29.ヒロイン、勉強会…の前に
シリアスです。感じ方によっては鈴蘭が本当に嫌な女になってしまうかも。ですが次回挽回…できたらいいなぁ(-。-;
目の前にあるのは大好きな国語の教科書と、大嫌いで憎たらしい数学の教科書。
やりたいのは国語。やらなければいけないのは数学。
「…」
今私は究極の選択を迫られている。
「…国語か、数学か」
ポツリと呟いてみる。何も変わらない。
時計を確認するともう午後1時30分。待ち合わせ時間まであと30分しかない。
あまり迷ってる暇はないな。結局私は大きめのトートバックに国語と数学の勉強道具を詰め込んだ。
「お義父さん、ちょっと出かけてきます」
「テスト前じゃないのか?」
「うん、だからみんなで勉強会」
「そうか。気をつけるんだぞ。夕飯前には帰ってこいよ。連絡くれたら迎えに行ってもいいぞ」
「大丈夫だよ。行ってきます!」
思わず苦笑してしまう。雷兎の過保護はお義父さんの血だな。絶対に。
・・・・◇・・・・
勉強会は学校の図書室で行われることになった。進学校なだけあって図書の種類も豊富。その上図書室ならしゃべれないから勉強にうってつけという理由でここに決まった。日曜日だけれど自習用に図書室だけ開いてるんだよね。
待ち合わせ時間のきっちり10分前。中に入るとヒンヤリとした空気がじっとりした嫌な暑さで火照った体を冷やしてくれる。早く梅雨終わってくれないかなぁ。今日もこの後4時から雨が降る予定になってる。雨は嫌いじゃないけれどこう毎日毎日降られると嫌になる。
「誰か、いないかなぁ」
図書室内をグルグルまわってみんなを探す。
…見つけた。1人だけど。少し奥側の席に座っていたけれど、あまり人がいないから見つけやすい。
どうしよう、『鈴蘭』モードでいくか素の私でいくか…。
決めた。『鈴蘭』はツインテールの彼女がいる机に向かい、隣の席に腰掛ける。
「天野さん、早いわね。待ちました?」
「あ、姫百合さん。わたしは午前中から来てたから、大丈夫ぅ」
「そう。数学をやっているの?私、数学は苦手なの。教えてもらおうかしら」
「えぇ!姫百合さん学年4位だよねぇ?わたしが教えられることなんか無いよぉ」
「…でも本当に数学苦手だから」
4位ってところで地味にグサッときたぞ、天野さん。あいつら、今回こそ絶対ぬかす。目指せ、1位だ!
ていうか会話が途切れてしまった。なんか…そこまで親しくないからこの間は気まずい。
「…えっと」
「姫百合さん、ごめんなさい」
「え?」
あ、まばたきの回数、多くなってる。緊張してるのかな。手は唇に触れている。不安に思っている?でも瞳孔は開き気味。…私天野さんに嫌われてるはずなんだよなぁ。見られてるときに瞳孔が開いてると好意を持ってもらってるなんて多分嘘っぱちだ…。
ところで、何を謝っているのだろう?
