バカップル
舞浜君が戻ってきたけど雰囲気は変わらない。
「どうしたらいいのかな?」
舞浜君もこの状況に困っているらしい。
「とりあえず恋人二人をこっちの世界に呼び戻して、クゥちゃん達には…カウンセリング?」
私は一応の解決策を考える。クゥちゃんは恋人同士の姿を見ると途端に危険な生物へと変貌する。なにかあるんだろうか。
「おーい、聞け……」
舞浜君の言葉は暗闇の中に溶け込み消えていく。
「複数人をまとめるとか慣れてないから、ナギさんが言ってくれた方がいいかも」
自分の言葉に全く反応のない四人を見て舞浜君は自信なさげな顔をして、私を見る。
「私も慣れてないよ」
リーダーシップを持たない二人。ここで一度この状況の打破を諦め、今後のことを話す。
「恋人二人と一緒に行動するのはどうしようか?」
「この状況だと無理そうだよ?」
「だよなぁ」
別世界のカップルと、それを睨み付けるカッサと「虎」の姿を見て二人で途方に暮れる。ここで敵でも現れればひとまずなんとかなりそうだけど…骸骨以外なら。
「舞浜君、学校でも頼りにされてるからこんな時どうにかできると思ってた」
「いやいや、宿題とかノートとかくらいで、人をまとめたりするのはさすがに…」
私の言葉に舞浜君が苦笑いする。その時
――え、そんなまさか!
殺気を感じその方を向くとクゥちゃんがこちらを鋭い視線で見つめていた。
舞浜君は意を決したのか息を一度はいた後声を張り上げる。
「おい! とりあえず全員集合!」
その声に全員が一斉にこちらを向く。
「集まれって!」
そう言われて舞浜君を中心に全員が集まる。
「えーっと恋人の二人はこれからどうするんだ? 帰るのか?」
「どうしようか・・・」「「ねぇー」」
首を傾げながら見つめあう恋人二人のマイペースな様子にクゥちゃんが猛獣から魔獣に進化した気がする。そして残りの私達はポカーン、だ。
「骸骨倒せないなら帰った方がいいんじゃない?」
「「うっ」」
クゥちゃんの指摘に二人の表情が固まり、また体が震えだす。どれだけ骸骨怖いんだか。ゲームと思えば何とか乗り切れる…はず。
――恋人二人の目標が10階だったので結局一緒に行動することになった。クゥちゃんは「リア充め」と目が怖いまんまだったので「仲良く」と注意すると、そこまで本気じゃないのに、といった表情で頭をかいていた。
恋人二人は男が「ゆうくん」、女性が「ミカちゃん」という名前で…一瞬また殺気が漂うことになった。私もこういうのがバカップルというのか、と肝に銘ずる。
すると彼氏が何かに気づいたのかハッと彼女の方を向く。
「あれ? ミカちゃん杖はどうしたの?」
「あら? …落としちゃったみたい!」
とバカップルが言うので彼らが通ってきた道を優先して進むことにした。大量に骸骨を連れてきたことから下手すると結構奥まで進まなければいけないと思っていると割とすぐに見つかった。
「ここで骸骨に?」
カッサがバカップルに尋ねる。
「いえ、もっと奥でした」
とゆうくんさん…でいいのかな? が答える。どうやら杖は逃げる途中で落としたらしい。
バカップルによると骸骨に遭遇したのはある部屋に入った時だったとのこと。この階層にはモンスターが出てこず、その上罠にもかからないので、楽勝というべきか、運がいいというべきか、と思った矢先に骸骨と遭遇。
骸骨とわかるや否や、脚がもつれるのも気にせずに逃げ出したのだとか。元々の数を把握してないことと逃げる時は夢中だったということで、逃げる途中に数が増えたかどうかはわからないらしい。
バカップルの話が終わるとクゥちゃんが私の方を見て口を開く。
「そういえばナギちゃん、どうやってあれだけ一斉に骸骨の動きを止められたの?」
クゥちゃんは私が骸骨達の視線を独占…もとい釘付け状態にしたことが気になっているらしい。そういえばクゥちゃんに【魅力】を【アイドル】に進化させていることを伝えてなかったっけ。
私はスキルを【アイドル】に進化させて、それによるアビリティ【天使の魅力】で私をターゲットにしているエンカウント中のモンスターだけを釘付けにするようになったことと、新しいアーツ【スポットライト】で視線を集めることができるようになったことを教えた。
