21.閑話 : 思い出のあの子と今の彼女(信也 視点)
読み飛ばしていただいても支障のない話です。
「良かった…。夏休みも頑張った甲斐があったよ」
斜め前で机に突っ伏しているのは姫百合さん。通知表に10が増えたらしい。
今、僕らは今年度最後ということでファーストフード店に集まりおしゃべりを楽しんでいる。…うん。男、僕一人だけどね。正直女子と話すのは苦手なんだけど、この3人と話すのは楽だ。みんな必要以上にベタベタとくっついてこないし、何よりこの気心知れたような空気が好き。
「小菊ちゃん、通知表はどうでしたか?」
「ん?一学期通りかなぁ。あ、でも9が一個減ってた」
「どうせ9が10に変わってたんでしょう?もう!小菊ちゃんにはあと一歩とどかないんですよ!熊谷君はどうでしたか?」
「僕も一学期通りかなぁ」
「…はあ。嫌になりますねぇ。鈴ちゃん」
よ、吉崎さん!そこで姫百合さんに振るの⁉︎きっと…
「…このハイスペックどもが」
…ほら。声に恨みがこもってるよ。結構根に持つタイプだし恨まれたくないんだけど…。
「あのさ、茉里ちゃん?」
「何ですか?」
「学年3位が何言ってんだー!」
「ひぇー!?」
ほっぺが痛そうなくらいに伸ばされている。…僕や陽野さんに助けを求められても自業自得だからね助けられないよ?
「あと学年1位、2位!涼しい顔して言ってるけどあんたら異常ですから!」
そんなこと言われても…。それに、ここにいる4人の差はほとんどないんだけどなぁ。
…あれ?いつの間にか姫百合さんが百面相をしていた。喜んで…怒ってる?あ、なんか脱力した。面白いなぁ。
「…ごめん。冬休み、遊ぼう」
「「え…」」
この3人は声がハモるのが多い。中学で仲良くなったって言ってたけど本当か疑いたくなるくらいには仲がいいから少し羨ましい。
「熊谷君、一緒に行く?」
「え?いいの?」
さすがにそこまでお邪魔しちゃ悪いかな…なんて考えてたし、誘われたのが意外すぎて聞き返してしまう。しかも姫百合さんから誘ってくれるなんて明日は台風!?
それでも本当は行きたかったので誘ってくれるのは嬉しい。
「いいよ?じゃあ初詣でも、みんなで行こうか。でも…」
姫百合さんがニヤリと笑う。それは黒い笑みで、美少女がすると迫力があった。
「天野さんも一緒に行こうね。茉里ちゃん、天野さんに言っておいてくれる?」
「え!? 舞に?」
体が勝手に硬直するのが分かる。幼なじみらしい吉崎さんがいるのに失礼だとは思うけど…天野さんは女子の中で一番と言っていいほど苦手かもしれない。王子呼びを広めたのも天野さんだし(今ではすっかり学校で定着している)、あまりにもベタベタとくっついてくるので、まあ…少し苦手というわけだ。
だけどこのメンバーでの初詣は楽しそうだし、この機会を逃したらもう一緒に行けないかもしれない。だからニコッ、といい笑顔を形作る。今度は姫百合さんが硬直する番だ。
「天野さんも一緒かぁ。楽しみだね?初詣。」
「…え?」
顔がたちまち絶望で染まっていく。うまくいくと思ってたんだろうなぁ。ゴメンね?姫百合さん。
…でもそこまで拒否されるとちょと悲しいからいつもの仕返しって事で。
・・・・◇・・・・
冬休みに入り、数日経ったある日。同じクラスの友人、飯島 明人から誘われ、ゲームセンターに来ていた。明人は数少ない友人で、周りからの評価は気にしないある意味マイペースな性格のせいかクラスの男子達と壁がある僕とも仲良くしてくれてる。春に知り合い、今では気の置けない関係にまでなった。
「やっぱりあの『高嶺の花』って話す相手を自分にふさわしいかどうかで選んだりすんの?」
リズムに合わせて太鼓をたたく人気ゲームをしながらそう訊いてくる。難易度はMAXの鬼。変なところで器用なんだよなぁ。
ていうか何それ。誰の事?
