Chapter3 - 旨い話
「見てくださいよ~。ほら、『雪山の雪蛇を倒してくださった方には、金貨二十枚差し上げます。詳しくは中央広場北、町役場魔獣対策窓口まで』
これ行きましょうよ! オレは魔獣の素材が手に入るし、兄貴は報奨金がもらえて二人ともウハウハじゃないすか!」
サックは最善の方法を見つけたとばかりに、目を輝かせている。彼の浮かべる笑顔といったら――。
にこにこ、にこにこ。
「却下」
にこ――。
頬を引きつらせたまま、数秒固まるサック。
「――なんでっすか!?」
覚醒した瞬間、そう叫んだ。あまりの音量に周りにいた客が不快そうな目を彼に向けるが、サックはローデンドと雪蛇退治の張り紙を見比べるだけだ。
「雪蛇ってデカイんだぞ。息を吐けば吹雪になり、尾を動かせば雹が降る。鱗は分厚い氷に覆われて、やわな剣は通さない。弱点である口内を刺そうにも、氷柱みたいなキバから毒を吐く」
「そ、そんなの迷信っすよ」
やや顔を青くしながらも、サックは諦めない。
「ロードの兄貴にかかれば、そんな蛇ちょちょいのちょいですって。オレも自慢の武器で援護しますからぁ~」
「他をあたれ」
その『自慢の武器』が問題なのだとは言わない。余計ややこしくなるだけだ。
「兄貴、だんだん冷たくなってないすか?」
「お前がしつこいからな」
「え~! オレのせいっすか!?」
あたふた。
彼は何をするにしてもオーバーリアクションになってしまうらしい。目にも耳にもうるさい奴だ。
「え、えと……。兄貴、すまん! ほんっとうに申し訳ない。これからは気をつけるので、雪蛇退治に行きませんか?」
後半はほとんど棒読みだったが、それでも精一杯の誠意を込めているつもりらしい。
「報酬、オレからも金貨二枚くらいなら上乗せしますから~」
「…………」
ローデンドはサックの本心を見透かすように彼を見て、押し黙っている。
「ん~、やっぱり金貨五枚!」
「…………」
そこまでして武器職人になりたいのか。
「じゃあ、金貨五枚プラス『干し肉メイル』あげるっす!」
しかも、何としてもローデンドと雪蛇退治に行くつもりだ。
このまま黙っていても、欲しくもない珍発明が報酬に上乗せされるだけ。きっとこの場を離れても、彼はしらみのようにくっついてくる。
「分かった!」
ドン! とテーブルを叩きながら、ローデンドは叫んだ。
「行けばいいんだろう、行けば! その代わり、お前凍え死んでも知らないからな!」




