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魔女の遍歴  作者: 天谷あきの
魔女の希望
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撒き餌

 フェルドの姿はもう豆粒くらいに小さい。


 マリアラはなぜ【魔女ビル】に行ったのだろう、とラルフは考える。何か手違いがあったのだ。ディーンも【風の骨】も想定していなかった何かが起こったのだ、そうでなければ、リンがあのような口調でフェルドに連絡をとってくるわけがない。


 間に合うだろうか。ここから【魔女ビル】まではかなり遠い。箒でも結構時間がかかるはずだ。ああどうしてケガなんかしたんだろう、どうして今、フェルドの後ろに乗っていられないのだろう!


 そんなことを考えていたから、一瞬、気づくのが遅れた。


「……ガストン!」


 ラルフの警告は、だから一瞬遅かった。


 みんながフェルドの行く先に気をとられていた間に、レジナルドが動いていた。さっきフェルドが凍らせて阻止したポケットに、右手がするりと入り込んだ。ガストンが手を伸ばし、レジナルドは嗤う。


「君の大事なリスナ=ヘイトスも【魔女ビル】にいる。覚えていろ、裏切り者――絶対に許すものか」

「……何っ」


 ガストンの手の届く寸前で、

 レジナルドの姿がかき消えた。


 きゅん、という可愛らしい音を遅れて聞いた。目の前にいたレジナルドが、今はもういなかった。ガストンが空振りした指先を拳に変えて地面に叩きつけ、フェルドに箒を貸した若者が声を上げた。


「コイン……持ってた、のか」

「……出動命令!」


 ガストンが怒鳴った。イクスの逮捕と周囲の保護局員への対処に追われていた、ガストンの仲間たちが一斉に敬礼した。ガストンは立ち上がり、走り出した。斜面を駆け下りていく。


「【魔女ビル】へ行く! 急げ!」


 保護局員とマヌエルたちの行動は素早かった。すぐにふたり乗りした箒が、次々に飛び立っていく。ラルフはケティを見上げた。ケティは青ざめて、ぶるぶる震えている。


「だ……だい……だいじょうぶ、かな……」


 震え声でそう言った。ラルフは何も言えなかった。


 フェルドがレジナルドを殺すのを、ケティがあれほどかたくなに邪魔していなかったら――そう思ってしまって、それを口に出さないだけで精一杯だった。


 フェルドに箒を貸した若者が笑って、ケティの方へ数歩歩いて、しゃがみこんだ。「あーあ」とぼやくように言った。


「俺も行きたかったなあー。ディノに自慢できたのになあ……」


 それはケティへの、紛れもない助け舟だった。

 ケティは糸が切れたみたいにへなへなと、若者の横に座り込む。若者は今ガストンが駆け降りて行った先にいる、保護局員たちの方に視線を移した。そっちも次々にマヌエルの箒に乗せてもらって飛び立っていくが、そのうちの数人が登ってくるのが見える。先頭はまだごく若い、大柄な若者だ。ガストンがいなくなってしまったから、あの若者が『あっち』なのか『こっち』なのか、信頼できるのかどうか、ラルフにはちょっとわからない。


 ラルフは今も、ケティを怒っていた。


 でもだからと言って、『あっち』かもしれない保護局員に、ケティを預ける気にもならなかった。苛立っても、腹が立っても、どんなに悔しくても……ケティはラルフにとって生まれて初めての、同い年の、同性の、友人で、自分がケティの身代わりになってでも無事でいてほしいと思った、昨日の気持ちが全く色あせていないことを確認する。


 ケティはまるで、名前も知らない不思議な宝石みたいなものだと思う。


 どうしてレジナルドなんかを庇おうという気持ちになれるのか、ラルフにはさっぱりわからない。フェルドを止めたのが良かったことなのか、自分の中の何かに大義名分を与えたいだけだと指摘したあの言葉が、真実を射止めていたのかどうかも、今のラルフにはわからない。