「…明人の中で姫百合さんのイメージってどんななの?」
「だってさぁ。女子ですら『姫』と話してるの陽野さんと吉崎さんだけだぜ?あ、あと天野もか。男子とは基本的に話さないし、例外はお前だけ。陽野さんも吉崎さんもお前も学校の頂点グループだろ?」
学校の頂点って聞き捨てならない。別に僕たちは頂点グループとやらを作ったつもりはないんだけど。頂点ってなんか学校のボスっぽい感じがして嫌だな…。
それに…
「なんでそれでふさわしいかどうかで選んでるって考えになるんだよ…。姫百合さんは明人の思ってるような高嶺の花じゃないよ。今度会ってみる?」
「マジでか。じゃあ今度機会があったらなー」
あ、でも男嫌いなんだっけ?…でも僕とは普通に話すくらいならいつもしてるし、明人も大丈夫だろう。
…明人、フルコンボってすごいというか怖いんだけど。
・・・・◇・・・・
「うわっ!姫百合さん、大丈夫?」
1月1日。みんなで初詣に行く日。遊園地のときは一番最後になってしまったから、今回は早めに家を出てきた。
待ち合わせ場所の公園に行くとすでに姫百合さんが来ていた…のはいいんだけど、ブランコから落ちそうになっている。な、何がどうしてそうなったの!?
取り敢えず背中を支えてちゃんと座らせる。…なんか昔にもこんな事あったな。
「…ありがとうございます、熊谷君」
「うん、何で敬語?」
距離を感じる。悲しいんだけど…。
「熊谷君、今日来るの早くない?珍しい」
珍しい?待ち合わせして遊びに行ったのは遊園地の時しかないはずだけど。ああ、でもこのセリフ、懐かしい。たまに早く行くと、必ずそう言われてた。
「遊園地の時は最後に来ちゃったから今度は早めに来なきゃって思って。姫百合さんも早いね」
「うん。気分的に」
…嘘だ。目が右上に流れ、左手で耳を触っている。思わず苦笑してしまう。この表情と仕草は昔見たことある。確か、何かをやらかしてしまい半ばやけに自分の失態を僕に話してくれた時の顔。まあその子の場合は、だけど。夜の公園で何度か会った女の子。元気かな?
「…姫百合さん、大丈夫?遠い目になってる」
「あ、うん。大丈夫。…でも大丈夫じゃないのはそこで覗き見してる2人かな?」
覗き見?
疑問に思って姫百合さんを見ると、人一人隠れられるか隠れられないかくらいの細さの木に歩いて行く。
あ…。
「え、陽野さん、吉崎さん、いつから来てたの?」
「えーと…」
「ついさっき…ですかね?」
陽野さんは目を泳がせ、視線を合わせないようにしてるし吉崎さんは手をもじもじさせて軽くうつむき、しどろもどろになりながらも弁解をしている。いわく、『鈴ちゃんは男の子に慣れた方がいいと思って…』や『甘い話を聞いて砂糖を吐きたいじゃないですか。わたし達は春が欲しいんですよ、春が』など。
…最後の方は弁解にすらなっていなかった。
・・・・◇・・・・
「ねえ、鈴ちゃん。みんなで甘酒飲みませんか?美味しいですよ?」
「屋台もたくさんあるけど…人すごいね」
ちょっとゲンナリとしてしまう。
「熊谷って人酔いとかするの?」
「人酔いはしないんだけど、こういうところだと視線が痛いんだよね」
「…熊谷君、それはイケメンの特権だよ?」
巫女さんから甘酒をもらう。ほんのり甘くて美味しい。冷えていた体がポカポカしていくのが分かる。
「あ、甘酒にジャムって美味しいんですよ!冷やして飲むのがオススメです」
「え、ジャム?…茉里、なんでそんな事試したの?」
「…成り行きで?」
「…茉里ちゃん、それ美味しかったから良かったけどもし不味かったらもったいない事になってたからね?」
「で、でもいちごジャムとか美味しそう!僕も試してみようかなぁ」
「ぜひ作ってみてください!あとあと、ポテトサラダの隠し味に練乳を入れると優しい味になって美味しいです」
「…それでか。お菓子みたいに甘かったのは」
「…お母さんのは美味しいんですけどね。どこで間違えたんでしょう?」
「確実に分量だよね」
「…ポテトサラダなのに甘いの?」
「熊谷君。茉里ちゃんの作った料理には注意してね」
「鈴ちゃん、ひどい!」
…ほんの少しだけ吉崎さんの料理を食べてみたいと思う自分がいた。
本日もありがとうございました!
次回から鈴蘭達が中2になります。




