31.ヒロイン、勉強会の後に
2015/07/16、二話連続投稿をさせていただきました。
前話からお読みいただくことをお勧めいたします。
「鈴蘭〜」
「鈴ちゃん」
「姫百合さん?」
「ああ、うん大丈夫よ。ちょっと頭の中で数字やらルートやらが飛び交ってるだけ…」
そこらへんのベンチに座りたいけど耐えてます。
それはまぁ、置いておいて。
もう時間は17時。電車の人もいるのでお開きにしようということになり、もう校門の前まで来ちゃってます。ここで問題。天野さんと、いつ…話そうか。
今は無理だ。みんなもいるし。帰り道?でも方向が違うんだよね…。
「姫百合さん、疲れた?眉間にシワが寄ってるよ」
「え、うそ。疲れてるは疲れてるけど、ちょっと考え事を…」
「僕、チョコ持ってるけどいる?」
「貰っていい?ありがと、熊谷君」
口にチョコを含みながら考える。やっぱり引き止めてそこらへんで話すしかないのかな。そこまで長引かないと思うし。
ああ、チョコ美味しい。体に染み渡るね。ていうかなんで熊谷君チョコなんか持ってるんだろう。あ、休憩時間にコンビニ行ってたからその時に買ったのかな?
…視線を感じてふと周りを見ると、熊谷君以外のみんなが私を見てた。え、なんでしょうか…?
「鈴蘭、成長したわね…」
「偉いです、鈴ちゃん!この調子で克服、頑張りましょう!」
「信也。お前これ…」
「ん?なに」
「女ともだ…」
「飯島くん!なに熊谷くんのやる気を削ぐようなこと言おうとしてるんですか!デリカシー!」
「いや、だってこれ男として見られてないだろ」
「うっさいですよ!いいじゃないですか!女友達でも!前進ですよ!」
「吉崎、お前…」
「え?なに笑って…」
「うん、いや大丈夫。薄々気づいてたから。大丈夫」
「あっ…。ご、ごめんなさい熊谷くん…」
「茉里、とりあえず落ち着きなさい」
なんだこれ。いや、まって。これ、チャンスなんじゃないですか?天野さん、なんかジーとこっち見てるだけだし、今ならみんなにも気付かれない。
「あ!私、忘れ物したから一回戻るね。ということで天野さん、一緒にきて」
「え、えぇ?どうしたのぉ、姫百合さん?」
騒いでる4人には聞こえてないかもしれないけど、別にいい。後で、どこ行ってたの、って聞かれた時の言い訳用だから。
図書室の裏らへん。いかにも忘れ去られてしまってるようなベンチを見つけたので、そこに腰掛け、天野さんにも腰掛けるよう勧める。
「姫百合さん、忘れ物はぁ?」
「あ、ごめんなさい。あれ、嘘なの。天野さんと少し話したくて」
「え、なにぃ?あ、やっぱり王子のこと好きだって気がついたぁ?」
「…ごめんなさい。全く関係ないわ」
なぜそうなる。じゃなくて。
息をたっぷりと吸い込み、長く吐く。─── よし。
「天野さん」
「なぁに?」
「私は正直 ─── あなたを信じきれていない」
「…え」
表情が固まった。
慎重に、慎重に話さなければならない。
「私は人を簡単には信用できないの。嫌な女でしょう?」
「…そんなこと」
「今日、謝罪してくれた時に一番最初に思ったことが『私を嵌めようとしているかもしれない』よ。どう思う?」
「…」
私は天野 舞の目をじっと見つめる。天野さんは目をそらさない。動揺はしているけど、後ろめたいだとか罪悪感だとかは感じられない、か。
「私の内面はグチャグチャでドロドロ。貴女はそんな私と友達になりたい?」
作られて嘘で固められた言葉なら、いらない。切り捨てる。それが私のやり方。
─── だけど返ってきたのは、完全に予想外の言葉だった。
「…なんだか、姫百合さんってバカなのかなぁ、って思ったぁ」
「え!?」
バカ…だと!?
「あ、違うのぉ。馬鹿にしてるとかじゃなくてぇ。なんて言うんだろぅ。」
「いや、完全に馬鹿にしてるわよね?」
「姫百合さんは自分のこと、嫌な女だと思う?」
…そんなの
「それ以外に何がある?」
私は。すっっっごく真面目に答えたのに。…一拍おいて、ケラケラと笑われてしまった。
「謙遜とかじゃなくて、本心からそう思ってそうなところがすごいなぁ。姫百合さん、本当に嫌な女は馬鹿正直に『信じきれない』とか言わないよぉ。…じゃあ、わたしは姫百合さんに少しでも信じてもらえるように頑張るねぇ」
「─── ええ。楽しみにしてるわ、天野さん。信じられる時まで、私たちは知り合いね」
謝罪は、言わない。弱みは、見せない。…いや、もう本当は信じかけちゃってるんだけど。これも演技って可能性も…なきにしもあらず…だから…?
「じゃあ、戻ろっかぁ」
「ええ。そうね」
漫画の天野 舞は捨てて天野さんを、見よう。
・・・・◇・・・・
「疲れた…」
ボフッと愛しのベッドちゃんに倒れこむ。
なんだかすごく長い1日だった。眠いよ。寝ちゃおうかな。
あ、髪乾かしてないや。勉強もしないと。朝で…いいかな。まだ…9時…だけど。おやすみなさ ───
「…?メッセージ?」
ケータイが鳴り、まどろみの中から引き起こされた。
今まさに寝ようとしたところなのになぁ。誰だろう。9時だし、そこまで非常識な時間じゃないけども…。
「…ハァ!?」
表示されている文字は。
『熊谷 信也です。姫百合さん、いま時間大丈夫?』
この、二文。だけど私を眠気から覚ますには十分な衝撃だった。
なぜ。なぜ。熊谷君が私の連絡先を知ってるんだ!?
本日もありがとうございました!
天野さんとの展開はわりと皆様の予想通りだったでしょうか?
分かりにくいところや、急展開すぎてついていけない、等ありましたらご指摘していただけると嬉しいです。