 でもその心根は――たとえ愚かで馬鹿馬鹿しくて、平和ボケでマジアホでも、それでも。

 本当に、綺麗なものだと思ったから。


 わけがわからなくて腹が立って苛立っても、その綺麗なものを壊してしまいたいとは思わない。


「そりゃ大丈夫だよ。ガストンさんがついてるんだぜ?」

「そうかなあ」

「そうさ。なんかさあ、変だとは思ってたんだよ。あ、俺エイベルっつーんだ。よろしくね」


 そう言ったマヌエルの若者は、多分ネイロンと同じくらいの年齢だろうか。フェルドや【風の骨】(の外見)よりもちょっと年上のようだ。ラルフはまだケティと口を聞けるような状況じゃなかったし、ケティはさっきフェルドに抗った後遺症のためかへとへとに疲れ切っていて、とても打ちのめされているように見える。そんな二人の気持ちをほぐそうとしてか、エイベルはちょっと図々しいくらい親しげだった。まるであの、ベネットのように。


 親切な人間だ。さっきからずっと、空気が暖かい。濡れた髪もいつの間にかすっかり乾いている。そういう影響をラルフとケティにもたらしていることを一切おくびにも出さず、エイベルは朗らかに話している。


「君らフェルドとは知り合いなんだよね? 俺はあいつとはさあ、パレード隊の時に知り合ってさ」

「パレード隊!」


 ケティが顔をあげ、エスメラルダの『それ以外』にとってはかなり重要なポジションに当たるらしいとラルフは思う。


「あん時はすげーちゃんとしてるしいい奴だったのに、ここ最近、すっかり変わっちまっててさ……。でも俺はまだ知り合って日が浅かったし、あいつ相棒持ちだったから仕事でそう絡むわけでもなかったし、まあそういうこともあるかなって思ってたんだよ。でもディノが信じねーの」


 あ、ディノってのは俺の友人で今はイェルディアって大都市に異動になった奴でさ、とエイベルは補足し、


「ディノはフェルドがパレード隊に入る前からの付き合いだったこともあんのか、ぜんぜん信じねーんだよ。フェルドがそんなことになるわけない、それは賭場の実情を探るためにガストンさんから秘密の指令を受けてるからに決まってる、とか言うわけよ。普通そんなことなくね? ディノはさ、夢見がちな奴なんだよ、昔から保護局員になるのが夢だったって奴でさあ――でもまあ、今回ばっかりはあいつが正しかったんだよなあ」


 エイベルは笑って、ケティに微笑みかけた。


「だから大丈夫だよ。ガストンさんも行ったんだし。つーかフェルドもよく今まで……」エイベルはくくっと喉を鳴らした。「ディノが知ったら悔しがるだろうなあ、潜入捜査なんて目立つラクエルにやらせるよりずっと俺の方が適任なのに――! とか言って地団駄踏むと思うぜ」

「大人なのに、地団駄踏むんですか?」


 ケティが笑って、雰囲気がさらに柔らかくなった。エイベルはケティの笑顔にほっとしたように微笑んでいる。今こっちに向かってきている、大柄の、なんだか大きな犬を彷彿とさせる保護局員が『あっち』か『こっち』かわからなくても、このエイベルさんにくっついておけば大丈夫かな、とラルフは思った。



   *



 清掃隊の詰所は【魔女ビル】内のいろんなところにあるが、今回、エーリヒがいるのは七階の詰め所だ。大勢の人間が出入りする中、班長は長机に座って、〈アスタ〉が画面に映す映像をじっと眺めている。そうしながら、独り言のようにうめいた。


