追補編・ 『世界創造』と『I・S・S・Oの設立』について
ここでは本編で語れなかった、というかシリーズ化した際に明らかにする予定の世界創造について、『最高神』について、人間が気想術という異能を扱える理由についてを、それぞれ綴っています。
モチベーションが全く上がらず、何も書けなくなってしまい、続編をいつ書けるか目処が立っていないためです。
遠い昔、最高神は『天地創造』という気想術によって1つの世界を造った。
初めは『時の螺旋』の暗闇に、最高神の思念が存在するだけであったが、その中で“孤独”と“意欲”が生まれ、意欲から“空間”と“光”が創られた。光の下に“大地”と“影”が広がり、孤独から『神々』が創られ、初めて“姿”という概念が生まれた。
そしてそこに、神々が暮らす『世界』が誕生した。
光の下に大地と海が広がる、『天界』と名づけられたその世界で、最高神は神殿と玉座を築き、そこで神々を統治した。
ところが、ある時、最高神の独裁体制に異を唱え、権利の自由と、文明の更なる進化を求める者が現れた。
最高神はその者を反逆者として捕らえさせようとしたが、自由と進化の考えに賛同する神々はそれを良しとしなかった。
やがて神々は、永遠の安定を謳う最高神と、自由を謳う反逆者の思想に分かれ、世界の主導権を巡って対立し、争いが起こった。
最高神には『最上位』という切り札があった。
その気想術は“最高神は最高神以外の神に対し、いかなる事象も無視して塗り替え、干渉出来る”という効力を持っていた。
最高神を最高神たらしめる、侵すことの出来ない絶対的気想術。
この『最上位』によって、反逆者が率いた勢力は敗れ、最高神によって新たに創造された『下界』へと堕とされた。
下界へと堕とされた神々は、神としての力を失い、神よりも遥かに弱く、儚い有限の肉体を持つ『人間』となった。
代わりに、反逆者達の望みも叶えられた。最高神は彼らに新たな世界を与え、有限の肉体を与える事で、それまでは彼らの願望でしかなかった“自由と進化”を、“本能”という強固な概念に変換させ、『下界』の中で暮らしていくことを許したのである。
安泰を望む最高神が世界を隔てた理由は二つ。
1つは、二度と同じ事が起こらぬよう、他の神々への見せしめとして。
そしてもう1つは、『人間』という存在になった反逆者達が、神を当てにせず、自立し、自身の力で進化と発展を遂げさせるためであった。
最高神は、他の神々を遣いとして下界に送り、下界に反乱分子が現れた時は、人間の力のみで解決するよう、素質の有る選び抜いた人間達に神々の力の一部(当然、人間が扱える程度に弱めたもの)を授けさせた。
そうして、『人間』達は天界から伝えられた“善”と“悪”の定義に基づいて自らを統治し、過ちを正す考えを持った。
『下界』では、最高神によって“弱肉強食”という自然界の規律が築かれ、人間以外の生命も創られた。こうして他の生物達と共存し、食物連鎖という概念を与えられた下界の生命は、個々が生存本能を持つに至ったのである。
『天界』と『下界』。似て異なる2つの世界は、最高神が創造の際に抱いた思念を具現化したもの。つまり、『気想』という名のエネルギーの集合体である。世界に存在する全てのモノは、最高神の『気想』で構成されているのだ。
『反逆者』たちが降り立った場所は“地球”と呼ばれた。地球には『天界』と同じように、空と海と大地が備わっていた。更に地球の周りには、『下界』を象徴する“宇宙空間”が広げられ、この宇宙空間には、『最高神』の“進化の可能性”という想いが込められた。
この2つの世界を区別する法則は、“絶対”と、“無限に限りなく近い有限”、それともう1つ。
それは、最高神が人間を、“神ではない、不完全な存在”足らしめるために、『下界』にのみ創造した新たな法則。
『幸福』と『不幸』であった。
『天界』の神々は、自身が考えたことを実行に移す際、最高神が許す限り何の阻害も受けずに行動出来る。
だが、『下界』の人間が自身で考えたことを実行する際は、その行動を阻害する仕組みを創ったのだ。
阻害とは、行動をしている人間がアトランダムに選ばれ、対象となった人間が想定している、もしくは望んでいる結果を与えない事象の事を言う。
