32.ヒロイン、提供できるネタはありません
───『熊谷 信也です。姫百合さん、いま時間大丈夫?』
あ、慌てるな私。be cool!
というか。慌てる理由は、ない、はず。
いや、1年前の私だったらこのメッセージを見た瞬間にスマホをぶん投げて壊す…は大袈裟にしても見た瞬間に電話番号・メールアドレス共に変更するだろう。
だがしかし。今の私たちは自他共に認める友達なんですよ!友達…だよね?
だから、別に連絡先だって交換しても不思議じゃない。自然だ。うん。
そうと決まったら早速返信ですね。
『熊谷君?時間はまだ大丈夫だよー。
どうかしたの?』
うーん。まぁこんな感じが無難だと思うけど。なんで私の連絡先を持ってたかも訊いた方がいいかな?
おおかた小菊か茉里ちゃんに聞いたんだと思うけど。
……まぁ、男子っていっても熊谷君だし!気負う必要はないはず。いざ送信。
返事はすぐ返ってきた。
『ごめんね、ちょっと気になって。
姫百合さん、天野さんと何かあった?』
…あー、やっぱりこの話題か。答えづらいなぁ。かと言って嘘をつくのも忍びないし、お茶を濁しても熊谷君の性格ならどんどん突っ込んで聞いてきそう。
しょうがない。
『天野さんが今までの自分の行動を謝ってくれただけだよ〜』
さらっと流す。嘘は言ってないよ。
さて、あとは返信を待って寝よう。と、思ったのに。
5分待っても、10分待っても返信はこなかった。
「…もう寝たのかな?」
ふぁ〜、と欠伸をかみ殺す。眠いぜ。うん、寝よう。一応返信したし。
電気を消してベッドに潜り込むと静寂が訪れた。瞼が重くなり、目を開けているのが困難になってくる。
テーブルに置いてあるケータイの音がなった気がするが、気のせいだ。もう立ち上がる気力がない。
おやすみなさい。
朝、ケータイの画面を開いて見てみると。
『じゃあ天野さんの行動も控えめになるのかな?ちょっと嬉しいな〜。
姫百合さん、教えてくれてありがとう。おやすみ』
何気にひどいけど特に変わった文章じゃなかった。あの間はなんだったのかなぁ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
昼には天野さんと話し合い、夜には熊谷君からのメッセージが届いた慌ただしい日から1週間とちょっと。つまりテストが終わり、みんな結果を恐れながらも夏休みに思いを馳せている時期。というか明日テスト結果が張り出されるんですが。
ちなみに今は、テスト終わりというわけで恒例の打ち上げ…という名のファミレス寄り道中です。
「夏祭り、どうしましょうか?」
「夏祭り?」
「あぁ、確かにもうすぐね。今年の夏休みのことも考えたいな」
「…夏休みはまた勉強地獄でしょう?」
「塾や家庭教師よりはいいでしょ。今年も茉里の家使わせてもらいたいなー!」
「2人の家にもいかせてくれるならいいですよ」
夏祭り?夏祭りなんかあったっけ?
あ、このマンゴーのパルフェ美味しい。いつも思うけどパフェとパルフェの違いってなんなんだろう。見た目はほとんど一緒だよなぁ。
「…鈴ちゃん、忘れちゃったんですか?去年の夏休み、みんなで行こうって約束したじゃないですか」
不満げに頬を膨らませている。可愛いけどちょっと焦るぞ!のんきに食べてる場合じゃない。
えーと、確かに去年約束したようなしなかったような。必死に記憶の糸をたどる。
「あー…」
思い出した。『保留!』とか言って叫んだときか。
「いつだっけ?お祭り」
「えーと、夏休み初日…だったかな?」
「そうですねぇ。熊谷君は参加決定だとして、他にも誘いますか?」
「茉里ちゃん、それ熊谷君に予定聞いたの?」
もう決定してることに文句は言うまい。ただ都合はちゃんと聞かないとね。
「まだなので鈴ちゃん聞いてくださいな。連絡先持ってるでしょう?」
このニヤニヤ笑い。熊谷君に私の番号教えたの茉里ちゃんか!
「え?そなの、鈴蘭?」
「なんか成り行きで。というか茉里ちゃん、熊谷君に私の番号教えたでしょ」
「えー、あっちから聞いてきたんですよ?断る理由がないじゃないですか」
「小菊ー、茉里ちゃんがヒドイー。本人の了承なしに教えてるー」
「そんな面白いことが裏で起こっていたなんて…。鈴蘭、熊谷とのやりとり見せなさい!」
「え!?いや、そんな提供できるような面白いやりとり、してないから!」
「いいから、いいから!」
「わたしも見たいです!」
「なんで2人ともそんなイキイキした顔してるの!?」
やましいことは何もないといえど、やりとりを見せるのは抵抗があったのでケータイは死守しました。
2人とも、ハンターの目をしてたよ…?
最近、更新が遅くなってしまい申し訳ございません。なんとか週2更新に戻したいです。
そしていつも閲覧ありがとうございます!
今回短かったので、明日も更新予定です。