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ナギ記  作者: 竜顔
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 今日は午後に昼が来るのでそれまで待った。ログインするとクゥちゃんとラズベリーさんからメッセージが来ていた。


 クゥちゃんからは聖樹で狩りしよ、と書いてあって、ラズベリーさんからのメッセージは今日は立て込む予定だから明日来てね、と書いてあった。


 ラズベリーさんのところに特に用事は…あった。防具の耐久度が減っている、それに昨日のことで一気にブーメランの耐久度が減ってしまったので修復してもらわなければ。でも多分ラズベリーさん側からのメッセージは他のことを意味している気がして嫌な予感がする。


 コールでクゥちゃんにログインしたことを伝えて、一旦ビギに戻ってスミフさんからダガーを買い取る。ここ数日、私が通う鍛冶屋として今まで以上に人が寄ってきてるそうだ。そのこともあって贔屓にしてくれる人も増えていってるんだとか。


「最近はヴォルカの方の鉱石もビギで手に入るからグレードが上の武具を作れるし、それでリピーターができてくれたのも大きいな、まぁレシピを持ってない分俺の上位互換はいっぱいいるんだろうけどな」


 スミフさんが最近の状況を教えてくれる。


「ヴォルカってことは結構強い人が贔屓にしてくれてるんですね」


「いや、違うよ、ゴブリン族は行商ができる種族ということらしくて、他の街の物を売りに来てくれるんだ、現地で直接掘ったり買ったりした方が安いだろうけど、生産メインは現地に行くのに一苦労だからな」


 どうやらゴブリン族が開放されたことで各町の物資が出回っているようだ。


「つっても提携まではさすがにさせてくれないから売りに来た時に早い者勝ち、ってなるんだがナギちゃんにダガー売ってるって話したら少量なら取り置きできるって言われて楽に手に入るようになった」


 こんなところでも私の名前は力を発揮するらしい。ゴブリン族に新たな宗教で、私が神として奉られないように注意しておく必要がありそうだ。


 スミフさんと別れた後すぐさまルージュナに移る。


 西門に向かう途中。


「あ、ナギちゃん、待って」


 後ろからクゥちゃんがやってきた。仮面着けてても後姿でばれてる気がする。これはまた別の変装方法を考えなければいけないかもしれない。


 シンセさんがいないので今日は3階で狩りをする。聖樹は10階以降からしかLv上げとしてはいい場所ではないらしいけど、クエストを受けてお金を稼ぎつつ素材集めだ。


 元々最近第四エリアでもLvが上がりづらくなっているところなので別に大して問題があるわけではない。


 ウッドモンキーやキツツツキを狩り、私のアビリティの範囲近くの数が減ったら休憩。


「ナギちゃんは『二人組』って知ってる?」


 休憩のときに唐突に話し始めるクゥちゃん。


「知らないかな」


 私がそう答えると少し残念そうな顔をしていた。


「やっぱりか、ナギちゃんならもしかしてと思ってたけど、そううまくはいかないか」


 クゥちゃんは一人で納得している。私が有名な人と知り合いだということからもしかしてと思っていたらしい。


「『二人組』っていうのは格闘家プレイヤーの間で有名な人達でね、ボクも格闘家みたいに戦ってるからその話を聞いてから会ってみたいと思ってるんだけど…」


 クゥちゃんによると、その『二人組』はリュウとキョウというプレイヤーらしくて格闘家プレイヤーの中でも屈指の強さなんだとか。特にクゥちゃんがこの二人に執着する理由は基本的に二人で行動することが多いという噂があるかららしい。


 一人で強いプレイヤーは他にいても『二人組』のようなコンビネーションで戦える人はいないらしく、一度二人が戦う姿を生で見たいと思っているようだ。それで格闘家プレイヤーメインのギルドに入って探してみたこともあるらしいけど、それらのギルドに加入していないことが分かった程度らしい。


「クゥちゃんが【拳】を選んだのも何か関係あるの?」


 クゥちゃんの装備している爪は【拳】派生の武器。そして拳系の武器を使うプレイヤーはほぼ確実に格闘プレイヤー。つまり【体術】なんかのスキルを習得して、体のいたるところを使って攻撃する、手数で勝負するタイプのアタッカーがほとんどということだ。


「いや全然関係ないよ」


 私の考えをクゥちゃんは否定する。【クロー】があるとわかった時点で【拳】を選ぶと決めたそうだ。


「なんでクローがいいの?」


「虎」


 はっ? 