例を挙げれば、狩りのために山道を登っている人間が、土砂崩れの被害に遭って負傷し、狩りが出来なくなったり、戦場の兵士が石に足を取られ、体勢を崩した事で、飛来した矢の難を逃れて命拾いするといった具合に。
人々の感情も例外ではない。幸福と不幸の介入による阻害対象になった人間は、その考え方も、負の感情を抱き、良くない方へと巡らせる。
『幸福』と『不幸』はそれぞれ、『幸福粒子』・『不幸粒子』という気想粒子として、下界に存在する。
人間達はこの『下界』で限り有る刻を生き、幸と不幸に揉まれ、幾つも世代を変えながら、望みとして掲げた“進化”を、少しずつ遂げていく事となった。
時は流れ、個体差を持つ人間は世代を重ねる内に、気想術の素質にも差が広がり始め、ついには気想術をほとんど発動出来ない者が現れた。
完全な存在である神とは違い、人間は進化をすれば退化もする。個人の育った環境や、日々の生活習慣によっても差が生じ、気想術を発動出来ないレベルまで力が弱る事も十分有り得る事であった。
それまでは、必要なものを気想術で生み出す事が可能で、生活に何ら不自由の無かった人間達の社会に、変化が始まったのだ。
気想術を扱う能力の低い者は、高い者の協力を得なければ、不自由な生活しか出来なかった。
それを打開するために、『科学』が生み出された。
『科学』によって、気想術を持たない者が火を起こし、火で鉱石を加工して道具を作り、田畑を開発し、建造技術を発達させて城を築きあげる、新しい文明の誕生である。
一方で、気想術を持つ人間の数は衰退の一途を辿り、『下界』は科学によって支えられるようになっていった。
気想術は、その影響力を縮小し、やがて人々の記憶から遠のいていく。
この頃に気想術を扱えたのは、先祖代々から修行を重ね、強い気想を受け継いできたごく一部の一族だけである。彼らも時代の波に揉まれ、社会の影でひっそりと暮らすしかなく、『気想』は神話や古文書にその記述があるだけの『過去』になり果てた。
“人間が元々は神であった”という古来の事実も、政治の利益に利用しようとする国家や、個人の利益に利用しようとする宣教師達によって書き換えられ、人々の記憶から抹消されていった。
この頃、最大規模と言われる宗派が定めた『西暦』と呼ばれる暦に則り、世界中の人々が時を数えるようになった。
それから幾百年という月日が流れた頃。
西暦1800~2000年代。
『発電機』という新たな発明により、人間の文明は更に進化する。
電子機械の開発で人々の暮らしは目まぐるしく発展し、気想術が全く扱えなくとも、誰もが豊かに暮らす事の出来る社会が形成されたのである。
この頃にはいくつもの国と文化が構築され、宗教は複数の宗派に分かれて均衡を保つに至っていた。
もはや、『気想術』という言葉は世界中の表の歴史に関するどの記述を調べても見つからないものであった。
だが。
気想と、それを操る気想術師は生きていた。
数えられる程度の一族の中で。
国家の『最暗部』と呼ばれる、世間から隔離された『裏の世界』を管理し、継承する秘密結社の監視の下で。
忘れ去られた真実は、彼らの記憶の中に残されていた。
天界の遣いから授けられた力も滅ぶ事はなく、宿主を変え、世代を変えて継承が続き、現代に至っていた。
この時代になって、ひっそりと存在を保つ彼らのほとんどは予想だにしていなかったが、ある異変によって、気想術師の存在は大きく変わる事となった。
事は2014年、12月に起こった。
日本の首都東京の都市部で、突如謎の大爆発が起こったのだ。
東京東部が一瞬にして蒸発し、広大な廃墟と成り果てた。
数百万もの人命が失われた地獄。そこに、“ソレ”が居た。
『魔人』
それは、太古の昔に初めて“ソレ”を見た人々によって付けられた畏怖の名であり、
世界の終焉を告げる警鐘を意味する名でもあった。
『反乱分子』を抑えるべく、天界の遣いによって下界にもたらされた力の1つに、下界のあらゆるものを破壊し、滅亡させる魔の力が存在した。
『魔人』が、その力を持つ者であった。この力は、使い方次第では人類にとっても脅威と成り得る。
