リビング:亀一郎 ルート1 ハトコ
「ただいま」
靴を脱ぎ捨てまるまった靴下を放り投げ教科書だけのカバンをドサッと放置いた。
「こーら」
すると後から声がする。
「あ、オネェさん」
振り向くとおでこに軽く握った拳をコツンとされてくすぐっくてそこをさすった。
「そんなだらしないことしちゃダメじゃない?」
そうだった居候しているんだった!
再従兄弟が居候しているのではなく再従兄弟のところに私たち一家が居候しているのはなんともシュールだ。家はあまり稼ぎがよくない。
学費を稼ごうにもバイトは禁止で、それでも母の夢だった名門校にどうしてもと懇願され入学したはいいが、そのせいでアパートの家賃も危うくなった。
そこで高校に通う間だけでも親戚の家に住まわせて貰おうという話になったが、両親は元々人付き合いが上手くない。
親戚ともあまり仲はよくなかった。
唯一父と打ち解けているのが父の従兄弟で私にとっての再従兄弟一家なので今に至る。
学校が近くにあるのもその理由だ。
「ごめんなさい…つい」
元々両親は共働きで普段家にいないから片付けをしなくても怒られずにいたため後回しにしてしまうクセがある。
仮にも居候だしこれからは直そうと決めた。
「そんなんじゃモテないわよぅ」
「キャシーさんがモテすぎなんですよー」
小さな頃、本名が気に入らないのか、アダ名で読んでくれと言われて以来ずっとそう読んでいる。
フライパンとお玉を持ちながら味噌汁とオムライスを器用に同時で作る。
「キャシーさんいいお母さんになるよ」
深く頷いたところ彼はひどく同様してお玉を落としてしまう。
「なっなんでお母さんなの!?」
わなわなと震えつつお玉を拾って洗う。
「家事が出来てご飯は美味しいし…料理はうまいし同時進行なんてキッチン番組の芸当しちゃうし」
我ながら上手く褒めたつもりが、ほとんど食事のことしか誉めていない。
「ああ…深世ちゃんは将来料理が出来る人と結婚したいんだったわよね?」
たしかに小さい頃にそう話していたような気もする。
「十年くらい前なのに覚えてたんだ」
将来の夢がケーキ屋さんとかお花屋さんとか、お嫁さんだとかこの年になると大抵の人は忘れている。
三年もあれば人が変わると言うし十年となれば更に変わる。
「うん、イケメンコックが旦那様なんて憧れだよ」
今でも理想の旦那さんは料理の出来る男性だ。
目の前に該当する人がいる。
しかし、どう考えても叶わないだろう。
この人と恋人や夫婦になれるなら私は一行に構わない。
だけど相手は違うだろう。
無理矢理迫るなんて出来ない。
初めから対象になっていないから。
それでもあなたが好きです。
●年賀状はいやがらせ
「何書いてるの?懸賞?」
「年賀状よ!!にっくき年賀状!!」
「なんで?あ本名…」
「だから嫌なのよ…こういうきっちりしたの」
「えーカッコイイよ」
「亀一郎なんて名前イヤよ亀ってのがとくに」
「えっ亀のどこが!?」
「だって亀よ?」
「亀って美容にいい鍋に入ってるコラーゲンじゃないっけ?」
「それはスッポンよ鼈」
「これまで大人が鼈で子供が亀だとばかり」
「ライオンと虎が違う生き物だって知ってた?」
「え!?」
「えっ?」