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第3章・予期せぬ始まり 

 寺之城和馬(てらのじょうかずま)という男が居る。

 頭脳明晰、スポーツ万能といったベタ褒め文句がトントン拍子で当てはまるうえ、その顔立ちは、さながら二枚目俳優のように整っており、スペック上は非の打ち所の無い人間と言える人物だ。

 トレードマークは黒淵の眼鏡。この装備で元々高い知的イメージが更に上がっている。

 クラスの女子達にもさぞかし好印象であろう。

 だが。

 女子達にとっては残念な事に、寺之城は美少女アニメヲタクだった。

 会話、思考は二次元の嫁への愛で溢れていた。

 コミケ参加歴、10回。

「おお、そこに居るのは寿君ではないか!」

 寺之城の、まるで舞台の上で歌っているかのような高らかな声が、肩を落として自転車を漕ぐ潤徒の足を止めた。



「――――げぇ!」

 潤人は制服姿の寺之城を見るなり、そんな声を漏らした。

 寺之城は新大島東高校に通う三年生で、潤人が所属する『小隊』のリーダーを務めている。彼の腰元には、ローライド、ナチュラルレイクのヒップホルスターが左右に一つずつ装着されており、そこからは寺之城の愛用する回転式拳銃(リボルバー)、S&WM29(銃身は8インチだそうだ)と思しきグリップが覗いていた。(寺之城は成績優秀で面接にも受かったため、気想術の使用に必要な武具の携帯許可が下りている)

 神社で万炎から新たに護符を貰った後、無銭が原因で食材調達が叶わなかった件で、リルへの釈明を考えながら男子寮に向かっていた潤人は、アニメの話となったら2時間は止まることなくしゃべり続ける我らがリーダーに出くわしてしまった次第である。

 彼の話を聞くうち、潤人の脳内にもアニメやネット分野のネタが蓄積されるようになってから、もう長いこと経つ。

 こんな時に捕まってアニメの長話は勘弁願いたかった。

「ボクは今日、実に気分が良いのだよ。何故かわかるかね?」

 黒淵のメガネを煌めかせ、ニヤりと笑う寺之城。

(――――知りませんよ)

 と、潤人は言いたいところだったが、

「何かあったんですか?」

 出掛かった言葉を飲み込んで、そう尋ねた。

「我が小隊に、久方ぶりに依頼(クエスト)が入ったのだよ!」

 寺之城の口から発せられたのは、恐れていたアニメの話ではなかった。

 この島では、高校に進学するのと同時に、学生寮に入って自給自足の生活を強いられる。自立性を高めるためだとかいう話だが、幼少期から中学3年まで入れられていた養護施設とは違い、一人暮らしには生活資金が必要だ。

 新大島の高校では、この生活資金が生徒個人の成績に応じて、一定額が支給されるシステムになっていて、成績が良ければ高収入、悪ければ低収入となる。

 仮に五段階評価の成績が全て1だとすると、学生寮の家賃と光熱費を切り詰めて賄える程度の額しか支給されず、食費まではとても足りない。

 大袈裟に考えると、下手をすれば餓死だ。

 成績分の支給は月末に、該当する月の出席日数と、学力及び気想術(ソウルスキル)の実績に応じて行われる。

 このシステムとは別に、各々の気想術を活かして『依頼(クエスト)』を遂行する事で、臨時収入を得るシステムも存在する。

 成績優秀で生活に余裕のある生徒は小遣い稼ぎに、潤人のような悪評保持者は生活の足しに、この『依頼(クエスト)』を引き受けて奮闘するのだ。『依頼』は各学校の情報サイト、又は掲示板に貼り出されており、先着順で好きな内容のものを選んで受諾することが出来る。

 自身に選択権が与えられている点は、命令によって課せられる『任務(ミッション)』と違う部分だ。

 潤人は生活資金を少しでも稼ごうと、自分でもこなせそうな『依頼』を頻繁に受けていた。というのは、彼は出席日数こそしっかりと満たしているのだが、学力が総合的に平均以下なうえ、気想術(ソウルスキル)の成績が赤点だらけなせいで評価は伸びず、あらゆる節約手段を取り入れてギリギリ生活できる程度の収入しか得ていないからだ。

 更に、事実上気想術が全く使えないので、引き受けられる依頼(クエスト)も極簡単なものに限られてしまい、一回達成した程度では、大した報酬は貰えていないのも理由の一つ。

 前回の依頼は校舎の窓拭き、その前は学校周辺のゴミ拾い。もっと遡れば、先輩の部屋の大掃除を手伝ったり、実はこの島では多発するペット探し、浮気がバレてカップル戦争勃発中の同級生の仲介ネゴシエイターまで務めてきた。特にネゴシエイターは命掛けの修羅場だったにも拘らず、報酬はラーメン一杯分程度だった。これでは“生きた心地がしない働き”に見合わない、と異議を唱えたら、『貧乏なのはお前だけじゃないんだから我慢しろ』と一蹴された。

 というわけで、潤人は現在進行形で貧乏なのであった。

小隊に(、、、)依頼が入るなんて、去年以来ですね」

 と、卑屈に陥る潤人は半ば空返事である。

 鼻息を荒げる寺之城の言う“小隊”とは、『I・S・S・O』の育成機関である新大島に導入されている制度の一つだ。

 元々は、組織が本格稼動した2016年の時点で、少しでも気想術を操れるようになった訓練生達を積極的に世に放って活動させ、実戦経験を蓄積させるというスパルタ政策を取っていた英国第2本部が考案、実施し始めた制度で、昨年の四月から日本国新大島本部にも取り入れられた。

 具体的には、本部によって、学年を問うことなく選定された者同士が集まって編成したチームを指す。“島の外”での実戦において、『術師(スキラー)』は時に単独での遂行が困難な任務を受ける場合があるため、複数人で小隊を組む事が珍しくない。その際、チームで円滑な行動が出来るように訓練する意味合いで、新大島の4つの高校で採用されたのだ。

 故に、仲間内ではなく、学年を無視して、しかし個々の能力の相性やバランスを考慮して選ばれた生徒達によって構成される。

 活動は主に放課後から夜にかけて行われ、土曜・日曜といった休日に集まる小隊も少なくない。

 小隊の集まりで行う活動の内容は、依頼(クエスト)遂行だけでなく、小隊内での修行や新術の開発等が挙げられる。簡単に例えれば、世間の一般的な学校で言う『クラブ活動』のようなものだ。

 聞こえは然したる事でもない様ではあるが、依頼や術の内容によっては命に関わるものもあるため、楽観視出来るわけでもない。

 寺之城和馬率いる第108小隊は、ここ最近小隊として行う規模の依頼がほとんど無く、小隊のメンバー各々が個人的な依頼や修行ばかり(潤人は自分の生活資金稼ぎ)で動いていたため、なかなか集まる事が無かった。

 小隊が受ける依頼は、基本的には個人の限界を超えた難易度であるため、報酬もそれなりに期待出来るので、考え方によってはお金稼ぎのチャンスなのである。

 寺之城のテンションが会った瞬間から高いのも、高額な臨時収入を得る機会が巡ってきたことによるものだろう。

「今回の依頼を成功させれば、その報酬で今ボクがマークしている27本の新作ゲーム及びブルーレイの初回限定版を全て購入することが出来る! 特典にはライブイベントの抽選券とか、限定フィギュアとか、タペストリーとか、限定コスチュームダウンロード用のURLとか、生きるうえで必要な栄養素が満載だから、是非とも手に入れたいところだ!」

 と、臨時収入の予感と期待に、愛する二次元への想いを膨張させる寺之城。

 彼の何倍もお金に困っている潤人は、依頼の話を聞いたら普段は張り切るところだが、家出した英国第一王女の身柄を護る特例任務を受けている今はそうもいかない。

(そういえば、リルは報酬をくれるって言ってたけど、何をくれるのか聞いてなかったなぁ。あいつの事だから、英国産のお茶とお菓子10年分とかかな?)

「残念なんですけど、今回の依頼はパスさせて下さい。今、特例任務を生徒会長から直々に言い渡されてるんですよ」

「なんと!」

 眼鏡の奥で目を丸くした寺之城は、

「――――して、どんなシゴトかね?」

 持ち前の声量を控えめにして尋ねた。

「すみません先輩。特例任務なので、これ以上は口外できません」

「それもそうか。しかし、驚きだな。君が会長から特例任務を与えられるとは」

「出来れば受けたくなかったんですけどね。今でもまだ実感沸かないし、自信も無いし」

 無茶苦茶な理由で、下手をすれば国同士で問題が起きるレベルの任務を押し付けられた潤人。しかし敵に攻撃されるわけでもなく、部屋から一歩外に出てみれば、何の変哲もない日常が広がっているだけ。

 責任重大な任務であるのだから、気を張り詰めて臨まなければいけないのは解る。しかし、周りでは何も起こりそうにない。それは望ましい事此の上ないが、どこか釈然としないのだ。

