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34.ヒロイン、夏祭りです

姿見を見て全身をチェック。

胸の辺りまで伸びた銀髪はお団子にして一つにまとめた。トップスは白いVネックのサマーニットで、ボトムは黒いデニム。普段はショートパンツが多い私ですが、今日は生足なんて言語道断です。

靴も今日はぺたんこサンダルで行く予定。リボンが付いていて可愛いやつだけどね。動きやすいようにヒールは無し。


夏祭り(戦闘)に行ってきます。


・・・・◇・・・・


「ごめん、遅れた!」

「大丈夫ですよ。鈴ちゃんが遅刻なんて珍しいですねぇ」

「さては雷兎くんに止められたでしょ?」

「よく分かるね。祭りの危険さをこんこんと語られて…。私だって分かってるのに」

「「危険?」」

「うん。危険」

「…一応聞くけど、どこが危険なのよ」

「ナンパ、ストーカー、セクハラ、誘拐などなど」

「…うん、今日は私たちが付いてますから大丈夫ですよ」

「いや、美少女が2人増えたら逆効果だよ」


今日は気が抜けません。服装もそれなりに気をつけてきた。

浴衣は即却下。動きにくすぎる。スカート、ショートパンツも絶対ダメ。肌を見せるのは危ないです。本当は同級生に見つかって話しかけられたくないから、帽子かぶってメガネして変装しようかと思ったけどさすがに止めた。お祭りだとみんなテンションが上がって、普段しない行動に出る時があるから…。


「鈴蘭に言われると嫌味にしか聞こえないわよ」

「そうですよねぇ。鈴ちゃんから1ランクも2ランクも下がってますもん、わたし」

「2人とも自分の顔鏡で見たことないの?」


真面目に返したのになぜか笑われた。というか吹いた。大丈夫か。


「さすが鈴蘭…」

「謙遜じゃないって分かっちゃうくらいキッパリと言われたらなにも言えませんよね…」

「…行かないのー?」

「はぁ。じゃ、行きましょうか」

「そうですね」


2人はまだ少し笑ってた。


・・・・◇・・・・


キラキラしている。大袈裟でなく。

茜色と濃紺が混じった空に負けないくらい綺麗で、そこらじゅうに飾られたカラフルな提灯。

これがなきゃお祭りじゃない!という定番のものから、なんだこれ?と思うような珍しいものまで売っている様々な屋台。

どれもこれも久しぶりで心が躍る。


「うわ〜。ね、何から食べる?それとも遊ぶ?」

「まずは何か食べたいですねぇ」

「暑いし、カキ氷食べたいな」

「あとはりんご飴と、綿あめ、今川焼きは鈴ちゃんが好きそうですね!小菊ちゃんが好きなチョコバナナも食べましょう!」

「茉里ちゃん、甘いものばっかりだね」

「えへへ。お祭りだとつい好きなものばっかり食べちゃって…。翌日の体重が恐ろしいことに…」

「…今日ハ何モ気ニセズ食ベヨウ。ナントカナルサ」

「程々にね」


でもやっぱりテンション上がる。どうせ夏休み中勉強漬けなんだから今日くらいは何も考えないで楽しむぞ!


