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16.閑話の中の閑話レベルの話

入学式の日。鈴蘭様が倒れて、王子が受け止めているその瞬間。遠目に見たその姿は、『綺麗な人だな』くらいの感想だった。それが今や…


「おはよう、ミーちゃん!…いやぁ、今日も我らが鈴蘭様は美しいですな!眼福、眼福!」

「おはよ、琴美(ことみ)。…朝からそのおじさん発言はやめた方がいいわよ。それと、陽野さん達に抱きつかれる鈴蘭様を見たいからってタイミング見計らって教室に入るのも。鈴蘭様が美しいのは分かるけど」


『鈴蘭様とできるだけお近づきになろうの会』、会員番号No.001。

会長こと新田(にった) 琴美に大変身です!鈴蘭様、素敵すぎ!

あ、あたしは百合じゃないよ。ノーマルです。ただ鈴蘭様から日々の活力を頂いてるだけなのです。


いつも予鈴10分前に学校にくる鈴蘭様。教室に入ると、必ずドア付近にいる陽野さんと吉崎さんに抱きつかれている。最初のうちの戸惑う顔も良かったけど、近頃慣れてきて抱き返している姿もまた素晴らしい。

鼻血ものです。



・・・・◇・・・・



「…美。琴美」

「…ん?何、ミーちゃん」

「何ってあんたねぇ…」


今はお昼ご飯を食べ終わり、丁度眠くなってくる時間帯の5時間目。あたしは爆睡してました。

そんな時に前の席のあたしの友達、ミーちゃんに揺すり起こされた。一見授業中に寝ている不真面目なあたしを起こしている優等生のように見えるだろう。だけどこの子はそんな優等生ではない。

今あたしを起こした理由も…


「普段真面目な鈴蘭様が学活の時間とはいえ、こくりこくりと船を漕いで、夢と(うつつ)の間を彷徨ってる!このレアな光景をたかが居眠りで見逃す気!?」

「…おおう!それはレア中のレア!同じクラスの特権!」


一気に頭が覚醒した!斜め前の席の、そのまた斜め前の席を見る。

本当だ!吉崎さんが話しかけてもまだウトウトしてる。可愛すぎる〜!普段の完璧な鈴蘭様とのギャップ萌えだ!


「目の保養ね…」

「でもあたしらが作った会は目の保養で満足する気はないからね!目指せ、知り合い!」

「友人じゃなく知り合いなのが変なトコでひよる琴美っぽい。」

「失礼な!」


あ、レア鈴蘭様に興奮して忘れてたけど、このミーちゃんこと渡辺(わたなべ) 美結(みゆ)は会員番号No.002。

つまりは『鈴蘭様(中略)の会』副会長です。


「じゃあ次に、接客やりたい人いますか?」


真面目な委員長の声でミーちゃんとの会話が中断される。接客はないな…。疲れるし。


「はーい!吉崎、陽野、姫百合。接客を希望します」


なぬ!?

鈴蘭様は目立つことが嫌いなので接客なんてやらないと思ってた。だが。

鈴蘭様が接客ならば、あたし達『鈴蘭様(中略)の会』は当然接客でしょう!


「「はい!新田、渡辺も接客を希望します」」


前の席のミーちゃんと顔を見合わせ、ニヤッと笑いあった。




・・・・◇・・・・



「やっぱり鈴ら…姫百合さんは雪女がいいと思います!」

「琴美に賛成。やっぱり姫百合さんは白い着物を着ることでその白い肌と紫色の瞳が際立ちます!」

「そ、そうかしら?じゃあ雪女にしようかな?」


イヨッッッシャアァァ!鈴蘭様の雪女!

押しに押した甲斐があった!『鈴蘭様(中略)の会』のみんなに教えてあげよう。幸せすぎて死にそうです。


あたし達が接客に決まったあの日から数日。

設けられた話し合いの時間に作戦会議…というかどんな衣装を着るかをみんなで話していた。

そして鈴蘭様はなんと!雪女の衣装を着てくれるそうなのです。定番の魔女と迷ったけど、雪女も絶対似合うと思う。

…やっぱり魔女を押したら良かったかな?いや、でも雪女もすてがたいよね。う〜〜ん。


あ。あたしとミーちゃんはゾンビです。自分から進んでゾンビになりましたが何か?


♢ ♢ ♢


その日の放課後。ミーちゃんと一緒に帰っていると、視界の端に王子こと熊谷が入り込んできた。

ちなみにあたしとミーちゃんと王子は顔見知り。なんと幼稚園が一緒だったんだよね。…幼稚園以来全然話してないけど、顔見知りっていうよね?