 万炎の質問に“NO”と答えた自分への幻滅が尾を引いて、潤人の胸をじわじわと締め付け、考え方を負の方向へと誘っていた。

「――――何を弱気な事を言ってるのかね? 君は我が108(イチマルハチ)小隊の立派な一員なのだぞ? 胸を張るんだ。寿君」

 寺之城の言う事も理解は出来る。

 自信を無くしたまま戦わないでいると、守れるものも守れない。

 だが、潤人には自信を持てるモノが何も無いのだ。

 少なくとも自分では、己の持つ取り柄が思いつかない。

「一員と言ったって、いつも皆の足引っ張ってますよ。俺」

「足を引っ張っているから、自信も持てないと言うのかね?」

 頭の中は二次元の嫁の事で一杯なはずの寺之城が、何時に無く真剣な眼差しで潤人を見た。

「ボクはそうは思わないがね。キミがもし、自分自身に取り柄が無いと言うのなら、それはまだ、君が己の取り柄を見つけていないだけだ」

「見つからないなら、無いのと一緒じゃないですか」

「見つからないのと、見つけていないのとでは、意味が違うぞ? 人は誰にでも、得手、不得手があるものだ。神様ではないのだからな。取り柄だらけな人間が居なければ、欠点だらけな人間も居ないのだよ」

「――――なら、教えて下さいよ。寺之城先輩から見たら、俺の取り柄は何なんですか?」

「まだ今の君には、教えるわけにいかんな」

 潤人が、自分自身と理不尽な現実への苛立ちをぶつけるかのように投げかけた問いに、寺之城は首を振った。

「それは、逃げているんじゃないですか? 先輩でも俺の取り柄がわからないから、何も言えないんでしょう?」

「そうではない。君の取り柄はちゃんと心得ているつもりだ。これはボクに限った事ではないぞ? 我が108小隊のメンバー全員が、君の長所を認めている。だが、今の寿君に言ったところで、それが如何に立派な取り柄か理解出来ないであろう」

「取り柄があったって、この理不尽な世界じゃ何の役にも立たないですよ。どんなに凄い(スキル)を持っていても、“運”が簡単に覆す。“島の外”なんか、“運”が人間を容易く殺す世界じゃないですか!」

「極端に言えば事実だが、被害妄想の拡大は、不幸粒子にその身を委ねているのと同じだぞ? もう1つ、クサイ台詞を言わせてもらうがね、ボクは何の取り柄もない輩とは、仲間にはならん」

 寺之城は顔色一つ変えず、真剣な眼差しで言い放つ。

「それ即ち、ボクは誰であっても、仲間外れにはしないのさ!」

「先輩の情けには、頭が上がらないです」 

 潤人は再び、自分に失望した。己の苛立ちを、他人にぶつけてしまうとは。

 これは不幸粒子による、負の感情の増幅なのだろうか。

(いや、例え不幸粒子の影響を受けて負の思考に誘導されているとしても、自分が欠点だらけでなければ、ここまでひどい思考や失礼な発言はしないし、暗鬱な気分にもならないはずだ)

「……寿君、君に小隊長命令を言い渡そう」

 寺之城が、沈んだ目の潤人の肩を掴む。

「自分の力で、己の取り柄を見つけたまえ! それが出来た暁には、君を我が小隊の副隊長に任命しようではないか! メンバーはたった4人であるとはいえ、ボクが不在の際に代わりを務める者は用意しておいて損は無かろう? 今までは、その時の気分で適当に指名した者に任せていたが……」

「――――ええ!? そんな、副隊長なんて、俺に務まるわけないじゃないですか」

「またそんな事を言って! 不幸粒子にどっぷり浸かってしまうぞ? 一つで良いから、取り柄を見つけるんだ。 新たに取り柄を作っても良しとするが、君は既に、誰にも負けないモノを持っている! それに気付く事が出来れば、自ずと考え方も変わっていくだろう」

 確実にそうなる根拠は無い。それでも、寺之城は潤人から目を逸らさなかった。

 寺之城の目は、そうであると信じ、自身に満ちた者のそれだ。“勝ち組”の目だ。

 どうしてそこまで信じられるのか、潤人にはわからなかった。

 信じた事が、期待が、望みが、兆しが突如裏返り、暗闇に突き落とされた場合の事は気にならないのだろうか。

 努力と志を裏切られた時の痛みが、恐くないというのか。 

 そうして信じなければ、人間は前には進めないという事なのか。

「……そういうものですかね?」

「試してみたまえ。君なら出来るとも」

 潤人の肩を軽く叩くと、寺之城は一瞥を残して去っていく。

「もし何か困ったことがあれば、いつでも呼んでくれて構わんからな?」

 腰元のホルスターをポンポン叩きながら、寺之城は背を向けて歩いていった。

(あの人は運動も勉強も出来るし、気想術の技量も高い。だから、明るい前向きな考え方が出来るんだよ)

 潤人は、しかし尚も負の感情を抱いたまま、寺之城とは逆の方向に自転車を進める。

(そりゃあ俺だって、常に前向きで、明るく元気に日々を過ごして、周りの仲間にその正のオーラを振り撒きたいよ。でも、世の中の現実ってやつは、弱い者をとことんいじめて踏みにじるのが好きらしいんだよな)

 いくら取り柄があった所で、運には勝てない。

 ここは、『不幸粒子』と『幸福粒子』の気まぐれに怯えて暮らす世界だ。

 如何な前向きの思考を持つ人であっても、運に殺されたりする。

(この世界の理不尽さを、解ってない人が多いんだよ)

 時間、精神、労力、あらゆるものを費やす“努力”という戦いのほとんどが、最終的に運に裏切られて敗れるのだから、そんな無益な戦いは止めてしまった方が楽だし、損もしない。

 だが、それでは生きていけないのが、この世界の残酷な部分だ。勝利を手に入れた人間が上に立ち、物事を決め、下の力なき者はそれに従わされる。“報い”を知ることが出来た“勝ち組”が作った世界で、見下され、苦しみ、悩み、嘆き、耐え忍び、それでも這い上がろうと手を伸ばす度に蹴落とされ、それを繰り返しながら生きなければならない。

(『平等』という概念はただの言葉でしかない。何の意味もない)

 と、潤人は思う。

 ウィンザー城の時も、何故潤人一人が迷い、リルの誘拐犯に仕立てられなければいけなかったのか。

 今回の護衛任務もそうだ。

 何故潤人なのか。

 優秀な『術師(スキラー)』は、探せば島中に居るというのに。 

 どうして自分だけがこんな目に遭うのか。

 そして、リルを護る事よりも、理不尽な出来事に対する嘆きと怒りの思いが優先されて脳内の思考を占めている事実に、自己嫌悪も増大する。

「今日は、夜から“雨”って言ってたよな」

 全体が藍色に染まり、ぼんやりとした千切れ雲が靄のように漂う空をぼんやりと見上げて、潤人は独り言ちる。 

 新大島や先進国のほとんどの領地は、各地に設置された『I・S・S・O』の支部から展開される不可視の『加護結界』によって、『天候』の悪化に伴う不幸粒子の干渉をある程度抑制している。故に、新大島の中は、例え『天候』が“雨”でも、島全体をドーム状に覆う結界によって、“曇り”か、或いはその間を取った“小雨”程度に軽減される。

 なので、外出できないほど危険な区域になる事はほぼ無いと言えるが、『天候』が“晴れ”の時にも拘らず強風で1000円札に旅立たれている潤人にとっては、“曇り”かそれ以下の『天候』は警戒が必要なのだ。

 密集するアパート郡やコンビニの上を跨ぐように架けられた陸橋道を、潤人は肩を落としたまま、内陸部から沿岸部へと下っていく。幾多に渡って分岐し、うねる陸橋道の下で密集する民家や学生寮は、中央に聳える三沢山の山肌を守る城壁を思わせる。民家は沿岸部から内陸部へと入り込むにつれて段々畑のように連なり、大抵の建物の窓から青藍の海が見渡せるので、視認可能な“敵”であればすぐにわかる。

 いくら『不幸粒子』の濃度が高いと言っても、この島に居る限り、そこまで怯えることでもないはずなのだが、潤人の場合、どうしても深く考え過ぎてしまうのだった。




 長く深い思考の末、ついに集中力が切れて、負の感情の連鎖から一旦我に返った潤人は、いつの間にか海沿いの男子寮まで戻って来ていた。

 できれば、リルには朝まで眠っていて欲しいとか考えながら、潮風で錆び付いた金属製の階段を上る。

(最悪、咲菜美(さきなみ)にでも頼んで、何かおかずを作ってきてもらうか……)

 咲菜美とは、養護施設時代から高校までずっと一緒な幼馴染の女の子の名である。

 彼此10年以上の付き合いになる腐れ縁だ。

 養護施設時代から中学生くらいまでは、普通に互いの部屋を行き来して遊んでいたが、高校に入ってからは修行等で時間が減っていき、ここ一年以上遊んでいない。

(でも、頼んだら頼んだで、“情けないわね!”とか言って叱られそうだな)

 幼馴染の召喚を渋る潤人は、『ただいま~』と、自室のドアを開ける。すると、

「ただいまじゃないわよッ!!」

 という怒声が部屋の中から迎撃してきたが、リルの高く澄み渡る声ではない。

 聞き慣れているからか、どこか安心できる、透明感を持った少女の声だ。

「えっ?」

 全く予想していなかった事態に、潤人は目を見開いて部屋の中を凝視する。

 靴下でフローリングの上をダッシュする軽快な足音を響かせ、リルより背の高い細身な少女が突進してきたと思った次の瞬間、潤人の顔面に鋭い飛び蹴りがめり込んだ。

(“どこか安心できる”だって? どこが?)