「【魔女ビル】に入ったのは間違いない――はずだ。なのになぜいない? どこに消えた?」

『わかりません。【魔女ビル】内には私のカメラが故障している箇所がいくつかありますから――』

「近々、総点検しないとならんな」


 班長はそう言って、疲れたようにこめかみを揉んだ。エーリヒはそわそわした。


 ――どうしよう。


 あの少女――マリアラ=ラクエル・マヌエルと、彼女を掻っ攫うようにして逃げたミシェル=イリエル・マヌエルが、【魔女ビル】に入ったのは確かだ。が、まるで魔法みたいに消えてしまった。〈アスタ〉の目を掻い潜ることができるなんて、今まで考えたこともなかったのに。


 班長が顎を親指でしごきながらつぶやく。


「ミシェルは【魔女ビル】で生まれ育ったんだったか? だから詳しいのか?」

「マリアラの方じゃないですか。相棒のフェルディナントは【魔女ビル】育ちだったはず」


「いやミシェルの方ですわ」と口を出したのはベンだ。「だから班長……あの子らを捕まえるのは、やめた方がいいですよ」

「はあ? アンタ何言ってんの?」


 エーリヒは思わず口を出した。「エーリヒ」班長に釘を刺されて口をつぐんだが、頭の中は苛立ちでいっぱいだ。

 いったい何を言い出したのだこのおいぼれは。

 ベンはエーリヒが口をつぐんだのを見て、班長の前までやってきた。ばん、と机に両手をついて身を乗り出す。


「あいつはバカだが、悪いやつじゃない。結構繊細で、引きずるたちなんだ。傷害事件で問題になったが、あいつは――ことの重大さがわかってなかっただけで、グルだったわけじゃないんですよ」

「あの事件の時にそう言って取りなしたのもベンさんでしたね」


 班長は穏やかに促し、エーリヒはジリジリする。ああもう、こんな場所で爺さんの世迷言なんざ聞いてる場合じゃないのに。


「ええそうです、そしてその取りなしは間違ってなかった。あいつは心底反省してる。毎日悔いてるはずだ。だからね、班長、あいつがその左巻きの子を助けようとしたんなら、それはつまり、その左巻きは悪いことなんざしてないってことなんですよ」

「今そんな――」


 エーリヒは言いかけ、班長に一瞥されてまた黙った。出せなかった言葉が頭の中でぐるぐる回る。今そんなこと言ってる場合じゃない! ベンにいわれるまでもなく、マリアラ=ラクエル・マヌエルが犯罪者だなどと誰も信じちゃいないのだ。ただ正規の手段を取らずに〈壁〉を抜け、また、国境を通らずに戻ってきただけだ。偉い人にとっては許し難い犯罪なのだろう――何しろガルシアが送り込んだテロリストだなんてうわさまで流れ始めている。が、同じ手段を取る人間が出ないように捕らえようとしているだけで、彼女自身が凶悪なわけではない。

 しかし彼女を捕まえれば、エーリヒと、何より班長の汚名返上ができるのだ。それなら捕まえる。それ一択でいいはずじゃないか。


「あの傷害事件の時、〈アスタ〉の目があるのにずいぶん長い間発覚しなかったのは、首謀者の奴らが、〈アスタ〉の死角を熟知してたからなんですよ」


 ベンはさも重大な秘密を打ち明けるかのように声をひそめてそう言った。班長は腕を組む。


「あの時の現場のカメラは修復されたはずですが……」

「他にもあったんでしょう。まだまだいっぱいあるんだと思いますよ。【魔女ビル】は広大な建物ですからね――ここで生まれ育った子供たちは、びっくりするほどそれをよく知ってる。俺らは所詮ここに住んでるわけじゃないし、ここで育ったわけでもないですからね。その秘密は子供の時にだけ、口伝えに、代々語り継がれていく。首謀者の一人が【魔女ビル】育ちでしたからね、悪い仲間に広めてその知識を悪用した。ミシェルも『仲間』でしたから知ってるんでしょう。やつはその時の記憶を使って、マリアラを助けてるんです」

