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ナギ記  作者: 竜顔
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海中

「松木…さん?」


 私の名字をつぶやく男性…。その表情には驚きと困惑の色が窺える。


「舞浜…君?」


 私も眼前にいる男性に尋ねる。


「そ、そうだよ!」


 そういって彼は凍った表情を少し綻ばせる。


 舞浜…下の名前なんだっけ? 彼は私の高校のクラスメイトだ。特に目立つタイプではなく、基本は男子と話している姿ばかり見かける至って普通の男子。授業もまじめに聞いてるみたいで、よく宿題やらノートやらを他人に「見せて」と頼まれる姿を見かける。


 普通の男子ならゲームの一つや二つはやるだろうし、これまで私にVRを勧めた人達のことしか考えてなかったけど、それ以外の知り合いとも直接会ってしまう可能性もあるのか。


「あれ? もしかして知り合い?」


 普通に話す私達を見てカッサは少し拍子抜けといった感じらしい。クゥちゃんも驚いた様子でこちらを見ている。


「あ、えーっと、松…ナギさんとはリアルでクラスが同じで」


「へぇ~、そんな偶然もあるもんなんだなぁ~、っていうかリアルで知り合いならそう言えよ、今が旬の彼女に楽にお近づきできたのに」


 舞浜君がカッサの疑問に答え、それを聞いたカッサは感慨深そうにしている。


「で? 彼は何ができるの?」


 クゥちゃんが本題を切り出す。


「俺はタンカーだ」


「そそ、それで戦闘が苦手でひ弱な俺はこいつを頼りにしてるのさ」


 舞浜君が宿題とかノートで人から頼りにされてる姿を見てるけど、ゲームでも他人から頼りにされてしまうところに思わず笑ってしまいそうになった。どんな環境でも人から頼りにされてしまう星に生まれてきた、って感じなのかもしれない。


「じゃああとはヒーラーがいるんじゃないかな」


 PTのバランスを考えるクゥちゃんに、いやいやっとカッサ。そして舞浜君の方を向く。


「俺は【光魔法】もかじってるから、とりあえず回復魔法は使える」


「それって大丈夫なレベルなの?」


「いざとなったら俺がアイテムをつぎ込めばいいのさ」


 舞浜君は回復魔法を使えるタンカーらしい。クゥちゃんは少し不安なようだけど、カッサは心配ないといった表情だ。


「今日は様子見程度でいいと思ってるんだけど、そっちは結構ガッツリやるつもりな感じ?」


 いつまでも不安そうなクゥちゃんに舞浜君が尋ねる。


「そうだね、ここで粘っても見たくないのが目につくだけだもんね」


 そう言ってクゥちゃんはいちゃつく人たちを睨み付けている。その視線は人を殺せそうなほど鋭い。


「えっと、ま…ナギさん、水中では普通の飛び道具系の武器は命中率とか威力が下がるみたいで使えないらしい、よ」


「そうなんだ、わかった、水中ではおとなしくしとく」


 舞浜君の集めてきた情報によって、海中でのフォーメーションを決める。前はクゥちゃんと舞浜君の二人で、私とカッサは極力舞浜君から離れないように後ろに着く。どうしても水中では動きづらくなってしまうのでただ盾の後ろにいればいいという問題ではないらしい。


「じゃあ早速、本日一回目の水中探索、いきますか!」


 カッサは大下で叫びながら海へと入っていく。私達もそれに続く。


「えっと、舞浜君はこっちではなんて呼べばいいのかな?」


 そういえばまだ彼のキャラネームを聞いてなかったので尋ねると、


「えっと、そのままでいい、かな、舞浜なんだ」


 キャラの名前も「舞浜」らしい。理由を聞いたらつけたい名前がすべて使われていてこうなったそうだ。


「じゃあ最近始めたんだ」


「そうなるね、ナギさん、もでしょ?」


「うん、クゥちゃんもだよ」


 まだ浅いところで舞浜君とこっちのゲームのことで話をする。他の知り合い達は私よりも進んでいるせいもあってかどうしても「こいつはこうやって倒せ」とかばっかりで、「あれにやられたことある」とかの話ができないので、新鮮だ。


