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ナギ記  作者: 竜顔
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海よ。

 予定通り早朝にアップデートが終了し、今か今かと待ち構えアップデート終了に合わせてログインした勇士達は、一目散にブルジョールの西にできた新たな門からポルトマリアに向かって走り出したそうだ。


 ポルトマリアは地中海をイメージする外観の港町で、街の北西は漁港があり、南西はリゾート地を思わせる砂浜が広がっているらしい。


 ポルトマリアと海のエリアは別枠と思われていたこともあって、街の中に砂浜がありそこから海へ入ることができる、というのはプレイヤー達にとってうれしい誤算だった。


 そして、海中にいるモンスターはそこそこ強いけど、浅瀬で泳ぐなら遭遇しないらしい。また、砂浜から出てくるモンスターもいるけど、蟹の姿をした第一エリアの「プニット」レベルの奴とかばかりで非戦闘プレイヤーでもなんとかなるモンスターばかりだそうだ。とはいえ一応戦うライフセイバーが砂浜を巡回しているとのこと。


 なお、ここまですべて伝聞。


 肌を焼く夏の日差しが全盛を迎えたこの頃、私と京ちゃんと結衣ちゃんの三人は久しぶりに集まってお出かけしていた。


 現在ランチ。


「全く、急に誘ってくるんだから」


 急に誘われたことで少し不機嫌な結衣ちゃん。京ちゃんから「どうせ暇でしょ?」と言われて誘われたらしいから納得。


 でも一緒に出掛けるとなったら集合場所に一番に来たのは結衣ちゃんだったりする。ちょっとしたツンデレなのかもしれない。


「まぁ、こうやって集まるのも久しぶりだからいいじゃない」


 京ちゃんが結衣ちゃんを宥める。


「そういうのは彼氏さんとどうにかすればいいんじゃないかしら?」


「あははは、たまには友達と一緒でもいいかなぁって」


 結衣ちゃんの追及にすこしごまかすような感じの京ちゃん。


「って言っても京子と渚はゲームでも会ってるんでしょ?」


 ちょっと不機嫌な結衣ちゃんはそこを気にしているらしかった。


「いや、まだ会ったことすらないけど…」


「え?」


 私の答えに結衣ちゃんは目を丸くして驚いている。


「ねぇ京子? 一緒にやろうって誘ったのって誰だったっけ?」


「さ、さあ?」


 京ちゃんに鋭い視線を送る結衣ちゃんと、あらぬ方を向いてごまかす京ちゃん。まぁ彼女はそういう人間だ。


 ――海はどうなったのかって?


 ポルトマリアに到着したプレイヤーのほとんどは、他の物には目もくれず砂浜へと向かい、さっそく水着に着替えて海へ入ったらしい。


 すると水着が消えてしまい、危ないところは視覚阻害で見えないとはいえ裸も同然な姿になってしまうというバグが発生。そのため現在は臨時メンテナンス中だ。


 しかもローエスさんのスカート事件で世に知られている視覚阻害はその部分だけはぎ取られたかのように真っ白になるのに対し、今回の視覚阻害はエイローの浴場同様湯気エフェクトとなっておりそれなりに際どかったこともあって運営に非難が集中。


 掲示板でも男女間での言い争いが行われるなど少し荒れているらしい。プレイヤー同士で気を配ってるのか少しで済んでいるようだけど。


 そんなことがあるとも知らず目覚めた朝、私に京ちゃんからいきなり「お出かけしよ♪」とお誘いがやってきた。京ちゃんは臨時メンテナンスで時間が空いたから久しぶりに友達と、と考えたんだろう。


 ランチの後にデザートを堪能、それからショッピングといってお店をぶらり。途中で最近私がゲーム内で有名になっていることを京ちゃんに茶化され、それを聞いた結衣ちゃんは「変なことに巻き込まれないようにね」としっかり者のお姉さんっぽく心配してくれた。


