12.ヒロイン、みんなで遊園地
「りーちゃん…?」
「杏梨!?」
公園には2人の少女。
「ごめん、気づけなくて…。本当にごめん!」
そう言って走りだして行く。
「杏梨、待って!車…!」
「え…」
─── 目の前には真っ赤に染まっている少女と、何かを叫びながら泣き崩れている少女。
(待って…。あれが ─── なら…。)
わ た し は だ れ な の ?
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ジリリリリリ!
「ん…」
目覚まし、うるさい!まだ6時だよ?
こんな時間に設定したのは誰!?ゴールデンウィークなのに二度寝しないなんて間違ってる。
─── それにしても汗かいてるなあ。何かの夢を見ていた気がするんだけど、忘れちゃった。
ピロリン♪
メール…。重い腰を上げてケータイを見に行く。
『from:小菊
おはよっ! 起きてたか〜?
今日7時に学校の前のバス停集合だからね!もちろん熊谷も。
遅れるなよ〜』
ぐ…。そうでしたね、今日は5月5日でしたね。遊園地をみんなで行く日だったよ。
嫌だな。熊谷君(男子)と一緒に遊ぶなんて、私にはまだ早い。もしも熊谷君(男子)に触るなんて事になったらトラウマ全開ですよ。
…うん。お腹痛くなってきた!これはダメだ、遊園地なんて…
ピロリン♪
またメール?小菊かな…
『from:茉里
おはようございます!起きていましたか?
今日は絶好の遊園地日和ですね!熊谷君なんかはしゃいでそうです。
そうそう、鈴ちゃん。お腹が痛くなった〜、とか言ってドタキャンはダメですよ?わたしも小菊ちゃんも楽しみにしてたんですから。
今日は楽しみましょうね!』
…。なんてタイミング&内容なの!茉里ちゃん!
メールの向こう側の茉里ちゃんが浮かべてる黒い笑顔が見えるよ!これは怖い。
─── この後2人に何事も無かったかのように返信して待ち合わせ場所に行きました。はい。
・・・・◇・・・・
「小菊!早いね〜、待った?」
「あたしも今来たところ!鈴蘭こそ早いよ。まだ15分前だし。」
手を振りながら小菊に近づく。相変わらず早いなあ。
「今日は乗り物、ぜんぶ制覇が目標だから!初めてみんなで出かけるんだから気合い入れるよ!」
初めて?うん、そっか。初めてだよね。
燃えてるね〜、小菊。
「すみません、待たせちゃいましたか?」
「大丈夫だよ、まだ5分前だし。」
「茉里!今日は乗り物全制覇が目標だから!」
「燃えてますね〜、小菊ちゃん。」
後は熊谷君だけか。ドタキャンだったりして…!?
「ごめんね、遅れちゃった!」
時間ちょうどに来た。来ちゃったよ。
─── 斯くして、全員が揃ったのだった。
・・・・◇・・・・
つ、着いた!
「み、みんな!遊園地ってこんなキラキラしてるっけ?」
「え、何。鈴蘭。どうしたの?」
遊園地なんて前世ぶりかもしれない。いや、正確にはお父さんが生きてる時に行ってたんだろうけど。小さい頃だったから忘れてた!
期待が膨らむ。私だって今日を楽しみにしていなかったわけではないのだ。
大勢の友達と遊ぶのなんて初めてだから。今世では勿論のこと、前世を含めても…うん。察してください。
「おお〜!姫百合さん、まずどこ行きたい?」
隣を見ると子犬化した熊谷君がいた。やっぱりそうなるよね!テンション上がるよね!
「おーい、子犬2人。とりあえず入場しちゃおう!」
「楽しみですねぇ」
え?私も子犬みたいに見えた?結構、恥ずかしい…
○ ○ ○
「「キャー‼︎」」
私と小菊の悲鳴が重なる。ただいまジェットコースター中。
「あー、楽しかった!ね、鈴蘭!もう一回いかない?」
「いいね!あ、みんなはどう?」
ジェットコースターって前世ではそんなに好きじゃ無かったけど、今はすごい楽しい!
