18.ヒロイン、1年の終わり
『『3,2,1…』』
『『「ハッピーニューイヤー!」』』
みんなにとっては例年通りの年越し。
でも私にとっては…前世を思い出してから初めての1年が無事終わったことを意味する。長いようで短かった。
前の、前世の家族や親友は元気かな?…いや、そもそもこの世界と前世の世界は平行して進んでるのか、前世よりも過去か未来かすらも分からない。
漫画の世界なんてファンタジーすぎて未だに実感わかないしね。
『鈴蘭?』
『鈴ちゃん?』
「…あ、ごめん!何?」
現在、自分の部屋で小菊と茉里ちゃんとテレビ電話中。年越しの瞬間に会うのは難しくてもテレビ電話くらいなら出来るよね、ってことで。
ぼーっとしてるなんて失礼だね。
『わたし、家族にも挨拶してくるので抜けていいですか?』
「あ、そうだね。私も言ってくる。小菊は?」
『うーん…。そうね。じゃあ一回終わりにしよっか。明日…っていうか今日の10時に神社近くの公園に集合だからね』
「了解。…熊谷君には知らせた?」
『おお!鈴ちゃん熊谷君のこと気になるんですか〜?変わりましたね〜』
「そんなんじゃない!二人ともニヤニヤすんな!」
『ごめんごめん。熊谷には知らせといたよ。天野さんには結局知らせてないけど大丈夫?』
「ん。ありがと。うーん。…なんか熊谷君にきかなかったし、好きにして」
『御愁傷様です。じゃあ抜けますね。また後で!』
『うん、あたしも〜。じゃあね』
「後でね」
少し熱くなったスマホを閉じる。
─── 春、前世を思い出して。この世界が読んでいた漫画みたいだと思って、絶望して。漫画みたいな胸がキュンキュンするような展開にはならない!なんて思ったんだけど結局、熊谷君と知り合いになっちゃったな。
でも同じく漫画に登場したキャラでも、小菊と茉里ちゃんと仲良くなれたのは嬉しい。小菊や茉里ちゃんと仲良くなれたのは天野さんのおかげだったりするからお礼言わないとなのかも。…小菊と友達になった日にこの世界がネットで読めた『二次創作』の展開も混じってるってことに気づいたときはさすがに混乱した。中学生時代のことは原作に詳しく書かれてないから比較しようがないけど、もしかしたら何度かネット小説と同じ展開になったりしてたのかもしれない。それでもここは現実だけどね。
─── 夏、毎日のように集まっては勉強会をした。特に約束をしなくても集まって、そういう当たり前になったことがすごく嬉しかった。
─── 秋、学園祭があった。みんなでコスプレしたり接客したり、ナンパしてくるお客を追い払ったり。意外に接客も悪く無かったかも。…ただ熊谷君に猫かぶりバレちゃったのは恥ずかしかった。黒歴史です。穴があったら入りたいレベルだったよ。引かれなくてよかった。
小菊の誕生日。いまだになんで誕生日が嫌いだったのかとか家族となにか問題があるのかとか聞けてないけど、いつか聞けるかな。
─── 小菊、茉里ちゃん、…熊谷君。仲良くなればなるほど失うのが怖くなっていく。
・・・・◇・・・・
「…ここで寝ないでくださいよ、姉さん」
「…んにゃ?」
あれ?ここ雷兎の部屋?なんで?
「私どうしたっけ?今何時?」
「午前3時。イキナリ入ってきた。新年の挨拶!とか言って眠りこけましたよ。」
「…え?」
「酒でも飲んだのかと思いました」
「そんなわけないでしょうが」
えっと?テレビ電話を修了した後、リビングに行ったらお義父さんとお母さんがいたから挨拶して。
雷兎の部屋に行った…
「雷兎、勉強中だったよね?」
「まあ、そうですね」
うわっ!邪魔以外の何者でもない。なんかこっち見ないでずっと勉強してるしお怒りかな…?
「えっと、ごめん…。取り敢えず部屋戻るね。あんまり根を詰めすぎないように!」
怒った雷兎は本当に怖い。触らぬ神に祟りなし。…すみませんでした。
そそくさと退散する。
「姉さんもあんま無理しないでくださいね」
雷兎のなにかを呟いた声は私に届く前に消え去ってしまった。
さて、もう一眠りするかね。
・・・・◇・・・・
「ふぁ〜」
あくびをかみ殺す。
眠い。とてつもなく眠い。しかも早く着きすぎた。9時30分って。30分前だよ。いつも早い小菊ですら来てないし。
キコキコと、久しぶりに乗ったブランコを少し揺らしながら待つ。眠い。
こっくり、こっくりと舟を漕ぐ。少しくらい寝ちゃっても大丈夫かな?寒いけど…。
「わわっ!」
バランスを崩してしまい、後ろに倒れそうになる。ブランコのチェーンを掴んで止まる。危なっ!
