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ナギ記  作者: 竜顔
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番外編:外山と天野

 「○○記」開発・運営会社にて――


「はぁ、まったくいきなりの呼び出しですかぁ」


 廊下を歩く二人のスーツ姿の女性。今の発言はそのうちの片方の髪の短い方の女性の発言だ。


 それを聞いていたやや前を歩く髪の長い女性。外山美貴子は小さく舌打ちした。普段は私服のくせにいきなりという割には前から知っていたかのようにスーツを着て出勤してきたくせにと思っていた。


 そして髪の短い女性、天野真央理は彼女の部下である。


 外山にとって天野は生意気な小娘でしかない。コネで入社してきたかと思えば、その仕事ぶりは真面目。ミスもほとんどなく、それでいてフニャフニャと腑抜けているようにも見える。


 誰の懐にでもうまく入り込み気づけば意のままに他人をうまく操っていたりする。隙あらば外山のことも「ババア」や「オバサン」と呼ぶなど他人を寄せ付けない女王様とすら言われる外山にもフランクに話しかけ社内で一目置かれる存在でもある。


 天野からうまく操られてしまった人々は天野のことを腫物扱いするが、外山との腫物同士のうち天野の方がまだマシかもという評判である。


 …全く誰がこんな小娘に手綱を握られているというのよ!


 しかし外山にとっては天野が、現状外山を制御できるのは彼女しかいないと言われていることの方が気に食わないのであった。


 そんな二人はある街の管理と運営を任されたリーダーと副リーダーである。


「話ってなんでしょうねぇ、先輩」


 天野は外山のことを普段先輩と呼ぶ。そこも外山にとって「生意気な小娘」たるところである。


「まぁまずはあんたのことで叱られるわね」


「ええぇ! イベント成功でお褒め頂いてもいいくらいじゃないですかぁ」


 口調が軽い天野にイラつきながらも外山は冷静を装う。この小娘のせいでイベント後叱られたのは私だというのにこいつ! という感情が湧き上がってくる。


 外山も天野を認めている部分はある。外山は当初、街の企画から管理運営までやっていいという許可が下りた時にギャンブル、カジノのことしか考えてなかった。


 それを聞いた天野がカジノがある街といえば欲望が渦巻いてなきゃとか、欲望と言えばムフフも必要だとか言って、結局カジノ以外のところの細かい部分まで詰めていったのはほとんど天野だった。


 そして街のバックボーンや、そこに住む人たちの人柄。街の運営のシステムなんかを次々と組み上げていき、夏のイベントに間に合うということで急遽先行お披露目することにもなった。


 そう彼女たちはエイローに携わる。後は言わずともわかるであろう。


「待ってください先輩……よし、大丈夫みたいですね」


 呼び出された会議室の前、天野が外山を呼び止めて服装をチェックし自身の服装も正すそぶりを見せ、オーケーのサインを出す。


 そして二人で会議室に入る。


「失礼します」


 二人が入るとすでに他の席は埋まっていた。


「まずは海のことを一プレイヤーに話したこと――」


「説教ならば先日済んだことだと思われますが? 今後このようなことがないようにときちんと言いつけておりますので」


「――そうか、そうだな」


 重役もこの二人ならばいまさら言う必要もないだろうと判断した。今回二人を呼んだのは他に理由があるのだから。


「まずは先日行われたイベントのこと、無事成功して何よりだった」


「ありがとうございます」


 先日と言っても二週間くらい前だが、最近とあることで忙しかったせいでこの話をすることができなかった。説教をする時間はあったのに。


「それにしてもあの娘に結構厚遇したんじゃねぇのか?」


 外山と天野のように街の企画から運営までを許可された他のチームのリーダーの男が声をかけてくる。


「彼女への感謝は相当なものだから、あなたにもわかるでしょ?」


 外山は男に言い返すと、男も納得と言わんばかりの表情になる。その娘というのは、β時代からあった隠し要素でそれまで誰一人そこにたどり着けなかったため実装と言って普通に追加しようかという話まで出た、ゴブリン王国の開放をしてくれた人物だ。