魔の力は、初めこそ宿主に強大な力を与えるが、徐々に宿主の心を侵食していき、もし宿主が力の制御を誤ったり、精神が耐えられなければ、心身共に乗っ取られ、見境無く破壊と死を振りまくと言い伝えられていた。
故に、魔人は代々、宿主がまだ力を制御出来る内に、次の世代に継承されてきた。
当然、継承者は魔の力に長い間耐え得る強い精神が求められる。
大都市を滅ぼした謎の爆発は、この時代の『魔人』の宿主が力の制御を誤り、或いは心を完全に乗っ取られ、力が暴走して起きた事なのか、将又、人の手によるものなのか、真実を知る者は居なかったが、幾人かの人間が、その惨劇の場に馳せ参じた。
彼らこそ、現代まで生き残ってきた気想術師。
古の時代に栄えた気想術師達の、極僅かな末裔。
現代世界に残された、“最後の精鋭”であった。
彼らの命を懸けた死闘で『魔人』は抑えられ、世界の崩壊は免れた。
魔人の暴走と、東京消滅。
この事態は世界中で問題視する声が挙がり、各国の代表による会議が召集され、世界が持つありとあらゆる技術を導入し、『気想』について新たに研究する事が決められた。そこで、『最暗部』を持つ極一部の先進国が秘密裏に研究していた、『気想粒子の観測』に関する新技術の情報が公開され、その観測によって、『幸福粒子』と『不幸粒子』の存在が科学的に確認された。同粒子への具体的な早期の対応策として、気想を操る事の出来る人間を中心にした国際組織を設立し、その組織による『幸福粒子』と『不幸粒子』の監視が挙げられ、可決された。
そして、西暦2015年、史上初となる、気想術を専門に扱う国際組織が誕生し、各地で展開を開始する。
組織の活動目的は、主に幸福・不幸両粒子を観測し、その増加により発生した問題の抑制及び、気想術を悪用する者が現われた際に、これを取り締まる事である。
結成当初、組織の構成員は、気想術を扱う事が出来る数人の能力者だけであったが、各国のサポートにより、専用施設と訓練機関が設立され、構成員の増強が行われた。
気想術を修得するための訓練は、幼少期から始めるのが一番効果的であったため、世界中から集められた孤児達が組織に動員され、一般教育から気想術に至るまでを学ぶ事となった。※先述の“専用施設”には、孤児達のための養護施設も含まれている。
この間、組織は活動の準備期間としてその存在を伏せられていたが、子供達が年を重ね、気想術を身に付け、その扱いに慣れ始めた2026年に本格稼動。その名を世界に初めて明かした。
『国際気想抑制機関(International・Soul・Suppress・Organization)』。
世界規模における気想の暴走及び、不幸粒子による被害を抑制する組織。通称『I・S・S・O』と呼ばれ、世界各地へ活動域を広げると共に、それなりの知名度も確立していった。
問題が発生した『現場』の状況によっては、組織の隊員が一般人の前で|気想術による能力を発動する事も珍しくなく、それを見た人々によって、気想を扱う者達はこう呼ばれるようになった。
『術師』と。
世界中に蔓延る不幸粒子の悲劇から人々を護る組織の誕生であった。
だが、『術師』の活動で完全に悲劇が止むわけではない。
気想術が現代社会に広まれば、その能力を悪用しようと企む者も増える。
不幸粒子の濃度を監視し、不幸粒子の濃度が高い地域を巡回して問題を未然に防ぎ、そういった処置が間に合わずに発生してしまった問題を解決の方向に導くのが『術師』の任務ではある。
ただ、『術師』もまた人間である。神々のように万能というわけではなく、有限だ。
彼らは言わば、人類が自らを行き過ぎた惨劇から守るための組織。
それが『I・S・S・O』
世界の闇に潜む不幸粒子と戦う運命にある術師たち。
その組織の中で歩む者達の生き様を記す秘史は、これからも続いていくだろう。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
『ウルトラソウル』第1弾はこの追補編をもって完結です。
次のお話ですが、いくつか書きたいプロットを組んでいる最中で、もしかすると、『ウルトラソウル』は一旦お休みして、他のお話を書くかもしれません。
機会がありましたら、読んで頂けると幸いです。
次回作については、活動報告にてお知らせ致します。
ではまた。
 




