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ナギ記  作者: 竜顔
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初めての

 今日は午前中にゲーム内の昼が終わってしまうので、朝からログイン。


 今朝公式サイトで、ついに来週新たな街「ポルトマリア」と砂浜、海のエリアが実装されることが発表された。それに伴って新たな装備「水着」が明日から実装されることになった。


 明日は水曜日…。「水着」実装は明日…。まさかね…。


 もうすでにその辺のシステム上の準備はできているそうで、水着実装のためにわざわざ時間をとってアップデートをする必要はないらしい。


 水着の特徴としては「水中戦闘可」の効果がつくらしい。このこともあって海の中でもモンスターが出てくるのか、とバカンス気分を楽しもうとする人たちは少し残念そうにしている。


 海の中には「海中遺跡」というダンジョンも設置されるようで聖樹が開放された直後とあってどっちに行くかと悩む人が多いようだ。


 これらの新エリアはブルジョールの西に追加されるようで、今はビギの西門近くに人が集結し、ブルジョールを目指す人が増えている。


 私はその流れには乗らず、アントやキノミンイエロー相手に体術と二刀流のLv上げをしてたりする。カッタリーのことに関してはジェットさんに相談しておいた。エースさんの方が詳しいだろうからログインしたら聞いてみるということだったので、それまでカッタリーはやめることにした。


 何もわからなければそれまでだけど。


 人に会わないように森の奥の方へ、ブルジョールに向かう人ばかりなので街道近くで狩りを行うと邪魔になってしまう。


 四匹のアントに囲われている、とはいえ釘付け状態で動かないので一匹ずつ消していく。体感として約2分ぐらいで釘付け状態は解除されるみたいだ。


 アントに囲われるといっても、エンカウントしたことに気づいて寄ってくるので、一匹ずつ釘付けになるのに若干の時差がある。そのため釘付けが解除されても【誘惑】さえ使えば結局元通り一匹以外動けない状態になる。


 さらにいえば、アントは攻撃を受けた際に「怯み」で動きが一瞬止まるので近づかれる前とか、攻撃してくる前に対処することができるのでもはやカモでしかない。


 二刀流のLvが低いせいで威力の減少がまだまだきついけれど、アントと戦う分には問題はない。


 アントが寄ってこなくなったところでひとまず休憩。それから再び移動しながらアントやキノミンイエローを探す。


 さっそくキノミンが…と思ったら普通の木の実だった。こういう時に限って出ないから嫌われているんだっけ、と自分の中でもキノミンの好感度が下がっていくのを実感しているとアントを見つける。


 アビリティの範囲内に入れて動きを封じて攻撃。一匹を倒すとまた一匹二匹と寄ってきては釘付けになる。


 そのうちの一匹に狙いをつけてブーメランを投げる。それと同時に、背後から何かが…木の根っこ?


 ――あ!


 気づかなかったけど背後にトレントがいたらしい。しかもその攻撃範囲内に入ってしまっていたようだった。おそらく釘付け時間を終了して動き始めたんだろう。私めがけて突き刺しに来る木の根はすでに避けきるのは不可能なぐらいのところまで来ていた。


 その時、ザシュッと音がして何かがその木の根を切り落とした。


「大丈夫ですか? 攻撃しちゃったけど…いいですよね?」


「はい、ありがとうございます」


「じゃあトレントはこっちでやります」


「了解です」


 素早い動きでトレントの根を切り落としたプレイヤーはそのままトレントに突っ込んでいく。私は目を離したすきに近づいてきていたアントに蹴りを入れて吹き飛ばし、ダガーを投げる。


