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ナギ記  作者: 竜顔
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海本番

 プリンセスバタフライを倒した週の日曜日。


 来週の途中からまた学校が始まるために宿題をもう一度確認しておいたら地味なやり残しがあって結構時間がかかった。何故自分は中途半端にやっていたんだろうか、と少しだけ嘆く。分からないところや面倒くさいところ、その時丁度何かがあって手を放してしまったところを見事に放置しっぱなしだった。


 自分では全部やってるつもりになってしまっていたからどこをやっていないのかの確認だけでも大変だった。


 そんな事情もあって前日はあまり満足にプレイができなかった。


 前日の時点で舞浜君達の水着と、強化に出していたカップル二人の水着は揃っていたけど、私のせいで聖樹の11階あたりをうろちょろすることになってしまった。


 午前中の短いアップデートではスキルの仕様変更と実装、新たなアイテムの実装が行われた。今日実装されるまで全くアナウンスがなく、プレイヤーの間では「もっと何か隠している可能性がある」と噂している人もいるらしい。


 スキルの仕様変更では【SPD補正】系列でアーツ【ダッシュ】が追加された。補正スキル初のアーツで、内容は単純に現在反映される上限を一時的に開放するというもの。


 SPDは足の速さに影響する数値で、これまでは足の速さに反映されるのは上限があった。上限が100ならばそれ以上の数値は無駄になり、限界を突破するには魔法による強化しかなかった。しかしこれで足の速さが一時的とはいえ数値通り反映されることになった。


 実装された新しいスキルは、釣りと付加、生産と採取に関わるスキルが追加され、これでより一層街人プレイに勤しめるようになったと喜ぶ人もいるらしい。


 そしてアイテムの方は【画像珠】と【映像珠】といって、画像や映像を撮ってそれを編集、公開もできるアイテムだそうだ。SSのような画像やプレイ動画なんかは自身のPCかVR機の中に保存されるけどそれをゲーム上で公開することができなかったのができるようになったって感じかな。


 なぜアップデートの話をするのかというと…この画像珠と映像珠は海底遺跡の十階層に出てくる貝【マインドパール】のドロップの【大きな真珠】を加工することでできる、ということで…


「今日が海開きだっけ?」


「違ったと思うけど…」


 眼前に広がる人、人、人の光景に思わず問いかける。返事をしてくれたのは舞浜君だ。


「まぁ、人が多いってことは楽に進めるはずだろう」


 カッサは人が多いのは歓迎らしい。


「早くいきましょう! ナギさんのせいで昨日は行けなかったんですから」


 ミカちゃんに促されるようにして海へ足を踏み入れる。ミカちゃんの言いっぷりにクゥちゃんも苦笑いだ。


 海底遺跡に至るまでの海中でも人で溢れかえっていた。このゲームにこれほど人がいたのか、と思うぐらいの数だ。


 海底遺跡の入り口でも待たなければならなかった。水路へと入り扉を開いて吸い込まれる際にも一緒になった別のPTの皆さんと一緒になる。


「大丈夫ですか? ナギさん」


 その声に顔を上げると知らない男性だった。


「え? あ、ありがとうございます」


 その男性から差し出された手を受け取って立ち上がる。


「誰?」


「さあ?」


 駆け寄ってきたクゥちゃんからの質問に首を傾げる。


「ルージュナで騒ぎになっているときに拝見いたしまもがぁ」


「ははは、すいませんねぇ、失礼しま~す」


 その男性と同じPTのメンバーから口をふさがれてそのまま強制的に連れて行かれた。


「よっさすが有名人」


 カッサがおだてるようにして近づいてくる。


「他人事だと思ってるよね?」


「さあね、じゃあ先を急ごうか、さっきのPTでも一緒に行動できた方がいいかもしれないし」


「俺は…やめた方がいいとおも「いきましょう!」」


 舞浜君の言葉にミカちゃんがかぶせる。よっぽど先を急いでいるらしい。


 以前十階まで行ったときよりも人が多く、罠も解除されたりしたものがほとんどだったのでカッサの出番はなかった。さっきの男性がいたPTやさらに二つのPTと合流し、一緒に進む。他のPTはマインドパールに用があって十階層が目的みたいだ。