「ふうん……」

「あいつはずっと恥じてた、首謀者たちの悪意に自ら気づいて、自分で行動を起こさなかったことをね。だから今回は、見過ごさず行動を起こすことにしたんだ。ねえ班長、このマリアラって少女がガルシアから送り込まれたテロリストだなんて世迷言、本気で信じちゃいないでしょうね? 俺たちは清掃隊じゃないですか。何も警備隊の犬みたいに動くことないじゃないですか。そんなことに加担なんかしない方がいいですよ――」


「俺、その辺見回って来るっス」


 たまらなくなってエーリヒはそう言い、くるりと踵を返した。

 ベンに腹が立ってたまらなかった。あんたはもはや出世なんざ全く興味がないのかもしれないが、班長や俺まで巻き添えにすんなよ!! そう怒鳴り散らしたくてたまらない。

 ミシェルがなんだっていうんだ。マリアラ=ラクエル・マヌエルは指名手配されているのだ。良きエスメラルダ国民として、指名手配犯を捕らえ警備隊に引き渡すのは義務ではないか。その義務を果たせば汚名返上までできるのに、なぜ。

 班長も班長だ。なぜベンの意見を尊重して、エーリヒの発言を許そうとしないのだろう。


 腹が立って腹が立って、このままここにいたらベンをぶん殴ってしまいそうだ。

 



 闇雲に歩くうち、普段は足を踏み入れない場所に紛れ込んでいた。七階には校長の執務室や、元老院議員の秘書室などが密集したエリアがあり、毛並みのいい人たちでいっぱいで、エーリヒのような人間には少々居心地が悪い。しかし今日は朝からの騒動のせいで人々が出払っているのか、廊下は静まり返っている。エーリヒは階段の踊り場から、校長室のある廊下にひょいと顔を突き出した。

 そしてその時ちょうど校長室の扉から出てきた人物と、まともに目が合った。


「げ」

「おうそこの、清掃隊! 確かメラードだったか」


 メラードじゃねーよリメラードだよ、と言いたいが、そんなことを言える相手ではない。ああ、よりによって一番嫌な相手に捕まってしまった。

 アロンゾ=バルスターは、校長の秘書だ。元老院議員になって日が浅い警備隊上がりの今の校長がスムーズに仕事を進められているのは、全てこの人の差配によるものだともっぱらの噂だ。だからか、バルスターはいつも自らが校長であるかのように振る舞う。言葉は妙に芝居がかってて、嫌なことしか言わない。


「大の男たちが雁首揃えて、いったい何をぐずぐずしてるんだ。いったい――」


 言いつのるバルスターの背後――今バルスターが出てきたばかりの校長の執務室の扉が開いて、ひょいっと亜麻色の長い髪を一つに結んだ少女が覗いた。

 エーリヒは息を呑んだ。バルスターは気づかず、唇の端から泡を飛ばして喚いている。


「何をこんなところで油を売っとるんだ。警備隊の主力はみな雪山にいて、清掃隊のお前たちが――」

「っと……!」


 呪縛が解け、エーリヒはバルスターの隣をすり抜けて少女に突進した。間違いない、さっき道端で見た顔だ。亜麻色の髪とふっくらした幼げな頬をした灰色の瞳の少女が、エーリヒを見てニッと笑った。〈マリアラ〉はエーリヒが突き出した右手を避けもしなかった。がっとその肩をつかんで、エーリヒは驚く。


 ――冷たい!


 なんだこの感触。着ている服が見えるのに、手触りが布じゃない。


『そなた、この娘を見失ったのじゃろ』


 仕方がないと言いたげに、〈マリアラ〉は言った。エーリヒは〈マリアラ〉の腕をねじり上げようとしていたところだったが、その言い方に思わず手を止めた。誰だこいつ。

 その娘は妙に偉そうで、妙に自信たっぷりだった。調書に書かれているマリアラ=ラクエル・マヌエルならば絶対にしないだろう言葉遣いと態度。


 ――変だな。


 さっきも感じた違和感が頭をよぎった。さっき――そう、さっきも思ったのだ。〈マリアラ〉はエーリヒを見て逃げ、動道の方へ向かった。エーリヒが追いかけた先にいたそっくり同じ顔をした少女は、()()()()()()()()歩いていた。


 ――そっくり同じ顔をした少女が、二人いる?


