第二の街に向かって①
第四エリアのモンスターの森林部分のモンスターは一癖あるモンスターが多く、「トレント」は樹木に扮し、気づかず近寄った者を襲う。「ビー」は蜂の姿をしたモンスターで巣に近づいた者を襲う。
そして、「キノミンイエロー」は黄色い木の実のような外見で、そのふりをして待ちかまえ近づいてきた者を襲う。そのため木の実採取に訪れる、生産メインのプレイヤーが頻繁に被害にあう。
複数木の実が実っている所に紛れ込むことが多く、その木の下に行ったときに上から落ちてきて襲ってくるため、護衛をつけていても周りばかり気にしていては不意を打たれ、まがいなりにも第四エリアのモンスターのため、戦闘をしないような生産プレイヤーは一瞬のうちにやられる。
また、おそらく偶然なのかもしれないが、木の実を採取できないプレイヤーなんかは、キノミンイエローのドロップで木の実が手に入るため狙うこともあるが期待通りには現れず、逆に生産プレイヤーの体感では高確率で遭遇するとのことで、第一の街のすぐ隣のエリアということも相まって嫌いなモンスターの筆頭にあげられる。
普通に街道をまっすぐ歩いていた私たちの前に木の実が生る木がある。道の左側にある木の幹は街道のちょうど上に出ていて、そこに木の実が3個生っている。エリリンさんの【感知】のスキルでこのうちのどれかがキノミンイエローであると判明している。
「うーん、これはまいったねー」
とはエリリンさん。キノミン自体は強くない、このパーティなら大したことにはならない、ただ私たちから見て右側にアントと思われる反応があるとのこと。まだこちらに気づいた様子はないそうだけど、アントは敏感なため、ここで戦闘をすればおそらく気づかれてしまうとのこと。
「平原はまた厄介なのが出るし、戦闘はできるだけ避けたいが…」
そう漏らすタクトさん、おそらく第三エリアに行ったこともない私と、第四エリアの敵からの攻撃で大きいダメージを受けてしまうウェルスさんのことを考えてるのだろう。キノミンとアントに対応していたら隊列が崩れてしまう、そうなるとある程度の消耗は避けられない。そんな表情をしている。ちなみに隊列は前にタクトさんとタケゾウさん、真ん中が私とウェルスさん、最後尾が感知が使えるエリリンさんだ。
「まぁここで足を止めるわけにもいかないし、やるか、エリリンかナギさんが撃ち落としてくれ」
「エリリンさん、あの三つのうちどれがキノミンかわかります?」
「そこまではわからないわね、範囲攻撃がないなら私が撃ち落とそうか?」
「いえ、私がやります、あのくらいの高さならたぶん大丈夫です、エリリンさんはアントが来た時に備えてください」
「わかったわ」
「では、いきます!」
そうして3個の真ん中にある木の実めがけて【パワースロー】を放つ、このアーツならおそらくダガーでも少しは広範囲に攻撃できるはずだ、おまけに正解ならある程度のダメージが期待できるし。
狙い通り真ん中に命中し、周りの二つにも纏った衝撃波が当たる――キノミンは右側だった。
ぼとっとキノミンが落ち、先ほどまでなかった目と口が現れ、ぴょんっと跳ねて来たところをタクトさんが盾で対応し、その隙にタケゾウさんが二刀流を打ち込む。
――エリリンさんが魔法を放つ。そちらに目を向けるとアントがやってきていた。また詠唱に入るエリリンさん、私もアーツのクールタイムこそ終らないが普通に投げて足止めをする。アントのターゲットが私に移ったのを知ってか否か、エリリンさんはキノミンに魔法を放つ。そしてすかさずタクトさんが私とアントの間に割り込み挑発をかける――どうやらエリリンさんはタクトさんの動きが見えていたようだ――私はタクトさんの横から顔を出すような形でダガーを投げた。
