Chapter1 - 飢えた戦士
* * *
「一度確認しておく」
場所を改め、街の酒場。
もともと彼らは、依頼人とその請負人という関係だ。依頼人は、製作した武器を使用して、その感想を教えて欲しいと言う武器職人のサック。それを比較的安全で、報酬も悪くないと引き受けたのが、片手で頭を抱える魔道戦士――ローデンドだ。
「何なりと、ロード」
酒がなみなみと注がれた銅のカップを惚れ惚れと眺めながら、サックは言う。
「まずは、気安くロードと呼ぶな!」
拳でドンとテーブルを叩いたが、武器職人は動じない。
「はぁ……」
ローデンドは目の前に置いてあったカップ内の酒を一気にあおると、力尽きたようにイスの背もたれに体重をかけた。古びたイスは、きしみつつもその体重を受け止める。
もう一度大きく息を吐くと、安酒の強いアルコール臭が鼻孔に広がった。
今日は数点の武器を試用しただけにもかかわらず、ひどく疲れた。
「お前は、本当に武器職人なんだよな?」
怒鳴る気力も失せつつある。
「そうっすよ。これから世界に名をはせる前衛的天才武器職人す」
安酒を大事そうにちびちびやっていたサックは、突然立ち上がると銅のさかずきを頭上に掲げそう名乗りを上げる。まだ半分も飲んでいないのに、酔っぱらってしまったらしいと魔道戦士は何度目かわからないため息をついた。
「お菓子職人じゃなくてか?」
それでも――、ため息まじりだとしても、気になることは聞いておかなくてはならない。
「なんで、ここでお菓子職人が出てくるんすか?」
きょとんと首を傾げるサック。
「ガム・ブレードなんて変なもんを開発しているからだ!」
叫んでもう一度テーブルを叩いた。
その激しさに、酒場の店主が批判的な視線を向けてくる。確かに、二度の拳は年季の入ったテーブルに大きなダメージを与えているかもしれない。
彼には愛想笑いをして、ローデンドは改めて武器職人に目を戻した。
「何でガムなんだ?」
「え? だって食えるじゃないっすか」
当たり前のようにサックは答えた。
「戦士って大抵町々村々を渡り歩いてるっしょう? 旅の途中で食料がやばくなることもしばしば。『そんなもしもの時に食える剣! ミントガム・ブレード』」
最後は宣伝口調だ。
「戦士が剣を食ったら、どう戦えばいい? そもそも、剣は剣士・戦士の魂だ。そう簡単に剣を手放すことはないし、そんなふざけた剣、誰も欲しがらない」
「じゃあ、メインの大剣じゃなくて、小剣やナイフ型にしたら――」
「そもそも、ガムって噛むだけで食えないだろ」
「! た、確かに……。でで、でもチョコレート・シールドは食えるっすよ」
あたふたと、サックは大きな手振りで名誉挽回を試みる。