「うわっ!姫百合さん、大丈夫?」
体制を戻そうと足をバタバタさせて奮闘してると後ろから来た人が背中を支えてくれた。…ふぅ。やっと座り直せたね。
「…ありがとうございます、熊谷君」
「うん、何で敬語?」
近い。私達の距離わずか30cm。4月の頃の私ならしてしまいそうな距離だけど今は辛うじて大丈夫。辛うじてね。そして他の男子に私を近づけたらダメ。絶対に。
さり気なくブランコから立ち上がり、1mくらい距離をとったところで会話再開。この状況で冷静でいるとか、私、成長したね!(?)
「熊谷君、今日来るの早くない?珍しい」
漫画でもデート編では
信也:「ごめん、待った?」
鈴蘭:「ううん、今来たところ!」
とかベタなやりとりから始まるっていうのに。ええ、ベッタベタですがこれでいいのですよ。多くの読者はキュンときたのですから。
「遊園地の時は最後に来ちゃったから今度は早めに来なきゃって思って。姫百合さんも早いね」
「うん。気分的に」
こうして見るとやっぱりカッコいいよね。漫画から飛び出してきてるよ。でもカラフルなこの世界で懐かしい黒髪は落ち着きます。
ジーンズにラフなグレーのカーディガンを羽織ったシンプルな姿でも絵になる。
…むしろ関わらないで誰か私じゃない人とのラブストーリーを観賞していたいです。切実に。
そして私が早く来たのは…先に本屋へ行こうと思って早く出たら近くの本屋はどこも三が日で閉まっていて、家にもカッコ悪くて帰れなかったからなんて言えない…。
「…姫百合さん、大丈夫?遠い目になってる」
「あ、うん。大丈夫。…でも大丈夫じゃないのはそこで覗き見してる2人かな?」
隠れてるつもりだったんだろうけどその細い木に2人はバレバレです。熊谷君が来たあたりから小菊が、私が熊谷君の私服観察してたあたりから茉里ちゃんが来たね。
挙動不審な動きをする2人を捕まえて熊谷君の前に出す。
「え、陽野さん、吉崎さん、いつから来てたの?」
「えーと…」
「ついさっき…ですかね?」
熊谷君は目をまん丸にして驚いてる。あ、やっぱり気がついてなかったんだ。
小菊、茉里ちゃん。私達の会話なんて誰得なの?
・・・・◇・・・・
「人すっごいね〜、熊谷君」
「え!?えっと…うん?」
「いや、本当にすみませんでした鈴蘭様」
「もうしません!申し訳ございませんでした鈴様!」
「怒ってないよ?」
ただ、私の男嫌いが筋金入りなことを知っといてほしい。この1年でだいぶ慣れてきた熊谷君だったから良かったものの他の男子だったら良くて号泣、悪くて気絶です。
そんなことを考えながら茉里ちゃんたちを見たら…
「「うう…」」
ま、まさかの涙目!?
「あ、いや…。…もういいよ。ただ二度としないでね?」
「「ヤッター!」」
ん?目、カラカラに乾いてる?
うん、分かるよ熊谷君。女子って怖いよね。目は口ほどに物を言ってます。
「ホラ、やっと順番きたよ。寒いし早く参拝しよ?」
お賽銭を納めて、鈴を1回だけ鳴らす。二礼二拍手一礼。
─── 神様。きっといますよね。転生があるくらいだから。取り敢えず、気休め程度で願います。
まず、雷兎がうちの学校に合格しますように。家族のみんなが健康に過ごせますように。…この幸せな日々ができるだけ続きますように。
ゆっくりと、目を開ける。みんなはもう、願い終わってた。
よし。
「ねえ、鈴ちゃん。みんなで甘酒飲みませんか?美味しいですよ?」
「屋台もたくさんあるけど…人すごいね」
「熊谷って人酔いとかするの?」
「人酔いはしないんだけど、こういうところだと視線が痛いんだよね」
「…熊谷君、それはイケメンの特権だよ?」
その視線は今私たちが受けてる、今にもナイフで刺されそうな視線じゃないでしょうが。贅沢ものめ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
やっぱり、これはわたしが書いたストーリーだよね。
わたしが書いたストーリーの中にはハッピーエンドもあるけど、バッドエンドやメリーバッドエンドもいっぱい書いた。メリーバッドエンドは、それこそ熊谷 信也がヤンデレ化して監禁したりしちゃう話とか。今思えばあんな文章書くんじゃなかった、って思うけど今更すぎる。
わたしはこの世界が好き。この、漫画に似ているようで似てない世界が。だから、全力でバッドエンド回避に努めたいと思う。
本日もありがとうございました!
更新、遅くなってしまい申し訳ございませんでしたorz
糖分が足りないですかね?鈴蘭はこれでいいと思うのですが作者が甘々の小説も書きたいなぁと思ったり( ´ ▽ ` )