 ゴブリン王国が開放されたときは会社中が歓喜に満ちた。特にこの企画に携わった人たちの喜びようは大変なものであった。そして外山はこの企画に携わった一人である。


「話はそこまでにして、本題に入ろうか」


「はい」


 重役に促されて外山は話し始める。


「イレギュラーの正体が今週に入って漸く判明いたしました」


 この話は、エイローイベント中とある女性プレイヤーが画面上そこには誰もいないはずなのにホテルで誰かと会話している。という報告があったことから始まる。とある女性プレイヤーとはナギのことである。


 エイローイベントではサーバーが別に設けられて稼働していたが、一部のNPCは行き来ができるように設定されていた。しかし、それらは全員視認できていたため、設定では来れないことになっているNPCが来ていて画面に映らないのではないかという話になっていた。


「大分時間がかかったな」


 海のエリアに携わっている男がバカにするような口調で発言する。


「ええ、普通に見えないNPCが宿泊に来ていると思って宿泊客の確認などをとっていたら時間がかかってしまいました」


 外山は男の言葉を気にする風もなく淡々と報告していく。心の中では「お前らが海関連で遅れたせいでこっちがイベントする羽目になって問題が起きたんだろうが」と怒りをぶちまけていたりする。


 イレギュラーが画面に映らないとはいえ普通に宿泊していたならば特定ができると動いていたが宿泊客のリストに怪しい名前はなかった。つまりイレギュラーは宿泊客ではなかったということだ。


「そこで、遭遇した彼女の話によると紳士風の老人男性だったということで、その特徴に当てはまり、尚且つ我々から視認されないことも可能という条件に当てはまるNPCの行動を解析したところ特定いたしました」


 外山はなぜこれほど時間がかかったのかを、解析のプロセスを話すことで説明する。要するに簡単にわかると思っていたらそうではなかったということだ。


「して、誰だったんだ?」


 会場の全員が促すように視線を送る。


「ジーノ・デックマンです」


「何! ジーノだと!?」


 外山の答えに会場がざわつく。


「なぜジーノが!」


「さあ? それは私の管轄外ですので」


 ジーノ・デックマンは現在未実装領域に配置されたNPCで、未実装領域から実装領域への行き来が許可されたNPCだ。しかし今回のエイローへの行き来は許可されていないはずだった。


 そしてジーノの配置された村の管轄は外山達ではない。また、エイローへの行き来を許可したNPCリストを作ったのは外山達エイローチームとはいえ、実際に設定したのは別の開発スタッフたちだ。


「事情はそちらで確認してもらう方がよかろう」


 重役の一言に場も一旦落ち着く。


 外山は一人、とある少女の顔を思い浮かべていた。


 ――ふぅ、色々と面倒を起こしてくれるもんね…。


 折角イレギュラーの正体をつかむという仕事が終わったと思ったら、これからまた別のチームにお願いしてジーノと接触を図らなければならないということに頭を抱える。


 そんな外山をよそに会議は進む。


「で、海とポルトマリアの方はどうなっておる」


「ご心配なく、三週間の猶予をもらったかいがありまして準備は万端というところです」


 海とポルトマリアの開発に携わる面々が自身に満ちた表情で答える。


 それからはバランス調整の話や、新スキルをどうするか、などの話が続く。


――――――――――


「やっと終わりましたねぇ」


 口調は軽いながら書類を片付けながら話す天野に外山は


「途中から上の空よ、あとでもう一回聞かせて頂戴」


「はいはい~、まったく海の連中のせいで先輩が大変なのに、あいつらときたら私達を見下すような態度をとるなんて!」


 天野の恨み節も外山の疲れた体には毒でしかなかった。

明日から毎日17:00更新にしたいと思います。

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