 動き出したもう一匹を【誘惑】で足止めし、ブーメランを拾いに向かいながら戦闘中のアントにはダガーを投げて極力動けないように時間を稼ぐ。


 ブーメランを拾ったころに一匹を倒すことに成功し、もう一匹との戦闘を開始。その時には後ろでの戦闘は終わってたみたいだ。


「アント達が寄ってきてます!」


 後ろのプレイヤー――声を聴くかぎり女性(?)――がアントが近づいてきていることを教えてくれる。


 そして近づいてきたアント達は、私のアビリティの範囲内に入って足を止める。


「ええ!!」


 その光景に後ろのプレイヤーは驚いているみたいだけど、構ってる余裕はない。釘付けは約二分、解除されるまでにある程度減らさないと厄介だ。ここからは時間との戦いでもある。


 寄ってきたアントの数は…六匹か。今戦っているのを含めて…倒したから六匹。


 すぐ次の標的に切り替えて、動き出したら誘惑で止める。といっても一匹二しかそれができないので動けるアント達に囲まれる。


「助けてもらっていいですか」


「わかりました!」


 後ろのプレイヤーは私の邪魔になってはいけないと眺めるだけになっていたので協力を頼む。その協力もあってなんとか全部倒すことができた。そのあと寄ってくるアントはいないらしい。


「ありがとうございました、トレントのことも全く気づきませんでしたし」


「いやぁ、別にいいですよ、でもちょっと油断し過ぎな気がしますよ?」


 やっとその全貌を見ることができるその助っ人は、髪色は水色でショートカット、上半身は着物のようで腰の帯の下からは着物ではなくハーフパンツをはいている。


 武器は爪。篭手に爪がついているタイプではなく持ち手を握るタイプのようだ。確か爪は【拳】の派生だったはず。


「ではナギさん」


 唐突に女性が口を開く。


「え? なんで私の名前を知ってるんですか!?」


「え、有名ですよ、ルージュナでのこともあって」


「ですよねぇ…」


 名乗った覚えがないのに女性が私の名前を知っていたことに一瞬驚いたけど、やはり先日の件で私は大分目立ってしまったらしい。この女性がルージュナにいたかどうかは別にして、おそらくルージュナにいなかった人にも私の顔と名前が割れているんだろう。最近仮面をつけてない時に街の人の視線を感じるのはそういうことだと思う。


 仮面は外しっぱなしで今はつけてなかった。仮面をつけてたらばれなかったかもしれないけどもう遅い。


「それではナギさん、どうしてアントの動きが止まったのか教えてもらってもいいですか?」


 私は了承し、女性の質問に答える。単純にスキルによって習得したアビリティの影響ということだけを教えた。【魅力】のスキルのことや、その取得ルートは伏せた。


「へぇ、そんなスキルもあるんですね、ボクなんか一番最近の受付期間に始めたんで、ウィキに乗ってないようなスキルとかはよく分からなくて」


 ボク? 言われてみればかわいい女の子みたいな顔の男性に見えなくもない…けど。


「ごめんなさい、女性…ですよね?」


 私は恐る恐る尋ねる。こういうのはコンプレックスを持ってる人もいるから。


「え、はい女です、あっ、ボクっていうのは小さいころ男の子の友達が多くて…それが抜けなくて」


「そうなんですか、あと、私も第三陣ですよ」


 恥ずかしそうに目線を下げながら答える女性に、私の方も誤解を解いておく。


「え! でも第一陣の有名な人と一緒に行動してますよね?」


「それは…たまたまというかなんというか」


 驚く女性に詳細ははぐらかす。


「まぁでも、だとしたらアントに囲まれててこずるのも納得がいきますね」


 詳しく話さなくても向こうの方で勝手に納得してくれたらしい。


 夜の時間帯がもうじき来るということで街に戻ることにした。女性は私と同い年みたいですぐ話が盛り上がり、フレンド登録も行った。


 彼女は私の初めての第三陣のフレンドになった。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン】Lv21【STR上昇】Lv38【幸運】Lv38【SPD上昇】Lv34【言語学】Lv36【視力】Lv40【魅力】Lv29【体術】Lv15【二刀流】Lv18【】


 SP32


称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者

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