表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/51

5.閑話:変わらぬ笑顔 (雷兎 視点)

今回は雷兎視点です。

結構なシスコンかも!?

雷兎の過去メインです。シリアス気味です。

今日は4月6日。

明日には俺の姉さんが中学校に入学をする。姉は受験勉強を痛々しく見えるほどに頑張っていたから、素直に良かったと思う。『どうしてもあの制服が着たいんだもん!』とか言っていた。

今はそんな姉の入学祝いのパーティー中だ。午後6時から始まって現在午後8時まで続いている。だが、朝から中学の準備をしたりして今日は姉も義母も忙しそうだったから、これくらいのんびりして良いのではないかと思う。

姉も、とても嬉しそうだ。今は父さん達から入学祝いを渡されていた。中身は化粧水とか、ハンドクリームとか、美容系のものだとか言っていた。義母によるセレクトだ。

俺としては少々複雑で、それで男どもにモテたらどうすんだとか、今のままでも充分だとか、そんな考えがよぎる。姉には彼氏なんか絶対に作らせたくない。絶対に。

俺からは姉の瞳の色に合わせた、紫色のシュシュをあげた。

姉は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにありがとう、と言って嬉しそうにフニャッと笑った。我が姉ながら可愛いと思ってしまう。顔にも、ましてや口にも絶対に出さないが。

その心の底から嬉しそうに笑う彼女に、俺は既視感を覚える。

(初めて会った時もこんな顔で笑っていたよな)

初めて出会って、笑いかけてくれた顔。上辺だけで接していた俺に、「頼っていいんだよ」と優しく言ってくれた彼女。一緒に泣いてくれた時間。

どれも俺は、一生忘れない。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


俺が新しい姉、義母に初めて出会ったのは、丁度7年前の春。


「この子が雷兎君の新しいお姉ちゃんになる、鈴蘭よ。雷兎君より1つ上の5歳。仲良くしてあげてね。」

と言って義母に紹介されたのが、新しく俺の姉になるらしい少女。

「こんばんは、鈴蘭です。よろしくね、雷兎君!」

そう言って少女はフニャッと笑った。だが俺はその能天気な笑顔に苛立ちを覚えた。そもそも俺は父さんの再婚には反対なのだ。


『こんな生意気な子供いらない。私は出て行くわね。雷兎は置いてくわ。』

そう言って俺の本当の母は出て行った。3ヶ月前のことだった。

俺は呆然となり、その日から今日まで家にいる時は引きこもっていた。父にまで見捨てられるのは怖かった。だから俺は、猫をかぶって愛想をよくした。

だが幼稚園以外、外出しない俺をいきなり外に連れ出し、父の再婚相手と一緒に晩餐を食べ、和やかに会話をするなんて出来ない。出来るはずがない。

でも対応を怠ったら、父にまで見捨てられるかもしれない。

俺は猫をかぶることにした。

「よろしくお願いします。一人っ子だったので姉さんが出来るのは嬉しいです。」

父も、これから新しい母になる義母も。満足そうに笑っていた。

この時。ただ一人びっくりした顔で見ている少女に、猫をかぶるのに必死だった俺は気がつかなかった。



とうとうこの日が来てしまった…

義母達と初めて対面した日から1週間が経った。そして今日この日、あの人達が家に引っ越してくるのだ。

家族になるのだったら一緒に住むのは当たり前だが、俺はひどく抵抗があった。

あの人達がやってきたら俺の、俺なりの生活が壊される。学校から帰ってきたら部屋に引きこもり、出来るだけ人と関わらないように過ごすのが日常だ。だが、あの少女…鈴蘭?はひたすらかまってきそうだ。