「そうなんだぁ、てっきりナギちゃんより骸骨の方が格上って判定がされてて効果がないんだと思ってたから…そういえば止まってるやつもいたね」
ノンアクティブだろうとアクティブだろうと釘付け状態にしてしまう頃を知っているクゥちゃんはそんなことを思っていたらしい。もしかしたらクゥちゃんは格上だと思って必要以上に気を引き締めて戦ってたのかもしれない。
他のメンバーもそんなスキルがあるのか、と感心する様子。
「そういうアーツとはいえよくできましたね、私だったらあれだけ多くの骸骨から見つめられるのなんて無理です」
バカップルの彼女は表情を曇らせる。私だって気分がいい物じゃないのは確かだ。
「そういえば昨日…サメと戦った時に動きが止まったのって」
「うん、【誘惑】っていうアーツだね」
舞浜君は昨日の海中で突然目の前に現れたサメとの戦いを思い返しているようだ。【誘惑】と聞いてバカップルの彼女が私の方を向く。
「誘惑ってプレイヤーにも効くんですか? さっきも使ってましたよね?」
その表情は若干ニヤついている。
ん? 何を言ってるんだろうか彼女は。PvPなら使えないこともないだろうけど、さっきも使ってた?
「だってほら、さっき舞浜さんを誘惑してたじゃないですか?」
…は?
「仲睦まじく話してたじゃないですか、あれ? もうできちゃったりしてます?」
「あ、いや俺達は別に…」
急にとんでもないことを言い放つミカちゃんに舞浜君が慌てて訂正する。
「ってことはやっぱりナギさんが――」
「違うから!」
彼女がまだ続けようとするのでちゃんと否定しておく。カッサとクゥちゃんは私と舞浜君がクラスメイトだと知ってることもあって疑わしそうな視線を向けてくるのできちんと否定しておかなければ。
「そうなんですか、傍から見たら恋人みたいでしたよ」
彼女が彼女なら彼氏も彼氏らしい。
いや、よく考えればクゥちゃんも殺気を向けてきてたっけ。クラスメイトとはいえこっちの世界でしか話したことがない人と恋人に見えるって言われても…。
五階層は時々骸骨に遭遇したけど、バカップルが逃げてきた時ほどの数はいなかった。骸骨に遭遇するたびに震えていたバカップルも、だんだん慣れてきたのか骸骨を見ても一瞬びくつくだけで動けなくなることはなくなっていった。
ミカちゃんは光魔法ばかり使うこともあってスキルもその分レベルが高く、それによる攻撃魔法で骸骨が…それこそ逃げ込んできたときの数ですらも一瞬で消し去ることができるのでは? というほどの魔法が使えることが分かり「逃げずに戦えよ!」と全員が突っ込んだ。
バカップルのラブラブトークを聞きながら私達は六階層への階段を発見。
「行く前に、食料とか大丈夫か?」
カッサが主にバカップルに向けて確認を取る。
「私料理できますから心配いりませんよ」
ミカちゃんが胸を張って答える。
「「「「え?」」」」
私達は見事に全員ハモった。
「女が料理できるなんて当たり前じゃないですか、リアルでもゆうくんにお弁当作ってあげてるんですから」
スキルの話だけではなかったらしい。ごめん、私は料理できないんだ…女だけど。
「そ、それならいいんだ、っていうか俺達も供給源がいるのは助かる」
カッサはいち早く立ち直る。バカップルの謎スペックに振り回されている気がするけど、今回ばかりは普通に喜べることだ。
食料の面で不安がなくなったと安堵して私達は下の階層へと降りていく。
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NAME:ナギ
【ブーメラン】Lv26【STR上昇】Lv39【幸運】Lv41【SPD上昇】Lv36【言語学】Lv36【視力】Lv40【アイドル】Lv3【体術】Lv18【二刀流】Lv27【水泳】Lv11
SP17
称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者




