プロローグ
「…ははっ、おまえ、本当に……メデューサ、だな…」
そう言って男は倒れ込んだ。糸の切れた人形みたいに。瞬間、張り詰めていた緊張が解けて私の身体からも力が抜ける。足元もおぼつかなく、地面に倒れそうになるその刹那―たくましい腕が無造作に私を抱き止めた。
「おい、一人逃げるぞ!」
浴びせられた怒声にもろくに応えることができず私は小さく首を振った。
「…めんな、さ…い」
謝罪の言葉すら満足に述べられない。
「ったく、とんだお荷物じゃねぇか…!!」
彼―トウマが苛立たしげに右手の剣を地面に突き立てる。私を抱える左腕にも力が入り、その苛立ちがよく伝わってくる。チッと舌打ちをして、おもむろに無線機を取り出した。
「こちらハヤブサ。ターゲット一名クリア、残一名は逃亡した模様。メデューサが戦闘不能のため帰還する。回収を要請。繰り返す、こちらハヤブサ…」
トウマの声が段々と遠くなっていく。その腕の中で微動だにすることもできず、完全に彼に身体をまかせるしかできなかった。薄れゆく意識の中で、倒れた男が残した言葉だけが反芻していた。
―「おまえ、本当に、メデューサだな…」―