 私の質問に即答したクゥちゃんの言葉の意図が理解できなかった。


「虎が…好きだから」


 虎、虎と言えば爪。そんな安直な考えだったそうだ。それで最初の武器スキルの選択で【拳】を選び、【拳】ではどんなプレイングがいいのかを調べ、『二人組』という二つ名を持つプレイヤーに到達したと。


 クゥちゃんは何となく動物のような動きで戦っていて、私としては猫みたいと思っていたけど、まさかクゥちゃんの目指すところが獰猛な獣であるなんて思いもしなかった。そこで


「どうして虎が好きなのか聞いてもいいかな?」


 聞かずにはいられなかった。でも女子高生が、犬でも猫でもなく虎が好きだと言ったら誰でも理由ぐらい聞いてしまうと思う。


「う~ん、それはね」


 ちょっと恥ずかしそうにクゥちゃんはしゃべり始める。


 その理由は実にかわいらしくてほっとした。小さいころ動物園に行ったときにクゥちゃんが檻に近づいても偶然なのか動物は奥の方から全く近寄ってこなかったらしい。ただ虎の檻に近づいたときは、虎が奥の方からクゥちゃんに近寄ってきたらしい。


 それ以来虎とは両想いなんだそうだ。


 私は普段のクゥちゃんの服装が、虎が背中に描かれた革ジャンとかでないことを祈るだけだ。まさか危ない方面の人ではないだろうし。シンセさんとの会話を見てても常識ある普通の女の子だ。


 それからの戦闘は猫のように見ていたクゥちゃんを猛獣にしか見れなくなった気がするけど、順調に進みクエストをクリアできるというところで聖樹から出る。


 クエストの報告をした後、ビギの街で食事をとり、今後の話をする。


「ボク達ぐらいの強さの人があと二人ぐらいいれば南に向かって行けると思うんだよね」


 とはクゥちゃんの考えである。クゥちゃんもこれまでギルドを転々としていたころに知り合った先輩に色々と面倒を見てもらうことが多く、同じような実力の人となると野良PTで一緒に行動するくらいしかなかったそうだ。


「私、第三陣のフレンド、クゥちゃんぐらいしかいなくて」


「ボクも一応他にいるけどとりあえずって形であんまり仲良くないんだよね、だからよくシンセと一緒に行動してるんだよね」


 私たち二人は先輩方にかわいがられるタイプで、同期とは疎遠らしい。


 いざとなれば野良でも、ということではあるけど最近はブルジョール目当ての人が多く西に注意が向いている。そしてブルジョールへ行くことができる人は海に向けた準備のために消耗を嫌い、南へ向かう人は少ない。


「一度二人で第六エリアに行ってみよっか」


 何か考えていたクゥちゃんからの提案。


「そうだね、二人でそのまま行けるならそれでいいと思うし、いざとなれば…ね」


 私もクゥちゃんの提案に乗る。いざとなればシンセさんにもついてきてもらえばいいし。そう思ったのだけど、


「いざとなればナギちゃんが頼めば一緒に来てくれる人はいっぱいいそうだしね」


 クゥちゃんの考えでは私に誘われて断る人はいないだろうという意味で捉えていたらしい。


 食事を終えて夜が来る前に南へ出発。第六エリアで仲良くやられましたとさ。


 そしてその日はログアウトした。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン】Lv22【STR上昇】Lv38【幸運】Lv39【SPD上昇】Lv34【言語学】Lv36【視力】Lv40【魅力】Lv29【体術】Lv15【二刀流】Lv23【】


 SP34


称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者

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