7.ヒロイン、イレギュラーですよ!?
『熊谷 信也』
彼はおっとりとした性格で、少し天然が入っている。高校1年生のときに初めてヒロインと同じクラスになり、恋に落ちる。
私の思い出せる記憶は今の所、これくらい。
そして今、その彼が私の目の前にいる。久しぶりに男と接触したこともあり、目眩がしてくる。
「すみません、大丈夫で───」
続きは言えなかった。目の前が真っ暗になり、私は意識を手放した。
・・・・◇・・・・
(眩しい…。あれ?私、どうしたんだっけ?今日が入学式のハズで…)
重い瞼をこじ開ける。
意識を取り戻してまず目に入ったのが、オロオロしている私の母と、熊谷 信也。それから真っ白な天井。
「あ、おばさん!目を開けましたよ!」
「まあ、本当!?鈴蘭、あなた倒れちゃったのよ?大丈夫なの?」
「すいません、僕がぶつかっちゃったから…」
「信也君は悪くないのよ。大丈夫。」
ちょっとまって、お母さん。色々と聞きたいことはあるんだけど、一つ突っ込ませて。
熊谷 信也のこと、『信也君』って呼ぶまでの仲になったの?そして、入学式は!?
「お、お母さん…。ちょっとまって。ここ、保健室だよね?入学式は?私、どうしたんだっけ⁉︎」
「落ち着いて、鈴蘭。あのね、言いにくいんだけど…。入学式は終わっちゃったのよ…」
ああ…。やってしまった…。
明日からクラスに馴染めるかしら…。いきなり漫画と違う展開なんてついてないかも。
「大丈夫?ごめんね、僕とぶつかったせいで…。入学式も…」
こ、子犬が!子犬がいる!
目の前で熊谷 信也が悲しそうにこっちを見ていた。耳と尻尾が見える。
「だ、大丈夫ですよ。ちょっと緊張してて、私が勝手に倒れただけだから。」
「でも…」
私は本当に大丈夫だ。入学式に出れなかったのは残念だけど。私が勝手に倒れたんだし、この人が責任を感じる必要なんてない。
─── 私はそれよりも気になる事が出来てしまった。
「ね、ねえ。熊谷君って入学式でたよね?」
知らない人に、しかも男子に、ヒーローに!借りなんて作りたくない!
…後から思えばこの時の私は油断しすぎだった。
「あれ?僕、君に名前言ったっけ?」
しばしの沈黙。
本日何回めの後悔かもわからない。
「いや、えっと…上履きに書いていたから!それより、入学式は…!?」
少しキツめに、にらんでみた。
「あ、いや、でたよ!もちろん!」
慌てた様子で答えている。…そんなに怖かった?
「信也君ったら、保健室までお姫様抱っこで運んでくれたのよ〜。入学式もでないでここに居るつもりだったらしいんだけど、それは流石にとめといたの。鈴蘭、信也君に感謝するのよ」
もう借りを作っていたらしいです…
ていうかお母様、もうすっかり懐柔されているのですね…。ウットリしてるし。
お姫様抱っこってとこに少し引っかかりを受けたけど、流石に申し訳ない。
「ごめんなさい、ありがとう。えーと、熊谷君は怪我とか無かった…?」
内心ドキドキしながら尋ねた。
「大丈夫だよ!なんともなくて良かったね〜」
カッコヨクナイ。ワタシニ ソノ エガオハ キカナイ。
男は敵!
「本当にごめんなさい。えと、もう大丈夫なので、帰って大丈夫ですよ。」
「うん!あ、僕は熊谷 信也。1年2組だよ。よろしく」
「あ、はい。姫百合 鈴蘭です。」
そういえば私は何組なんだろうな。同じ小学校の人いないんだよね。
「じゃあ、帰りましょうか。信也君、今日はごめんね。これからも鈴蘭と仲良くしてくれたら嬉しいわぁ」
いえ、結構です。漫画の中で熊谷君は激モテ設定だったし、仲良くなんかしたら女子の嫉妬が…とは言えず。お母さん!アナタはどっちの味方なんですか⁉︎
「はい!もちろんです」
こら、そこ!いい返事をしない!
・・・・◇・・・・
疲れたなぁ…
覚悟は決めてたつもりだったけど。まさかこんなにイレギュラーなことが起こるとは思わなかった。
漫画では無かった。
熊谷君とぶつかるなんて!倒れてお姫様抱っこで運ばれるなんて!『鈴蘭』が入学式をすっぽかすなんて!
これ以上入っているとのぼせそうだったのでお風呂から上がる。
「お母さん、お風呂あいたよー」
そう伝えつつ時計に目を向ける。
9時か…。なんか色々あったからか、もう眠い。
ベッドにボフッと倒れこむ。
ただいま、myベッド!
そうそう、私は1組だった。熊谷君とクラスが違くて一安心。
このまま順調にいけば、高校1年生までは熊谷君と同じクラスにならないはず。
取りあえずは女の子の友達が欲しいなあ。そして平和に過ごしたい。
そう思うと今日の入学式を欠席したのはやっぱり痛かった。浮いちゃうよなあ。
でも漫画の『鈴蘭』は普通に友達いたし!
漫画と今とでは中身が変わっちゃったけど。
…ため息が出てしまう。
とにかくもう寝よう。おやすみなさい。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
うわぁ。
『鈴蘭』と一緒のクラスになれた。なんて運がいい。
せっかく漫画の世界…正しくは漫画を再現してくれた世界だけど。
とにかくこの世界に転生したからには精一杯楽しまないと。そう思うでしょ?
杏梨もこの世界を選んだのかな?それとも別の世界?…杏梨がもし私のオススメした漫画の世界に。この世界に転生してくれてるんだったら。とってもとっても嬉しいな。
また逢いたいよ。杏梨…
本日もありがとうございます!
最後に登場した人や「杏梨」は後々出てきます。
ただ、推測によっては丸分かり程度のことです(^^;;
内容薄いって?分かっています、すみません(汗)