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43.ヒロイン、第二のバレンタインデー

グダグダです。

進みが遅くて申し訳ない。

「づがれだー…」


ボフッ、と倒れこんだ私を癒してくれるベッド。いつもありがとう。


今日は3人だけで過ごすはずだったのだが。なんでこうなったんだか熊谷君と飯島も家に来た。

でもみんなといれて楽しかったし、できたチョコはなかなか美味しかったし、結果的には最高でしたね。

最後の雷兎乱入にはビックリしたけども。そう、最後の…


「あ」


ふと思い出して、ベッドから起き上がる。


手に取ったのは、私の手と同じくらいの大きさの包み。

大きさ的には、髪飾りとか…文房具?ま、開けてみればわかるか。


薄紫色の綺麗な包装紙を、破らないように丁寧に開ける。中から出てきたのは…


「…こ、れは」


可愛い。髪飾りよりも嬉しいかも。

さすが、熊谷君。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「うわー…」

「すごいわね。熊谷、いつか女嫌いになっちゃうんじゃない?」


それ私も考えたことあるよ、小菊。やっぱりそう思うよね。


「朝一に行っても行列(争い)はできてたからね…。どうしよ。直接お礼言いたいんだよなぁ」

「昼休みなんて無理に決まってるわよね…。『王子様』ってこと、忘れてたわ」

「わたしもです」


昼休み。

現在私達、熊谷君にチョコを渡す(王子の心を射止める)ために並んでる女子達の行列(行っている戦い)を陰ながら見守っています。


熊谷君に逆バレンタインとして貰ったものがすっごく嬉しいものだったため、ケータイを使ってではなく、直接お礼を言いたいのだ。いや、もちろんメッセージ上でもお礼は伝えたけど。

だがここで、ある問題にぶち当たる。

─── 今日、熊谷君と話せる時間があるのか。

普段だったら廊下で声をかけるなり、教室へ遊びに行くなり、いろいろと手段があるだろう。

だけど今日は…


「みんな、バレンタインモードだよねぇ」

「こればっかりはしょうがないですよねぇ。先生方も黙認してるみたいですし」


今年はバレンタインデー当日が土曜日だった。つまり、私達がバレンタインパーティーをした日。

だからスッカリ忘れていたのだけども。…学校でのバレンタイン本番はこれからでした。女子(ハンター)の皆様、本気で怖い。熊谷君、頑張れ。


休み時間に行列ができることなんて当たり前。放課後も家まで付いてくる。

王子のバレンタインに休みはないらしい。(by天野さん)


「ほら、鈴ちゃんも突撃ですよ!お礼言いたいんでしょう?」

「そう、なんだけど…。あれに突っ込んでいくのは勇気がいるというか…」

「ほら、バーゲンみたいなモンでしょ。大丈夫。近くまで行ったら熊谷がこれ幸いと鈴蘭連れて抜け出すわよ。用事がある、とか言って」


王子をバーゲン品扱いする小菊は最強だと思う。

…でも、これじゃあ本当に渡せなくなっちゃうし。


ショートホームルーム(SHR)後、また来る」


もしうまくいったら、女の子たちを撒いて、熊谷君は平和な放課後を過ごすことができるかもしれない。

人の多い昼休みに突撃なんてしたら女子の反感を買うだけだ。だったら少しでも利益の出そうな時間に突撃したい。


「鈴蘭が男子相手に自分で選んで何かを渡すのって、初めてなんじゃない?…成長したわねぇ」


それはまぁ、確かに。いつもあげるものがわからなくて、結局小菊たちに助けを求めるか、熊谷君本人に聞いてたもんね。

…考えたらすごい情けなくて泣ける。


「本当ですよ。1年の最初の頃とか、逃げ回ってましたもんね」

「行動にしてもプレゼントにしても、あたし達に促されて、だったものね」

「え、なんで2人してしみじみとしてんの?なんで私の頭撫でてるの?」

「気にしない気にしない」


その子供の成長を喜ぶような顔、すごく複雑な気持ちになるのですが。


・・・・◇・・・・


「うー…熊谷君、モテすぎだよ」

「それは鈴ちゃんもですけどね」

「机の中にギチギチになるまで詰められてたでしょ、チョコ」

「んー…でもあれは女の子のもあるし、直接渡されてないから、からかわれてるんじゃないかと考えてしまう」

「嘘でしょ」

「相手がかわいそうですよ…」

「そ、そんなことより、今は熊谷君だよ」


あの行列は全然減らない。入れ替わり立ち替わりで、メンバーもどんどん変わっていく。

なに?この学校の女生徒は1回は王子の顔を見に来てチョコを渡すのが義務なの?


