自分だけの冒険
「う~ん…こりゃ俺にも読めねぇな、俺のレベルでも足りないってことかもなぁ…にしてもナギちゃん、変なもん拾ってきたねぇ、どこで拾ってきたんだい? 図鑑なんて聞いた記憶がないが」
そういってマキセさんは私に図鑑を返す。職人さんはレシピなんかを読むのに【言語学】のスキルが必要だと聞いていたので、私よりLvが高いであろうマキセさんに図鑑が読めるか聞いてみたのだ。
「えっと…スーパーゴブリンからもらいました」
そういうととても驚いたような顔をするマキセさん、なので先ほど起こったことをすべて話すとマキセさんは、一瞬信じられないという表情だったがその顔はすぐに緩み
「いいねぇナギちゃん、なんかまさに自分だけの冒険してるって感じが、多分そんなこと誰も知らないんじゃないか!? システム上戦闘と生産は両立できるし、俺も戦闘系のスキル取って冒険に力入れてみよっかなぁ!」
そうイキイキと語るマキセさん、キラキラのエフェクトがあってもおかしくないぐらいの表情だ。そのあと言語学のスキルを上げたいと言ったら、図書館に行けばいいと、図書館の場所を教えてくれた。図書館の場所は中心街から少し西に行った所に位置し、一瞬行くのをやめようと思ってしまった。
そういえば喫茶店で別れてからジェットさんと会ってない、フレンドリストを見ればログインしてるかどうかわかるけれど――今はログインしてるみたい。ただ、昨日に続いて今日も変なメッセージがきていた。主に「ナギちゃん愛してる」のメッセージが…。向こうが今何やってるかわからない以上コールは控えた方がいいかもしれないので、メッセージでこのことを注意しておいた。
――――――――――
それから数日、昼の時間には第二エリアでウルフを狩り、夜の時間は図書館で言語学のスキルを上げていた。なんかゴブリンを狩るのは気が進まないので…ウルフさんには申し訳ないが。そろそろ次のエリアに行こうかな。
先日来週実装される新エリアの詳細が発表され、「聖樹」という大きな樹のダンジョンとのこと。そんな樹がありそうな場所なんて今のところなく、ついに北門が開門されるのか、と最近の話題は主にそれだ。まぁ、私には関係なさそうだけど。
マキセさんも来週からは南か、開門するなら北に移動するつもりらしい。また、護衛のめどがつけば第三の街に行くかもしれないと。街同士をつなぐ転移ポータルがあるものの最初は必ず直接赴かなければならないので、生産メインの人は護衛をつけてほかの街に移動する。そこには新しいレシピととかがあって色々な発見があるんだとか。
私からしてみればそれは生産メインの人にとっての壮大な「冒険」のような気もするけど、マキセさんは、そんな大したものじゃない、て言ってた。
スミフさんの方は私が東の方を中心に狩りをする間はとどまっておく、とのこと。ダガーも普通のダガーが制作できるようになったみたいで、私にとってはありがたい、一方で石採取で外れが少ないからと大目に見てもらっているけど、実際は赤字のようでなんとなく申し訳ない。
ローザさんは中心街に拠点を移してしまった。今では、第三の街に向けて南に行く人より第三の街の転移ポータルを使って行き来する人が多いんだとか。ちなみに第一の街の転移ポータルは中心街にある。
「う~ん、と」
伸びをしながら図書館を出る、やっと夜の時間が終り昼の時間が始まった。明日は終業式だし少しくらい夜更かししてもいいよね、ということで第三エリアデビューでもしてみようか。そう考えていたら
「あっ、そこの人待ってくれ!」
その声に振り返ると男性プレイヤーが立っていて目があったので、どうやら呼ばれたのは私らしい、よくみるとその後ろには三人の男女が立っていた。PTメンバーなのかもしれない。
「いきなりで申し訳ないんだが、中衛か後衛ができるか教えてほしいんだが」
「えっと、投擲がメインなので後衛ですかね」
「おお! それはよかった、またいきなりになるんだがうちのPTに入ってくれないか? 今から第二の街に向かうつもりなんだが、今の人数じゃ少し不安だから中衛か後衛ができる人を探してたんだ」
「でも私、第三エリアにすら行ったことありませんけど…」