「あ、お姉さんたち可愛いね〜!よかったら ───」

「触らないでください。急いでますので失礼します」


せっかくのお祭りに水をささないでください、チャラ男さん達。ほら、あっちにも可愛い子いるよ。行っておいで。


「鈴蘭…」

「はやいですね…」


○○○


宣言通りカキ氷にりんご飴、綿あめ、今川焼きにチョコバナナを食べてお腹を満たした後、腹ごなしを兼ねて遊ぼうということになった。


「定番と言ったら金魚すくいに射的、ヨーヨー釣りとかでしょうか」

「うわ、懐かしい。金魚すくいで金魚をとっても、そのあとが困るのよね」

「あるあるですね」


ふと、ビミョーな顔の不思議な生命体の人形が視界の端に入ってきた。


「ん…?茉里ちゃん、あれって」


右斜め前を指差す。確かあのキャラクターは…


「カバニー!なんですか、これ!カバニーすくい!?やります!命をかけて!」

「そんなんに命かけるな」

「そのくらいの敬意を払わないとカバニーに失礼ですよ、小菊ちゃん!」

「相変わらずのカバニー愛だね。最近またカバニーグッズ増えたでしょ?」

「そうなんです!ストラップなんかはつけるところに迷っちゃうんですよ〜」


カバニーとは、茉里ちゃんが大好きなキャラクターで『カバ』と『ウサギ』が合体しているもの。

私から見れば…ビミョーなキャラ。やる気のなさそうなカバの顔と可愛らしいウサギの耳がチグハグな印象を植え付ける。

そんなカバニーが茉里ちゃんは大好きで、注意してよく見るとスクールバッグにつけているストラップもカバニー。ノートや消しゴムもカバニー。

最近はお弁当箱までカバニーになった。髪留めまでカバニーにならないことを願う。切実に。

そんな茉里ちゃんがお手頃価格で手に入るカバニーを見逃すわけがない。親指ほどの大きさで、何に使えるわけでもなさそうな人形だけど茉里ちゃんが幸せならそれでよし。


「よし、頑張りますよ!おじさん、一回お願いします!」

「はいよ〜」


そう言いながらポイを渡してくれるおっちゃん。茉里ちゃん、料理は壊滅的だけど普通に器用だから一個も取れないってことはないだろう。

次に何をしようかとキョロキョロと周りを見回してみると、一枚のポスターが目に入った。


「へぇ、ここのお祭りって花火もやるんだ」

「知らなかった?むしろ花火がメイン。結構盛大にやるから後で見ましょう」

「うん!」

「熊谷とも一緒に見たいと思っちゃったりしないの?」

「ニヤニヤ笑いやめい。確かにまだ会えてないね。まぁ会えたら一緒に見たいとは思うけど」

「あれ、素直ね。どうしちゃったの?」

「熊谷は友達…ただの、友達だから。友達と一緒に見たいと思うのは普通だよ」


ただの友達だから、恋愛的な意味で期待するのはよしてくれ。


「ただの友達、ねぇ。熊谷、不憫だわぁ。鈴蘭、無自覚な悪魔よね」

「え!?待っておかしいと思う」


悪魔ってどういうことだ。やめてくれ。


「うわっ!お姉ちゃんたちかわいくね?銀髪の彼女はキレイ系だな」

「マジか。ガチでかわいいな!ねぇ、なんでもおごるからオレ達と」

「遊びません。茉里ちゃん終わった?終わったなら行こう」

「え?…あぁ、はい行きましょうか」

「そうね。─── 邪魔なんですけど、どいてくれません?」

「は!?お、お前ら」


しつこいなぁ。確かに私達の態度もちょっと悪いかもしれないけどこのくらい許してよ。

カバニーすくい屋のおじさん、店の前で騒いでごめんね。

謝罪の意味を込めて一礼してから立ち去る。


「無視すんなよ!」


男の手が茉里ちゃんの肩に伸びる。


「─── は?」


やるなら、完璧に。鈴蘭の顔を活かした綺麗な微笑みを、絶やさずに。


「え?」

「なに、してるんですか?私達、断りましたわ」

「お前らの態度が悪いから」

「へぇ。そのくらいで腹をたてるのですか。まぁ確かに私達の態度も悪かったですね、謝ります。ですが ─── 邪魔って言ったのが、聞こえてないの?」


ジロリと睨む。中学生の睨みなんか怖くないという人もいるだろうけど『鈴蘭』の顔で睨まれたら、結構怖いと思う。ほら、美人だからこその迫力っていうの?この顔、大人っぽく見えるし。

ほらほら、退場しなさいな。見た所高校生でしょ。中学生なんかに構ってないで大人の女をひっかけて来なさいよ。


「あれ?…待たせてごめんね。この人たち、どうしたの?」

「なに?浮気?」

「あら、熊谷君、飯島君。…遅いわ、待ってたのに。あぁ、お兄さん達まだいたの?─── 消えて」

「!! …はんっ!男連れなら初めから言いやがれ」


テンプレな捨て台詞を残して去っていく。

私達も悪かった、かな。年上に向かっての態度じゃないことくらいわかってるけど、茉里ちゃんの肩に触れるとか、100万年早いんだよ!私は謝らないからな!


「熊谷君、飯島君、ごめんなさい、巻き込んで。あと、話を合わせてくれてありがとう」

「鈴蘭、まだ学校モードが抜け切れてないでしょ。でもやっぱりかっこいいわね」

「え?えっと…うん。いやー、あいつらしつこかったね!熊谷君達が来てくれなかったら無理だったかも」


おおう、今更手が震えてきた。…男相手に、しかも年上相手にすごいことしたな、私。


「鈴ちゃん、ギャップがすごいですよね。手、震えてるじゃないですか。でも、ありがとうございます」

「うん。いやー、つい頭がカッとなっちゃって」

「えっと、あれナンパだよね?やっぱり僕たちも一緒に回れば良かった。大丈夫?」

「鈴蘭姫のピンチに間に合ってよかったな、王子」

「王子って呼ぶのやめろ」

「姫もやめて。あと、ナンパとかはそこまで危険じゃないから大丈夫。いざとなったら逃げられるし」

「…気をつけてよ?」

「うん」


ていうか、今の状況小説や漫画だったらご都合主義と呼ばれるやつだよね。飯島君じゃないけど姫のピンチに王子が駆けつける、みたいな。現実で見られるとは。

ご都合主義…。昔ネット小説でいっぱいあったなぁ。チート、ハーレム、逆ハーレム。記憶喪失とか。うわー、また読みたい。読みたくなってきた。


「…よかった」

「ん?茉里ちゃん、どうしたの?」

「へ?あぁ、えっと、カバニーの人形落とさないでよかったなって」

「そういえば、どれくらい取れたのよ。見せて」

「全種類制覇ですよ!すごくないですか?」

「うん、いつ見てもビミョーな顔」

「ひどっ!可愛いじゃないですか!ねっ、鈴ちゃん」

「うーん?」

「鈴ちゃん!」


ごめんよ、茉里ちゃん。カバニーくん、そこまで可愛くないと思う。いや、カバニーちゃんか…?


