海底遺跡:ボス戦前
十六階層に出てくるモンスターは骸骨ばかりだった。「ボーン」とか「ボーンファイター」とか、「ボーンキャプテン」とか。罠も十五階層よりやや少ないくらいの量で、暗闇、【感知】の範囲縮小、と斥候役には辛い階層だ。
通路は三~四人が横に並べるくらいの広さのため、極端に戦いづらいということはない。
十六階層のある程度歩いたところに扉を発見する。
「扉の向こうがどうなってるかはわからないなー」
「モンハウがあるって話は聞いてないけど」
「じゃあ注意して行くか」
ブレッドさんとカッサの斥候役二人とロイドさんが意見をまとめる。扉の向こうには小さな部屋があり、真ん中には椅子がちょこんと置いてあった。
「なんだこの部屋」
キーリさんが入って奥に進んでいく。そしてこちらを振り返る。
「キーリ!」
「おい! どこだみんな!」
ロイドさんがキーリさんを呼び、キーリさんは私達を探すようにして辺りを見回している。
「キーリ、そっから動いちゃだめだよー」
「わかった」
ブレッドさんの言葉で冷静さを取り戻したキーリさんは椅子の方向を向いて動きを止める。
「えーっと、みんなにはどう見えてるー?」
ブレッドさんがみんなに確認を取る。
「真っ暗だな、松明の明かりも効果がないように…」
ロイドさんが答えて、全員が同じようで首を縦に振る。つまり、ロイドさんからしてみれば奥に行ったキーリさんが見えず、キーリさんの方からも私達が見えなくなっているみたいだ。
「【視力】がないと見えないのかもねー、俺には普通に見えてるし、ってことはナギさんも【視力】持ちかなー?」
「え、あっはい」
全員が頷いているときに私が反応を示さなかったことに気づいたのか、ブレッドさんが私に話を振る。
「じゃあ部屋の中央の椅子はどう見るぅ?」
「罠…ですかね」
「じゃあ無視して、キーリを回収して次の部屋に行こう」
目の見える私達を先頭に手をつないで部屋を歩く。椅子はスルーして部屋の奥にあった通路を通る。その奥にはまた部屋があり次の階への階段があった。
十七階層は部屋のない通路だけの道を進み、十八階層に到達。
「一旦休憩しよう」
十八階層に到達してすぐの部屋で休憩を取る。
十六階層からモンスターが強くなっていくことと、十六、十七階層と明りがなく神経をとがらせながら進んできたために疲れが出てきている。
十八階層も明りがなく、松明ではなく【光魔法】で周囲を明るくしてミカちゃんが料理を作り、コウさんが武具の修復を行う。
休憩を終えるとまた移動。十八階層は「ブリっ子」などの魚介類が再び登場。暗闇に加え【感知】の範囲も狭くなっている状況で「ブリっ子」の存在は大変厄介だった。
仲間同士での打ち合いをさせられることもあって消耗も激しくなる。
今のところ私に活躍の場面はない…。狭いのでブーメランは使えず、【誘惑】によって動きを止めさせるくらいだ。
PTでの行動が増えると同時にブーメランの使用率が下がって行ってる気がするけど、今は気にしちゃだめだ。
「後ろから来てる!」
後ろを守っているのは舞浜君とクゥちゃんだ。
「ブリっ子! って多!」
「情報通りならまっすぐ進めば階段があるはずだ! 逃げるぞ!」
カッサが叫び全員で走る。大量のブリっ子相手に戦うのはまずい、下手すると同士討ちになって終わりだ。だけどスピードではかなわないメンバーもいるので【スポットライト】でブリっ子が一斉に私を見る…けど動きが止まらない。
「ナギちゃん!」
「先に行ってて!」
クゥちゃんが急に変なことをし始めた私を心配して叫ぶ。目論見が外れてもまだ私には策がある。…逃げるためのね。
…ん?