「そうなのか!? いや、問題ない、投擲は小回りが利いて牽制に向いてるって聞くし、今回は火力役を求めてるわけでもないしな」
そうやってやりとりをしているとその男性のPTメンバーと思われる男女三人がこちらに近づいてきた。
「で、どうなった?」
いわゆる軽鎧を装備し、腰の両側に剣を納めた鞘を身に着けた男性が問いかける
「ああ、投擲メインだそうだから大丈夫だ」
そう私に声をかけてきた男性は答える。ちなみにその男性の装備は少し分厚い鎧に盾と剣、おそらくタンカー(盾役)なのだろう。
「へぇ、投擲メインだなんてめずらしいねぇー」
そういってくるのはローブを着た女性、おそらく魔法メインなのだろう。
それから第四エリアに向かう途中で軽い自己紹介が行われる。声をかけてきた男性でタンカーの「タクト」さん、腰の両側に鞘があるのがアタッカーの「タケゾウ」さん、声をかけてきたローブの女性が攻撃魔法主体の「エリリン」さん、もう一人のローブ姿の女性がヒーラーの「ウェルス」さん。
第四エリアは街道エリアといわれるように道ができている。その道の両脇を街から出てすぐは木々に覆われ、少し行くと平原が広がる、森林部分に出てくる敵には「トレント」、「アント」、「キノミンイエロー」、「ビー」がいて、全てアクティブモンスターだとか。しかしアント以外は基本移動することがないうえ攻撃範囲内に入ってこないと襲ってこないので、道に沿って歩く分には存在しないと考えて問題ないとのこと。
「いやぁ助かったよ、アップデート以降南に行く人ばかりで西側はほとんど人がいないもんだから」
そういうのはタクトさん、この四人は普段からパーティーを組んでいるらしく、一応六人PTだけどリアルの都合があわないことが多々あり、大体都合の合う四人で活動しているらしい。特にヒーラーのウェルスさんが時間があわず、普段はオールラウンドな槍使いがヒーラーみたいな役割を担ってるんだとか。今日も一緒に行く予定だったけど、その槍使いが急に時間が取れなくなったため、中衛か後衛を探していたとのこと。それで人を探すけど第二陣はもう西に用がある人は少なく――彼らは第二陣のプレイヤーらしい――第三陣も、ガッツリ派の固定PT以外西側のエリアに来る人はまだ少ないんだとか。
「第二の街で何するんですか?」
と尋ねるとタクトさんが、
「配達クエストなんだ、そのアイテムを第二の街のとあるNPCに渡すと、第二の街のマイホームを買う権利書がもらえるんだ、このクエストはPTで共有できるから渡すところまでついて来ればナギさんも権利書がもらえるよ」
と答えてくれる。なるほど、第一の街以外にもマイホームが持てるのか。
「第二の街ってどんなところなんですか?」
「う~ん、キラキラしてるわけじゃないけど華やかな街ね、高価なドレスやらデザイン性に富んだ装備やら、NPCでも貴族やらお金持ちやらをよく見かけて優雅な生活を楽しむにはもってこいみたいな、夜の時間は舞踏会が行われて玉の輿プレイができるかもって女性プレイヤーや、かわいい姫をゲットするんだという男性プレイヤーが躍起になってるわね、…まぁファッション重視の人で、特にナギちゃんみたいに軽装備の人は純粋に街の防具屋さん目当てだけど」
そう熱く語るエリリンさん、エリリンさんは顔立ちは少し大人だけど、口調は所々京ちゃんに似ていてイケてる女子みたいな雰囲気だ。
「一度行ったことがあるみたいな言い方ですね」
「行ったことあるわよ?」
どうやら彼らの中で第二の街に行ったことがないのはウェルスさんだけで、今回の目的はクエストとウェルスさんを第二の街に連れて行くことの二つだそうだ。
私にとってはクエストよりも、第二の街に行けることの方がおいしい、リアルラックに自信はないけどこれはラッキーなことだろう。そう思いながらPTメンバーとともに道を進んでいく――
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NAME:ナギ
【投擲】Lv18【STR補正】Lv13【幸運】Lv9【SPD補正】Lv9【言語学】Lv8【】【】【】【】
SP11