「ほら、鈴ちゃん。早くしないと最終下校時刻を過ぎちゃいますよ!」

「う…じゃあ、行ってくる」

「「いってらっしゃーい!」」


いい笑顔で送り出されてしまった。…あきらめよう。女子の反感買うくらい、どうってことないよね!

前のドアは例によって女子たちに塞がれてるので、後ろのドアを開ける。…あの女子達、私に気がついてないな。どんだけ熊谷君に見惚れてるんだ。


ドアに手をかけ…開く。と、大量の視線が私に突き刺さった。けれど、熊谷君らしき人の周りを囲んでいる、やっと順番が回ってきたであろう女子たちには気づかれなかった。

い、居心地悪い。とにかく何か言わなければ…。

私は『鈴蘭』であり、「鈴蘭()」なのだから、普段のようにどもったり、なにを言うか迷ったりなど許されない。少なくとも、今、この場では。


「…王子は ─── 熊谷、信也さんはいらっしゃる?」


熊谷君の周りの子たちも私に気がつき、顔を青ざめている。お、怒ってないよ?怖くないよ?


「おー、姫百合さん。信也に会いに来たのか?」


沈黙を破ったのは、窓際の席に座っていた、飯島君だった。

さて、どう答えるか。まあ、これは無難に…


「会いに来た、と言われたらそうですけれど…。先生に頼まれたのよ。熊谷を連れて来てくれないかって。古典の早坂先生に。あと熊谷君、あのプリントを持ってきてくれ、って言ってたわよ」


もちろん、嘘。この理由が一番自然なのと…いや、まあなぜ私が伝達係に?という疑問は残るだろうが、スルーしてくれ。あと、行き先が職員室なら彼女たちはついてこないだろうな、っていう、ほんのちょっとの打算。

熊谷君は一瞬固まったが、すぐに私の意図を汲み取ったのだろう。机の横にかけてあった鞄を手に取る。

熊谷君は女子たちに何か声をかけてから教室を出ていたが、私はもうそれどころじゃないため、平常心を装うのに一苦労だ。ごめん、やっと順番が回ってきたであろう女子たちよ。だけど、怖いから睨まないでー!


まだ仮面は外せない。外にもまだ並んでいた女子がいるし、教室内にいた子も目的の人物がいなくなってしまうため帰るだろう。とりあえず熊谷君と飯島君と一緒に職員室の方へ向かう。誰がどこまで見てるかわからないから。


「…ここまでくれば、いいかな?」


一応、職員室前まで来たけども、時間的に部活中のせいか、人がいない。そしてさっきの女の子たちがつけてきてる気配もない。


「ふー…。ありがとう、姫百合さん。僕、今日は帰れなくなるかと思った」

「いえいえ。というか私が熊谷君に用事あるからあんな恐ろしいところに突っ込んでいけたわけで…。あ、一緒に帰らない?もちろん小菊たちも、飯島君も一緒に」

「うわー、オレお邪魔虫じゃね?サッサと退散しますかねー」

「明人、うっさい」

「いや、お邪魔虫でもなんでもないから。とにかく外出たいんだけど…熊谷君、大丈夫?」

「あ、僕、昇降口からじゃなくて技術員室から出るね」

「技術員室?」

「…技術員さんに仲いい人がいて、協力してもらってるんだ。ほら、技術員室からも外でれるから、そこから出るね」

「「……」」


やっぱ……モテすぎもよくないよなぁ。贅沢な悩みなんだろうか。





結局私と飯島君は普通に昇降口から出た。

正門をくぐると、小菊と茉里ちゃんが待っていました。


「…なんで飯島くんだけなんですか?」

「うわー、その嫌そうな顔。傷つくわー」

「勝手に傷ついといてください。で、鈴ちゃん!熊谷くんは?」

「ん、もうすぐ来ると思うけど」

「あ、来たわよ」


熊谷君は今日は寄り道なんてしてしまうと、見ず知らずの人からも囲まれてしまうそうなのでまっすぐ帰らなければいけない。…漫画みたいだな、おい。


「じゃー、行きましょう」


前に小菊たちが歩いて、そのすぐ後ろに私と熊谷君が並んで歩き出す。

い、今かな?

