交流
道幅の狭い十一階層とは違い通路が広く、すべてが大部屋にすら感じる十二階層を突破しやってきた十三階層。ここでは再び明りが必要になってくる。さらに、
「【感知】の範囲が狭くなってる」
「情報通りってところだねー」
クゥちゃんの言葉に反応を示すのは私達と最初に会話をした男性だ。彼は弓矢がメインのプレイヤーで、PTの斥候役をやっているんだそうだ。
この男性は「ブレッド」さんという名前だそうだ。
他のPTメンバーはサポート役の「コウ」さん、双斧使いのアタッカー「キーリ」さん、ヒーラーの女性「プーリス」さん。
そして魔法で暴れまわっていた(?)ローブの女性は「マギー」さんというらしい。カッサやクゥちゃんは「魔法狂」と呼んでいたからそれなりに有名な人なのだろう。
コウさん以外はよく野良でPTを組んで活動するようで、その時に知り合った野良仲間だそうだ。よさそうなPTがない、そしてメンバーの手が空いてるときはこの面子でPTを組んで行動しているらしい。クゥちゃんによると、コウさん以外の5人の誰かと同じPTになったら当たり、って言われるようなメンバーだとか。
「でも第二陣だからな、まだまだ先行組の人達とは組めないけどね」
クゥちゃんの何となく憧れ成分を感じる説明に照れたように笑いながらロイドさんが話す。装備からロイドさんはてっきりタンカーだと思っていたけど、どちらかというと大剣を振り回すアタッカーだそうで、このダンジョンではタンクもできるからと盾を構えてタンカー役を担っている。今は大剣を装備していない。
十三階層に現れるモンスターもロイドさん達のPTにはまだ楽な相手なようで、索敵が期待できないとはいえ、襲い掛かってくるモンスターを確認するや否や素早く片付けてしまう。
特に問題もなく十四階層へとたどり着いた。十階層より後は比較的アクティブモンスターが少なく温存をしやすいので助かる。
十四階層は明りは不要の階で、昇ってすぐ通路になっていた。まっすぐの一本道の先に一つの部屋がった。学校の教室ぐらいの広さの部屋で私達はここで休憩をとることにした。
「さって、俺の出番だな」
戦闘はからっきしのコウさんが自信に満ちた表情とともに携帯用料理セットを展開して料理を始める。ミカちゃんも負けじと張り合うように料理を始める。
「お、ミカちゃんも料理ができるのか」
「女のたしなみです」
コウさんの言葉に胸を張って返すミカちゃんとそれを聞いて視線を彷徨わせる他の女性陣。
「マギーは社会人なんじゃなかったのか?」
「自炊してるけど胸を張れるほどじゃないのよ」
キーリさんの問いかけに気まずそうにマギーさんは答えている。それを見たロイドさんの表情が少し青ざめていて、それに気づいたキーリさんも「しまった!」という表情になる。マギーさんには踏んではいけない地雷がたくさんあるらしい。
「よ、一丁上がり!」
「私も完成です!」
材料が無駄にならないように、二人の料理を食べて丁度満腹度が前回になるようお互いに量を調節して作られた料理が私達の前に並ぶ。
「ま、負けた…」
「うまい」
「おいしい」
ミカちゃんは敗北宣言していた。それくらいにコウさんの料理はおいしかった。もちろんミカちゃんの料理もおいしいのだけれど。
「でも俺はミカちゃんの料理の方が好きだな、これはゲームだから数値で負けてるんだよ、現実ならミカちゃんの方が断然おいしいよ!」
「精進します」
ゆうくんの猛烈なフォローにミカちゃんは慎ましく頭を下げた。そんな二人のやり取りを見て関係に気づいたらしい向こうのPTもほほえましそうにそれを見ていた。
「じゃあ次は武器の修復といきますか」
コウさんは今度は携帯用作業台を出す。
「生産者だったんだ…」
「まあね、ここは色々と消耗が激しいらしいから招集されてね、生産ばっかりやってるから料理も勝って当然さ、むしろ第三陣の、しかも戦闘もやってるような人に負けたらそれこそ問題ありでしょ」
いたずらっぽい笑みを見せながらコウさんは、ロイドさんから受け取った盾の修復作業を始める。それから次々と修復を行っていく。
「ちょっと席を外すわね」
マギーさんはそういってアバターだけを残して意識を現実世界へと戻していった。それを確認したロイドさんが私達に向かって真剣な顔で近づいてくる。
