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Epilogue - おかしな武器職人


  * * *


「お前は、いったい何者なんだ?」


 ローデンドはいつもより高価な酒を飲みながら、前に座る自称武器職人を見た。


「え? そりゃあ、武器職人っすよ」


 サックは首をかしげた。彼の横には雪蛇の鱗や骨などが詰まった巨大な袋がおいてある。雪蛇を倒した後、呪文で解体して武器としてつかえそうなものをサックに持ち帰らせた。

 おかげで魔力を溜めておいた魔石は多くが空になり、ローデンド自身の魔力も相当減った。今は、普段より少しいい宿で酒と食事と休養をとっているところだ。


「あんなに武器の扱いがうまい武器職人、そういるか」


 いるわけがないと反語の意味を込める。


「いやー、ばれちゃいましたかぁ? オレ、昔はちょっとした戦士だったんすけど、ふと立ち寄ったお菓子屋さんの味に惚れちまってっすねぇ!」


 馴れ馴れしく、ナイフを使うローデンドの腕をぽんぽん叩きながら言うサック。手の甲にフォークを刺してやろうかとも思ったが、面倒だったので勝手にやらせておくことにした。


「最近は鍛錬なんて全然してなかったけど、ちゃんと動けて良かったっす!」


 そう言えば、確かにサックの作る武器は材料こそおかしかったが、作り自体はしっかりしていた。彼の戦士としての経験が生かされていたのだろうか。


 ローデンドは肉料理の皿から視線をあげ、上目遣いにサックを見た。彼の話し方は、本当なのか嘘なのか判別が難しい。しかし、結局彼の顔を見てもわからなかった。得意げに笑う彼の顔は、雪蛇を倒した喜びでいっぱいで、戦士だった面影など一切ない。


「まぁ、お前が逃げ回っているだけでもちゃんと勝てる計画が俺にはあったけどな。むしろ、お前が戦う姿勢を見せたせいで呪文を放つタイミングが難しくなった」


 なんにせよ、今のこいつにはこれくらい毒のある返しをした方が合っているだろう。ローデンドはわずかに口元を緩めて、再び目の前の肉料理に視線を落とした。どうせ一時的な縁だ。数日後にはローデンドはこの町を出て旅に戻るし、サックもまた武器を造りはじめるのだろう。


「あー! ひどい! ひどいっす!! オレめっちゃくっちゃがんばったのに!!」


 サックの文句が聞こえる。はじめはうるさいと思っていたこの大音量にも、すっかり慣れてしまった。


「はぁ」


 しかし、その事実を認めるのが癪で、ローデンドはわざとため息をつく。


「お前ががんばるべきは、これからだろう」


 気だるげに言って、ちらりとサックを見ると、彼は驚いたような顔を浮かべていた。


「そ、その通りっすうぅぅ!!!」


 まさかこいつは自分が武器職人であることを忘れていたのか? もう一度ついたため息は、意図的なものではなかったかもしれない。


「ロードのおかげで雪蛇の素材も手に入ったし、これからがんばるっすよ!」


 思い出したように、そう決意表明している自称・武器職人。


 呼称を直させる気も失せた。


「まぁ……、がんばれ。俺は二度とお前と関わるのはごめんだ」


 口ではそう言いつつ、こいつの意味不明な武器実験に、これからも巻き込まれそうな予感がひしひしとしているが……。


 ――だが、もしこいつが有名な武器職人になるなら、付き合ってやってもいいか。


 ローデンドはそんな思いはおくびにも出さず、静かに杯を傾けた。


「なんでっすかー!!!」


 サックの叫びが聞こえる。


「オレ、新しい武器を思いついたんすよ! 雪蛇の毒で空気を凍らせるんすけど、名付けて、『好みのシロップで好きな色に! かき氷煙幕!!』完璧っしょ?」


 ――いや、ダメかもしれない。


 ローデンドは表情を変えずに思った。


 やはり、こいつのおかしな武器から全力で逃げる算段を考えなくては――。




<完>

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