憂鬱だ…。

あの人達は午後2時にやって来る予定なので、後30分しかない。

かぶった猫が剥がれないように、慎重に過ごすしかないだろう。


「こんにちは〜!」


1時になり、あの人達がやって来た。

日曜日で仕事が休みの父が出迎え、俺もそれについて行った。作り物の笑顔を貼り付けながら。


「お邪魔しますね〜」

「もうここは君達の家になるんだから、かしこまらなくていいんだよ」


父達は立ち話をはじめてしまった。これは終わりそうにない。

しょうがない…。俺は一刻も早く部屋に帰りたいのだ。


「鈴蘭…さん。部屋に案内しましょう。」

「うん、ありがとう!それから、私のことは『姉ちゃん』とか『姉さん』とかって呼んでほしいな!」

「はあ。」


生返事しかできなかった。

彼女の部屋は俺の隣の部屋だ。ちなみに義母の部屋は父と一緒。

移動中に彼女はずっと話しかけてくれたけど、内容は右から左に流れていく。


「ここが、あなたの部屋ですよ。」


『では、俺はこれで』と続くはずだった。


「ありがとう!ねえ、雷兎君少しだけ話し相手になってくれないかな?ちょっとでいいの!」

「え⁉︎」


思いがけない言葉に俺の猫は外れかけた。危ない危ない。


「いや、俺は…」

「本当にちょっとだから!」


かなりの強引さだ。しょうがない。早く済ませて部屋に帰ろう。

彼女の部屋に入ると先に送り込まれていた荷物があることもあり、かなり狭く感じた。


「ねえ、雷兎君…」

「何ですか?」

「何で雷兎君は無理して笑ってるの?もしかして、再婚を反対してる?」

「…え!?」


目の前の小さな女の子は少し寂しそうにそう言った。

なぜだ?父にも、先生にもばれてない…と思うのに。


「私ね、なんとなく分かるんだ。前に私も無理して笑っていたから。本心じゃない笑顔は大体分かっちゃう。」


彼女が言うにはこうだ。

─── 私の本当のお父さんは1年前に事故で他界しちゃったんだ。私はお母さんの涙を見て自分がシッカリしなきゃって思ったの。親戚や友達に大丈夫?って聞かれても、全然大丈夫って言って笑ってた。親戚からは薄情な子って言われたりしちゃったけれどね。家事もやったし、涙なんか見せなかった。でも、すごく悲しくて、辛かった。そんな時かな?辛くて、苦しくて、夜の公園で泣いちゃおうって思ったんだ。そしたら、同い年くらいの男の子がいて。何でその子は夜にいたのか、とか何で話すことになったんだ、とかは忘れちゃったんだけど。とにかくその子と話すことになって。話し始めたら心が緩んで、みっともなく泣いちゃってさ。無理しないでいいんだよ、って言われて。そしたら、心がスッとしたんだ。それからは私に無理な笑顔は、少なくなった。お母さんも、その頃には少しづつ元気を取り戻してた。『鈴蘭、ごめんね、ありがとう』って言ってくれた。これからはお母さんに甘えてね、とも。


「つまりね、長くなっちゃったんだけど。雷兎君に何があったのか、私には分からない。だけど ─── 辛い時は、周りの人に頼っていいんだよ?」


そう言って彼女は─── 俺の、姉さんになった人は。俺を優しく抱きしめてくれた。暖かく心地よい。涙が溢れてきて、止まらない。

それからは、みっともなく泣いて。姉さんも、もらい泣きしたのか泣き出して。一緒になって泣いた。

後で聞けば、親たちはドアの隙間からコッソリ盗み見していたそうだ。俺の黒歴史決定。


その後、7年経った今でも言われ続けられている言葉が、『どんな状況でもポジティブにね』と『ポジティブでいられなくて、本当に辛い時は遠慮なく甘えてね』だ。

1つ目は無理があると思うが、俺は『その位の気楽さでいろ』という感じで解釈している。


家族を捨てた俺の本当の母。俺はその母に、感謝こそしていないが恨んではいない。新しい母と姉さんに出会えたから───


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「─── 兎、雷兎?」


姉の呼びかけで意識がこちら側に帰ってきた。

心配そうに覗き込まれる顔が近い。

俺は昔を思い出してボーとしていただけだが、どちらかというと心配なのは姉さんの方だ。昨日の朝から少し様子がおかしい。


「─── 姉さん」

「なあに?」

「姉さんも困った時は俺や家族を頼って下さいね。」


親たちに聞かれると恥ずかしいので少し小声気味で言う。姉さんは少しビックリした顔をした後、


「勿論!頼りにしてるわよ、雷兎!」


と言った。心の底からのものであろう、眩しいくらいの笑顔付きで。







読んで下さりありがとうございます!

うん、なんか今回はいつも以上に文がはちゃめちゃな気がする…。すみません…

ん?この2人、回想時って4歳児と5歳児のはずだよね?中身メッチャ大人だなー…。本当にすみません…

次から鈴蘭視点に戻ります。

授業が本格的に始まってしまい、リアルの方が少し忙しいのでこれからは週1〜2更新目指して頑張ります!見捨てないでくれると嬉しいです…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