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ナギ記  作者: 竜顔
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荒野の狩人

 威勢よく駆け出すクゥちゃんの手に武器はない。と言っても彼女は体術のスキル、あるいはその進化先のスキルを取得しているから大きな問題ではない。とはいえその分攻撃力は下がってしまうはずなんだけど。


 クゥちゃんはすぐさま「ジャッカル」を見つけて、向こうがこちらに気づき直進、そしてそのまま肘打ちを食らわせジャッカルは宙へそこを狙って私は、ブーメランを投げる。ザシュッとブーメランで切った後クゥちゃんは落ちてくるジャッカルをつかみ、背負い投げで思い切り地面に叩きつける。


 叩きつけられ、気絶状態のジャッカルをまたつかみ上げ、帰ってきたブーメランに切らせる。


 ――そして、そこからクゥちゃんは殴る蹴るつかむ叩きつけるを繰り返し、私はブーメランを投げつつ他のモンスターに気を配っていた。


 しばらくしてジャッカルは光となって消えていく。


「つ、疲れるね、やっぱり」


 クゥちゃんは膝に手を当てて呼吸を整えている。何故武器も使わずに挑んだのかよく分からない。


「どうして武器をつけなかったの?」


「それは、ちょっと確認したくて」


 私の疑問に答える顔はどこかイタズラっぽい表情だった。


「確認? 何を?」


「ん、掴んだり投げたりってどんな感じかなと思って」


 クゥちゃんはモンスターを掴んで投げることを確認したかったらしい、ここにきてなぜなのか、という疑問がまた私の頭に浮かぶ。しかしクゥちゃんは気にする様子もなく何かしている。


「ジャジャーン」


 そういってクゥちゃんが私に見せびらかしてくるそれは、篭手…に爪がついたものだった。


「それって」


「そ、さっき作ってもらった私の新しい武器、これで手のひらが自由に使えるようになったから、どれくらい爪に頼ればいいのか気になって」


 クゥちゃんが「Berry Workers」にいた用事がこれだったらしい。そして、おそらく私をブティックで待たせているときに受け取ったのだろう。私にこうやって見せるために。


 今までのクゥちゃんの武器では持ち手部分を掴んでなければならなかったために手が不自由だった。しかし今回のは篭手の手の甲の先あたりから爪が出ているタイプなので、少し爪が邪魔になるといっても手が自由に使える。そのため掴んで投げるをやっていたんだろう。


「でも、別にここで、しかも武器もつけずにやらなくてよかったんじゃない?」


「ここから先の敵に対峙するために作ったんだから、掴んだ時に爪がどのくらい邪魔になるかとか、投げ技がここの敵にどれくらい有効なのかとか調べたかったから」


 ちょっと申し訳なさそうな顔をしながら、クゥちゃんは武器も装備せずに敵に突っ込んだ理由を教えてくれた。


 気を取り直して狩りへと出る。今度も標的はジャッカルだ。


「さっきより楽に戦えるはずだよ」


 そう言い放つと同時にクゥちゃんは駆け出す。ジャッカルも気づいて直進してくるところを肘打ちで宙に飛ばし、掴んで地面に叩きつける。そこから爪で切り刻んでいく。


「うわ」


 クゥちゃんめがけて上から大きな物体が飛んできた。「狩人殺し」だ。私はすぐさまブーメランを投げて注意をひきつける。ターゲットを私に変えた狩人殺しは低空飛行で私に向かってくる。


 【パワフルスロー】でダガーを投げて少しでも到着を遅らせようとするも勢いは止まらず、【誘惑】で釘付けにして、そのうちにブーメランが戻ってくる。


 ハイエナが近づいてきているのが見えた。このままではまずい、ボスと私では確実にボスを優勢とみてボス側に味方するだろう。


 クゥちゃんの援護は諦めてとりあえず狩人殺しに集中する。


 【ファストスロー】という今まで使いどころがよくわからなかった【投擲】のアーツでブーメランを投げる。ものすごいスピード狩人殺しを切り、釘付け状態が解けたと思った瞬間に帰ってきてもう一発。


 ハイエナを範囲内にとらえ、【サークルスラッシュ】で範囲攻撃。そして竜巻をおこしてダメージを与え、わずかに足止めができるアーツ【旋風刃】を発動し、狩人殺しとハイエナをとらえる。


