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ナギ記  作者: 竜顔
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番外編:舞浜慎太

 俺、舞浜慎太は高校二年生になったある時、一人の女子に思いを寄せるようになった。


 彼女の名前は松木渚さんといって同じクラスになってその存在を知ったあんまり目立つタイプではない娘だ。


 俺自身女子と積極的に話すタイプではないこともあって彼女と話したことは一度もないし、彼女が男子と話している姿を見ることもほとんどない。


 というのは彼女と仲のいい友人、塚原(京子)さんと朝尾(結衣)さんの二人、特に塚原さんが割と男子と話すタイプで、基本的に松木さんが男子と話すのは塚原さん達が男子と話しているところに時折口をはさむといったぐらいだ。


 その友人二人のことは俺も知っていた。塚原さんは彼氏がいるので、その関連の男子とつながりがあったりして、その上胸が大きいことで有名だからだ。そして朝尾さんは男子からの人気No1と噂される学校のアイドルと言ってもいい存在だから、同じ学年で名前を聞いたことがないという男子はいないだろう。


 ただそんな二人と同じクラスになって、一番気になったのは「もう一人」の存在だった。


 気になった俺は高校一年の時に松木さんと同じクラスだったクラスメイトや、俺と中学が同じ友達なんかに、どんな娘かさりげなーく聞いてみたら、隠れファンが多いみたいで「お前も知ってしまったか、だが人様に、かわいいよね、なんて言いふらすの禁止だからな」と脅迫(?)を受けた…。


 朝尾さんの人気にうんざりしたり、自分では届かない高嶺の花、と朝尾さんを諦めた連中が、「あれ? 松木さんも結構可愛くね?」とか「こっちの方がタイプ」って連中が流れてくるらしい。


 お、俺は最初から…。


 三人を花でたとえるなら塚原さんは華やかに咲き誇る花、朝尾さんは凛と咲く花、そして松木さんは慎ましくも可愛らしく咲く花と言った感じだろうか。


 その三人組の話は、時々塚原さんの声が大きくなるので、聞くともなしに大体どんな話をしているのかを知ることができる。


 夏休みに入る前、塚原さんの声がかすかに聞こえて、ついその方向に意識を集中させてしまった。聞こえてきたのはちょっとしたことぐらいで、とにかく「VR」という単語はかろうじて拾えた。


 塚原さんが彼氏と一緒に「○○記」、通称「俺記」というVRMMOをやっているというのは男子のルートからも入ってきている話なので、それに関する話をしていたのだろう。


 俺も色々なVRゲームはかじってきている。「○○記」も気になっていたけど、思い立った時と新規受付期間がかみ合わず、2度のチャンスを逃していた。今度ばかりは逃すまいと随時チェックしておいたおかげで、ついにその時期が訪れてひとりでに今か今かと待っていた頃だった。


 そこでふと視線を向けると、塚原さんは松木さんに話しかけていた。松木さんもやってるのだろうか、とか一緒にできるかも、とか考えて余計に「○○記」の受付開始が待ち遠しくなったのは秘密だ。


 受付開始当日、アバターの顔は写真でなんとかして、体は適当に調整して作成。キャラネームは使いたい名前がすべて使われていたので、想像力の枯渇していた俺は自分の名字を使って何とかキャラネームを突破した。


 それで次はスキル選び、俺がイメージしたのは大切な人を盾で守る騎士。それで武器スキルは剣、他のスキルのところで盾を選んだ。この時傷ついた俺を回復してくれるのは白いローブを纏った松木さんだった。…選んだあとで、いるかどうかも分からないのに、と自分で自分に呆れたのは言うまでもない。


 基本ソロで時々野良でPTにお邪魔させてもらったり、その時仲良くなった人達と時々一緒に狩りをしたりといった感じで、贔屓の生産者もできた。


 スミフといって、最初は怖い奴だと思っていたけど話してみればいい奴で、なんでも投擲武器を置いてる店がないからと投擲プレイヤーにダガーを作って赤字気味になってたりするやつだ。


 ど素人丸出しの女の子をサポートしたこともある。エイローイベントもなんだかんだその娘と一緒に活動したけど、今では気の合う友人を見つけられたらしく、そいつらと一緒に頑張っているらしい。


 普通にオンラインを楽しんでいたある時、見つけた。彼女を…松木さんを。


 聖樹開放のときの話で掲示板やら個人ブログなんかが盛り上がっていてその時のSSに彼女の姿が映っていた。ルージュナにはいけないから俺には関係ないと思っていたのに、もし行っていたら会えたんじゃ…と後悔もした。


 でもルージュナにいるってことは俺よりもすごい可能性があるってことで、会わない方がいいんじゃないかと思いつつ、せめて追いつけるように、とより一層頑張った。


 海が開放された時、ブルジョールに行く時から一緒に行動していたカッサが海底遺跡があると知って猛烈に燃えていた。それと同時に、二人じゃそこまでたどり着けないということで、人集めをしながらアイテムの補充を行っていた。


 なかなか人は集まらず、二人で行くしかない、と思っていた時にカッサから連絡が入ったので、そこに向かった。


 カッサを見つけると同時に、心臓が止まりそうになる。何故ならカッサと一緒にいる青色の水着を着た一人の女性に見覚えがあった。そして近づくとそれが自分の知っている人であることが確かになる…。


「松木…さん?」


 第一声にこれしか言えなかった。


「舞浜…君?」


 それが松木さんとの初めての会話だった。


 それから水着姿の松木さんに興奮しっぱなしだった俺を許してほしい。砂浜で、海で、海中は俺の後ろに松木さんがいたからあんまり見れなかったけど、遺跡で扉に飲み込まれてしまった時も手を貸して優しさアピールしながら視線が胸元に行ってしまったことも許してほしい。


 彼女と一緒に行動してるらしいクゥさんにも手を貸したのは照れ隠しと、女性を思いやってますアピールのためでもある。


 遺跡の中ではタンク役で前の方を歩いていたのであんまり見てないけど、自分の後ろに水着姿の松木さんがいることにドキドキしっぱなしだったし、当初の予定通りこの盾で彼女を守っているということに感動したりしていた。


 キャラネームだし、本名言っちゃいけないしと思って「ナギさん」と呼ぶけど、呼び捨てしてる感覚になって優越感が…。


 そんな彼女が今朝、防具がないためにどうしようかと悩んでいたのを見つけて彼女のために走り回った。傍から見ればいいように利用されてるだけだけど、いいだろう?


 防具は問題なく手に入ったようで、俺は砂浜に戻って…褌を受け取って、彼女がお礼をしようとするから全力で止めた…気づかないようなのでこっそりと、ね。


 今目の前の紙を見ながら、何をやってるんだ俺は、と呆れた気持ちになっている。その紙に書かれているのはアルファベットと数字とちょっとした一言。ゲームでスクショを撮ってそれを写したものだ。


 BWHのアルファベットの意味するところは言わずともわかるはずだ。それを見て、どうというわけでもないけどBの文字に目が行く。彼女の…塚原さんよりないとされ、朝尾さんよりはあるとされる胸。


 アバターだし、とか、アバターだから気にも留めてないんじゃないのか、とか考えているが現実で見るふくらみと同じような気もする、て俺は何考えてるんだ!


 13:00にまた集合か…。


 しかしこの時の俺は知らなかった。海中にてその水着姿を後ろから好き放題眺められることを…あぁ、眺めてしまったよ、VRのおかげで中腰にならずに済んでどれほど助かったか。

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