からかわれるのが嫌なので少し歩くスピードを落とし、前の3人と距離を取る。


「熊谷君、あのね」

「ん?」

「あのブックマーカー()、すごい嬉しかった!かわいいし、ちょうど欲しいと思ってたし、実用的だし!本当に、ありがとう!」


そう。熊谷君からもらったのは、鈴蘭の花のチャームがついたブックマーカーだった。

私と熊谷君は結構な読書家で、よく本の貸し借りなどもしている。

栞は今買おうかどうか検討中だったもので、だいぶ悩んでいた。しかももらった栞はかわいいチャーム付き。もらって嬉しいものベスト3に入るね。

早速使わせてもらってます。


「本当?よかったぁ。どんなのがいいかわからなかったけど、あんなのでよかったかな?」

「うんうん!本当に嬉しいから。あと、これ。お返しって言ったらなんだけど…」


渡したのは黄色の包装紙で包んだプレゼント。なんとなく熊谷君って黄色のイメージがある。


「え、もらっていいの?開けていい?」

「どぞどぞ」


…かなりびっくりしてるなぁ。そんなに私からものをもらうのは珍しいか。うん、珍しいね。


「…ブックカバー?」

「うん。…どう、かな?」


渡したのはシンプルな黒のブックカバー。

いままで何を渡したらいいかわからなかったけど、熊谷君を見習って、相手の趣味に合わせればいいのではないかと思いまして。それにブックカバーだったらいくつあっても困らないと思うし…。

熊谷君の趣味について、読書以外知らないんだけど…どうだったかな?

…う、胃がキリキリする。


「うわ、嬉しい…。ありがとう、姫百合さん!」

「よ、かったぁ…。どういたしまして…というか私こそありがとう!」


喜んでいただけたようで何より。


「熊谷君だから犬のチャームがついた栞とかでもよかったけど、さすがに使いづらいかな、って」

「…なんで犬?」

「動物に例えると、熊谷君は子犬だから。私には耳と尻尾が見えるよ」

「姫百合さんは…白鳥とか?」

「えー…ちなみに理由は?」

「白鳥もさ、水面下では必死にバタ足してるでしょ?それが、みんなからは見えないところで努力してる姫百合さんとかぶるんだよね」

「…熊谷君は私を過大評価しすぎだと思うな」

「そうかなぁ?クラスの男子が、『姫百合さんは天才だ』って言ってたんだけど、姫百合さんは天才ではないでしょ?」

「ま、ね。最初からできてたら苦労しないよ」


かなり勉強してあの点数だからなぁ…。悲しい。


「というかさ…」

「ん?」

「白鳥とか!そういう恥ずかしいの!よく言えるよね!」

「えー、本当に思ったことだからしょうがないよ」


そんないい笑顔で言われても!こっちが恥ずかしくなるんですけど!

女子に期待させるようなこと言わないんじゃなかったの!?


「うわー、お熱いですね、お二人さん」

「もー、長いです!いい雰囲気なんですからもっと進みましょうよ!」

「いや、茉里ちゃん、進むって何が!?」


いつのまにか私たちの後ろにいる3人。こわっ!


「信也ももっと攻めろよ」

「いや、待って。これ以上は無理だから!明人も言ってみろよ!」

「相手いねーし?」

「鈴蘭、恋愛っていうのはね…」

「そんなん聞きたくないよ!」

「もー、鈴ちゃんは聞いとくべきですよ」

「聞いても使いどころがないからね!」

「男嫌いっていつ治るんですかねぇ…」

「いや、茉里。ここは、男嫌いなのにただ一人だけ触れる人がいる、の方がロマンチックじゃない?」

「うわー、それいいですねぇ!」

「漫画の読みすぎ!」


もー…。

恋愛なんて、私にはまだ早い!

閲覧ありがとうございます!

信也が空気的存在になってないかビクビクしてます。

次は雷兎か…もしかしたら信也の?視点で閑話を挟みたいと思ってます。


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