そのころウェルスさんの強化専門スキル【祈祷】のバフ(強化)の詠唱が終り、おそらく攻撃力が上がる。途端にアントがウェルスさんに標的を変え――ものすごい勢いで横から何か、タケゾウさんが現れその二つの剣を思いっきり振り切る。その直撃を受けたアントは粒子となり消え去った。
「みんな、被害はないか?」
タクトさんがポーションを飲みながら確認する。
「あるといえばある、が予想よりは無い」
そう答えるのはタケゾウさん、タケゾウさんもポーションを飲んでいる。
「ナギちゃんが期待通りの働きをしてくれたから、いつもと変わらない感じだったわね」
「ああ、第三エリアに行ったことがないと聞いて正直不安はあったが、これなら悩まずさっさと戦った方がよかったな」
エリリンさんとタクトさんがそういってくれる。火力ではなく足止めのことと、キノミンとアント両方に先手を打てたことが理由みたいだ。
「でもウェルス、バフはいらなかっただろ? 極力MPは温存しないと」
そういってタケゾウさんが諭す。
「は、はいごめんなさい、でもナギさんが…」
予定では第四エリアはアクティブモンスターの宝庫のためさっさと通過し、アクティブモンスターがいない第五エリアでLv上げ目的でちょっかいかけようということになっているので、今回の戦闘では極力消費しないのが目的だった。そのため事前にバフをかけることなく戦ったわけだ。だが――
「こちらこそすいません、心配かけてしまって」
と私はウェルスさんに謝っておく。おそらくウェルスさんは私が最初にアーツを使ったことで、いざとなったときを心配してくれたんだろう。そのために攻撃力を上げ牽制力が増すようにしようと考えたのだと思う。もちろんそのときにはタクトさんが既に私の前に入っていたし、間もなくキノミンを倒したタケゾウさんが切り捨てたわけだが。
ほかに敵がいないことを確認しながら、急いで森林地帯を抜ける。そして急に視界が開けるとそこには平原が広がっていた。遠くの方には第二の街と思しき姿が小さく、そしてぼんやりと見える…気がする。視力のスキルを習得してない私は遠視はできないのでこの表現になってしまう。
ちなみにエリア分けはマップで把握できる範囲を一区切りとしている。だから、マップ上では端っこにいても平原の真っただ中に立っていて、一歩動けばマップが差し替わり第五エリアの端っこに、また一歩動けば第四エリアの端っこにいる。
第四エリアの平原部分は小さいイノシシの姿をした「ウリボン」、大きいイノシシのボスモンスター「イノボン」、そして馬(?)の「カッタリー」、レアモンスターで馬の姿をした「チェイサー」がいる。「カッタリー」以外アクティブで、皆かなり遠くの方にいてもこちらに気づき突進してくるとのこと。ウリボンとイノボンは直進しかできないが、チェイサーはその名の通りエリアを通過しないと延々追いかけまわしてくるとのこと。
「カッタリー」については…またそのうち、あれは色々触れてはいけないものがあるに違いない。
チェイサーも出ず、ウリボンやイノボンが突っ込んでくることもなかった私たちは無事、第五エリアに突入した。
「奇妙な生き物」のことなんか忘れて、第五エリアでのLv上げだ。第五エリアに入り後ろを振り返ると、やっぱり「奇妙な生き物」が目に入るのでもう振り向かない。そうよ! 前だけ向くのよ私!
「ナギちゃん、どうかしたの? ――なんだかおかしいわよ!?」
心配してくれるエリリンさんをよそに、広がる平原に私は駆け出していた。当初の予定を覚えていたかどうかは知らない…。
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NAME:ナギ
【投擲】Lv19【STR補正】Lv15【幸運】Lv14【SPD補正】Lv11【言語学】Lv8【】【】【】【】【】
SP15
能力強化:バトルハッピー【クールタイム無視、ATK上昇(大)、ノンストップ、満腹度・渇水度維持、HP代替消費】