 勢いよく背後の柵に背中から激突した潤人は、顔と口内と背中から襲い来る激痛に涙を浮かべながら、

「なんで、お前が出て来るんだよ!?」

 と、蹴りを放った人物――――大島東高校の制服を着たおさげの少女を見上げた。

 腰まで伸びた艶やかなストレートの黒髪が、うなじ辺りから白いシュシュで細く二本に束ねられ、気まぐれな潮風で不規則に靡いている。ぱっちりとした黒目は凛とした輝きを秘めており、ほんのり赤い頬に、控えめな鼻、糸で括ったような小さな唇と、可愛らしいパーツが並び、緩やかに吊り上った眉からは、どこか強気で活発そうな印象を受ける、整った顔立ち。男装もきっとすごくキマるに違いない。寺之城和馬というイケメンですら霞んで見えるだろう。

 彼女が、新大島東高校2年、咲菜美由梨(さきなみゆり)

 格闘技を得意とする近接戦闘系の『格闘術師(ファイター)』であり、潤人や寺之城と同じ、第108小隊のメンバーでもある。

 その咲菜美がどういうわけか、リルしか居ないはずの潤人宅から飛び出して来たのだった。

 しかも、かなりお怒りらしく、非の打ちようがない容顔を赤らめ、肩で息をし、強く握り締めた拳をミシミシ言わせている。

 状況――――生命の危機。

「“なんで”、はこっちのセリフよ! どうしてあたし達の護衛対象があんたの家に居るのよ?」

「――――はぁ!?」

 咲菜美の口から発せられた『あたし達の護衛対象』という言葉が引っ掛かった。

「あんたが部屋から出ないと思ったら、この子が出て来たの!あんた、こんな散らかった部屋に女の子連れ込んで、何考えてるのよ!」

 見る見るうちに、咲菜美の頬の赤みが増していく。

「さ、咲菜美? お、落ち着けって! 熱でもありゅんじゃにか!」

 あまりの恐怖にテンパる潤人は呂律(ろれつ)が回らない。

 咲菜美がキレたら、とにかく手がつけられないのだ。クラスの男子全員が束になって掛かっても、恐らく体術で捻じ伏せられて負ける。 

「リルに何したのよ!?」

「何もしてない! お前はなにかトンデモない勘違いをしているぞ!?」

「どうしたのだ? 由梨」

 中からリルの声もする。

「じゃあなんであんたの部屋からリルが出てきたのよ!? 正直にこ・た・え・ろ!」

「どうどうッ! 静まりたまえ! ていうか何この状況!? 護衛対象って、リルの事でしょうか!?」

 今やその頬をトマトのように真っ赤にし、胸の前で合わせた拳をパキパキ言わせる幼馴染を、潤人は雌豹を相手にしているかのように宥める。

「そうよ? 小隊長(チームリーダー)から召集があったから、あんたを迎えに来たわけ」

 我らが小隊長こと寺之城が言っていた依頼とは、どうやらリルの護衛らしい。

 咲菜美(さきなみ)によると、寺之城(てらのじょう)から、『要人警護の依頼を引き受けたから、メンバーは全員“基地”に集合せよ』という旨の連絡があったらしく、潤人がサボるのを阻止するために迎えに来てみた所、寝起きのリルと遭遇。

 リルによると、それに驚いた咲菜美は何を疑ったのかは不明だが、リルの身辺と、潤人の部屋(特にベッド周辺)を調べ、リルと現状について話しつつ、潤人をどう料理しようか考えながら、獲物の帰りを待っていたのだそうだ。

(……俺はエサかい)

 考え方がもうなんというか雌豹みたいだ。

 リルの耳打ちによれば、咲菜美の怒りが特に高まり出したのは、潤人がリルと同棲状態にあると知ってからだとか。

 潤人がリルを自室に連れ込んだ件についてはリル本人の口から、『レイラからそうしろと言われた』という証言を得られたため、潤人は無罪を勝ち取った。

(早とちりもいいとこだろ……嗚呼、可哀想な俺)

 何もしていないのに、危うく咲菜美にボコボコにされる所だった。

 というか既に顔に蹴りをめり込まされた。

 理不尽だ。

 それと、護衛対象が特例任務中の潤人と被っているのはどういう了見か。

「その依頼って誰から受けたんだ?」

「それはまだ聞かされていないわね。でも、リルの護衛なんだから、依頼主が一個人というわけではないでしょうね。生徒会とか、本部とかが絡んでそうだけど」

 咲菜美も、リルの身分を弁えてはいるものの、対等に接しているらしく、堅苦しい言葉は使っていない。

 潤人が留守の間に、二人は打ち解けたのだろう。

 咲菜美は昔から、誰とでもすぐに仲良くなれる人柄なのだ。

「実は俺、生徒会長から直々に特例任務を受けてるんだけど、その内容が、リルの護衛だったりするんだよな」

「そうなの!? え、でもそれじゃ、あたしたちの依頼と被ってるじゃない」

「そこなんだよ。さすがに俺一人じゃ役不足すぎるから、生徒会長が増援をよこしたって事なのかな?」

 確かに、そう考えるのは自然だ。

 先ほど出会った寺之城も、恐らくもう基地に向かっているはずだ。

 件の『基地』とは、寺之城が勝手にそう命名した格納庫の事で、第108小隊の活動拠点である。

「でも、あんたが特例任務を受けるなんて。レイラ会長に直接選ばれたんでしょ? 凄く名誉なことじゃない!」

 寺之城同様、咲菜美も驚いた様子を見せた。綻んだ表情が、どこか嬉しそうに見える。

「いや、本当は断ろうと思ったんだけど、そうもいかなかったというか――――」

「……ほほぅ? 護衛相手のリルが可愛いかったから、厭らしい考えに取り憑かれて断れなかったと?」

「い、いや、そうじゃなくて――――」

「潤人はだな、わたしの家出の隠蔽工作をむひゅぅ!?」

「こら! また変な誤解を招くようなこと言うな!」

 またしても身の危険を感じる潤人の横から、リルが余計な口を挟もうとして来たので、咄嗟に人差し指をお姫さまの口に宛がう潤人。

 咲菜美は小首を傾げて、

「家出?」

「違う。違う。違ウヨ? 何でもないっ!」 

 ぷくぅと膨れて睨んでくるリルを尻目に、潤人は額の汗を拭う。

「まぁその、お、女の子を守ってくれと言われてきっぱり断れるかと聞かれれば、男としてそんな事は無いわけで、べ、別にリル一人に対して個人的な感情が芽生えたわけではないといいますか……」

 部屋でのリルとのひとときで幾度となく顔を赤らめた事を思い出してまた赤面しながら、潤人は弁明した。

 咲菜美はくりっとした目を細め、ジト目モードで潤人の顔を見上げてくる。

 香水の、仄かな甘い香りがした。

「――――それじゃ、あたしを守れって言われても、潤人は断ったりしない?」

「いやいや、お前は俺より強いし、誰の助けが無くてもぶうッ!?」

 潤人の腹に、咲菜美の強烈な正拳突きが衝突、というかめり込んだ。

 格闘術を極めている咲菜美は、そのスラリとした身体を普段から十分過ぎるほどに鍛え抜いており、外観は細く引き締まって見えるが、女の子らしいすべすべの皮膚の下に秘められた筋力は相当なものだ。

 彼女が『気想術』による能力を発動していない(、、、、、、、)状態でも、その身体能力は第108小隊の中でダントツである。

「暴力、反対。リルの前で、なんて恐ろしいことを、するんだ……」

 身体をくの字に折り曲げて痛みに辛うじて耐えながら、潤人は言葉を紡ぐ。

『ふん!』とそっぽを向いた咲菜美はリルに向き直り、

「どうしようか。リルも今からあたしと一緒に来る?」

 と、潤人の苦しみなどどこ吹く風で、今後の方針を取り決めにかかる。

「待ってくれ。わたしは潤人にしか護衛の依頼は出していないぞ?」

 リルは困った様子で、潤人と咲菜美に交互に顔を向ける。

「……咲菜美達は、『依頼』であって、『特例任務』だとかそんな極秘な扱いじゃないんだよな?」

「そうよ? でも言われてみれば、あんた一人が特例任務で、あたし達と扱いが違うのは変ね。依頼主がわからないから、今は答えが出せないけど」 

 レイラは生徒会室で、機密性が極めて高い『特例任務』という形で潤人一人にリルの護衛を課した。

 確かに無理難題なわけで、後から人員を増やすのは自然な流れだが、仮に寺之城へリル護衛の依頼を出したのがレイラだとするなら、潤人に対して行った『特例任務』という措置に矛盾が生じる。

 寺之城へリルの護衛を頼む際に、機密性の低い『依頼』という形を取ってしまっては、潤人の『特例任務』という効力は意味の無いものになってしまうからだ。

 レイラの考えが変わったのか、或いは全く別の人物が依頼を出したのかわからないが、今後の潤人の立ち位置や行動方針を定めるためにも、事の真意を確かめる必要がある。

「リル、俺達も行こう。この島に居る限り、リルの身の安全は保障されてるようなもんだから、外を出歩いても大丈夫さ。俺一人だと不安だけど、今は咲菜美も居るしな」

 咲菜美は“基地”に行くと言っているし、一度集まって全員で話したほうが良いと判断した潤人は、リルに外出を提案した。

「“キチ”、とは何なのだ?」

「俺達の活動拠点みたいなものかな。この島では、皆がいくつかのチームに分かれていて、そのチームで時々集まって、協力して依頼(クエスト)をやったり、修行したりするんだよ」

