Chapter6 - 渋い戦い
呪文詠唱を終え――。
「"フレイム・アロー"!」
雪蛇に向けて剣を突き出すのと同時に、ローデンドの前方に矢型の炎が十数本現れ、放たれた。その全てが、一箇所――雪蛇の口を狙っている。
雪蛇が身をかがめた。
しかし、矢は向きを変えて狙いをはずすことはない。呪文に細工して追尾性能をつけているのだ。
ガアアァァァァァァ……!
雪蛇が吼えた。
尾を振り上げて、舞い上がった氷片と雪、尾で炎の矢を打ち消す。攻撃力を失った『炎の矢』による熱風が広がり、辺りに雪煙とは違う水蒸気のもやが薄く立ち込めた。
「"フレイム・アロー"!」
続けざまにもう一度、炎の矢。今度は追尾性能をつけていないので、呪文詠唱が短くてすむ。本数もさっきよりは少ない。
ドドドドドオン!
狙いがアバウトだったこともあり、幾本かは凍った地面に当たって弾けたが、何本かは雪蛇の首から腹にかけて命中した。
ガァッ!
ひるんだ雪蛇に、炎の矢の発射と同時に駆け出していたローデンドが追い討ちをかけた。剣をその胴に振り下ろす。剣に纏わせた炎は弱まりつつあるが、まだ戦える。
しかし、それは硬い雪蛇の体を突き抜けることはなかった。白い胴に薄く赤い線をつけただけ。
煩わしそうに雪蛇の胴がしなる。ローデンドの体が大きく飛んだ。空中で体勢を整えつつも、無様に背から落下する。サックの少し目の前だ。
「あわわわわ……」
おびえながらも、サックはローデンドに駆け寄った。
「大丈夫すか?」
「く……。呪文が――」
ローデンドはサックの問いには答えず、呪文詠唱が途切れてしまったことを悔しがっている。魔石の組み込まれたローデンドの鎧は、固いだけでなく衝撃吸収にもすぐれているのだ。
「オレにできることないすか?」
サックは思わずそう尋ねた。
「あいつの、口の中に、最強の火炎呪文を、叩き込みたい。手伝え」
やや息を切らせながら、ローデンドが答える。
その視線は、ずっと雪蛇に注がれたままだ。
雪蛇は、這って間合いを詰めると、鎌首を持ち上げ――。
「くるぞ」
ローデンドがサックの襟首を持ち上げて、大きく跳んだ。
二人が今までいた地面が、雪蛇の強烈な頭突きで雪煙を上げる。
「うわ……。この凍った地面に頭突きするとか、あいつどんだけ石頭なんすか!?」
サックは激しく吹きつける氷と雪に目を細めた。
ローデンドは腕で顔をかばいながらも、視線を雪蛇から逸らすことはしない。
「武器はあるか? お前ができる範囲で、雪蛇と戦え」
とりあえずそう命じて、ローデンドは新たな呪文を詠唱しはじめた。呪文を唱えている間は、会話ができないのが難点だ。
「は、はいぃ!」
返事をして、サックは片手で"チョコレート・シールド"を持ち、マントの下から武器を取り出した。また、お菓子を素材にした変な物が出てくるのかと思ったが、出てきたのは意外に普通な形をした細身の剣。やけに透き通ったガラスのような色合いが気になるが……。