 その隙にクゥちゃんを確認すると、2匹のジャッカルに囲まれていた。先ほどのジャッカルは倒したらしくそのドロップは入ってきていた。


 とても話ができる状況じゃなければ逃げるのもままならない。


 竜巻が消えるとハイエナと狩人殺しが動き始める。クールタイムが終了している【誘惑】で狩人殺しを釘付けにする。とりあえずボスを止めてハイエナを消さなければ話にならない。


 動きながらハイエナの顔めがけてダガーを投げる。うまく当たってくれて一瞬怯ませることに成功するも、


「ナギちゃん!」


 クゥちゃんの叫び声が聞こえる。私の背後から足音、また別のモンスターがやってきたのだ。後ろを振り向くと「レオ」だ。とびかかってくるレオに咄嗟の反応で巴投げのようにして投げ捨てる。


 ただ受け流しただけのようになったみたいで、レオにダメージを与えられず。迫ってきているハイエナを避けながら蹴りを一発かます、スキルのLvが低いので大したダメージにはならないけど距離を取るには十分だ。


 そしてその隙を狙ってくるレオにダガーを投げて顔面に命中、そして……いない!?


「あっ」


 脳天直撃で即死。何がって? 狩人殺しの嘴が。レオからハイエナに視線を移す途中狩人殺しがいなくなっていることに気づいた。いつのまにか釘付けが解け、私の頭上高くに飛んでいたのだろう。そして気づいた時には私めがけて急降下してきて、私は即死。


 蘇生薬を使ってもどうせすぐに死ぬだけなので勿体ないから使わない。


 私を殺した狩人殺しはすぐさまクゥちゃんのところへ、ハイエナもレオも一旦エンカウントが切れた状態になるも、クゥちゃんに気づき襲い掛かっていった。


――――――――――


「まぁ、だめだったね」


 クゥちゃんは笑顔で私に話しかける。結局クゥちゃんも狩人殺しの脳天直撃攻撃で即死。二人そろってデスペナルティ中だ。


「第六エリアってあんな難易度なのにまともにヴォルカにたどり着ける人ってすごいね」


 私は正直な感想を漏らす。気づけば周りは猛獣だらけ。第四エリアはアクティブモンスターの宝庫と言われてると聞いたけど、それすらもかわいく見える凶悪さだ。


「あはは、第六エリアは適正レベルくらいだとタンカー二人必衰らしいからね、ボスがいるときは」


 クゥちゃんの言い方からして、ボスがいなければ…あるいはボスが他のPTと戦っていなければ私達二人では不可能ということになる気がするんだけど。


「第六エリアに入ってすぐのあたりに寄ってくると思わなくて」


 私の考えが分かったのかクゥちゃんは申し訳なさそうに笑いながら無謀に挑戦した理由を話す。第六エリアは現在、北エリアと一括りにされているビギ~ルージュナ・ゴブリン王国間の次に広い。


 ゴブリン王国に行くときも、ルージュナに行くときも、その北エリアを通ったけどボスモンスターに遭遇することはなかった。それより幾分か狭いとはいえエリアに入ってすぐボスモンスターに遭遇するとは考えづらいのは事実。


「でもこれで、ボスと戦わずに済んでもボク達二人じゃヴォルカまで難しいことが分かったね」


 クゥちゃんの言うとおり気づけば囲まれる以上、現状では一対一、二が限界な私達では先に進むのは難しい。前衛、後衛の違いがあるとはいえソロ中心にやってきた私達二人ではノーガードになりがちだ。


「ブルジョール目指して固定が増えてるけど、ブルジョールに着いた人たちは解散してるらしいから海が開放されたらボク達と同じくらい、というか第三陣の人達と積極的に関わろうよ」


「わかった、お互い同期の友人が少ないからね」


 いつのまにか、私たち二人はこれまで先輩プレイヤーに連れて行ってもらっていた他の街に、自分の、自分と力が拮抗する人たちと一緒に「他の街」、当面はヴォルカに行くことが目標になっていた。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン】Lv25【STR上昇】Lv39【幸運】Lv39【SPD上昇】Lv35【言語学】Lv36【視力】Lv40【魅力】Lv30【体術】Lv16【二刀流】Lv25【】


 SP37


称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者

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