「あたしとこのもやし男は、一緒のチームってわけ」

「もやしって言うな!」

(リルには“もやし”という侮辱的な言葉は理解して欲しくない。野菜の方で捉えていて欲しい。)と、潤人は切実に願った。

「わたしも、そのチームに入りたいぞ。潤人」

「それが、俺達には決められないことなんだよな。メンバーの変更や加入依頼があるときは、その依頼を生徒会に提出して、審議してもらう必要があるんだ」

「あたしは大歓迎よ? リルも今日からこの島の一員なんだし、うちのリーダーに頼めば、生徒会に掛け合ってくれると思う」

 リルがこの島に居る“本当の理由”を知らない咲菜美はにこやかに言った。同性も異性も関係無しに、誰もが見惚れてしまうような笑顔だ。

「レイラなら、きっと許可してくれるぞ!」

『チーム』という言葉に目を輝かせるリル。

 そんな彼女が今日一日過ごした中で、一番嬉しそうに微笑むのを見て、潤人も不思議と安心感を覚えた。

 その時、『ギュルゥ』と、潤人の腹が鳴いた。

 咲菜美の飛び蹴りの衝撃で脳内から吹き飛んでいたと思しき夕飯事情が想起される。

「なあ、咲菜美。基地に何か食料あったっけ? 今晩、リルに食べさせるものがカップ麺しか無くて」

「はあ!? ご飯もろくに無いわけ? 情けないわね!」

 呆れ返って両の手を腰に当てた咲菜美は、潤人をまたジト目で睨む。

「今日も朝からいろんなことがありましてね。ホント、ツイてますよ」

「仕方ないわね。今日の夜、あたしが何か持っていってあげるわよ」

「マジですかぁ!?」

 潤人は願っても無い展開に、心の中でガッツポーズした。

 これで今夜の空腹は凌げる。

「言っておくけど、あんたのためじゃないんだからね! リルのためなんだから!」

 左右のほっぺがまたしてもトマトみたいに赤くなる咲菜美。

(い、いかん! 俺のあまりの情けなさに怒ってらっしゃる!?)

 次に咲菜美の攻撃を受けたら本気で命に関わる気がした潤人は、平静を装って咲菜美を宥めようと思考をレッドゾーンまでフル回転させる。

「あ、ありがとうな! お言葉に甘えさせてもらうよ」

 当たり障りの無さそうなセリフを絞り出して、潤人はそっぽを向く咲菜美の頭を撫でる。

(そう、雌豹だって、優しく撫でてあげればもしかしたら……!)

「べ、別にいいわよ。もう、慣れっこだし」

 頭を撫でられた咲菜美は両の手を胸の前で弄びながら、なぜか潤人の方へ半歩寄り添う。

 潤人は咲菜美への恐れで頭が一杯になり、彼女の細かな仕草には全然気付かない。

「潤人! この私の前で、まさか他の女の子にいかがわしい感情を抱いているのではないだろうな!?」

 下から両腕をクロスさせて振り上げ、幼馴染を撫でる潤人の腕をちょん切るかのように払ったリルが今度はお怒りのご様子。

「いや、ち、違う! そういうつもりじゃなくてだな――――」

 自分が咲菜美を撫でる光景を見て急に不機嫌になった王女様を宥めつつ、潤人はこう解釈した。

(これはきっとあれだ。この間テレビで見た、空腹な状態になると人はイライラしやすいってやつだ!)

「し、四の五の言わずにいくぞ。先輩を待たせちまう!」

(とりあえずさっさと基地に行って今回の依頼について寺之城先輩からトントン説明をしてもらってとっとと帰ってきて食いものをシコタマ恵んでもらってサクサク食べればその怒りも収まるだろう!)

 と考えた潤人は、ズボンのポケットに手をやり、万炎から貰った護符が入っている事を確認し、美少女2人を連れて男子寮を出発した。

(他の独身男子に見つかったらまぁ大変!)

 という恐怖を俄かに抱えながら。


 


 アズロットは日本国の領海に入った時、自身の体力が思ったよりも落ちている事を痛感した。

 南極を出てから10時間以上。途中、休めそうな島を探したが、一つも見つけられないままぶっ通しでここまで飛んできたせいか、予想よりも重い疲れが圧し掛かってきていたのだ。

『アズロット? 大丈夫? 何だか元気がないよ?』

 リュウがアズロットの身を案じる。

(そんな事は無いさ。俺はまだまだ現役だぜ?)

『その割には、呼吸も荒いし、疲れて見えるけど?』

(――――うるせぇな) 

『アズロット。今の速度で飛行を続ければ、あと数十分で目的の島に到着出来ます。身体の調子は大丈夫ですか?』

 数時間ぶりに、胸ポケットに押し込んだ念話札から“少女の声”が聴こえた。

「出だしこそ快調だったが、思ったより俺は衰えまってるらしい。でも、安心しな。戦う余力はまだ残ってる。この端末に映ってる島は、どんな状況だ? 住人が居るって話だよな?」

 アズロットは、『ストロングホールド』での社会勉強初日に手渡された携帯端末の画面をタップする。画面には、1つの島の画像と、その島への飛行ルートが表示されていた。もうかなり近づいており、既に前方に霞んで見えている。

『ふむふむ。なかなか大きな島だねぇ。町並みが見えるよ!』

 アズロットの視野を通じて視認したらしいリュウが、アズロットの脳内につぶやく。

『重複して説明しますが、その島は新大島という、組織の管理下にある島で、1つの街のような生活環境が整っています。本作戦のための対策は講じてあります』

「住人の避難とかは諸々済ませてあるんだったよな?」

『はい。着地地点から半径5キロのエリアの避難は完了しています。“魔人”による障害が生じた場合は、躊躇せずに全て排除して下さい』

 ナビゲーションによると、到着地点は島の東側の海岸となっている。

『海岸から半径5キロ圏内の人が避難してるのなら、リュウちゃん達の獲物も、その範囲内に居るってことだね?』

 リュウと全く同じ質問をアズロットも考えていたので、聞いてみることにした。

「『魔人』は島のどの辺りに居るか把握してるのか?」

『現在、東の海岸でその姿を捕捉、監視しています。あなたの着地地点のすぐ近くです。今のところ、目立った異変は見られません。あわよくば、魔人化される前に排除も可能かと』

“少女の声”が言う『魔人化』とは、『魔人』を体内に宿した人間がその気想を開放し、人外境の爆発的な力を発揮する事である。宿主が持つ気想の総量を底上げし、目視できるほどに強力で濃密な気想を体表に漂わせる状態を皮切りに、姿形が変化したり、神の力とも形容出来るような、強大な気想術を当たり前のように発動する事が出来る状態を言う。アズロットがリュウの力を完全に開放して『竜人化』した際は、前者の『変化』が起こる。

『魔人』の場合も『変化』だが、アズロットのように、人から竜に化けるのとは違う。

 アズロットは、かつて一度だけ目にしたその姿(、、、)を思い出し、背筋が凍りつくようなおぞましさを覚えた。

「――――出来ることなら、アレは二度と見たくねぇな」

『“あの女”……ちゃんと(、、、、)食いちぎるのに、リュウちゃんが一番手こずった相手だね……』

『今はまだ(、、)、人の姿です』

「『魔人』が中に居ることに、その子供(ガキ)は気付いているのか?」

『いえ。自分の中に居る存在は認識していますが、それが『魔人』であるという真実は教えていません』

「……惨いな」

『当人の、人間としての精神を考慮した結果です』

「――――殺るのは、そいつ一人だけだな?」

『はい。情報を盗まれる恐れがあるので、“魔人”の宿主の画像をお見せする事は出来ませんが、気想に敏感な貴方なら、すぐにわかるかと思います。手段は問いませんので、確実に処分をお願いします。強いてこちらの要望を言わせて頂くとすれば、苦しまないように。これは、(みな)が平等であるべきこの世界で、私達が宿主に出来る最大限の配慮です』

「――――」


『魔人よりも強力且つ精密に、不幸粒子を意のままに増幅させ、気想の均衡を乱している元凶が居る』


『魔人ですら、利用されている』


『ストロングホールド』でアズロット自身が発言した言葉が、彼の脳裏を過ぎる。

 一体誰が、何の目的でその言葉をアズロットに言わせたのか。

 何の目的で、アズロットの記憶に知識の欠片を仕込んだのか。

 その術者は一体何者なのか。

 人か。“代行者”か。人ならざる“なにか”か。

 敵なのか。味方なのか。

 少なくともその者は、アズロットよりも、リュウよりも、“少女の声”よりも、この世界の闇を知っている。

 アズロットが触覚で違和感として捉えていた、不幸粒子増加の原因を知っているはずだ。

 ならば、確かめねばならない。

“元凶”とは何なのか。

 気想の均衡を保つには、何をするべきなのか。

『謎の答えは、ぜんぶこの島にあるって気がするね』

 と、リュウが言うように、アズロットも、目的地の島に行けば全てが解ると確信する。

 何故なら、南極点で微かに感じた正体不明の気想――――アズロットの記憶に知識を植えつけた人物のものであろう気想が、島に近づけば近づくほど強まっていたからだ。

「昔は主流だった独裁制が覆って、身分の無い平等な世界になったっていう話だが、子供(ガキ)が理不尽に殺される理由が簡単に出来上がるようじゃ、平等なんて言葉は使えねぇ」

 アズロットは、いずれは己の真実を知る事になるであろう『魔人』の宿主の心情を案じて、そう呟く。

 危険な存在だから。

 周りの人が傷つくから。

 一人が犠牲になれば、他の皆は笑って暮らせるから。

 仕方がないから。

 だから、許される。

 これでは、正義の裏返しもまた正義である、と言っているようなものだ。

『誰かの苦しみの上でしか、人は幸福になれなくなってしまっているんだと思います。そういう意味では、今の世界は独裁制時代と何も変わっていないのかもしれません。独裁制度の全てを批判するわけではありませんが』

“少女の声”が言った通り、昔も今も、何も変わっていないと、アズロットは思う。

“気想の均衡を乱す元凶”

 この存在が事実であるなら、その起源こそ謎ではあるが、世界が昔も今も変わらず不条理に包まれている1つの理由になり得るからだ。

(なら、その“元凶”の野郎が望まない結果を、オレが叩き出せば良いわけか)

 アズロットは自己流の対処法を考える。

『誰もが苦しむことの無い結果(ハッピーエンド)を出そうって思ってるでしょ?』

(ああ。悪いか?)