─── 余談だが、いつも通ってるこの学校にはあたしが作ったものとはまた別の会が2つほどある。

1つ目は『王子をお見守りしようの会』。あたしはこの会には入っていない。

そして2つ目は『姫と王子を応援しようの会』。これには会員番号No.042として入っている。ちょっと出遅れちゃったんだよね。

姫とは鈴蘭様のこと。たまにそうやって呼ぶ人もいる。そしてこの会の活動は主に王子と鈴蘭様が恋人になる手助けをすること。あたしは最初、この会に反対していた。本人がそう望んだならともかく、あたし達だけで盛り上がって鈴蘭様にご不快な思いをして欲しくなかったから。だけど。

些細なこと。本当に些細なことだが、鈴蘭様は男子とはあまり話すとき表情が硬くなっているように見える。だけど、王子と話すときは硬さが取れてありのままの鈴蘭様でいるような気がしたのだ。

まあ、長くなってしまったがつまり…


(『姫と王子を応援しようの会』会員として、とるべき行動は1つ!)

あたしは王子めがけて走り出す。50メートルもないけどね。


「王子!」

「? なあに?」

「ちょっと、琴美⁉︎」


あ、ごめんミーちゃん。ミーちゃんの許可も取らずに話しかけにきちゃった。でもその黒い瞳に『あんたの意図は汲み取った』と書いてある。そう。これからあたしは鈴蘭様の魅力について語るのだよ。放っておいても王子の中で鈴蘭様の好感度は上がるだろうけどちょっとした手助けとして。


「王子。王子は鈴ら…姫百合さんと仲がいいですよね。姫百合さんのこと、教えてくれませんか?」


不自然さを無くそうとして選んだ出だしだったんだけど唐突すぎたかな?


「え⁉︎姫百合さん?」


困惑してるな。無理もない。やはり出だしを間違えた。


「私達、姫百合さんと仲が良くなりたいんですけど。姫百合さんって完璧すぎて、ちょっと話しかけづらくて。」


ミーちゃん、ナイス!


「ああ、なるほど!…でも、姫百合さんって案外気さくで面白くて優しい子だからどんどん話しかけにいった方がいいよ」

「…気さくで、優しい?」



あたしは、鈴蘭様が好きになったキッカケを思い出す。


─── 『新田さんの字ってキレイですね』

鈴蘭様が初めてあたしに話しかけてくれたときの言葉。なんとその時あたしと鈴蘭様は隣の席だった。

4月の頃、まだミーちゃんと仲良くなる前で孤立気味だったあたしには、授業中のそのコソッとした短い会話でも嬉しかった。あたしに対しての優しい微笑みが嬉しかった。

それからもたまにかけてくれる声と微笑みであたしは彼女の大ファンになり、『鈴蘭様とできるだけお近づきになろうの会』を作った。あたしにしては考えられないほど大胆に、悪目立ちしてしまうくらいチラシを配ったりしてたからか会員はすぐに集まり、中でもミーちゃんの鈴蘭様への熱意はすごく、あたしと彼女が打ち解けるのに時間はかからなかった。

今のあたしがいるのは鈴蘭様のおかげだ。



「…確かに、鈴蘭様は思ってたより気さくで…とっても優しい方です」

「…鈴蘭様?」


王子が首をコテン、とかしげる。それか!その動作と整った顔が女子を惹きつけるのか!


「なんでもないです、王子。それより、王子の知らない姫百合さんを話しますね。」


ミーちゃん、フォローありがとう!

ミーちゃんと仲良くなれたように、鈴蘭様ともお近づきになれるかな?

…『鈴蘭様とできるだけお近づきになろうの会』の目標を『目指せ、友人』にしようかな。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「天野さん。」

「何よぉ〜。今、忙しいのぉ!」

「へぇ。分かった。じゃあワザワザ王子に嫌われるための努力、頑張ってね。」

「え!?なんで嫌われるのぉ?」

「当たり前じゃない。自分の仕事をサボって遊び歩いて男にベタベタしてる女、嫌われるわよ」


姫百合さんは周りの人には聞かれたくないのか、天野さんに耳打ちしてる。僕には聞こえてしまってるけどいいのかな?


「うう。…交代しに、行ってきます。」

「行ってらっしゃい」


…カッコイイ。

ずっと僕にひっついて離れなかった天野さんを撃退してくれたのは姫百合さんだった。

いつもの姫百合さんとは雰囲気が違い、ドキドキする。


「ち、違うの!い、今のはちょっと…えっと〜」

「カッコいい!なんだか、ちょっとだけみんなの気持ちが分かった!さすがだね!姫百合さん!」

「ハア?」


なぜだか姫百合さんは慌ててたけど、僕はみんなが姫百合さんのことを『高嶺の花』だとか『姫』だとか呼ぶ意味がやっとわかった気がする。多分、姫百合さんはいつもあの『高嶺の花』を演じているんだ。

9月の頃の会話を思い出す。


─── 姫百合さんって完璧すぎて、ちょっと話しかけづらくて。


みんな、そう思ってるのかな?でも本当の姫百合さんは、気さくで優しくて面白くて ─── 可愛くて。

みんなに知ってもらいたいのに、僕だけが知っていたい、とも思う。

この気持ちは、何なのだろうか。


本日もありがとうございます!

琴美とミーちゃんはモブキャラですが、結構キャラが濃くなりました(^^;;

最後の最後は信也視点(ヒーロー視点)です。分かりにくかったすみませんm(_ _)m

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