ルージュナにて
PvPが終わった後、ゴブリン王国に赴き、仮面の効果があるのかという検証を行い、ジェットさんの褒美を受け取った。どうやら聖樹のダンジョン内での移動に使える便利なアイテムをもらったそうだ。
そしてついに式典当日がやってきた。今現在PvP会場では決勝が行われているころだろうか。私とジェットさんは準備のためにまずゴブリン王国へ行き、ゴブリン王と重臣、護衛達とともに馬車に乗ってゴブリン王国を出発する。
馬車は数台あり、私とジェットさんには二人で一台用意された。そしてその馬車の列の横をプレイヤーやゴブリン達が護衛している。馬車に乗りこむときにそのうちの一人であり、昨日戦っている姿を見たライムさんもいて、私を見るとなぜか複雑そうな表情をしていた。
「はぁ」
これで何回目だろうか。ジェットさんは昨日からこんな感じだ。なんでも負けたことがショックだそうで落ち込みっぱなしだ。とはいえジェットさんを破ったガイアさんはまともにダメージを与えるような人がまずいないのだからしょうがない気もする。
「だめですよジェットさん、これから一応大事なイベントがあるんですから」
「あ、ああそうだよな」
私が窘めると返事は素直に返ってくる。こんな風に落ち込んでいるジェットさんではあるけど、私がいろんな筋からいろんなものをもらうという作戦は成功すると信じているらしく、特に言及することはない。
PvPの決勝はホークさんとガイアさんで、私が応援していた二人、ホムラとジェットさんを破った二人の顔合わせとなった。もしかしてジェットさんが負けたのは私の? …そ、そんなはずは。
「ん? はぁ」
またため息だ。ジェットさんはさっきから誰かとコールで連絡していたようだ。多分会場に残っているメンバーから決勝の結果を聞いたのだろう。
「どっちが勝ったんですか?」
私も気にはなるので結果を聞いてみる。どうせすぐに公式サイトに結果は記載されるんだろうけど。
「ガイアだ」
ジェットさんの口からは、レイダさん曰く優勝候補のガイアさんだった。
「まぁ、まともにダメージを与えられている人もいませんでしたからね」
「ホムラの旦那なら勝負になるんだろうけどな、ベスト16に残ったやつであの人にまともにダメージ与えられるのは他にいないし」
そしてそのホムラは得手不得手の関係上ジェットさんが有利。となると組み合わせがすべての結果を決めてしまったようだ。そして組み合わせ次第ではジェットさんも十分優勝するチャンスはあったのにできなかったから相当落ち込んでるのかな。
「よし、切り替えよう!」
全試合が終了したことでジェットさんも切り替えるようだ。私の言葉ではだめだったのに。
PvPが終われば聖樹目当てにしろそうでないにしろプレイヤーが一斉にルージュナに集まることが予想されるし、ゴブリンも集まってくるだろう。そうなる前にルージュナに着く予定だったけど、思ったより早く試合が終了してしまったような気がするので少し心配だ。
その心配は杞憂に終わり、一応人であふれかえる前に到着。ルージュナの人達により丁寧に迎え入れられルージュナの長の家に一度入る。ゲーム内では朝になったばかりという頃だ。
「ようこそおいでくださいました」
「ふん、その辺のことは式典でいい」
ルージュナの長とゴブリン王の会話は見てて不安になるけど大丈夫だろか。
それから式典に出席する方々は準備や着替えに大忙し、私とジェットさんはそのままでいいらしい、というか私はラズベリーさんからは「目立つなんて最高の宣伝じゃない!」とこれ以外を着ることを禁止された。口では禁止と言われなかったけど、目がね。
準備が整うと長の家から馬車に乗る。馬車は三台、ルージュナの長、ゴブリン王、私の三台だ。なんかめちゃくちゃ緊張する。ルージュナに来るときは外から中が見えないタイプの馬車だったけど、今度は人力車みたいな馬車で他人から見られ放題だ。
結界が張られたルージュナの西門の目の前にはステージが設置され、そこに席が三つ。そしてその周りにはプレイヤーやゴブリン、そこに集まる人目当てで商売を始めるNPCとPC、式典の進行に関わる人々とが集まり人であふれかえっていた。
人間より背丈が小さいゴブリンを見つけることは大変だけど多くのゴブリンが詰めかけているようだ。
人が入らないように整理された道を馬車が進み多くの人が私を見ているような気分になる。ゴブリン王やルージュナの長を見ているんだと言い聞かせる。