○○○


ふと時計を見ると、もう7時を過ぎていた。中学生には遅いかな?でもお祭りだし、花火も見てないし。


「みんな、もう7時だけど門限って大丈夫?」


みんなの門限は大体9時前後だった。前世の家は厳しくて門限6時だったけど、9時くらいまでが普通なのかな?

前世のことをぼかして小菊に聞いてみたら『今日はお祭りだから』だそうだ。


「鈴蘭の家もそうよね?門限6時って誰のこと?」

「私のいとこ。門限が早いよ、鈴蘭…私の家は遅すぎるよ、ってぼやいてたから普通はどれくらいなんだろうって思って」

「…へえ。確かにちょっと早いかもね。あと1時間は欲しいわ」

「だよね〜」

「あ、姫百合さん、陽野さん!花火始まるらしいよ!」

「うそ、ここからでも見えるかな?」

「うん、多分…」


ドン、と、お腹の底に響くような大きな音がした。上を見上げると色とりどりの光がパラパラと散りばめられ、暗闇に溶けていく。


「う、わ…」


そこから先は2発、3発と次々に打ち上げられ、首と目が忙しい。


「キレイ!キレイだね!花火、久しぶりに見たよ!」

「そうなのですか?」

「うん。家からじゃ見れないし、お祭り自体も久しぶりだから」

「そうなんだ」


『来年もみんなと一緒に行きたいな』と言いかけて、少し考える。

私、もしかしたら自分で遊びに誘ったことがないかも、と。小菊と茉里ちゃんに対してなら、ある。何回も。

だけど、もしかしたら熊谷君を誘ったことはないかもしれない。いや、『天野さんが行くって言ったら断るだろう』と思って誘ったことはあるよ?からかい、というか嫌がらせ的な感じで。でもそれはノーカウントでしょう。

……。

………。

うわー、いくら思い出してもないよ。“みんな”の中には熊谷君も入ってる。そう考えるとちょっと照れくさい、かもしれない。


今日は楽しかった。

茉里ちゃんのカバニー愛を見せつけられたし、小菊はチョコ系スイーツ全般好きだということも分かった。

飯島君はなぜだか異常に射的や金魚すくいなどのゲームが上手で驚いたし、意外にも熊谷君は辛いものが好きという発見もあった。勉強会のときチョコを持っていたのは自分用ではなく、甘いものが大好きな妹さん用だったらしい。それをもらってしまったことを謝ったら『あまってたから大丈夫だよ』と笑ってくれた。

優しすぎるでしょ、とツッコんでおいた。照れてた。ツッコミの仕方を間違えた。


でも、今誘わないと来年もみんなでこれないかもしれない。

それに、熊谷君という男子と関わっていくことで男嫌いの克服に近づくかもだよね?


相変わらず空にはカラフルな花が咲いている。うん、言える気がする。いつも通り誘えばいいんだ。その後に『熊谷君もいい?』って付け足せばいいだけ。


「今日、楽しかったね」

「本当ですねぇ」

「茉里と飯島の漫才も見れたしね」

「漫才じゃありませんよ」

「いや、あれは漫才だった」

「鈴ちゃんまで!」


思わず同意する。いや、だって絶妙な掛け合いが面白いんだよ。


「来年も…みんなで行きたいね」

「当たり前じゃないですか」

「飯島も連れてね」

「あ?なに?」

「なんでもありませんあなたはなにも聞いてません離れてください」

「一息で言ったな」


熊谷君、なんも言わないの!?って、これは聞いてないな。キラキラした目で花火見てる。


「熊谷君!」

「…え?なに?」

「来年もみんなで行こうって…話、だったんだけど」


う、やっぱり男って印象が強いのかなぁ。自分から話しかけるのはちょっと緊張する。


「え、僕も行っていいの!?」

「お、おう。一緒に行ってくれると嬉しいなって」

「本当?行く行く。ありがとう、姫百合さん」


眩しいくらいの笑顔を向けてくれる熊谷君。

あぁ、私って馬鹿だな。緊張なんてすることなかった。

忘れてたよ。熊谷君は男じゃなくって ─── 子犬だもんね!


「今の一場面だけ切り取ると、恋する乙女が頑張って誘ってるように見えるんですけどねぇ」

「だめよ。今の熊谷の笑顔の後、鈴蘭の目がペットを見る目だったから…」

「前途多難だろうな」


恋スル乙女ッテナニ?オイシイノ?


閲覧、ブックマークなど、いつもありがとうございます!

この小説のヒロインは恋愛をする日が来るのでしょうか。作者にもわからないorz

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