『ううん。そんなことない。権力を持った1人の人間が、大勢の人を支配するのが当たり前だったリュウちゃん達の時代じゃ、叶わない目標だったなぁと思っただけ』

(この時代だって、やってみなけりゃわからないぜ? 人が多ければ多いほど、全員が納得のいく話を作るのは難儀なものさ)

『それでも、やるんでしょ?』

(助けてくれるか?)

『もちのろん!』

 理不尽な世界の中にも、光は在るはずだ。

 膨大な『不幸粒子(ディスティフィア)』の中で、目立つことが出来ないだけだ。

(俺達だけで大津波の中、真珠を探して集めるのは至難の技だがな、もし、この世界の()とやらがまだ生きているなら――――)

 アズロットは、これまで一度も当てにして来なかったモノへ期待を抱いた自分に失笑した。

(――――『奇跡』も、起こり得るわけだよな?)


 


 日本時間で言う所の、6月30日、17時過ぎ。

 端末のナビゲートに従い、新大島の東に位置する漁港にアズロットは降下した。

 海に面して、横一線状に埋め立てのコンクリートが広がり、その奥に古びた倉庫郡が所狭しと建ち並んでいる。コンクリートから海へと垂直に突き出る形で、3本の船着き場が存在し、アズロットは3本中、中央の1本の末端に降り立った。3本の内、向かって右端の船着場は、全幅も全長も一番長く、大型船のためであろうタラップが建てられていた。

“竜翼”は展開しているだけでも気想を消耗するので、アズロットは変化を解き、疲労の溜まった翼を一旦消失させる。

『やっと着いたねぇ』

(――――ああ。1日でこんなに飛んだのは初めてかもな)

 脳内に響くリュウの声に答えたアズロットは、背負った『竜牙』を指で軽く叩く。 

“少女の声”の情報通り、人払いは済んでいるらしく、漁港一帯の人影はゼロだった。

 船自体少ない。隅に古びた漁船が数隻停泊しているだけだ。

 想定していた、“魔人による迎撃”が取り越し苦労に終わる事を祈るアズロットは、視界から得られる情報に神経を集中する。

 港の雰囲気とは裏腹に、この島は活気があるようだ。

 内陸の方へ視線を這わせると、島の中央に聳える山の麓に沿って、コンクリート製の橋がうねるように広がり、その下には所狭しと建物が並んで街を築いている。橋の上を移動する乗り物や人影も多く、島の大きさの割に人口密度は高いと見える。

 戦場に選ぶなら、この港のような、街外れの海岸沿いか、人気(ひとけ)の無さそうに見える中央の山しかないだろう。

 つまり、戦闘の規模を極力抑える必要があるという事だ。

「とりあえず、着いたぜ?」

 今後の方針を絞り込む第一段階として、戦闘可能エリアの確認をしたアズロットは胸元の念話札に視線を落とす。

『警戒は解かないように。そこからそう遠くない位置に、標的(ターゲット)が居ます。仕事を始めてください』

「お疲れ様の一言くらいは欲しいところだな」

 冷たくあしらう“少女の声”に、アズロットは苦笑して愚痴を返すが、彼の目は笑っていない。

(…………?)

 アズロットは、体表で気想を感じ取る事が出来る。『魔人』ほどの強力な気想を宿す者が近くに居ればすぐに察知するはずなのだが、今は何故か何も感じない。

 近くに居なくとも、この島に居さえすれば、大体の位置が掴めるほどに優れたアズロットの五感に、全く引っかからないのだ。

(ヤツに既に気取られていて、気配を断たれているのか? 仮にそうだとしても、このオレがヤツの持つ悪意の気想にこれっぽっちも気付かないはずは無ぇ。近くに居るなら尚更な) 

 アズロットは、無言のまま漁港に目を走らせる。

 乳白色のコンクリートで埋め立てられた船着場に沿うようにして建ち並ぶ、物流用途と思しき倉庫は、その全てのシャッターが閉じられている。

『むむ? なにやら臭う(、、)ね?』

 リュウと同じ事を、アズロットも思った。

 錆びた鉄と潮の臭いに混じって、人の匂いが漂ってきたのだ。

 避難行動が成され、住人は遠くに移動したはずだが、今漂ってきた匂いは、近い。

(……妙だな)

 アズロットは全神経を、島の内陸側を向く己の前方へ集中させ、五感による探知を続ける。

 研ぎ澄ました神経が、人の匂いだけでなく、気想も察知した。人数は少なくとも5人。もっと居るかもしれない。

 その気想からは、明らかな『敵意』が感じ取れる。

 だが、その脅威度は、『魔人』のそれには遠く及ばない。

 問題なのは、その集団の正体だ。

『魔人』以外にも、自分に敵意を向けてくる者が居るという情報は聞いていないし、想定していなかった。

 アズロットは大罪人として捕らえられていたが、その存在も罪も、世界の歴史の闇であって、誰もが知っているわけではない。ましてこの時代、この国に、アズロットを恨んだり、彼が悪党という認識を持って成敗にやってくる者が居るとは考え難い。

 差し詰め、想定外の敵が居る理由は不明だ。

“少女の声”は、魔人によって引き起こされる全ての脅威を排除するようにと、アズロットに指示を出していたが、関係の無い人間を傷付けるわけにはいかない。

(この気想の感じ――――少しは気想術に精通のある連中っぽいな。意図的にある程度の気配を断っていやがる)

「――――おい」

 謎の敵意の正体について情報を得ようと、アズロットは小声で念話札に呼びかける。

「…………」

 応答が無い。

「聴こえてるか? どうした?」

『シカトされちゃった?』

 いつの間にか、念話札から溢れ出ていた少女の声の気想が消えている。

“想像と創造”によって、“相手と交信する”という気想が込められた念話札を扱うための基本は、“自身の額から相手に向かって、意志を込めた糸を飛ばすイメージ”で交信の“想像”を行い、札に込められた気想の補助も受けて、実際の交信を“創造”する事であるが、こちらからいくら投げかけても、何の反応も無い。

(――――参ったな。こいつは交信妨害か?)

『わからないけど、リュウちゃんは嫌な予感がしてきたよ』

(お前にそんな事言われると余計に不安になっちまうぞ……)

『交信妨害』は、念話札を初めとする、気想による遠距離コンタクトを妨害する気想術の事で、意志の交信が行われている地点、範囲、人数がある程度探知出来ないと操れない上級(スキル)である。

「誰だか知らねぇが、やってくれるな」

 アズロットは瞳だけを動かして周囲を見張るが、何の変化も起こらない。

 得体の知れない複数の敵意が漂っていて、不快だ。

(誘ってみるか)

 じっとしていても拉致があかない今の状況では、何かしらの行動(アクション)を起こさなければならない。

 アズロットは徐にその場で屈み込み、右の拳をコンクリートに押し当てた。

 両目を閉じ、丹田に力を込めると、全身が熱くなるのと同時に気想量が増していく。

 拳から地面にかけて、アズロットは気想を仕込む(、、、)

 気想は、人や物に“仕込む”事が可能だ。念話札もそうだが、“想像”の段階の気想を、対象に直接触れる事で注ぎ込み、術者が望む効力を持たせるのである。“仕込み”が済んだら、後はその仕込んだ対象物に“創造”させるだけだ。特定の条件が揃ったら自動的に“創造”が発動するように仕込む事も出来るし、術者が直接念じることで、好きなタイミングで“創造”を発動させる事も出来る。

 例えると、アズロットの毛髪に触れて、“髪が燃える”という“想像”を仕込んでおき、タイミングを見計らって“燃えろ”と念じることで、アズロットの毛髪が突如として発火するといった具合だ。

「――――これでよし」

『何を仕込んだの?』

(後でわかる。出来れば使わずに済ませたいがな)

 アズロットは強力な気想術を“想像”し、足元に仕込んだ。その際の彼の気想は、訓練された人間ならすぐわかるほどに濃く漂っていた。港の近辺に潜んでいる何者かにも感じ取れただろう。

 わざと大袈裟な気想の出し方で、相手に自分の位置をはっきり伝えて誘いをかけたのだ。

 もし魔人が居たなら、真っ先に反応するはずだ。

(さぁ、どう来る?)

