クゥ
女性…こと「クゥ」ちゃんは夜が明ける、現実の夕方まで用事があるということで、そのときまた落ち合おうという話になって解散。私もお昼の時間だったのでログアウトした。
ログアウトしてから昼食をとったり夏休みの宿題を処理したりして時間をつぶしたけど私は早く夕方にならないかと落ち着かなかった。
クゥちゃんにしてみれば私は所詮フレンドの一人かもしれない。しかし私にとってクゥちゃんは初めての第三陣のフレンドだ。つまりは同じ目線の強さで、ジェットさんやホムラと行動するときのような完全な上下関係がない存在。
やることをある程度やり終えて、待ち合わせ時間より少し早めにログイン。まだ夜は明けておらず、街は明るいけれど空は真っ黒だった。
私は有名になっているようなので、目立たないように仮面をつける。
しばらくして夜が明けて朝が来る。待ち合わせ場所はビギの中心街。聖樹に狩りに行くという予定だ。クゥちゃん曰く私達なら聖樹の3階、甘く見積もれば5階までは通用するはずとのこと。
それから私達二人の他にもう一人クゥちゃんのフレンドが来るらしい。クゥちゃんによると、その人は私の知り合いだとか。あくまで自称で私と一緒にいるところを見たことがないからもしかしたら嘘かも、とクゥちゃんは言っていた。
中心街の露店群を冷やかしていると、クゥちゃんがやってきた。
「お待たせ、じゃあ行こっか」
もう一人は聖樹で行動しているようで、すでにルージュナで待ってくれてるらしい。それで早速ルージュナへと向かうために転移ポータルへ。
仮面をつけていたにもかかわらずクゥちゃんにすぐにばれてしまい、仮面をつける意味があるのかよく分からなくなってきた。何故一目でばれたのか後で聞こう。
ルージュナに移り西門を目指す。私の知り合いが誰なのか気になるも、想像がつかない。
西門にたどり着くとクゥちゃんが辺りをキョロキョロと見渡す。
「あれ? おかしいなぁ、ここにいるはずなんだけど…」
クゥちゃんがのつぶやきが終わるか終らないかくらいに私は背中に衝撃を感じるとともにいつの間にか抱きつかれたみたいで腰のあたりには腕が回されしっかり私をホールドしていた。
「ナギちゃん、捕獲しました」
後ろから女性と思われる声が聞こえてくる。腰に回されている手も女性的な手のためおそらく女性だと思う。
「ちょっ、え?」
私は訳が分からない。後ろからがっちり体をホールドされ満足に身動きが取れず、抱きついている人の姿を確認することができない。
「はぁ、やっと会えましたわねぇ」
恍惚の声色へと変わった後ろの声に、私の本能が危険信号を送ってくる。
「何やってるの? ナギちゃんが困ってるでしょ」
私を捕獲している人物にクゥちゃんが注意する。そういわれた私の背後にいる人物は一瞬思いっきり私を抱きしめている腕に力を入れた後私を解放する。
解放された私はすぐさま後ろを振り返る。…誰?