私は自分の策の確認を行ってあることに気づくと踵を返して一目散に走りだす。そして後ろから足が遅く逃げ切れそうにないコウさんとミカちゃんを抱きかかえて【ダッシュ】を発動する。
今まで上限までしか反映されなかった足の速さが格段に速くなり、前を走っていたメンバーを追い越して一気に先頭へと躍り出る。十九階層への階段まで来ると二人を下してまた走り出す。
そして逃げ遅れているメンバーを回収して走り去る。私が何をやっているのか気づいたのか【SPD補正】系のスキルを持っているメンバーも【ダッシュ】を使って逃げる。
カッサが言っていた通り階段があり、全員が揃うと十九階層へと一気に駆け上がる。
「つ、疲れたぁ」
「いやーよく思いついたねぇ」
「ほんと、今日から使えるようになったアーツがここで効果を発揮するなんて」
十九階層の暗闇に松明の明りが灯り、私が膝に手をついているところにブレッドさんとマギーさんが近寄ってくる。
「ひとまず…飯にした方がよさそうだな」
コウさんが私達の顔を見て早速料理の準備に取り掛かる。【ダッシュ】による満腹度の消費量は予想以上だった。
十九階層はアクティブモンスターと出会わず、おかげでマイペースに進むことができた。ちなみに十一階層以降は特に検証が行われておらず、特に暗闇で【感知】の範囲も狭い階層ではすべてのモンスターを把握し切れているとは言えない状況なようで、道以外は安心できない。
いよいよ全二十一階層、そして二十一階層はボスと戦う部屋だけなので、実質最後の階層、二十階層へとたどり着いた。
二十階層は急に明るくなり【感知】の範囲も通常通りなようだ。
「道間違うとモンハウがあるらしいけど、今回は回避で」
「了解」
元からボスにしか興味ないと言っているけど、あえてロイドさんは確認を取るように宣言し、全員がそれに賛成の意の返事を返す。
出現するモンスターは一階層のモンスターと同じラインナップに、一種類追加される。全てのモンスターがアクティブになる。
追加されるその一種は「バトルロブスター」。中型犬サイズのそのエビは固い殻で身を包み、はさみも大きく殴るにはうってつけと言わんばかりのにおいを醸し出している。
それが私達の前に三体。部屋の真ん中を陣取るようにしており、部屋に入る通路は私達が立っているところと奥にある扉だけ。そして奥にある扉の向こうがボス前部屋になっているので避けては通れない。
バトルロブスターが私達に気づいた、しかしその時には前衛のメンバーが走り出していた。
まずはいつの間にか大剣に持ち替えたロイドさんとキーリさん、クゥちゃんの三人で一体めがけて攻撃を仕掛ける。
他の二体はゆうくんと舞浜君が受け持つ。私とブレッドさんは入り口付近を見回し他のモンスターが寄ってこないか見張る。
早くボスのところまで行きたい。大分長い時間海底遺跡に滞在して、全員の疲労も相当なものになりつつあるので、そんな感情が渦巻いているかのようにバトルロブスターに攻撃的に挑むアタッカーの三人。
攻撃の引き際を知らないロイドさんはノーガードで殴り続け、マギーさんの魔法で一体目を倒す。そしてすぐさまプーリスさんの回復魔法を受けて全快したロイドさんとともに、アタッカー陣が次の標的へと移る。
今度はゆうくんも参加して攻撃し、相手が攻撃するときはゆうくんが盾で防ぐ。そして次の標的に移る。
しばらくして三体目も同様に倒し、部屋の奥の扉を開ける。私とブレッドさんは後ろから他のモンスターが迫ってきてないことを確認しながら部屋の奥へと向かう。
ボスのところへと向かう扉はあいているけどボス前部屋でひとまず休憩。それと一緒にボス戦の打ち合わせを行う。
「えーっとカッサくん、コウ、ブレッド、ナギちゃんの四人は戦闘ではいないと考えた方がいいのかな?」
「だろうねぇー」
カッサやコウさんは戦闘がメインのプレイヤーではないので当然として、弓矢メインのブレッドさんと投擲メインの私も水中では有効な攻撃手段がない。
「じゃあサポートで動き回ってもらおうか」
戦闘班、魔法班、サポート班に分かれて作戦を考える。といってもサポートの私達は実質アイテム要員だけど。
各々確認を終了して下に降りる階段でボス部屋へと向かう。
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NAME:ナギ
【ブーメラン】Lv28【STR上昇】Lv40【幸運】Lv42【SPD上昇】Lv39【言語学】Lv41【視力】Lv40【アイドル】Lv12【体術】Lv19【二刀流】Lv30【水泳】Lv18
SP29
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者




