聖樹:4階
聖樹の主なモンスターはスライム系、猿系、鳥系、植物系に当てはまる。スライム系はプニットみたいな半球体のグミみたいなのからアメーバみたいな奴までいる。
4階のモンスターは「マンパンジー」、「イクゾー」、「ペーナス」の三種類。「マンパンジー」は人より少し背が低いくらいのチンパンジーのような姿。「イクゾー」はコアのあるアメーバ状のモンスターで、宙に浮いていて、戦闘の際にはその体を触手等に変形させて攻撃してくるらしい。「ペーナス」は人の身長ほどある超巨大なナスで、真ん中よりやや下あたりからペロっと舌が出ている。
聖樹の5階までは大部屋一つ。4階も大部屋一つだけど、周りを見渡しても誰もいない。
「あんまり人がいないんだね」
私は疑問を口にする。聖樹は開放が待ち望まれていたはずで、もっと人が多いのかと思っていた。
「4階が狩場になるような人たちはブルジョールに注意が向いてるのと、そもそもルージュナまで来るのに護衛をつけなきゃいけないくらいだからじゃないかな」
シンセさんが答えてくれる。ルージュナまで来れるような人にとっては最低でも10階あたりからじゃないと「おいしい」狩場ではないそうだ。シンセさん自身は8階でモンスターのテイム(調教)を狙ってるらしい。
「敵が多いけど…ナギちゃんのアビリティはここのモンスターにも効くのかな?」
クゥちゃんが確認してくる。私のアビリティが効いてしまうとノンアクティブのモンスターも知らないうちにエンカウントさせてしまうことになる。そうなると囲まれてしまう。
「じゃあちょっと近づいてみる」
「いざという時はゴーレムちゃんが何とかするからね」
私は確認のためにマンパンジーに近づく、シンセさんのミニゴーレムがいつでも私と敵の間に入れるように私についてくる。
「大丈夫みたい」
マンパンジーは私のアビリティの範囲内に入っても特に変化なし。私がそれを伝えると二人が近づいてくる。
「ここからは私も戦うからねぇ」
軽いトーンでシンセさんが武器を取り出す。ハープのようだ。
「じゃあナギちゃん、頼んだよ」
「わかった」
クゥちゃんに促され私はマンパンジーにブーメランを投げる――
ガシッ
「え!」
マンパンジーは私が投げたブーメランをキャッチ。
「ォオオオオオ!!!!」
叫びとともにキャッチしたブーメランを豪快に投げ返してきた。
ミニゴーレムは直撃、私は投げられたブーメランの衝撃波で吹き飛ばされる。
「大丈夫!?」
シンセさんは演奏を切り替えて声をかけてくる。それに大丈夫と返答する。どうやら切り替えた演奏は回復の効果があるらしくじわじわとHPが回復されていく。
――っと
私は後ろを振り返り、戻ってくるブーメランをキャッチ。知らないうちにペーナスが一匹犠牲になっていた。
ミニゴーレムも立ち上がり戦闘態勢に入ろうとしている。今はクゥちゃんがマンパンジー相手に素早い攻撃を繰り出しつつ敵の攻撃はうまくかわして注意をひきつけている。
ミニゴーレムの準備が整うとクゥちゃんはその後ろに引きさがり、ミニゴーレムが挑発のアーツを使いマンパンジーの注意を引く。
私は今度はダガーでマンパンジーへの攻撃を開始。それを見てかシンセさんがまた演奏を切り替える。
アーツの【誘惑】を使ってマンパンジーの動きを止める。それを見計らってクゥちゃんがミニゴーレムの前に出てきて、猛ラッシュ。爪でひっかく、肘打ち、蹴りあげ、バックナックル、最後は爪を突き刺しマンパンジーが消える。
「ふぅ、危なかったわねぇ」
「まさかブーメランを投げ返してくるとは思わなかったよぉ」
二人は今の戦闘を振り返っている。
「ごめんなさい」
「「いやいや、ナギちゃんが悪いわけじゃないよ」」
一応謝っておいたけど、その必要はなかったらしい。
「そういえばナギちゃんが手のひらを見せたら動きが止まったけどあれは何?」
シンセさんが言っているのは【誘惑】のことだろう。シンセさんには【魅力】のスキルのことは話していなかったので、説明する。
シンセさんは手のひらを見せていたといっていたけど、実際には違う。【誘惑】は発動には、セクシーポーズ、投げキッス、ウインクのうちどれかの動作を行う必要があり、私は投げキッスを使っている。
投げキッスは判定が甘く、唇に当てた手のひらを相手に見せつけるようにしても判定してくれるので使っている。
しかしこの辺の情報は適当に伝えておく。シンセさんにきちんとした情報を伝えると危険な気がするので。ほら、ただでさえ【魅力】とか【誘惑】とかいうフレーズで目に怪しい光が…。
「シンセ、ナギちゃんが困ってるよ、それよりほら、狩りを続けるよ!」
クゥちゃんの一言にシンセさんも一応元に戻る。
他のモンスターも同様に一匹ずつ狩っていく。他のモンスターはマンパンジーのようにブーメランを投げ返してくることはなかった。
シンセさんは攻撃はミニゴーレムに任せ、自身は常に何かの曲を演奏してサポートに徹している。
「楽器って不思議な武器ですね」
シンセさんにそう言うと変な顔された。敬語が気に食わなかったらしい。
「演奏すれば広範囲に攻撃できるんだけどアーツ扱いなのよね、だから基本攻撃は殴らないといけないけないのよねぇ」
【楽器】で習得するアーツを使うことで演奏ができる。他のアーツと違って一定時間演奏し続けるとMPが徐々に減っていくタイプらしい。でもその場合音が聞こえる範囲にいるモンスターを無差別に攻撃してしまうそうだ。
そのため【楽器】がなければ死にスキル【演奏】を習得してサポートに徹するプレイヤーが多いらしい。【演奏】はバフやデバフの効果を持つアーツが多く、対象が味方だけだったり敵だけだったり敵味方関係なくだったりするとはいえ、味方だけが対象のアーツならば無差別にモンスターとエンカウントせずに済む。
「でもそれだと【祈祷】とかと被るんじゃ」
「そうでもないの」
バフの効果を持つアーツを習得する【祈祷】、状態異常などのデバフの効果を持つアーツを習得する【呪術】と違い、【演奏】ではバフにしろデバフにしろ一曲…つまり一つの効果しかかけられないらしい。そして演奏が途切れるか、効果範囲外に出たら効果は消えてしまう。
その代りアーツを使用する際にMPを消費し、それ以降演奏し続ければ永遠に効果をかけることができるそうだ。場合によっては【演奏】の方がMPを節約できるらしい。
「じゃあ今こうやって戦闘終わりに演奏を終了させるのって効率悪いってこと?」
「回復とか休憩が不要ならMPが少し無駄になってる…ってくらいかな」
うーん、やっぱり自分が使わない武器のことはよく分からないなぁ。そこまで真剣じゃないってこともあるんだろうけど。自分の武器のことだってさっきなんで投げ返されたかよく分かってないくらいだし。
クゥちゃんが目を輝かせて何かのメッセージを送っていたけど、そのまま狩りを続けることを促すとガックリしていた。
それから極力マンパンジーは避けて狩りを続け、満足のいくところで切り上げログアウトした。
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NAME:ナギ
【ブーメラン】Lv21【STR上昇】Lv38【幸運】Lv39【SPD上昇】Lv34【言語学】Lv36【視力】Lv40【魅力】Lv29【体術】Lv15【二刀流】Lv22【】
SP34
称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者