「メラード、捕まえたか!」


 バルスターが追いついてきてそう言い、エーリヒは我に返った。バルスターはこの短い距離を走っただけなのに、ふうふうと息を切らしている。


「ああ、ああよかった! これでやっと――」

『そなたら、この娘を取り逃したのじゃろ』


 エーリヒはかなりの力で〈マリアラ〉の腕を捻り上げていたが、彼女は痛がるそぶりすらなかった。くく――微かに開いた唇の隙間から、嘲るような笑いが溢れた。


『やれやれ本当に、あんなにお膳立てしてやったのに、ほんに使えぬ奴らじゃこと。マリアラを見失ったのじゃな。まだ見つかっておらぬ――ということは、〈アスタ〉の死角に潜り込まれて、手を焼いているといったところか。

 ――だから手助けに来てやった。確かに【魔女ビル】の旧通路に入り込まれては厄介じゃろう。ならば、あちらから飛び出てくるように仕向ければ良いのじゃ』


 話しながら、みるみるうちに、〈マリアラ〉は姿を変えた。

 むく――と体が大きくなった。バルスターが息を呑んだ。エーリヒの目の前で〈それ〉は身長を変え、骨格を変え、そして顔つきも変えた。亜麻色だった髪は短く、そして黒くなった。少女だった〈それ〉は、今やエーリヒよりも少し背が高いくらいの、二十歳になるかどうかという年頃の青年になっていた。


「……フェルディナント」


 バルスターがつぶやいた。そうだ、今エーリヒが腕を捻り上げている〈それ〉は、フェルディナント=ラクエル・マヌエルそっくりになっていた。服装まで違う。捻り上げた腕の冷たさだけは変わらない。あまりにも冷たくて、エーリヒの手のひらがじんじん痛んでいる。

 〈それ〉はやすやすとエーリヒの腕を解き、くくく、とさっきと同じ声で笑った。


『警備隊は出払っているようじゃし、そなたら清掃隊に花を持たせてやろう。この者が捕まったと知れば、あちらから飛んで出てくる』

「あんた……なんなんだ」

「魔物だよ。【魔女ビル】に長年棲みつく伝説の魔物だ。エルカテルミナを野放しにしたくないという点で、我々とは利害が一致している」


 バルスターはこともなげに言い、〈フェルディナント〉に向けて顎をしゃくった。


「お言葉に甘えよう。警備隊の詰所が開いてる、そこに連れて行け」

「ま……魔物の申し出を、受けるんですか? 魔物ですよ!?」

「だからなんだね? この魔物は、お前が生まれるよりはるか昔から【魔女ビル】に棲んでいる。お前はそれでも無事に育っているだろ。エルカテルミナが二人揃って自由になるよりは余程マシだ。……シュテイナーには黙っていろ、融通が効かないからな。私の言うとおりにした方がいいぞ。首尾よく済んだら、警備隊長からのクレームの影響を最小限に抑えよう。早いところ【魔女ビル】勤務に戻りたいだろう? ん?」

「……」

「このまま外回りに戻っていいのか? 二度と出世街道には戻れなくなるぞ」

「……!」

「〈アスタ〉!」


 バルスターは声を上げ、ややして、〈アスタ〉の声が従順に答えた。『はい』


「ライラニーナを呼べ。七階の警備隊の詰め所に来させろ。……私は必要な手続きをしてくる。メラード、早くしろ!」

「……はい」


 エーリヒは覚悟を決めた。〈フェルディナント〉の腕を掴んで、警備隊の詰め所へ向かった。掴んだ手のひらがあまりに冷たくて、じんじん痛んでいた。

 エルカテルミナというものがなんなんだかわからないが、バルスターにとってはよっぽど憎い相手のようだ。


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