余計な物
朝目覚めて、割とごたごたしてるうちに昼になった。
仕方がないのでお昼ご飯を先に食べてログイン。
ログインした直後メッセージを確認。クゥちゃんから「体調が悪いから今日は無理」と来ていた。ついでにだけどどうやらメッセージを送るのはログインしてなくてもPCやVR専用機を使えばできるらしい。遅いぞ私。
メッセージは他にもう一つ来ていて、送り主はゴブリン王だった。
<約束の件:Fromゴブリン王国>
ナギ殿、久しぶりじゃ。前会ったのはルージュナの件の後じゃったかのぅ。
その時に約束した件のこと忘れておらぬな?
先ほど訓練生がルージュナに到着したとの報告があった、あとは頼む。
ゴブリン王
聖樹で訓練するから面倒見てくれって話だったっけ。クゥちゃんもいないし問題はなさそう。ただメッセージの受信時間が結構前なんだけど…大丈夫かな。
私はポルトマリアの転移ポータルからルージュナに転移。聖樹での訓練だったはずだからと西門の前で待ってみる。いなければ聖樹に行けば会えるだろう。
すると鎧姿のゴブリン達がガチャガチャと近づいてくる。
「あ、ナギ様だ!」
一人のゴブリンが私を見つけると目を輝かせる。
「はしゃぐな馬鹿者! 遊びに来ておるのではないのだ!」
見た目では区別しづらいけどどうやら指導係らしいゴブリンに、先ほどのゴブリンが叱られている。
「失礼しましたナギ様、まだまだ緊張感がないひよっこなもので」
「あ、いえ特に気にしてませんよ」
申し訳なさそうな態度をとる教育係とその後ろで「ごめんなさい」と言っているような顔のひよっこゴブリンの姿に苦笑いしながら答える。正直ゴブリン王国の、というか王都だと囲まれて身動きが取れなくなるほどなのでこれくらいのはしゃぎ具合はかわいい程度のものだ。
「では私は教育係としてここまで彼らを護衛してきましたシーコックと言います」
教育係が自己紹介を始める。「彼ら」という時に他の全員を見ていたので彼以外はみんなひよっこゴブリンなのだろう。
ひよっこゴブリンは四人。皆ゴブリン王国の兵士ということで、盾と槍、あるいは盾と剣の組み合わせのようだ。ゴブリン族は種族の問題なのか弓矢や投擲武器といった飛び道具系の武器を装備できないようだ。
「よろしくおねがいします!」
「よろしくです」
「よ、よろ、よろしくおねがいひまひゅ!」
「よろしくおねがいします…ハァハァ」
一番最初に威勢のいい挨拶をしてくれたのが先ほど怒られたひよっこゴブリンだ。「トクシー」、「コチ」、「エーヒ」、「カーガ」というらしい。
「彼らの実力ではまだまだ2階が限度でしょうがナギ様がいれば3階や4階でもなんとかなると思います、甘やかさず、されど無茶をせぬようにしていただければ結構ですので」
シーコックさんの言い方だと私は指導役というよりは監視兼補助の役割ということだろうか。
「シーコックさんはどうするのですか?」
「他にもひよっこはいますので一度王都に戻りまだここまで護衛して来なければなりません、ですからその間だけでもナギ様が彼らの面倒を見ていただければと思いまして、王からは話はついていると聞きましたが…?」
私の質問にシーコックさんがより丁寧に答える。シーコックさんがまたやってくるまでずっと、は無理でも今日くらいは問題はない。
「あまり詳しくは聞いてなかったので…わかりました、では行ってきます」
「本当にありがとうございます、では私もこれで」
そういって去っていくシーコックさんに背を向けるようにして私達も聖樹へと向かう。
「ナギ様はどのように戦うのですか?」
トクシーはシーコックさんが見えなくなるや目のキラキラを取り戻し、私に食いつくようにして質問してくる。
「普段はブーメランかな」
そう答えると「おおー」と言われた。そんな驚くようなものでもないような気もするけど。
四人の実力がよく分からないのでとりあえず2階で、四人だけで戦わせてみる。全員が盾を構えているというのは中々の威圧感。これで迫られるモンスターも恐怖だろう。
