葵宮神社の日常 夏の陣
葵宮山の山頂に位置する葵宮神社の木々は緑でわさわさして、暑い境内では俺、金木誠と神主の葵宮悠ともう一人の岐樫鬼子の未成年三人組が箒で掃き掃除をしている。そして俺たちが国から祭器とされているM60と薙刀と柳葉刀で守る〈冥界の門〉は今日も不気味だ。
夏が今年も来たな。俺は好きだけど、うちの神主が文句だらだらで鬱陶しい。
「雪が降ればいいのに」
いくら山の天気は変わりやすいったって夏に雪は無茶だろ。
「悠、それは異常気象を意味するわよ」
鬼子は悠を見もしない。悠が突飛なことを言うのは初めてじゃないからな。それでもツッコミだけする鬼子は優しいと俺は思う。
「冥界の門でも開けときゃ涼しいんじゃないか?」
なんてギャグを言う俺も「それ採用!」
……おい子ども神主今なんつった?
「どうして気付かなかったんだ! 瘴気で少しは涼しくなるはずだ。すぐに開けるよ!」
「「まてコラ」」
俺たちは箒を放って走ろうとするアホ神主を止める。
「本気かおま……暴れんなこの野郎!」
「はなせぇ!」
「もうダメこれ。休ませましょう!」
「そうだな。いい加減にしろ豆腐メンタル神主!」
俺が悠の後頭部に当身。悠はその場に崩れ落ちた。
「あんた相変わらず当身上手いわね」
「お前だってできるだろ」
「あたしは鳩尾の方が得意なの」
俺が悠を抱えて寝室に運び、寝かせた。
「じゃあとりあえず俺は門見てくるからこのバ神主の面倒見ててくれ」
鬼子は団扇で間抜け神主を扇ぎ始めて、俺は寝室を出た。
さて、この冥界の門前にいるだけでも不気味で多少涼しいけど、あの脳内お花畑神主にはそういうのわかんねんだよな。
俺たちが法の例外として持ってる武器を何に使うのか、それはたまに門から出てくる幽霊や魑魅魍魎を山から出さないためだ。人を襲う輩が大半で、事の処理の不安があるから俺としてはここを観光地にしたくねえけど雑誌の情報でオカルト好き登山者とか、俺自身は知らねえけど悠も鬼子も美形だから一目会いたいってんで来るやつがいる。守る俺らの身にもなれっつの。
でも実は試すやつがいないだけで、幽霊とか魑魅魍魎って意外と人間が対処できる。だって魑魅魍魎に関しては(たぶん)同じ生物。この拳が通用しないわけないだろ。幽霊も殴ったって全く無意味じゃなかったりするんだぜ。鬼子は母親から受け継いだ柳葉刀、悠は葵宮代々の薙刀で幽霊と魑魅魍魎に対処してるから鉄でも何かしらの影響で有効ってわけだ。最初俺が一番びっくりしたのは俺のM60な。シリンダーギャップ(シリンダーとバレルの隙間)で生じる電磁波が云々で……早い話がリボルバー銃は霊体に有効ってことだ。
いつ始まってもおかしくない人外との戦闘に備えていると悠と鬼子が本殿の死角から出てきた。
「悠が起きたよ」
「見りゃわかるよ。悠、気絶させて悪かったな」
悠が恥ずかしそうに笑った。
「誠は悪くないよ。僕こそ取り乱してごめん」
すると本殿から正午を知らせる振り子時計の音が境内に鳴り響いた。
「お昼ご飯食べよっか」
両手を腹に当てた悠がそう言って俺たちは門から離れて行った。
「薙刀持ってきたけど戦闘は無いんだね」
尺の問題だ勘弁してくれ。
「小説としては初の出番なのに何このクオリティ」
鬼子の発言が鬼刺さるわ。