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はじまりの色

 


 貴方の見える世界は




 色に溢れていますか?




 それとも




 モノクロですか?




   『全色盲』




 それは私の知らない世界




 わかりたくても




 わからない




 けれど




 見える世界が違ったら




 その世界をわかることが出来なければ




 高鳴る気持ちを




     恋




 と、言ってはいけませんか?






☆☆☆


 珠姫(たまき)


 この名があまり好きじゃない。

 そもそも“姫”という柄ではない。

 ガサツで、不器用で、おまけに面倒くさがり。

 そんな人間に姫とは、まるで似合わないものを着ているような気分になる。

 周りに散々名前負けと言われた。どこに行っても不思議と扱いは同じで、言われることも同じ。

 この名前、ピッタリだね!なんて言ってくる変わり者は一人か二人いるかいないか程度。でも、自分でもその通りだと思っているので悲しさや悔しさはあまり感じない。


「珠姫?話きいてるの?」


 その声で珠姫は我にかえると、瞑っていた現実を目の当たりにした。

 ツンと鼻を刺激する消毒液の香り。真っ白の天井や壁を見て、ここが病院だと再認識した。

「聞いてなかったごめん」

「まったく、これだからこの子は…お母さん、これからあなたの荷物取ってくるから行くわね。くれぐれも!安静にね」

 ため息をついた後、母はそう言って病室を後にした。


 ここは六人部屋だ。ざっと見る限り、自分と同年代はいなさそうで珠姫はがっくりと肩を落とす。

 つい何時間前まで普通に歩いていた。

 学校帰り、いつもの道をいつものように。

 友だちと別れ、一人で商店街を抜けて少し開けた通りに出たところだった。


「離れて!!!!!」


 その声に勢い良く上を見る。声は確かこちらから…そう思った時には重い鉄パイプが珠姫の足に落下してた。

 痛いと感じたのはずいぶん後。

 何が起きたのかよくわからないが、足からじわじわと血が流れ出し、動かなくなっていた。

 これはさすがにまずいと感じたあたりから痛み出し、誰かが呼んだ救急車に運ばれて今に至る。

 記憶を遡ると、急に苛立ちがこみ上げてきた。この怪我は誰かの不注意かと思うと、高い菓子折りの一つでも持って謝りに来ないのがおかしい!と、がっちり固定された足を見て舌打ちをする。


「小野さん?小野珠姫さん?可愛いのに舌打ちなんてだめよお」

「………は?」

 いつの間にかベットの横にいた白服の看護婦は柔らかく笑った。

 少しだけ茶色のショートボブが似合う可愛らしい人だ。声も可愛らしくて、ゆったりと聞き取りやすい。

 きっと、親しみのやすい人なんだと珠姫は見た目で感じた。

「小野さん、足の痛みはどお?手術したからまだ麻酔とかで痛みはないのかな?お薬もあるから痛み出したら無理はしないでね」

「あー、はい」

 しかし、今の珠姫にはその親しみやすさも素直には取れなかった。

「あ、小野さんのお友だちかな?小野さんが寝てる間にお見舞いに来てたのよ」

 看護婦はそう言うと、ニコニコしながら珠姫の前から立ち去った。

 友だちか…誰だろう……

 思い当たる人はいるものの、わからないものに考えても無駄だ。その思考に飽きた珠姫はふうと一息ついた。

 色々なことが起こりすぎて、ようやく息をつけた気がする。

 あまり柔らかくないベットに横になると、足に巻かれたギブスを見た。こんな物を巻くのはいつ以来だろうか。

 カチカチに固まったこれは珠姫の足を保護してくれる代わりに自由を奪った。

 軽く叩いても、感覚さえない。珠姫は不意に嫌なことが過った。

 もしも、このまま歩けなかったら………


 その思考をどこかへやるように、ふるふると首を振る。

 どうも、こういう場所はマイナスに考えてしまいがちだ。

 珠姫は忘れようと、目を瞑った。早く日が経って、退院したい。そう願いながら……



☆☆☆


 小さい時から頑張る人は損だと思っていた。必死とか、懸命とか。そういう暑苦しいものを語る人を冷ややかな気持ちで見ていたりもする。

 頑張っても、報われなかったら?

 その気持ちは一体どこにいくのだろうか。

 虚しさに変わる日がいつか来てしまうものに何の意味があるのだろうか。

 昔から「珠姫ちゃんってやればできるのに…」と言われてきた。

 そんなの、なんでわかるのか。

 やっても、やらなくても結末が同じなら頑張る意味もわからない。

 珠姫は目を開けると、見慣れない天井に暫く考えた後、自分の足が動かないことを思い出した。

 普段なら、母に起きなさいと呼ばれ、遅刻しそうな時間にのこのこ学校に行っている時間だ。

 病室前は慌ただしい。なにやらわからない金属が当たるカチャカチャという音と、タイヤの音が鳴り響く。

 珠姫はゴロゴロと起きずにいると、閉じたカーテンが開く。

「小野さんおはよう!朝ごはんの時間だよー」

 昨日の看護婦はにこやかな笑顔で珠姫に話しかけた。

 お盆に乗った病院食をベットについているテーブルに置く。

「あ、おはようございます」

 そそくさと起き上がると、置かれたご飯を見てぺこりと頭を下げた。

 看護師は優しく笑う。

 なんて可愛らしい人なんだ。女の珠姫が見ても思うほどだ。

 くっきりした瞳に吸い込まれそうになる。

 珠姫はどちらかといえばつり目寄りで、いつも気が強そうだと言われてきた。でも、彼女はきっとそんな印象は与えないんだろうな。と羨ましく思った。

「看護婦さんって可愛いですよね」

 自分はなにを言っているのだ。珠姫がはっとした。

「え!?いきなりどうしたの?ふふ、嬉しいけど。でも、小野さんからしたらおばさんでしょ?」

 童顔な彼女は珠姫の不意な言葉に恥ずかしそうに尋ねた。

「いやいや、思ってもお姉さんくらいでしょ」

「えー嬉しいな。あ、看護婦さん。じゃなくて高橋真唯(たかはしまい)って言うのよ。入院してる間だけでもそう呼んでね」

 昨日は気が付かなかったが、珠姫は『高橋』と書かれたネームプレートを見て頷く。

「小野さんの名前、“たまひめ”って書いて“たまき”って読むのよね。可愛い名前だなーって思ってたのよ」

「名前負け。ですけど」

 珠姫は慣れた口調で答えた。

「で、いつ退院できるんですか?まぁ、ギブスしてればあまり痛くないし・・・もうすぐですよね?」

「んー、そうね。もう少し骨がくっついて松葉杖を使って歩けるくらいになったらかしらね。若いからあっという間よ」

「はぁ・・・そうですか。ってことはまだまだ先は流そうっすね」

 珠姫は興味なさそうに話をやめた。

 この生活は退屈で仕方ない。一日しか経っていないのにこれだ。退院を待っていたら、いつか腐ってしまうに違いないな。

「もうすぐよ!」

 元気づけようとしているのか、気を遣っているのか、先のわからない曖昧なものに腹が立つ。珠姫は




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