みんなと乗ってるからかな?
「さ、さすがにジェットコースター3連続はないですよ!どんだけ元気なんですか!?」
「よ、吉崎さんに同感…。あ、ほら!シューティングゲームみたいなのあるよ。お化け屋敷とかもあるし!」
「もー、情けないな!じやあ、シューティングゲーム行こう!」
小菊、2人の反応が普通だと思う…
○ ○ ○
「あ!マスコットキャラクターのハッピー君がいますよ。可愛い!」
茉里ちゃんがハッピー君に抱きつきに行ってる。…でもあのキャラクターって…
「…結構、気持ち悪くない?」
「…確かに」
「吉崎さんって面白い子だね!」
後で茉里ちゃんにはハッピー君ストラップをプレゼントしよう。喜んでくれるかな?
○ ○ ○
「あ!ラッキー君だ。可愛い〜。モフモフしてるよ!」
今度は熊谷君がキャラクターに抱きつきに行ってる。今度は子犬のキャラクターで…
「子犬が2匹いるみたい…」
思わずつぶやいてしまった。
見てるだけならいいんだけどな。関わるとなるとアレだけど。
ボーと見ていると小菊と茉里ちゃんがニヤニヤと見てきた。
○ ○ ○
「じゃあ、今度はティーカップに乗ろう!ガンガン回すよ!」
「いいですねぇ。わたし、ティーカップ大好きです!」
え…。ティーカップかあ。私、酔っちゃうんだよな。
「私は酔っちゃうから見てるね。」
「え、そうなんですか?じゃあやめ…」
「だったら姫百合さん、僕と待ってよ〜?あんまり得意じゃないんだ。」
「え、待って熊谷君!行ってき…」
「茉里、行くぜ!」
「おうともよ!熊谷君、鈴ちゃんをよろしくお願いしますね!では、行ってきます!」
「ふ、二人とも待って…」
は、速い!小菊はともかく茉里ちゃん、君あんま足速くなかったよね!?
「姫百合さん、僕達はベンチで待ってようか。」
「…うん」
気まずい!気まずいよ〜!
「…姫百合さん。なんでそんなに遠いの?」
「これでギリギリだから。熊谷君は気にしないで」
ベンチの両端に座る。でも本当にこれが限界。これ以上近づくと会話どころじゃない。
「姫百合さん、僕のことは名前で呼んで?なんかよそよそしいよ〜」
「無理です。熊谷君は女子の恐ろしさを知らないんですか?名前なんかで呼んだ日にはもう…」
恐ろしすぎる。前世の二の舞だ。それだけは絶対に避けなければいけない。怖い。
─── 私は熊谷君が優しいのを知っている。あの先輩とは違うのも分かってる。だけど…
「おお!お姉さん綺麗だね。名前なんて言うの?…なんか顔青ざめてない?ちょっとコッチ来なよ。」
「本当だ。大丈夫っすか?」
え!ナ、ナンパ?少女漫画かよ!いや、少女漫画の世界だったよ!
っじゃなくて!なんか茶髪でピアスとかアクセジャラジャラだし、いかにもチャラ男そうな2人。
ひ、1人じゃないですよ。熊谷君がいますよ!
「あ、あの。私、友達と一緒にいるので…」
「え、いなくね?とりあえず医務室…」
手首を掴まれてしまった。身体が震えてしまう。
あの先輩と同じくらいの背。条件反射で前世を思い出す。
(ヤダ…。やだヤダやだヤダやだヤダ!!)
