表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

Chapter7 - 餌をまく戦士

「"グランド・ブラスト"!」


 雪蛇のいる場所を指差して、ローデンドが叫ぶ。


 その瞬間、雪蛇の真下で爆発が起こった。微塵(みじん)に砕けた氷の破片が下から激しく雪蛇の体を傷つける。それでも、鱗が剥げ、わずかに血がにじんだ程度で、致命傷にはなっていない。


 逆に怒らせてしまったようで、雪蛇が向かってきた。

 大きく開かれた口には、半透明の長い牙。その内には、強力な毒を蓄えている。


 ローデンドは一人、横に跳ぶ。


「あ、え? どうしろって――!?」


 置いてけぼりにされたサックが叫ぶが、ローデンドは呪文詠唱中であるのをいいことに答えない。


 その間にも、雪蛇は驚く速さで迫って来た。


「――やるしかないっすね」


 諦めたようにサックが独り()つ。その雰囲気がすっとおちついた。

 最小限の動きで頭突きをかわし、飛び散る氷片は盾で防ぐ。そしてすばやく傷ついた鱗の隙間を見極めて剣で突いた。

 彼の持っている剣は細長く、突き刺すことを目的に作られているのだ。


「『装飾品にも使えるよ。透明な剣――キャンディー・レイピア』」


 宣伝文句まで言う余裕さ。


 しかし――。


「あれ? 折れたっす!」


 砂糖を煮詰めただけのアメの強度などたかだか知れている。少し雪蛇が身じろぎしただけで、"キャンディー・レイピア"は蛇に刺さったところからきれいに折れた。

 慌てて盾で身を守りながら、間合いを取るサック。


 ローデンドは呪文を放つタイミングを見ながら、内心舌を巻いた。

 サックの度胸も身のこなしも全くの素人ではない。あれは、それなりに武術を修めた者の動きだ。


「あわわわわわ……」


 剣を失って逃げ惑う、今の様子からは想像もつかないが……。


「"ファイアー・ワルツ"!」


 サックが雪蛇から離れた時を見計らって、ローデンドが火炎呪文を放つ。サックと雪蛇の間を炎の帯が駆け抜ける。孤を描いて広がった炎は、雪蛇を何重にも取り囲んで燃え上がった。

 炎のうずは次第に半径を小さくし、雪蛇の体表を覆っていた氷の鎧を溶かしてゆく。


 その隙に、ローデンドはサックに近づいた。


 ガァァッ!


 雪蛇が体を揺らす。そのたびに巻き上げられる氷と雪で、炎は徐々に弱まっていく……。致命傷には程遠い、わずかな時間稼ぎ。それでも、生まれた時間を有効に使わねば。


「これを使え、サック!」


 ローデンドは自分の剣を差し出した。


「え? でも――」


「俺にはとっておきの剣がある。消耗は激しいがな」


 ローデンドはにっと笑って、呪文を唱えはじめた。


 炎の円陣を抜けた雪蛇が向かってくる。鱗は剥げ、純白の中に真紅が見えるが、まだ倒れそうにはない。

 単純な攻撃ばかりで思考力には乏しいが、その体力と耐久度は折り紙つきだ。


 サックが、マントの下から弓矢を取り出し、矢を放った。


「『おいしさ至上主義! クッキーアンドシュガー・アロー』」


 柄の部分はクッキー。羽根と(やじり)は砂糖菓子とべっ甲あめらしい。ちなみに弓は、固めのガムベースを主原料としている。

 しかし、鋼の剣を用いても傷つけるのが難しい雪蛇に、そんなふざけた矢が刺さるはずもなく――。

 一本は運良く弱点とも言える口内に入ったが、それも刺さる前に噛み砕かれた。


「これはどうっすか? 『甘い香りで敵を悩殺! スイートポテト・ハンマー』」


 サックがさらに武器を取り出し、雪蛇へと飛び掛る。


「待て、俺の剣を使えと言っただろう」と言ってやりたいが、呪文詠唱中のローデンドは見守ることしかできない。今回彼が唱えている呪文は長いのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