸せな気分だ。悪いけどね。
更新が遅れました、すみません((+_+))
短編は水曜深夜(木曜午前1時台)に掲載します。