 久しぶりの女三人の時間を堪能し、家に帰りついたのは夕方だった。



――――――――――


 ブルジョールの西門をバックに広がるは石畳でできた街道と所々に木々が見える平原。


 私とクゥちゃんと「ベリーワーカーズ」の二人。


 結局この二人を護衛してポルトマリアまで連れて行くことになってしまった。クゥちゃんによると、私がログインする少し前まではお店の注文でそれどころではなったらしい。


 水着はポルトマリアでも手に入るので、別に二人から受け取る必要はない。だからもう少し早くログインしていれば「ベリーワーカーズ」の二人につかまることはなかった。


 つかまってしまった以上、あとは出来上がった水着が極端に変な物でないことを祈ろう。


 ちなみにどんな水着かはポルトマリアについてからのお楽しみ…だそうだ。


 バグによる男女間のいざこざももう落ち着いたようで、ブルジョールからポルトマリアへ向かう人達もお気楽な雰囲気で進んでいる。


 私は仮面があんまり意味が無いと知ってしまったので取り外している。これで誰にでも私だということがばれてしまい、気づいた人がこちらに視線を向けてきているような気がするけど、今は無視。


 そもそも第六エリアで死に戻りを重ねたこともあって仮面の耐久度の減りも激しい。一応耐久度が下がりにくい効果がつけられている防具でさえ修復してもらいたいぐらいの領域なのに。


 仮面だけさっさと修復してもらってもいいような気がしたけど、クゥちゃんは私がログインするのをずっと待ってくれていたようなのでこれ以上待たせられないと考えて、そこはお願いしなかった。


 このエリアに出現する雑魚モンスターは二種類。「ファストタートル」と「スモールエレファント」で、「ファストタートル」はゾウガメくらいの大きさの亀でその名の通り足が速い。「スモールエレファント」も「ファストタートル」と変わらないくらいの大きさの象だ。


 スモールエレファントの方がアクティブで、発生数も多く下手をすると四方八方から突進してくる象ラッシュだ。


 一緒にポルトマリアに向かっている人達が…私達の周りを取り囲み守ってくれている。


「さすがナギちゃん効果ね、ルージュナの件で目立ったから熱心なファンがついたみたいだし、それで私達の作る服を買い求める人も増えてるし」


 そんなことを言うラズベリーさんの前を歩いているのでその表情を見ることはできないけどきっと悪い顔をしていると思う。


 周りの護衛の皆様のおかげで無事にポルトマリアに到着。


 そしてポルトマリアに着くや否や質問攻めにあった。主に一緒に行動したことがあると割れている男の人達とどんな関係かとか、いろいろ。


 質問攻めの後はお誘いの嵐。自分がどれだけ強いかとか守ってあげるとかいろいろ言われたけれど、ここで声をかけられてそれに応じると変な勘違いをされてしまう危険性があるのですべて断る。


「すごい人気だとは思ってたけど、さすがにこれは想定外ね」


 質問の嵐から抜け出すと、疲れた表情のラズベリーさんがため息を一つ。そのまま砂浜へ移動。


「とりあえず、まずは水着ね、はい」


 ラズベリーさんから差し出された水着を受け取りそれを装備する。水着はビキニで、青を基調とした無難なデザインで少しホッとする。


 そしてこれまで装備していた分をラズベリーさんに渡す。


「忙しくて結局、奇抜だけどいい! て感じにならなかったわ、白も考えたんだけど青色がトレードマークみたいに思われてるらしいから」


 私のおかげで人が増えて、その結果忙しくなって遊ぶ余裕がなくなったのか、モデルとして目立ったかいがあった。


「じゃあ私達はこれで、装備は明日は無理そうだから、それ以降で」


「わかりました、っていってもしばらく海での活動が中心になると思いますから」


 そういって「ベリーワーカーズ」の二人を見送る。その背中には疲れが見えて、どこか哀愁が漂っていた。


 そして私とクゥちゃんは広大な青い海に目を向ける。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン】Lv26【STR上昇】Lv39【幸運】Lv40【SPD上昇】Lv36【言語学】Lv36【視力】Lv40【魅力】Lv30【体術】Lv18【二刀流】Lv27【】


 SP41


称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者

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