カッタリー
レフトさんへの相談が終わると、ゴブリン達に囲まれたのは言うまでもない。それを抜け出し何とかビギに戻る。ビギの街も心なしか人が少ないように見える。ルージュナに拠点を移した人の影響だろう。
私は第四エリアへと向かう。そろそろ第○エリアという呼称も見直され始めているらしいけど、新しい呼称は決まってないのでこの呼び方でも問題ないはず。
今日はトラウマ克服のために「カッタリー」を狩るつもりだ。ビギの西門を出て街道をまっすぐ進む。途中アントに絡まれるも私に「釘付け」になっているうちに逃げる。無駄な戦闘はよろしくない。
街道を進むうちに森が開けて平原へと出る。いた、「カッタリー」だ。あの奇妙な外見はどうにかならないだろうか。近くに「ウリボン」がいるのでまずはアクティブの「ウリボン」を狩るとしよう。
ウリボンは私に気づくと突進してくる。【魅力】のアビリティの範囲内に入っても「釘付け」にはならない。私より格上ということか。【誘惑】で一度動きを封じてブーメランを投げて、ウリボンが動き始めると同時にダガーで応戦。ブーメランをキャッチして、猪突猛進を繰り返すウリボンをうまくかわして攻撃を加えていき、ウリボンは消える。
さて、次はいよいよ「カッタリー」だ。ウリボンがあれくらいなら油断せずに行けば問題ない相手のはずだ。
……。やはりこの奇妙な外見。目がアホでなければ可愛くおさまりそうなものなのに、いや、これはこれでファンがいるかもしれない。ってあれ?
体が動かない。え? なんで? バグ? 今日は機械の調子が悪いとか?
顔も動かせない、カッタリーを凝視することをやめられない。音が聞こえる、何かが私に向かって走ってきているのが分かる。大きな黒い物体、大きな黒馬はものすごいスピードで追いかけまわしてくるという噂のレアモンスター「チェイサー」だ。
いや、もうすぐそこまで来てるって! 動け私!
確かチェイサーはこの第四エリアでボスの「イノボン」より強いモンスターだったはず。第三エリアのようにボスがいるエリアではボスとエンカウント中は基本的に他のモンスターが襲い掛かってくることはない。だけどこのチェイサーは攻撃してくる。そのこともあって余計に出会いたくないモンスターとしての地位を確固たるものにしつつあるらしい。
ウィキ情報! ちゃんと読んだから!
一撃だった。体にものすごい衝撃が加わったかと思うと宙にいて身動きが取れないまま地面にたたきつけられた。
初死亡です。デスペナルティを受けなきゃならない。デスペナルティは確か一時間の間各能力が低下してしまうというものだったはずだ。街で何しようかなぁ。
死んだら魂だけがその場に30秒間残り、30秒後に登録してある死に場所の転移ポータルに戻される。もちろんすぐ戻るのボタンを押せば待つ必要はない。
私は初めての死亡の余韻に浸るため30秒待った。気づくとビギの街にいた。
街に死に戻ると急にさっきのことが思い出されてショックだった。カッタリーなんかに目を奪われているうちにやられたのが悔しかった。
普通に動けることを確かめながらさっきのはなんだったのという疑問がぬぐえないまま街をぶらつく。人にジロジロ見られている気がするので人目につかないところで仮面をつけて歩く。歩いているうちに夜がやってきた。
カッタリーと戦う時には必ずさっきのようになるのかデスペナルティが終わってから検証しに行く必要がありそうだ。他のプレイヤーに聞くという手もあるけどカッタリーはノンアクティブとして知られているだろうから変なこと言ってると思われそうだからやめる。
スミフさんのところでダガー補充。仮面をつけっぱなしだったけど「ダガー」と言ったらわかってもらえた。マキセさんのところにも寄ってみたら、服ですぐにばれた。仮面の意味があるのか疑問に思ってしまう。
デスペナルティが終わってもゲーム内で夜なので検証は控える。第四エリアでは確か夜は高確率でチェイサーが出現するということで、第四エリアの平原に用事がある場合は夜は控えた方がいいということだ。逆にチェイサーを狙うなら夜がいいとのこと。
することもないので一度ログアウトした。
夕食を家族全員で食べた後、お風呂をお父さんにとられたお兄ちゃんは聖樹の話をしてくれた。ダンジョンと言っても単純な作りだそうで、5階までは大きな部屋が一つでまっすぐ進めば奥に階段がある、というだけらしい。
それ以降も基本一本道で、分岐路はどこを通っても階段があるところに通じていて現在最も進んでる階層でも罠らしきものはなく、ローグライクを期待する人には少し残念なことになっているそうだ。
お父さんがお風呂から上がるとお兄ちゃんはすぐさまお風呂へと向かい、上がると一目散に自室へと戻っていった。
私は諸々を済ませた後、ゲームでの朝が来る時間を待ってログイン。
さっそくカッタリーの検証にむかう。下手をすればまた死ぬことになるわけだけど、原因が分からないとあいつと戦うどころじゃない。
ウリボンもびっくりなぐらいの勢いで森を走り抜け平原へと出る。さっそくカッタリーを発見し、慎重に近づいていきながら、私に突進してくるウリボンを撃退していく。3体ほど倒したけど幸いなことに1体ずつ相手にする形だったのでほぼ無傷で倒すことができた。
そして注意深くカッタリーを見つめながら距離を詰める。見れば見るほど感情のなさそうなアホな目なのに冷や汗をかいて気まずそうにしてる気もする。
…あ、動けない。
先ほどと同様に私は動くことができなくなった。つまりこれは偶然ではなくて必然で動きが止まってるんだ。
それが分かったところでこの状況どうにもできないんだけど。何故こうなるかはジェットさんあたりに聞けば何とかなるだろう。で、体が動かせないと困るわけで。
ウリボンはさっき倒したやつら以外近くには見当たらなかったので、近づいてきて気づくの待ちか。こういうときにどこまでも追いかけまわすチェイサーがいてくれたら、すぐ死ねるのに。
決して自殺志願者では…。おそらくこれはカッタリーによる「釘付け」の状態だと思う、だからとりあえず一撃を受ければ動けるはず。カッタリーはノンアクティブじゃなかったってことになるけどそれは問題じゃない。
うん、誰か助けてー!!
せめて口が動けばと思ったけど、魔法の詠唱をさせないようにか口も動かせない。
釘付けの時間ってこんな長かったっけ? もしかして釘付けではないのかも。
考察していると何かが走ってくる足音が聞こえてきた。チェイサーではないみたいだけどウリボンより轟音。きっとイノボンだ。イノボンが私に気づいて殺しに来てるんだ。
なぜかうれしい気持ちになって、早くおいで、と思ってしまったのは仕方がないこと。
イノボンによって吹き飛ばされて宙に舞い…チェイサーにやられたとき同様一撃だった。カッタリーのこともそうだけど今の装備ではイノボンに一撃でやられることもわかった。一石二鳥だわ! と前向きに考える。
知りたいことは知ることができたので死に戻った後にログアウトして、眠りについた。
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NAME:ナギ
【ブーメラン】Lv20【STR上昇】Lv38【幸運】Lv38【SPD上昇】Lv33【言語学】Lv36【視力】Lv40【魅力】Lv28【体術】Lv10【二刀流】Lv11【】
SP32
称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者