「姫百合さん、王子のことが好きなのにぃ…今まで、わたしがベタベタしちゃってて、嫌だったよねぇ?」
「ん?」
「わたし、ずっと王子のことが好きだと思ってたんだけどぉ、違うみたいなんだよねぇ。なんというかぁ…アイドルに対して?憧れ?みたいな感情を勘違いしてったっていうかぁ」
「ちょと待ってくださる?天野さん」
「あ、もちろん今でも王子に憧れてるしぃ、『王子をお見守りしようの会』の会長も辞めるつもりはないよぉ?でも、わたしの好きな人は他にいるって気がついたというかぁ。茉里に、言われてぇ。ってそうじゃなくて!身勝手かもしれないけど、今までのことは反省してるし、これからは姫百合さんのこと、応援するぅ!だから…本当に、ごめんなさい。それで、もしよかったら…友達に、なってくれないかなぁ?」
「え!天野さん、好きな人いるの?って違う!私、熊谷君のこと友達としては好きだけど恋愛的な意味では好きじゃないよ!?」
「あれぇ?姫百合さん、ちょっと口調違う?」
天野さんの言葉でごちゃごちゃしていた脳が、一旦活動を停止する。
し ま っ た。
…最初に言わせてもらう。私は自分の性格がいいとは思っていない。
その証拠に ─── 私は天野さんの謝罪を受け入れていない。正しくは、100%信じていない、とでも言うべきか。
私の『鈴蘭』モードは、鎧。弱くてちっぽけな私が信用していない人とでも戦えるように創り上げた、鎧。
例えば、私が本当に熊谷君のことを恋愛的な意味で好きだったとする。そうすると今の謝罪が嘘だった場合、騙された私は熊谷君にベタベタと、それこそ前の天野さんと同じくらいベタベタしだすだろう。そして、誰かが言い出す。『ウザい』の、一言。そうすればイジメ一直線。小菊からも茉里ちゃんからも熊谷君からも距離が離れて孤立。天野さんは熊谷君と付き合いハッピーエンド。
そんな想像が、できてしまう。天野さんが打算的に考えて話したのかもと、疑ってしまう。それは、きっと私が嫌な女だから出てくる発想だ。でも。でも。
…無理だよ。信じきれない。一度でも向けられた敵意は、忘れられない。『友達』になって、裏切られたらきっと私は、今の私を呪う。それにまだ天野さんに対して『裏切られてもいい』とまでは、思えない。
そんな信じきれてない天野さんの前で、私は素の自分をだしてしまった。鎧を、外してしまった。覚悟も、天野さんに素の自分を見せる資格も無いくせに。
「ごめん。─── ごめんなさい。天野さん。少し取り乱していたわ。でも、天野さんが謝る必要はないの。だって私、熊谷君のこと恋愛的な意味では好きじゃないのだもの」
「えぇ?そうなのぉ!?ご、ごめんねぇ、勘違い!」
ごめん、本当にごめんね。天野さんを信じきれるときまで、『鈴蘭』モードで守らせて。
気まずい空気が流れ始めたとき。場違いな、押し殺したような笑い声が後ろから聞こえてきた。
「おい、お前ハッキリと恋愛対象外って言われたぞ」
「なんか、思ってたよりキツイなぁ。でも恋愛的な意味じゃなかったら好きだって言われてるとも…」
「マジか。前向きだな。あー、メッチャ笑った。姫百合さん、天野。会話、入り口まで聞こえてるぞ。声抑えた方がいい」
熊谷君と、飯島君。ああ、熊谷君をみてホッとするなんて私も変わったな。なんか、複雑そうな顔してるけど。
「あ、王子ぃ!待ってたよぉ」
「相変わらずオレは無視か。吉崎は?」
「茉里ちゃんはいつも時間ピッタリにくるから。小菊は ─── 」
「あ、陽野さんは途中で合流したんだけどコンビニ寄るから先行ってて、って言われた。もうすぐくるんじゃないかなぁ?」
うわっ。確かにスマホを見ると遅れるという連絡が入ってる。しかも待ち合わせ時間まであと5分くらいあるから茉里ちゃんもまだだろう。…さっきから5分しか経ってないのか。
…2人と話したかったのになぁ。
「ここじゃ分かりにくくねぇか?もっと入り口付近に行こうぜ」
「あ、ちょっと待ってぇ!勉強道具が…」
天野さんが急いで数学の問題集やらノートやらを片付けてる間にも飯島君は歩いて行ってしまう。おーい、ちょっと待ってやってくれ。
天野さんと熊谷君と急いであとを追う。
「姫百合さん、顔色悪いよ?」
「そんなこと、ないと思うけど」
「いや、思いっきり青ざめてるから。無理しないでね?」
「あ…りがとう」
素直で、気配りができて、人気者で。一方私はヒネクレてて、みんなに迷惑かけて。
こんな私は熊谷君の友人としてふさわしくない。…そう、思ってしまった。
閲覧、ありがとうございます!
どうでしたか…?鈴蘭、考えすぎですよね。ほのぼのが書きたかったのに、作者的にもどうしてこうなった感がハンパないです^^;
次回はほのぼの&鈴蘭の反省、挽回の予定です。