「このしんとした空気の中で…あなたのもがぁ」


 あの男性は変わらず訳の分からないことを言おうとするたびにPTメンバーから口封じにあっている。しかしめげずに私の横に近づいてきては


「もがぁ」


 表情の裏に怒りやイライラを封じ込めた満面の笑みでPTメンバーの方が連れ去る。メンバーの皆さんお疲れ様です。


「新種のモンスターがPTにいるみたいですけど、大丈夫ですか?」


 男性の動きをいち早く察知して高確率で連行していく女性に話しかけてみた。


「私達にとってはナギさんが新種のモンスターな気さえしてきますよ…魅了系の技を持ちのモンスターみたい」


 と女性は苦笑いを浮かべる。そして魅了系の技は実際に持ってるんですけどね。


 プリンセスバタフライを倒してからの数日【アイドル】はスキルLv10に到達して新たなアーツ【ステージフラッシュ】を習得した。私に釘付け状態の相手にダメージを与えるというもので、私より弱い相手なら【スポットライト】との組み合わせで普通の広範囲攻撃になるし、私より強い相手にも一対一でなら【誘惑】との組み合わせが使える。


 戦闘は前衛の人達がやってくれるので何にもせずに済んでいる。


 四階層のとある部屋の前に着いた時だった。


「ぎゃあぁあぁぁぁ、たすけてくれええぇぇ!」


「誰かぁ! いませんか!?」


 大きな声が部屋の向こうから聞こえる。


「何だ?」


「さぁ」


 一緒に行動している他のPTの人達が確認いている。感知のスキルでは部屋の中にモンスターは1体、プレイヤーが四人ほど…が三人に減ったところだそうだ。


「とりあえず入るか」


 という結論になって全員で中に入る。


「あちゃぁ」


 最初に入った人が顔に手を当てている。


「あ! 助けてくれ」


 部屋の中はすでに二人に…一人になっていた。彼らが何に襲われているかというと


「「キャシーちゃん!?」」


 私とクゥちゃんがハモる。目の前でプレイヤーを襲っているのは大きなクリオネのキャシーちゃんだった。


「あいつは強すぎる…全員で戦えば勝てるだろうけど消耗することを考えたらここはスルーな、手を出さなければ襲い掛かってこないし」


 さっき顔に手を当てていたプレイヤーが今まさにやられているプレイヤーを無視して話す。


 ほどなくして最後の一人が死に戻ってから動き始める。キャシーちゃんがあんなに怖いなんて思わなかった。


 キャシーちゃんから声をかけられたのでこちらも話しかける。そしたら以前同様にどこかへ去って行った。


 今回も目的じゃないのでキャシーちゃんのことは放置して進む。五階層からの暗闇も人が多くて全然暗くないというね。


 十階層に降りる前に装備を変える。


「「「おおお!」」」


 女性陣が水着になると男性陣から野太い声が漏れる。


「ナギさん、その白くてもがぁ」


 その不屈の魂に敬服しておいた。


 私達以外のPTは十階層が目的地なのでこれから先を目指す私達とは別れるわけだけど、皆さん次の階への入り口ぐらいまで一緒に行ってくれるということになった。


 ノックバックシュリンプによって吹き飛ばされる人がいたりマインドパールにこっそり手を出して混乱状態になる人がいたりしたけど、大きな問題もなく次の階層へと向かう階段を見つけた。十一階層からはまた上に上がっていくらしい。


 海中なので会話ができないけど手を振るなり体を使って別れを告げて十一階層へと上がっていく。


「ん」


「どうしたの?」


 クゥちゃんが難しい顔をしたので問いかける。


「上に何かいるみたい、プレイヤーでもモンスターでもない…かな」


「ゴブリンの行商人か?」


 クゥちゃんの言葉にカッサが自身の見解を口にする。


「注意して行こう」


 舞浜君の言葉に頷き装備を変更して隊列を組んでゆっくり進む。


 その先にいたのは下半身は袴、上は日本の鎧風に洋風の篭手、そして鬼の面をつけ…その身に着ける物すべてが真っ黒に染められた男性が立っていた。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン】Lv28【STR上昇】Lv40【幸運】Lv42【SPD上昇】Lv38【言語学】Lv41【視力】Lv40【アイドル】Lv11【体術】Lv19【二刀流】Lv30【水泳】Lv18


 SP29


称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者

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