 水の高さが胸のあたりまで来たところで泳いで進む、水中でも目を開けることはできる。そのため進んでいくほど海底が遠くなっていくのを見ることができる。


『そろそろ潜っていこう』


 カッサの合図で水中へ、そこから打ち合わせ通りに隊列を組む、移動時は最前列から舞浜君、クゥちゃん、私、カッサだ。


 水中でも呼吸はできているようで、窒息する心配はなさそうだ。


 あるところを境に崖のようになっていて急激に海が深くなる、私達はその下の方へと泳いでいく。


『敵の気配あり、周囲警戒』


 カッサも【感知】のスキルを持っているようだ。


『こちらに気づいてはいない様子、そのまま進もう』


『了解』


 深く進んでいくほどプレイヤーもちらほらと見ることができる。主に戦っているモンスターはマグロやサメの姿をしたモンスターが多いようだ。


『満腹度の減りが早い!』


 クゥちゃんからの報告。水中で呼吸ができてしまう分の代償なのかもしれない。


『急いで遺跡を見つける必要がありそうだな』


 カッサは焦りを感じさせない声色。


 幸いモンスターは、海中で狩りをすることをメインにしたプレイヤーも多いので、襲い掛かってくるほど近づいてくることはない。


 と思っているときだった。


『んな!』


 舞浜君が驚きの声を上げる。何故なら目の前でモンスターが湧き出たからだ。サメだ。


『こいつはアクティブだから強制戦闘だ』


 盾を構えて戦闘態勢に入る舞浜君とクゥちゃん、私は少しでも準備ができるように【誘惑】で動きを止めておく。


『誰のおかげかわからないけどありがとう』


 舞浜君はその隙に完全に体制が整ったようだ。そしてクゥちゃんもサメに近づき引っ掻いていく。


 動き出したサメを見てクゥちゃんが退避…できず尻尾での攻撃を受けてします。


『いつものタイミングだとダメみたい』


『ダメージを受けてないみたいでよかった』


 大丈夫そうなクゥちゃんを見て舞浜君たちはほっとしている。


 サメの攻撃を盾で防ぎ弾く、それをクゥちゃんが間合いを詰めて攻撃、すぐさま退避。を繰り返す、私とカッサの出番はない。


 しばらくして倒すことに成功する、も。


『舞浜君大分HPが減ってない!?』


『むしろクゥさんが一撃くらったのにどうして無傷なのか知りたいくらいです』


 私のお退きの声に、舞浜君も困った顔だ。


『とりあえず遺跡についてからその話をした方がいいと思う、動けなくなりそうだし』


 クゥちゃんに促されて全員動き始める。


 海底に建てられた小さな建物。人が一人二人しか入れそうになさそうなその建物が移籍への入り口だそうだ。


 建物の中は地下(?)へと続く階段があった。私達はそこに向けて潜っていく。


 階段の下に広がる廊下。水に満たされ水路と言った方が正しいのかもしれない。舞浜君達の集めた情報だとどこかに陸地があるらしいのでそこで食事を取ろうということになった。


 廊下には罠が仕掛けてあり、水中でも発動するものらしくカッサを先頭にして進んでいく。時折モンスターがうようよ泳いでいるけど襲い掛かってこないので無視。


 大きな扉につきあたり、扉の横にあるスイッチを押すと扉がゆっくり開く。


『ぶぉ!』


『うわぁ!』


 水の流れのままに、私達は扉の奥に飲み込まれていく。しばらくして水の勢いが弱まり、陸地に転がされる。


「痛たた」


「大丈夫? ナギさん」


 差し出された舞浜君の受け取り立ち上がる。舞浜君はクゥちゃんの方にも同様に手を差し伸べて立ち上がらせている。


「食事の前にっと、ここでなら普通の装備でも戦えるな」


 カッサはすぐに革の鎧に装備を変える。舞浜君も装備を変更し、重たそうな鎧に顔がしっかり隠れる兜をかぶった。


 …。私はどうしようかと戸惑う。クゥちゃんも私の心情を察してくれたのか装備を変えずに心配そうにこちらを見ている。


「ん? 装備を変えないの?」


 心配そうにする男性陣に


「えっと、今はこの水着しか持ち合わせがなくて…」


 私がそういうと男性陣は目を丸くして言葉を失った。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン】Lv26【STR上昇】Lv39【幸運】Lv40【SPD上昇】Lv36【言語学】Lv36【視力】Lv40【アイドル】Lv1【体術】Lv18【二刀流】Lv27【水泳】Lv6


 SP16


称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者

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