 アズロットは、胸元で縛ってあった鎖を解き、大剣『竜の牙(エルド・スクーガ)』の柄を握る。

 その時アズロットは、内陸の方から何かが高速で近づく気配と音を捉えた。

 初めて耳にするその轟音は、まるで大地が小さく轟いているかのようだった。

「おいおい、何が始まるってんだ?」 

 その音の正体はすぐに現われた。

 アズロットは、街の方からこちらに向かって飛来中の物体を視認する。

 鼓膜を震わせる高音を放ちながら空を切り裂くそれは、黒い十字架のような形状をしていた。

『あの黒いのからは目立った気想は感じられないね。たぶん、刑務所で勉強した時に絵本で見た“ヒコウキ”の類だよ』

 リュウは、突如向かってきた無人機をそう分析する。

 十字架がそのまま飛んでいるかのようなデザインを施された機体は、決められたレールの上を走る列車のように、ただ真っ直ぐに飛行している。心を持たない機械らしい動きだ。十字架の――――縦棒の長い部分を先頭にした機体は、主翼として機能する横棒の他に、V字型の垂直尾翼を備えており、安定性も高いように見える。無機質な機体は瞬く間に、アズロットが立つ船着場へ迫ってきた。

 そして、アズロットがその存在理由と危険性に見当をつける間も無く、そのボディから小型物体を分離させた。

 機体下部から分離した小型物体は、例えるなら高圧の蒸気が火山の火口から一気に噴出するかのような高音と共に、無人機を上回る速度でアズロットへと特攻する。

『むむ!?』

「なんだぁ!?」

 アズロットが素っ頓狂な声を上げた次の瞬間、中央の船着場は爆炎と衝撃波によって消し飛んだ。




“基地”は、男子寮から片側二車線の外周道路に出て、徒歩で20分ほど南下した道路沿いにある。車一台が優に通れるシャッター付きの格納庫で、元は漁業組合が資材庫として使っていたものらしいが、島が『I・S・S・O』の本部として稼動を始めてからは、漁業の規模が縮小した影響もあって、空っぽの状態になっていたのだそうだ。

 そこに目をつけた寺之城は、生徒会を通して手続きを行い、件の格納庫を活動拠点として譲り受けて現在に至る。

 島の東エリアの漁港が、外周道路を挟んだ目と鼻の先に、海岸線に沿う形で約1キロに渡って広がっており、その気になれば漁港に出向いて釣り等も楽しめる物件である。

 各小隊毎に、拠点とする建物や位置は様々で、特に規則は無く、寺之城のケースのように、組織外の団体から譲ってもらったり、学校の一室であったり、自宅であったりする。噂では、小隊のメンバー同士で気想術(ソウルスキル)を駆使し合い、海中に拠点を設けた所もあるとか。

「おお、ここが潤人達の基地か!」

 シャッターの前でリルが目を輝かせた。

 基地とは名ばかりで、傷みの目立つコンクリート製のボロ格納庫だが、リルにとっては新しい冒険の世界なのか、基地という響きに心が躍るのか、とても嬉しそうに微笑んでいる。

「去年まではエアコンとか空調とか一切無かったけど、今年の春に小隊(チーム)のみんなで一稼ぎして導入したから、中はそれなりに快適よ?」

 格納庫の裏口へリルを案内しながら、咲菜美が解説する。

「寺之城先輩は、もう来てるみたいだな」

 格納庫上部の小窓から室内灯の明かりを見た潤人は、

(てか、ここまで来なくても、気がかりなことを携帯で電話して聞けば良かったんじゃね?)

 と、後の祭りを味わいながら、シャッターとは真裏に位置する裏口のドアを開けた。

 まず視界に飛び込んできたのは、格納庫中央に鎮座している一台の車。カラーはシルバーで、4ドア。大手自動車企業で知られるホンダ社の大衆向けセダンだ。テールライトの横に、ローマ字で『R』のロゴが取り付けられている。潤人はあまり詳しくないが、大衆車の中でも、『スポーティセダン』というカテゴリに位置づけされる車らしい。

 第108小隊がこれまで依頼などで稼いできた資金の大半と引き換えに、寺之城が移動用兼巡回車(パトロールカー)として購入したものだ。運転出来るのは今のところ免許を持っている寺之城だけではあるが、扱いは“第108小隊共同資産”という事になっている。

『I・S・S・O』では、高校に進学すると同時に資格取得が自由になるので、無断ではなく、申請書さえしっかり提出すれば、自動車の免許も取れるのだ。

 車の横には丸テーブルとパイプ椅子が4つ並び、既に到着していた寺之城がその一つに腰掛け、品がない事に、両足を丸テーブルの上に投げ出していた。

「おや、寿君ではないか」

 潤人は来ないと思っていたであろう寺之城が、驚きの声を上げる。

 そして咲菜美、リルと顔を合わせ――――。

「んん!?」

 リルを認識した途端、寺之城は椅子からV字開脚で転げ落ち、

(――――インクレディブル!! フィギュア顔負けの、美脚ライン! 制服の上からでも想像が容易な腹部のくびれ! 体表から放たれるオーラの、清楚の極みたること! 嗚呼! 神よ、2次元の美少女が3次元の女神に敗れる事を許容なさるのですか!?)

 と、流れゆく視界の中で思った。

「話は咲菜美から粗方聞いたけど、先輩に確認したいことがあって来ました。それで、ここにいる彼女は、英国から転校してきた――――」

「わたしの名前はリルだ。てらのじょーと言ったか? わたしは、あなたに護衛を依頼したのではないぞ? 人違いではないのか?」

 潤人の紹介を待ち切れずに口を挟んだリルは、誰の影響を受けたのかは謎だが、すっかり染み付いた男口調で一歩前に出た。

 何故か、潤人以外の護衛が居る事に対して、頬を膨らませている。

 潤人としては、護衛は多いに越した事は無いと考えているのだが。

「り、リ、リル殿下!? これは、とんだご無礼を!」

 慌てた様子で立ち上がり、ずり落ちた眼鏡を直す寺之城。

「じ、自分はですね、別の方から、貴方の身柄を護衛するよう頼まれたわけでですね、お言葉なのですが、その人違いというのは恐らく、勘違いではないかと――――?」

 ドッキリを仕掛けられた直後のように、状況を完全には飲み込めていない様子である。

 潤人は、そんな寺之城に駆け寄り、女子達に聴かれないよう耳打ちする。

「先輩、リルはかしこまった言葉遣いで接されることを望んでいません。彼女は、自分の過去にトラウマがあって――――」

「リアル王女様キターーーー! ボクはまだ顔写真しか見れていなかったのだが、等身大のボディも見事なプロポーションではないかコトブキ君! 二次元美少女を愛するこのボクをここまで興奮させるとは!」

 声量こそ抑えているものの、気性が荒い寺之城。あまりの熱気で眼鏡が白く曇っている。

「暑い! 落ち着いて! それ以上ヘンタイにならないで!」

 荒ぶる先輩を宥めようと躍起になる潤人。

「何故君は彼女と一緒だったのかね!?」

「こっちが聞きたいですよ! 生徒会長から一方的に、リルの護衛を命じられて、何故か俺の部屋に居候することになったんです!」

「なんだと!? お、王女様と、ど、どどどど同棲!?」

「その同棲って言い回し、なんかいろんな誤解を招きそうで恐いから止めてくださいよ!」

「おのれ寿君。“彼女居ない暦=年齢同盟”を結んだこのボクを差し置いていつの間にリア充に!!」

「そんな同盟知らない! とにかく、リルは堅苦しい交流は苦手なんです。フレンドリーにいかないと、嫌われますよ!?」

「――――な、なるほど。了解した。フレンドリーだな。フレンドリー!」

 寺之城は己に言い聞かせると、改めてリルに向き直った。

 リルからは、ヒソヒソ話していた寺之城がいきなり『フレンドリー!』と叫んで振り向いたように見えたに違いない。

「ボクが、小隊長の寺之城だ。108(イチマルハチ)小隊へようこそ。リル君――――と呼ばせてもらってもいいかな?」

「う!? うむ、そう呼んでもらえるとわたしも嬉しい。宜しく頼む」

 寺之城は額の汗をハンカチで拭きつつ、若干引いた様子のリルとぎこちない握手を交わす。

 この後、潤人は寺之城が、『金髪碧眼の(ナマ)王女様と握手が出来るとは。ラノベみたいな展開をマジで味わう日がボクにも来たぞ。フフフ。この手はもう洗うまい』とつぶやいているのを聞いてしまった。椅子からV字開脚で転げ落ちた時に後頭部でも打ったのかもしれない。

「ところで、水穂は?」

 本来居るはずのもう1人のメンバーがまだ来ていない事に気付いた咲菜美が辺りを見回す。

 水穂(みずほ)とは、今年の4月に108小隊に入った一年生の女の子の名前で、潤人達の後輩である。

 名前は、橙泉水穂(とうせんみずほ)という。

「あれ? 居ないのか?」

 咲菜美に言われて気付いた鈍い潤人は、格納庫の隅に据えられたデスクに顔を向ける。そこに居るものだと思っていた。

 橙泉は、小隊の召集がかかると、いつもなら1番に来て、デスクに置かれた自作パソコンに向かっているはずなのだが。

「橙泉君は、今日は来れないそうだ。何でも、本部の開発部から、無人機の試作プログラムの調整依頼があったらしくてな、今朝から本部に缶詰めなのだそうだ」

 と、やっと落ち着いたらしい寺之城が、穏やかなテンションで橙泉不在の理由を説明する。

 橙泉はコンピューターを使った情報処理能力に長けており、108小隊の中では、オペレーターの役割を担っているのだが、その実力を買われて他から助っ人の依頼を受ける事も少なからずあるのだ。