吐き気までしてきた。もう嫌だ…。なんで前世なんて思い出しちゃったの…
「ごめんなさい。その子、僕と一緒に来てて。乗り物酔いしたらしいので休ませてたんです。手を放してやってくれませんか?」
「え?そうなんだ。いや〜乗り物酔だったんだね。スッゴイ顔色悪いから、安静にね〜」
「すみません、お騒がせしちゃって。じゃ、オレらはもう行きますね〜」
そう言ってチャラ男さんはすぐに手を離してくれた。…よ、良かった。
ていうか、さっき『医務室』とか言ってたし。ナンパなんかじゃなくてただ心配してくれただけだったんだね。謝りそびれちゃった…
心の中で謝っておこう。ごめんなさい。
(ああ。自意識過剰だったな…。恥ずかしい。)
「姫百合さん?」
ひどい勘違いだ。自己嫌悪に陥ってしまう。
「姫百合さん…?」
やっぱり男嫌いは克服したい。このままでは、みんなに迷惑がかかりまくってしまう。
「姫百合さん!」
「…うぇ!?」
変な声が出てしまった…。顔が赤くなるのが分かる。
いきなり目の前に手が出てきたんだもん!しょうがないよね?
「おーい…」
「あ、ごめん。熊谷君。何?」
…あれ?チャラ男さん達に注意してくれたのは…
「アァァァ!熊谷君、ありがとう、ごめんなさい!助かりました」
「うん!?どういたしまして」
「テンパっちゃって…。何か、お礼がしたいです!何がいい?」
1人で考え込んでいて、熊谷君への謝罪とお礼を忘れていた。
手をつなぐとか、接触するのでなければ、なんでもドンと来いだ。
「姫百合さんは無防備すぎると思うんだよなぁ…。手首も掴まれてたし…」
ブツブツ言ってるけどコッチまで聞こえてこない。さっきの事件で少し距離は近づいたけど、まだ私と熊谷君の間は人1人分あいてるし何より周りがうるさくて聞き取りづらい。
「あ!じゃあ僕のこと名前で呼んで?」
「…え」
予想外。そんなことでいいのかなあ?私にとっては大事なことだけど熊谷君にとってはそこまで重要なことじゃないと思う。
「ダメ?」
…。私はこの子犬モードに弱いことが最近分かった。
「…いいよ。だけど人がいるところでは呼べない。それでもいい?」
「うん!全然いいよ。ありがとう。」
お礼を言うのはコッチの方なんだけどなぁ…。いつの間にか震えも、吐き気も収まっている。
「…コッチこそありがとう。…信也く…」
「鈴蘭!お待たせ!大丈夫だった〜?」
「だいぶ待たせちゃいましたかね?でもティーカップ、楽しかったですよ!」
…結構勇気出して言ったのに遮られてしまった。
「…大丈夫だよ〜。二人共、スッゴイ満足顔だね」
「マックスまで回したんですよ!楽しかったです!」
「茉里が三半規管ツヨイのは意外だったわ〜…。さて、暗くなってきたしパレードでも見て帰ろうか。」
「「ハーイ!」」
小菊の声に合わせて立ち上がる。ん?熊谷君、やけに静かだな…。
まだベンチに座っている熊谷君に目を向ける。
「姫百合さん…。今の…」
「え?」
「…なんでもないよ。行こっか」
「うん」
すっごくヘラヘラしていて気持ち悪い。
─── まさか自分が名前を呼ぼうとしたから?いや、今日は自意識過剰すぎて恥ずかしい思いをしたばっかりだ。多分違う。恩人だけど、(男だし)懐かれすぎたら困るし…。
それにしてもやっぱり女子3人に男子1人っておかしいよなあ。
そんなことを考えながらパレードに向かう。
今日は楽しかった。もう、黄昏時だ。今日が終わってしまう。─── みんなでまた、遊べるかな?友達でいてくれるかな?
「…ねえ、小菊。また、みんなで遊びに来よう?」
「もっちろん!当たり前じゃない。高校生になっても、大学生になっても遊ぶわよ!」
「…うん。ありがとう。」
小菊の言葉が、不安になった心に沁み渡った。
本日もありがとうございます!
信也との仲が進展したりしなかったり?