「マギーはあなた達がいるから暴れるのをやめたけど、あと一回ぐらい暴れ回らないと気が済まないほど荒れていると考えた方がいい、地雷を踏むといつスイッチが入るかわからないから気を付けてもらっていいですか?」
ロイドさんの注意に私達は頷く。それを見てふぅーっとロイドさんは息を吐いて表情を和らげる。
「すいません、迷惑かけてばかりで」
「いえ、合流したのはこっちの意志ですし、あなた方と一緒ならボスも倒せるかもしれないですから」
ロイドさんの謝罪にカッサが首を振る。情報によるとボスは攻撃力が高くて厄介だけど、水中で戦うということに順応できれば倒すのは簡単だとのこと。
マギーさんが戻ってきて、コウさんによる修復会も終了し、再び海底遺跡の侵攻を開始する。
十四階層に出てくるモンスターは「マーリオネ」一種類のみで、しかもノンアクティブという不可解なほどの緩め設計。
「しゃべらないね」
クゥちゃんがつまらなそうに呟く。クゥちゃんのつぶやきは何も変なところはない。何故なら「マーリオネ」は大きなクリオネのモンスターで、キャシーちゃん同様しゃべるんじゃないかと思うのも仕方ない。特にクゥちゃんの場合キャシーちゃんに固執している節があるし。
ちなみに「マーリオネ」の大きさはキャシーちゃんよりかは一回り小さいくらいだ。
キャシーちゃんのようにしゃべりかけてこないからといってキャシーちゃんと違って弱いとは限らないのでスルーして進む。
十五階層に着く。十五階層は再び明りが必要になり、カッサが松明に火をともす。
十一階層…いや、十階層以降罠がなかったのに、ここにきて再び罠のパレードになる。カッサは嬉々として罠の解除を行う。
「いやー、不思議なPTだねー、料理ができる人に罠が解除できる人…俺達よりダンジョン攻略本気な感じが出てるねぇ」
ブレッドさんが感心している。
「コウもいるから完璧だな、このメンバーならモンスターの強さが適正なら罠が大量で、超長いダンジョンでも余裕かもな」
キーリさんもブレッドさんの言葉に反応する。
「籠りっぱなしは嫌だけどね」
キーリさんの考えに突っ込むのはプーリスさんだ。
そんな感想を述べている三人をよそにロイドさんの顔から余裕がなくなっていき、マギーさんの顔がやや赤くなっている。何があったんだろうか。踏んではいけない地雷を踏まないようにロイドさんにコールを使って尋ねることにした。
『顔色悪いですけどどうかしたんですか?』
『い、いや、ナギさん達のPTがいてよかったと今特に思いまして、それなのに迷惑かけてばかりなのが、ね』
世話になってばかりで気まずいということだろうか。私達からしてみれば、このPTの強みはカッサの罠解除によって罠による消耗を防げることくらいで、それ以外の部分はロイドさん達に任せっきりで世話になってるのはこっちの方だと思うけど。
『ナギさん達のおかげマギーも抑えが効くし、その分を攻略で取り返そうと思っていたらここでまたお世話になってしまって…』
そういうのを向こうのPTでは考えていたらしい。
『戦闘では実際私達何もしてませんし、持ちつ持たれつじゃないですか?』
『そうですか…ありがとうございます、さすがは姫君、ですね』
『はははぁ…』
表情を和らげるロイドさんからそんなことを言われて、何が「さすが」なのかわからないけど笑ってごまかす。
「危険な罠ばっかってことか…」
「先行突破組も罠解除に長けた斥候役がいたって話だからねー」
「私達、どっちかっていうと準備不足?」
「かもな」
カッサから一通りの罠の説明を受けたロイドさん達のPTの四人は、このダンジョンにおける罠解除役の大切さを感じているようだ。
罠しかなかった十五階層のとある部屋に十六階層へと向かう階段を見つけた。
「ここから敵が強くなるって話だから気を引き締めていこう」
「「「おう!」」」
ロイドさんの掛け声に全員が返し、十六階層へと向かう階段を上っていく。
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NAME:ナギ
【ブーメラン】Lv28【STR上昇】Lv40【幸運】Lv42【SPD上昇】Lv38【言語学】Lv41【視力】Lv40【アイドル】Lv11【体術】Lv19【二刀流】Lv30【水泳】Lv18
SP29
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者