 今回もタイミングが悪く、助っ人に狩り出されていたというわけだ。

「無人機ですか?」

 気になった潤人が寺之城に尋ねると、

「ああ。これまで島の巡回に使っていた機体に改造を加えて、戦闘能力を持たせたものなんだそうだ。行く行くは、ステルス性も持たせて、有事の際の航空支援等で活躍出来るように仕上げていくらしい。わざわざ自分達で高額の費用を投じて造る以外に、他国製の物を購入する手もあるとは思うのだがな」

 高校において、この島に全部で4人居る生徒会長の一人と親しい寺之城は、組織の経済事情にも精通しているらしく、そうぼやいた。

『I・S・S・O』は、『気想抑制機関』という肩書きだが、その戦力には、気想術師の他にも、銃や航空機等の通常兵器が多く採用されている。実戦ではあらゆる戦況を考慮する必要があり、時には気想術を駆使するよりも、通常兵器を用いたほうが効果的な状況も考えられるからだ。

「時に寿君。確認したい事とは何かね?」

 寺之城が一同に椅子を勧めつつ、そう尋ねてきた。

 丁度、パイプ椅子は4つあったので、丸テーブルを囲んで全員が腰を下ろした。

「潤人の方も、生徒会長からリルを護衛するように言われているみたいなんですよ」

 咲菜美がそう切り出し、本題に入る。

「ふむ。寿君が生徒会長から受けたという例の特例任務の内容と、ボクらの依頼の内容が丸っきり同じだとはな。こんな事は今まで一度も無かったぞ」

 腕を組んだ寺之城が、思案に耽る時の渋面を浮かべる。

「先輩は、誰から依頼を受けたんですか?」

 潤人が聞くと、寺之城は額を押さえて唸った。

「んん? 誰だったかなぁ」

「え?」

 咲菜美が思わず聞き返している。

「思い出せないんですか?」

 と、尋ねる潤人の心中で、不安感が沸々と広がり始めた。

「……ああ。妙だな。思い出そうとすると頭痛が走る」

 目を閉じ、顔を顰めたままの寺之城が答える。

「とはいえ、誰かから依頼を引き受けたのは覚えているんだ。今日の昼間の話だからな。だが、その依頼主の記憶だけが、どういうわけかお留守なのだよ」

 自身の胸中で蠢いていた不安感の正体に、潤人は言葉を失った。

(――――同じだ)

 潤人が以前、自分の『持病』の正体について思案した時と。

 特定の記憶だけがすっぽりと抜け落ちていて、思い出そうとすると、それを阻害するように頭痛が起こる謎の症状。

 気味の悪さが、格納庫内を満たしていくようだ。

「頭が痛いのか?」

 リルが、座高の高い寺之城の顔を心配そうに見上げた。

「だ、ダイジョブダイジョブー、心配要らなぁい」

 金髪碧眼美少女に上目遣いで見つめられただけで心拍数がまた跳ね上がった寺之城の口調が、日本語に慣れない外国人のそれみたいになっている。

「潤人もこのあいだ、似たような事言ってなかった? 何か思い出そうとすると頭痛がするとか」

 と、咲菜美が言うのは、約2ヶ月前に潤人が小隊のメンバーに話した、“寿潤人は悪魔に取り憑かれている説”の事だろう。

 当時、潤人が皆に訴えた悪魔説の事自体は全く覚えてくれていない様子である。

「ちなみにそれ、今もだよ? 現在進行形だよ?」

 潤人は悲しみながら答える。

「君が以前言っていた、記憶障害的な話の事か。言われてみれば、ボクも今同じ状況下にあると言えるな。実に妙だ」

 腕組みをしたまま、寺之城はまた唸った。

「潤人とてらのじょーは同じ風邪をこじらせているということか?」

 寺之城から、今度は潤人の方に向き直ったリルが、潤人の額に、その清潔感溢れる白いおでこを急接近させてきた。

「うおッ!? ど、どうしたんだよリル」

 リルの両肩を押さえて仰け反る潤人。

「潤人に熱がないか確かめようとしているのだぞ? 手のひらで触るより、おでこ同士をくっつけたほうがわかり易いだろう?」

 などと、然も有りなんといった表情のリル。

 クラスメイトから、彼女居ない暦=享年のレッテルを貼られている潤人にとって、女の子と額をくっつけ合うなんて行為はどのトラブルシューティングにも載っていないイレギュラーなイベントなのだ。

 そんなイベントに突入したら、『緊張死に』とか『照れ死に』とか、新たな死因を世に残す事になるかもしれない。

 文化の違いか、と言って受け入れられるものにも限度がある。

「……」

 何故か目元に影が差した咲菜美が、無言のまま“ユラァ”と立ち上がり、テーブルの向こうから身を乗り出して潤人とリルの間に割り込むと、潤人の額に強烈なデコピンを放った。

「痛ッて!?」

 自分の身体を毎日鍛え、いじめ抜いている咲菜美は、もちろん腕力強化にも注力しており、気想術を発動すれば、指の力でさえも人間離れしたそれになる。その彼女が放つデコピンの威力は、島内最強と言っても過言ではないはずだ、と潤人は考える。

 現に、潤人は全重心が後方へ吹き飛び、見事なV字開脚で椅子ごとひっくり返った。

 状況――――悶絶。 

 何もしていないのにいきなりデコピンされ、潤人はわけがわからない中、とりあえず強打した腰と額の痛みに耐えながらフラフラと立ち上がる。 

「咲菜美まで、いきなり何しやがりますか!?」

「潤人も頭が痛くなるんでしょ? なら、ちょっと脳を揺らせば治るかと思って」

 打って変わって、キョトンとした表情の咲菜美は悪びれるどころか、拳の片方を胸の前で握り締め、その握力で関節をパキパキ言わせて潤人を見下ろす。『もっと欲しい?』とでも言いたげに。

「そんなんで治ったら医療術師(メディカラー)は要らないよ! 殺人未遂だぞ今の!」

 潤人は自分の額が陥没していない事を確認し、今日初めて神様に感謝する。

「寿君を悩ます謎の記憶障害と、ボクの記憶の欠落は、確かに症状が合致するな」

「風邪でも流行ってるんですかね?」

「――――いや、だって君は二ヶ月も前から件の症状があったのだろう? ならば単なる風邪でなく、何か治療が必要な病である可能性の方が有力だろう」

 確かに潤人は“持病”を持ってはいるが、それと記憶障害は別だ。何故なら、潤人の中に居る『悪魔』と頭痛が直接関係しているなら、症状が全く同じな寺之城の中にも、ソレが居るはずだからだ。

「そんな病があるんですか?」

 と、潤人は寺之城に尋ねる。『悪魔』という厄介な“持病”に加え、『記憶障害』、『頭痛』という新たな病の掛け持ちは御免蒙りたい所だ。

「ボクの知る限り、そんな病は聞いた事がないな。まぁ、医療術に疎いボクの知識じゃ説得するもなにもないが」

 振り出しに戻った。そう思った矢先、

「これは仮説だが――――」

 リルが切り出した。

「これは、幻術の類かも」

「幻術?」

「……」

 リルの結論に、潤人は咲菜美と顔を見合わせた。

 幻術とは、相手の視覚、触覚、嗅覚、聴覚、味覚、即ち五感に働きかけ、物事の認識を錯覚させる気想術の事で、術者は自身の気想を完璧にコントロールし、且つ正確に相手へ仕込む能力が求められる、難易度の高い術だ。

 気想をまともに扱えない潤人は無論、“仕込み”が苦手な咲菜美も会得出来ていない。

「昔、お母様から直々に、英国史の勉強も兼ねて話を聞いたことがあるのだが、幻術の中には、相手の記憶を操作できるものがあるらしいのだ」

 英国史に残る、英国近衛騎士団の中には強力な幻術師がおり、彼はその幻術で敵の記憶を操作し、敵対勢力を味方に付け、時には滅ぼして、王族を守っていた。女王から至高の勲章を与えられた彼とその一族は後世にまでその名を轟かす事になり、彼の扱う幻術は“記憶幻術(マインド・イマージュ)”と呼ばれ、史上に残る強力な幻術の一つとして恐れられた。現在、“記憶幻術”は、その危険性と人権の侵害性から、会得も使用も許されない『禁術(タブー)』の一つに登録されている。

 リルによると、件の『記憶幻術』に掛けられている人間が持つ独特の症状に、潤人達の頭痛の症状が似ているのだそうだ。

「症状が似ているからと言っても、断定は出来んな。ボクも『記憶幻術』の存在自体は知っているが、それを習得した人間が現代に居るとは考えられん。いくら『I・S・S・O』が気想術師を育成中であるとはいえ、そんな大層な禁術(タブー)を扱える人間は見たことがないのだよ。“9人の精鋭(ナイン・エース)”にすら、その能力を持つ者は居ない」

 と、寺之城の言う“9人の精鋭”とは『I・S・S・O』の中でも気想術の扱いに際立って優れた精鋭(エース)の事で、その称号を与えられた者は、訓練生含め、世界で総勢2万を数えるまでに増員された術師(スキラー)達の中で、たったの9人しか居ない。