トクシーとエーヒが剣、コチとカーガが槍を使う。四人は前にトクシーとエーヒ、その二人の隙間からコチとカーガが槍で突くという隊列を組んでいる。しかし後ろに立っている槍部隊は攻撃しづらそうにしている。
「どうでしたか! ナギ様!」
先頭が終わり感想を聞いてくるトクシー。
「えーっと、後列の二人が攻撃しづらそうだったかな」
「じゃあ次は他の隊列での戦闘を行います」
コチの合図で今度は横一列の隊列を組む。中央に剣の二人、それを挟んで槍の二人。
上から見るとアーチ状の隊列でモンスターを一方的に攻撃し、すぐに消す。
「どうでしたか! ナギ様!」
デジャヴ感がするトクシーの問いかけにもすごかったと適当に答えておく。
この調子なら上でも問題なさそうだと思って3階へと向かう。3階はキツツツキとウッドモンキーだ。
「縦列でウッドモンキーと戦ってみようか」
「「「「はい」」」」
私の提案に清々しい返事を返すゴブリン達。後輩に指導とかしたことないけどこんな感じなんだろうか、とか考えてみたり。
縦列での戦闘はやはり後列の二人が攻撃しづらそうで、その分倒すスピードも遅くなっている。でもこういう戦闘の専門家じゃないからどうしたらいいのかとかよく分からないし。
「縦列のときは前列の二人はより防御に重きを置いて、攻撃は後列の二人が槍を引く瞬間にすればもう少しスムーズに戦えるんじゃないかな」
「なるほど! さすがナギ様です!」
「確かにその方が今よりもいいかもしれませんね」
実際にはどうかわからないけど私なりの考えを述べる。反応のいい二人がそれに理解を示してくれる…一人は考えなしに肯定してるだけな気もするけど。
ゴブリン達が持っている剣は片手剣サイズのあまり大きくはないタイプで、槍の方が威力が高い。そう思っての提案だったわけだけど、割としっくりきたようで何回も縦列での戦闘を行っていた。
4階へと向かう。シーコックさんによるとここが私を含めても彼らの限界にあたるところだ。
ここでの戦闘はほとんどゴブリン達にまかせて私は【アイドル】のLv上げを優先。【誘惑】や【スポットライト】で動きを封じる。
「ナギ様! 先ほどからモンスターの動きを止めてるのはどういうからくりですか?」
私がモンスターの動きを封じてることに興味を持ったらしいトクシーが尋ねてくる。すると
「た、多分…魅了系のじょ、状態異常、だと、おも、思う」
私より先に答えたのはエーヒだった。見た目で判断はできないけど行動を見てたら彼女は女の子なようだ。そして私ではなくエーヒに答えをもらったトクシーはつまらなそうな顔をしている。
「み、【魅力】だと、思う」
「うん、そうだよ」
エーヒの推測に私は頷く。
「【スポットライト】を使ってたから…【アイドル】だな、きっと…グヘヘヘ」
カーガは危ない感じだけど…スルーしておこう。
「ナギ様は! 僕らのアイドルです!」
訳が分からない方向にスイッチが入ってしまったトクシーが叫ぶ。一応ありがとうと言っておいた。
そのあと考えなしに戦っていたら彼らが「おなかが減って力が出ない」と言わんばかりの表情になったので慌てて聖樹から出て、食事処で食事をした。
その辺の管理はきちんとするように、と注意し、私は夜ご飯の時間が迫っていたのでログアウトするために彼らと別れる。
ログアウトする直前ステータスを確認したら「ゴブリン族の友」の称号が「ゴブリン族のアイドル」に変化していた。
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NAME:ナギ
【ブーメラン】Lv26【STR上昇】Lv39【幸運】Lv41【SPD上昇】Lv36【言語学】Lv39【視力】Lv40【アイドル】Lv5【体術】Lv18【二刀流】Lv27【水泳】Lv18
SP17
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者