見覚えがあるといえばあるけど、よく思い出せない。とりあえず私とフレンド登録している人ではない、ということだけは分かった。
「えっと…」
「あら? 覚えてないんですか?」
記憶をたどっている私に気づいて教条を曇らせる女性。
「あ、やっぱり知り合いじゃなかったんだ」
それを見てクゥちゃんが自身の見解に確信を持ったらしい。
「知り合いよ、ナギちゃん、思い出させてあげますね」
微笑みを私に向けてくる女性に、少し恐怖を感じて後ずさりしてしまった。
「確かに…どこかでお会いしたような」
これは事実だから間違ってない。
「そうですねぇ…一度しか話したことがないから、忘れ去られても仕方がありませんねぇ」
顔を手で押さえ残念そうな仕草を見せる女性。私はもう思い出せなくてもいいや、と思い始めていたりする。私の周りには変態ばかりになっているので、そっち方面の人員は募集していないから。
「ほらぁ、一度話したぐらいじゃ知り合いだとか言えないよ」
クゥちゃんは女性を睨み付けている。
「聞いてよナギちゃん、シンセったら自分好みの女の子を見つけたら片っ端から声かけるんだよ、前は胸が大きい娘を見たらすぐさま駆け寄って、現実の大きさとの誤差はどれくらいかとか聞いてたんだよ」
「へぇ~」
クゥちゃんの紹介で、女性――「シンセ」というらしい――のことを思い出してしまった。
あれはジェットさんに初めて会った日、マキセさんに装備の依頼をして喫茶店でジェットさんからコールやメッセージについて教えてもらって、ジェットさんと別れた後喫茶店で相席した女性だ。
あの時は逃げようとした私は引き留められ、結局二人で色々な話で盛り上がったのにフレンド登録せずに別れた。話が盛り上がったとはいえ何か狙われているようで、フレンド登録をしようと言ってこないなら別にしなくてもいいと思ったからだ。
「思い出してくれましたね?」
私の表情の変化を読み取ったのかシンセさんが私が思い出したことに気づく。
「え、ええ、喫茶店で話した人ですよね、お久しぶりですね」
「ふふ、そうですよ」
私とシンセさんのやり取りを見て、クゥちゃんは不思議そうな顔をしていた。
「ナギちゃん本当に知り合いなの?」
「話をしたことがあるってくらいだけど」
ふーん、といってクゥちゃんは自分の予想が外れたことが悔しそうだ。
なにはともあれメンバーが揃ったので聖樹に入る。聖樹の中は明るく松明等が不要。そのため現在進んでいる階でも罠が確認されていないことも含めて、聖樹は狩場用のダンジョンとして用意されたものと考えられているらしい。
聖樹の1階に出てくるモンスターは、「プリット」と「チビザル」の二種類。このモンスター達は第二エリアぐらいの力しかないのでスルー。
二階、そして三階へと向かう。
「じゃあまずはここで狩りをしようね」
三階に入ってすぐ口を開いたシンセさんは私しか見てない。クゥちゃんは気にしてないみたいだけど。
聖樹の三階には、「キツツツキ」、「ウッドモンキー」の二種類。キツツツキは鳥、ウッドモンキーは猿の姿をしたモンスターだ。
ウッドモンキーは頭の上に小さな木が生えており、頭の上にブロッコリーを乗せているように見える奴から、アフロヘアに見える奴まで様々だ。
「あの頭の上の木が大きいと意味があるの?」
「うーん、あんまり変わらないんじゃないかな」
「特に何かが変わるとは聞いたことがないかなぁ」
私の問いに二人とも自信がなさそうに答える。
「早速検証してみましょう」
シンセさんはそういうと、私の腰の高さぐらいの大きさの、小さいゴーレムを呼び出した。
「壁役がいないからね」
このゴーレムは私たちの壁役になってくれるらしい。
「じゃあまずは一匹、あのブロッコリーサイズを倒そう、じゃあナギちゃんお願い」
クゥちゃんの指示でウッドモンキーにブーメランを投げる。寄ってくる前に戻ってきたブーメランで二発目を加え、私の領域に入ると足を止める。
その隙にクゥちゃんがミニゴーレムより前に出てウッドモンキーに素早く攻撃を重ねていき、ウッドモンキーの動きを見てミニゴーレムの後ろに戻る。私はクゥちゃんがウッドモンキーから離れたのを見てブーメランを投げる。
ミニゴーレムがウッドモンキーの攻撃を受け止めてくれるので私は動くことなくブーメランの帰りを待てるし、帰ってくるまでダガーで攻撃を続ける。
そして、ウッドモンキーが消える。それから何体かウッドモンキーを倒していく。結果的に頭上に生える木の大きさは特別に意味があるわけではないっぽい。
それが分かったところで、私たちは4階に向かった。
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NAME:ナギ
【ブーメラン】Lv21【STR上昇】Lv38【幸運】Lv38【SPD上昇】Lv34【言語学】Lv36【視力】Lv40【魅力】Lv29【体術】Lv15【二刀流】Lv19【】
SP32
称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者