 その内の4人は、通称“四天王”と呼ばれ、新大島本部に4つある高校に1人ずつ在籍しており、各校の生徒会長を務めている。

 潤人に無理難題を押し付けたレイラ・アルベンハイムは、実は物凄い術師なのだ。噂では、気想術の実力は“9人”の中でナンバー2だとか。

「生徒会長が、実は強力な幻術使いで、俺達に幻術を掛けたって事は考えられないですかね?」

 という潤人の問いに、

「そうか。君達2年生は会長の能力を知らんのだな。言うべきか否か……」

 寺之城はまた腕組みをして唸った。

「そう言って悩まれると余計に聞きたくなるじゃないですか」

「レイラの能力はどんなものなのだ?」

「あたしも気になるなぁ。レイラ会長が力を使ってるとこ、見たことないもの」

 潤人に続いて、リルと咲菜美も興味を示したので、寺之城はため息の後で語り出した。

「会長は、組織で随一の電撃使いでな。これは先月、実際に起こった事なんだが――――」

 寺之城は両肘をテーブルに立てて、握り合わせた拳に口元を埋めた。照明の反射で寺之城の眼鏡が光る。

「隣のクラスの猛者達が、体育の前の休み時間に女子の着替えを覗きに向かったんだ。その着替え途中の女子達の中に会長も居てな。どうやったか謎だが、彼らの偉業が、彼女の探知能力で見事にバレてしまったのだよ。そこで土下座の100連打でもやって命を乞えばまだよかったかもしれないが、彼らは“せーの”で逃走を図った――――」

 ゴクリ、と、潤人は唾を飲み込んだ。

「サイテーね」

 咲菜美の口がへの字になった。

「――――1秒未満だ」

「……え?」

 潤人は、男子達の取った行動が招く事態への恐怖に震え、力の無い声を出す。

 これ以上聞いてはならない――――そんな気がした。

「目撃者の目測1秒未満で、反抗に及んだ総勢12名の男達がレイラ1人に昏倒させられたのだ。それなりに強力な気想術を扱える、最高学年の男子12人が、だ」

 つまり。

 レイラの前で何か悪さをしようものなら、誰も逃げられずに罰せられるという事だ。

 1秒未満で。

 レイラ会長の命令に従っておいてよかったと、潤人は初めて思った。

「だがな、そんな彼女も記憶幻術を扱えるほど、幻術に長けているわけではない。会長が“黒”である可能性は低いだろう」

 と、寺之城が言うように、一人の術師が会得出来る術には限りがある。人の気想は千差万別であり、誰もがあらゆる気想術を会得出来るわけではない。いくら“想像”をしても、不向きな分野の(スキル)は“創造”までに至らない事などざらにある。訓練次第で多少は伸びるものの、一人の術師が実戦に活用可能なレベルで会得出来る分野は2つか3つが限界だ。

 例えば、咲菜美は気想を自身に“滞留”させ、身体能力を強化する能力に長けているが、“放出”は苦手で、なかなか想像通りにいかず、万炎が会得しているような、気想を他者に注入する医療術には向かない。

 潤人なんか全部向いてない。

「会長だけではない。記憶幻術という、最高難度の禁術を扱う者はこの島に居ない。つまり、誰かがボク達にそれを掛けたという可能性自体が無くなるわけだ。“外”からやってきたリル君がやったというのであれば話は別になってしまうが、そんな疑いを仲間に掛けるのはボクが許さん」

「私はそんなことしないぞ。する理由も無いし、できない」

 と、リルは首を横に振る。

「じゃあ、この記憶障害の原因は何だ?」

 と、潤人は自問自答を試みるが、

「ボケちゃったとか?」

 という咲菜美の考えに思わず納得しそうになってしまった潤人は、自分にショックを受けた。

「寿君なら有り得なくもないが、ボクは違うぞ? これはもしかすると、我々『I・S・S・O』に敵対する秘密組織の陰謀かもしれん」

 寺之城がお得意の妄想を始める。

「先輩、アニメの見すぎですよ」

 と、潤人が呆れる正面で、

「おお。日本のアニメの話か!」

 日本のアニメに興味があったらしいリルが目を輝かせた。

「リル、先輩の話は濃いから、また今度時間のある時にゆっくり聞こう。な?」

 こんな所でこんな時に1時間も2時間もアニメの話は勘弁願いたい潤人はすかさず横槍を入れる。

「先輩、あたし達帰ってもいいですか?」

「まぁそう言うな咲菜美君。たまたまボクと寿君が胴忘れをして、偶然似た頭痛を患っただけ、それで良いではないか。寿君の話を聞くに、症状はかなり長引きそうだから、明日にでも医療術師(メディカラー)に相談してみるとしよう」

 確かに、記憶の欠落と頭痛については、そう考える事しか出来ない。

 いくら探ったところで、適確な原因の抽出に至るための情報が少ないのだ。

「わたしの国の術師(スキラー)を探せば、ドイツでトレーニングを積んだ医療術のスペシャリストも居るはずだ。もし迷惑でなければ、お母様に交渉してこちらに遣わせることもできるかもしれないぞ? 病気が治るという約束は出来ないが」

 唐突に、リルがそう言った。

 その表情は真剣だ。これまでは、いつも監視がつき、身辺の世話をされ、常に助けられる側だったリルは、“困っている友達”を助ける機会に恵まれなかったのだろう。“今度は自分が人の力になりたい”という、リルの強い正義感がその瞳に宿っているように見えた。

「気持ちは有り難く頂くよ、リル君。しかしね、本当に何の変哲もないただの風邪な場合も有り得るから、まずはこの島の医療術師に診てもらってからだな」

「心配要らないわよ。潤人の頭痛はすぐ治る。馬鹿は風邪なんて引かないもの」

「あれ? 咲菜美君、それって寿君と症状が似てるボクも馬鹿って事にならないかね?」

 潤人は何やら聞こえてくる侮辱をスルーしながら、リルに耳打ちする。

「交渉するって言ったって、リルのお母さ――――女王様に俺達との事をむやみに話したら、護衛状況とかに不信感を持たれるかもしれないぞ?」

「……クラスメイトの病気をキュアしてあげたい、とお願いすれば大丈夫だろう」

 家出がバレる事の危険性がイマイチ解っていない様子のリル。

「とは言ってもな、万が一家出の事を知られでもしたら大変だぞ? 艦隊が飛んできて、強制的に連れ帰られるかもしれない。俺は確実に処刑されちゃうよ」

「家出がどうかしたの?」

 潤人の小声の一部を聞き取ったらしい咲菜美が、顔を寄せ合っていた潤人とリルの肩を叩いた。

「い、いや。何でもないよなんでも」

『I・S・S・O』上層部の公認とはいえ、情報の不要な拡散は防ぎたい潤人はそっぽを向く。

 その時だ。

 遠くから、ジェットエンジンのような轟音が聞こえてきた。

「おい、冗談だろ? まさか本当に艦隊が来たっていうのか!? 艦隊の小型機がもう俺を処刑しに来ちゃったの!?」

 慌ててシャッターを上げて外に出た潤人は、夜を知らせる藍色が深まってきた空を見渡す。

「艦隊!? 何の話だね?」

 寺之城が、潤人と並んで音の響く空を見上げた。

「――――むむ、これは無人機のエンジン音だな。橙泉君が携わっている、例の無人機だ」

 遠かった音が、あっという間に近くまで飛んできている。

「……今は巡回の時刻じゃないはずよ? 試作機が完成して、その試験飛行でもしてるのかしら?」

 パイプ椅子に腰掛けたままの咲菜美が推測した時、格納庫の上空を件の無人機が、海の方へ向かって通過した。

 かなり低い高度で飛来した黒い機体の轟音に、思わず身を半分屈めた潤人と寺之城は驚愕に押し黙った。

「――――!?」

 格納庫の上空を通過した瞬間、無人機は下腹部からミサイルを発射したのだ。突き刺さりそうな猛スピードで進むミサイルは、港の方へと飛んで行き――――。

 外周道路の先――――立ち並ぶコンテナと倉庫郡の向こうの空が、爆音と同時に、まるで日の出の如く赤く照らされた。

「何事だ!?」

 潤人の横で、寺之城が叫ぶ。

 巡回用の無人機にいくら攻撃能力を持たせたとはいえ、漁業関係者や船舶が居る港で実戦試験を行うはずがない。 

 明らかにおかしい。

 常軌を逸脱している。

 普通じゃない。

「どうしたというのだ!? 戦争か!?」

「……」

 怯えた様子のリルが潤人のYシャツを掴んできた。

 咲菜美も潤人の傍らにやって来て、突然の状況に戸惑っているのか、無言のまま、爆音がした方角を見つめている。

「このような訓練の話は聞いていない。ミサイルだと!? 何が起こっていると言うのだ」

 いつになく真剣な面持ちで、寺之城が独り言のように呟く。

 事態はそれだけに止まらなかった。

 ミサイルが着弾したであろう港の方から、小銃と思しき発砲音が聴こえ始めたのだ。それも一つではない。幾つも重なっている。

「ッ!?」

 潤人は思わず一歩後ずさった。

 今この瞬間、戦いが起こっている。

 自分達が育った島で。

 結界に守られた故郷で。

“敵”だ。

 幼い頃から、漠然とした定義をひたすら言い聞かせられてきた、いずれ潤人達“術師”が戦う定めにあるという“敵”。

 きっとそうに違いない。

 予期せぬ時に、思わぬ場所で。

 気想術(ソウルスキル)の実力はまだ、とても訓練校を卒業できる域に達していないのに。

 戦いは、無慈悲にやって来た。

 全身の毛が逆立つような寒さを感じながら、潤人は確信した。

 

 世界は、無慈悲なのだと。




ここまで読んで下さり、ありがとうございます。


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