馬車がステージの近くに到着し、私達三人とおつきの人々がステージ上へ、私のおつきの人はジェットさんだけど。ステージの高さは人の頭の上ぐらいの高さで周りの人にも見やすくなっている。
「では、」
進行役の人がそう言って、式典が始まる。まずはルージュナの長が演説をする。その内容は主にゴブリンへの謝罪とかだった。次にゴブリン王、ゴブリン王はルージュナとの和解でもって人間との完全な友好関係の修復とする、と高らかに宣言。私? 私はそんなことをしなくていい。
演説の合間にちょくちょく私の名前が出てきたけどそれだけだ。
演説が終わると握手だ。ゴブリン王とルージュナの長の二人の腕を私が持って握手させる。
そのあと進行役の人が結界が解除された後に宴会が催されることを告げ、聖樹にすぐにアタックをかける人達にはそれについての説明と案内役のところに並ぶことをお願いする。
そしてついに結界の解除が行われる。私は結界が解除されるまでしばらく両腕を上げ、私が腕を下した時に西門が開門されることになっている。
結界解除の秘術を習得したプレイヤー達によって結界が徐々に薄れていき、結界が消える。それがわかると同時に私は腕を下す。その瞬間に西門が開き案内役とそれに連れられたプレイヤー達が一斉に門に向かう。
「「「うぉぉぉぉ!!!」」」
そんな叫びとともに消えゆくプレイヤー達を眺めながらの宴会が始まった。私たちはステージを降りて馬車に乗り込み少し離れたところにある段の低いステージに向かう。そこで料理を出され、それを味わいながら談笑する。先ほどまでいたステージの上ではどこから呼んできたのかパフォーマーたちによるダンスや歌なんかが披露されている。
ステージの下では支給される料理を食べながら談笑する人間とゴブリン。中には商談しているようにも見える人達もいる。
2~3時間ぐらいで宴会は終了…といっても私達三人の。それから各自ステージから降りてぶらぶらと護衛を付けて歩き回る。私はゴブリンからの人気が高いのか油断するとすぐに囲まれて動けなくなる。どさくさに紛れてプレイヤーもいた。
それが終わってからルージュナの長の家に戻り、ゴブリン王達は帰って行った。私はルージュナの長から少し待ってくれと言われて家の客室のソファでぐったりとしている。
「つ、疲れたぁ~」
「ナギちゃんお疲れ」
ジェットさんもずっと立ちっぱなしで疲れただろうにと思うけど、気づかう余裕はない。
「ジェットさんも座ったらどうですか? もう式典も終わったわけですし」
私の後ろに立つジェットさんをせめて座らせることだけはする。ジェットさんも私に促されて横に座る。
「つかれたぁ~」
ジェットさんも疲れていたらしい。当然か。
「お待たせしました」
二人してソファでぐったりしているとルージュナの長がやってきた。付き人の手には何か箱がある。
「この度は大変お世話になりました、せめてそのお礼になればと思いまして、こちらをどうぞ」
長がそういうとおつきの人は箱から何かを取り出しそれを私とジェットさんの前に出す。これは、まさか狙い通りでは!
「ナギ様に力になっていただいたのは十分承知ですが、ジェット様にも同様の物を差し上げて構わないでしょうか?」
「は、はい」
私が承諾すると、私達の前に出したそれを付き人が私とジェットさんに渡してくれる。
【世界樹の枝】
特殊アイテム
世界のどこかにあるとされる特別な大樹の枝。とある場所への通行証
また通行証を手に入れてしまった。
「世界樹か」
「知ってるんですか?」
物知り顔で頷くジェットさんに尋ねる。
「まぁね、世界樹の葉っていうアイテムがあると行ける場所があってそこの奥に入るためのものだと思うけど、今度連れてってあげようか?」
ジェットさんからそういわれたのでお願いする。「今度」がいつになるのか心配だけど。
お礼を受け取った私たちはルージュナの長の家を後にする。一部とはいえ作戦通りだったのでジェットさんと二人で喜んだのは秘密。
――――――――――
NAME:ナギ
【ブーメラン】Lv19【STR上昇】Lv37【幸運】Lv38【SPD上昇】Lv32【言語学】Lv36【視力】Lv40【魅力】Lv28【体術】Lv6【二刀流】Lv8【】
SP28
称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者




