砂浜にて
クゥちゃんは装備を水着に変える。ブルーベリーさん、ラズベリーさん、ローエスさんの三人の全員一致の見解で用意されたスクール水着だ。
普段は着物をアレンジした上着のため、知ることのできないクゥちゃんのそのスレンダーな体があらわになる。全体的に凹凸が少なく、スクール水着という見た目も相まって普段は頼もしい「虎」も幼く見える。今の私が横に並べば私の方が年上と思われそうだ。
とはいえアバタ―だ。現実のクゥちゃんが絶対にこんな体つきであるというわけではない。海でのバグの荒れ方が少しおさまったのも、そういう割り切りによるものらしい。
私達がアバター設定を行う時、何も裸のアバターをいじるわけじゃなく、初期装備に身を包んだアバターに身長やら体格やらの設定をしていじっていく。だからゲームデータに「全裸」の画像データがないと考えられ、全年齢対象である以上その可能性は高い。となれば結局「全裸」の姿が人に見られるといことはあり得ない。という考えだ。
とはいえあたかも自分の体を実際に動かしているような体験ができるVRである以上、見られた気分もそれだけリアル。完全に割り切れる人は男女問わず多くないのも事実なようだ。
クゥちゃんが水着になってすぐお互いにSp0で【水泳】のスキルを取得。これがなければそもそも海に入って泳ぐことができない。水着はあくまで水中での戦闘を可能にしてくれる装備だ。
その時に【魅力】のスキルLvが最大に達していることに気づく。
進化派生は【小悪魔】と【アイドル】の二つ。【小悪魔】は純粋により魅了系に特化したもの、【アイドル】は味方へのサポートもできるようになって幅が広がる。
両者とも消費Sp25…。禁断の果実で強制的に取得させられたとはいえ、消費Spは大分抑えられていたのかもしれない。でなければ消費Sp5で取得したスキルの進化にこれだけコストがかかるとは考えにくい。
高いコストだと思ったけどどちらもアビリティが使い勝手がいい物になるので結局【アイドル】に進化。これまでアクティブ、ノンアクティブ関係なく範囲内の格下のモンスターを釘付けにして勝手にエンカウントしていたけれど、私を狙っているモンスターにしか影響がないようになった。
【魅力】によって習得するアビリティは【魅力】、アーツは【誘惑】。【アイドル】に進化することによってアビリティの【魅力】は【天使の魅力】に進化、アーツは【誘惑】はそのままで新たに【スポットライト】を習得。周囲の敵の視線を集めることができるらしい。
【スポットライト】は敵に囲まれた時の時間稼ぎとして使えるかもしれない。…格下相手にならば。
私がスキルを扱っているうちに、クゥちゃんはメンバーを探している。…しかし砂浜という環境のせいか目につく男女がやけにカップルっぽく見えてしまう。カップルじゃないような人たちは海中にあるとされる海底遺跡の方に行っていてもういないだけかも。
クゥちゃんの顔も苦しそうだ。
「まずは盾、まずは盾、まずは盾…くぅ彼氏持ち…いやリア充爆発しろ」
クゥちゃんはぶつぶつと何かの呪文を唱えていると思ったら物騒な言葉も聞こえてきた。
「そこのお二人さん、海には入らないのかい?」
後ろから軽い感じの男性の声が聞こえる。振り向くと髪が伸びかけの坊主頭の男性がいた。
「おわ! 姫君さんじゃないですか…、それで海には入らない?」
男性は私達が振り向くと一瞬驚いていたけれど、すぐに調子を取り戻す。姫君って? とクゥちゃんに聞くと、私の二つ名らしい。なんか仰々しくて恥ずかしい。
「そっちは入らないの?」
クゥちゃんは、私が一人恥ずかしがっているのを気に留めずに話を進める。
「俺はあんまり戦闘が得意じゃなくてね、同行してくれる人探しってところだ」
両手を広げて首を振りながら男性は答える。
「人探し?」
「ああ、ブルジョールへ行くときから一緒に行動してるやつがいてな、そいつだけじゃ不安だから2~3人で動いてる連中に声をかけてるんだ、そしたら固まってるお二人さんがいたから」
私達に声をかけるに至った理由を飄々と話す。この人には行動を共にする人がいるらしい。
「こっちは盾役も回復薬もいないよ?」
「その辺はこっちで何とかなるさ」
クゥちゃんの言葉も男性は特に気にする様子もない。というか何とかなるさ、って今は何ともならないってことだろうか。
「それに男二人だけってのはいやだし、少しは華がないとな」
と男性はキリッとした表情になる。
『どうするナギちゃん?』
『ナンパ目的じゃないみたいだから別にいいんじゃないかな、私たちの目的にしてもこれからどうにでもなるだろうし、人脈を広げるのも一つの手段だと思うよ』
とコールを使って相談。男性の方もそれに気づいているのか相談が終わるのを待っている。
「じゃあいいよ、…っていいたいんだけど一緒に行動してるって人はどこに?」
「あぁ、少し街の方に行ってて今こっちに向かってるからもう少し待ってもらっていいか?」
「わかった、怪しい人だったらこの話はなかったことになってもいいよね」
「まぁ、怪しくない奴だから問題ない」
クゥちゃんの発言にも男性は動じない。
男性の話を聞く限りではそんなに長い期間行動を共にしてるとは思えないのに、その相方(?)のことを信頼しているようだ。
待ってる間に自己紹介を行う。男性の名前は「カッサ」というらしく、メインの武器は弓矢で、それでも普段戦闘をしないせいで進化には至ってないらしい。
「普段は生産者?」
「いいや違うよ、ダンジョン潜りさ」
極力戦闘を避けて罠の解除や宝箱の回収。それが普段のスタイルだそうだ。海底遺跡に興味があるのもその部分が大きいんだとか。
現在確認されているダンジョンは、第二エリアの勇者ゴブリンの村へと通じる洞窟、第四エリアにある洞窟、第六エリアにある洞窟、火山エリアにある洞窟、聖樹の五つだ。
第二エリアと第六エリアにある洞窟は他の人やPTとは接触することがないタイプのダンジョンで、入るたびにリセットされ稼ぎやすく、第四エリアと火山エリアは他のPTとの兼ね合いがあるので宝箱がリセットされておらず開けられた後のままということがあるらしい。そして聖樹は罠も宝箱も確認されていないのでやる気がないそうだ。
「ってことは海底遺跡には罠が仕掛けてある、と?」
「ああ、宝箱もあるらしいし、脱出用のアイテムが使えないっていう仕様で歩いて出るか死に戻りしかないらしい」
私の質問に目をキラキラと輝かせてカッサは話す。呼び捨てなのもため口なのも本人からそうしてくれと言われたから。
「でも、あと一人来ても四人だけど大丈夫?」
クゥちゃんの疑問には、
「まぁ任せとけ」
と特に明確な答えは返ってこなかった。
「あっ、来たみたいだな、おーい!」
カッサは連れを見つけたのか大きな声を出して呼び寄せる。一人の当然水着姿の男性が近づいてくる。
その男性が近づいてくるほど、どこかで見覚えのある姿だというのが、どこで見た姿なのか明確になってくる。
そして向こうもこちらに気づいたようで目を丸くし、
「……松木、さん?」
その口から出てきたのは、私の名字だった。
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NAME:ナギ
【ブーメラン】Lv26【STR上昇】Lv39【幸運】Lv40【SPD上昇】Lv36【言語学】Lv36【視力】Lv40【アイドル】Lv1【体術】Lv18【二刀流】Lv27【水泳】Lv1
SP16
称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者




