PvP①
観客用の通路から観客席に出る。会場はコロッセオのようで、舞台は円形、その周りは壁で囲われ壁の上に段になって座席がある。
まだ開始前なのに人は多く、上の方に団体と団体の隙間が空いていたので私はそこに座る。上の方がより全体を見渡せる…気がする。
PvP大会は予選のときも同様に観戦ができ、予選から全試合見ている、という言葉も周囲の話声に交じって聞こえてくる。
しばらくするとホークさんとホムラが入場してくる。それと同時に一斉に観客が声を上げて叫ぶので私はとっさに耳をふさいでいた。
少し落ち着いたところで戦う二人の間に立つようにGMさんが現れて、一応ルールの確認をした後消える。会場の空中にカウントを表示する画面が現れ、その数字が減るたびに観客が一緒にカウントを数える。
「「「3!」」」
「「「2!」」」
「「「1!」」」
カーン!
というゴングの音とともに戦闘が開始される。先制はホークさんでジェットさんも使う【一閃】でホムラの出鼻をくじく。
ホムラも瞬時に立て直し突っ込むけど、すぐさま次の攻撃が飛んでくるのでその対処に追われなかなかホークさんに迫ることができない。
たまらずホムラは火魔法を使う。使ったところを見たことがないから多分このために用意した隠し玉だったんだろう。しかしそれもデコイの効果もちの盾となる紙飛行機で防がれてしまう。
「火の神は相性が最悪だな」
私の後ろ辺りからそんな声が聞こえる。確かホムラの二つ名が火の神だったはずだ。そしてその観客の言うようにホムラは近距離攻撃が主体のアタッカーで、ホークさんは中~遠距離のアタッカー。遠距離からの攻撃手段に乏しく、高い威力の攻撃を耐えきるだけの耐久力を持ち合わせているわけではないホムラにとって最悪の相手だった。
ホムラがやっと攻撃範囲内にホークさんをとらえたかと思うとデコイの紙飛行機で防がれ、その隙に攻撃を受けることとなる。
一方的にホムラはやられることになり、ついに敗北した。
試合が終わった瞬間あちこちから歓声が上がり、終了した後も戦いの感想を言い合っているのが聞こえる。私はホムラが負けて残念という気持ちと、ホークさんと初めて会った時に「くれ」と言われた素材が使われてホムラが倒されたんじゃないかという気持ちで複雑ではあった。
「ここ、いいかな?」
私が複雑な気持ちになっていると横から女性が声をかけてくる。見た目は私より年上で髪は茶髪、髪はショートで顔は凛々しいので遠くから見れば男性と思えなくもない感じの人だった。その女性は私の横の席を指している。
「え? はい、いいですよ」
私は戸惑いながらも答える。何故ならその席の「隣」は私だけではなく反対側にも人はいるのに私だけに確認を取ってきたからだ。もちろん私の知り合いじゃない。
女性は席に座っても反対側の人と話すそぶりは見せない。おそらく個人で応援しに来ている人らしい。っと思っていると女性がこちらに顔を向ける。
「私はレイダっていうの、ギルド『神風』の一員で…ジェットの知り合いってことね、それで…ナギちゃん、でよかったよね?」
「はい、初めまして」
自己紹介してくれる女性に私も挨拶する。どうやらジェットさん達の知り合いらしい。女性も私の初めましてを聞いて「初めまして」と返す。
「本当は見かけてすぐ隣に行こうかと思ったんだけど、初戦は、ねぇ、ホムラさんと知り合いなんだよね?」
「はい」
レイダさんは私とホムラの関係も知っているみたいだ。いや、エイローでのランキングは公式のHPにも載ってたから私がホムラと行動してたことは明らかだし、私のことが筒抜け状態のジェットさんのギルドの人だから当然と言えば当然だけど。
そしてレイダさんは私の知り合いであるホムラと、レイダさんの知り合いであるホークさんが戦うということでしばらくは私の横に来なかった。ということはその辺の空気も読めるということだろう。
「他には誰かを応援しているとかあるの?」
「ジェットさんですかね」
レイダさんの問いかけに答えると、レイダさんが目を細める。いや、そういう意味では…。
話によるとレイダさんはエイローイベントのときジェットさにがスカイさんと一緒に行動するようにと言ったギルドメンバーのうちの一人だそうだ。「でもその心配は無用だったかなぁ…」と言われたけど、レイダさんは何か勘違いしてる気がする。
「ところでエースさんは勝ち上がらなかったみたいですね」
レイダさんの中で私=ジェットさんの彼女となってしまわないうちに話題を変える。疑問に思っていたことでもあるので自然…のはず。
「予選はバトルロイヤル形式だったからね、エースさんもエイローイベントで名前も恰好も知れ渡ったから、狙われてね…ってことらしいよ」
「そうですか」
私が話題を変えたことを特に気にする様子もなくレイダさんは話す。エイローイベントはPvP前にどれくらいの実力があるかと目立ってしまう要素になってしまったようだ。
「あれ? でも確か『デコイ』の効果がある紙飛行機を対多人数用に準備してたんじゃないんですか?」
「エースさんはボールに拘ってるから…それにギルドのお抱えじゃないんだけどエースさんが仲のいい生産プレイヤーから武器を調達してて、私達とは武器の入手経路が違うの」
「さすがはエースさん、徹底してますね」
「本当よね」
私は少し呆れていたのにレイダさんは感心するかのような雰囲気だった。ここまで話している限りレイダさんは普通の人だ。変態でなければ変な人でもない。
そんな会話をしているうちにバジルさんの試合が始まる。
私はいつレイダさんが本性(?)を表すか注意しつつ、バジルさんの応援をする。バジルさんは魔法使いだけど風魔法に専念しているようで他の属性の魔法を使う気配はなく、見事に勝利した。
バジルさんの試合が終わるころレイダさんが困った表情を私に向ける。
「どうかしたんですか?」
「なんか警戒されてる気がしたの、気のせいなら別にいいけど」
「…いや、ジェットさんのギルドは変態が多いので」
言っておいた、先手を打った。ここまで警戒していてそういえば下手なことはしてこないだろうし、してくればすぐさま立ち去り関わらなければいい。これ以上変態の知り合いが増えてもらっては困る。
「ちょ! ナギちゃん! わ、私変態じゃないから、うちのギルドの中にも変態じゃない人もいるわ! エースさんとかテツ君とかスカイ君も悪ノリするけど変態じゃないし」
「ま、まぁ確かに…あ、でもエースさんとかテツさんは変な人ではありますよね?」
レイダさんのあまりの慌てように気圧されてしまった。とっさに余計なことを言ってしまった。
「そう…ね、でも私はまともだから」
レイダさんは落ち着いてくれたようで私もホッとする。あの慌てようは普通ではない気がしたけどまともな人にいきなりあんな態度かつあの発言ではああもなるだろう。
いや、レイダさんだからかもしれない。レイダさんも感じているのだろう、自分の身の回りにいる人が個性的で変な人ばかりだということを。それに、もしかしたら自分も一緒に見られているかもしれないという不安も持っていたのかもしれない。つまり私は踏んではいけないところを踏んだだけ。レイダさんが悪いわけではないだろう。
そう思うと途端にレイダさんが不憫に思えてきた。私は憐れむような表情になっていたんだろう、私の顔を見たレイダさんはすごく気まずそうにしていた。
――――――――――
NAME:ナギ
【ブーメラン】Lv19【STR上昇】Lv37【幸運】Lv37【SPD上昇】Lv32【言語学】Lv35【視力】Lv40【魅力】Lv28【体術】Lv6【二刀流】Lv8【】
SP28
称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者




