ジェットさんと
マキセさんに皮を売り渡した後、細かいことは明日ということで女性と別れた。女性の名前は「マーガレット」さんと言って、便利だからとフレンド登録も済ませた。
うん、着実に先輩プレイヤーのフレンドが増えていってる。同期と仲良くなりたいものだけど。
私は西門へと向かう。キノミンイエローやアントを狩りに行くつもりだ。
ジェットさんはというと…私についてきている。しかもぴったり私の真後ろをキープしている。
「あのぅ、ジェットさん?」
「ん?」
「…どうして私の後ろをついてくるんですか? 隣で歩くんじゃだめなんですか?」
「ナギちゃんの後姿は見る人が見たら目の毒だよ、だから誰の目にも触れないようにこうやって俺が塞いでいるんだよ」
私の疑問に真面目な口調で答えるジェットさん。
「ジェットさん……私の後姿を眺めて楽しんでません?」
私は顔を後ろに向けてジェットさんに笑顔を向けながら尋ねる。
「そ、そんなことはないよ! リボンがかわいいなぁって思ってるだけだよ! やましいことなんて…」
慌てるジェットさんはまさにそうですと言わんばかりに怪しい。
「まさかスクリーンショットを撮ったとか…」
私の言葉を聞いてジェットさんがあらぬ方を向く。…こいつ。
「心酔」のときは崩壊したジェットさんだけど、こういうことでは崩壊しないのかと疑問に思いながら西門を抜け街の外に出る。
「では、今からキノミンとアントの狩猟を始めます」
私は丁寧に宣言し、街道を外れて森の中へ入る。
「無造作に入っていくけどナギちゃん、感知系のスキルとか持ってるんだっけ? この辺ってそういう系のスキルがないと面倒なモンスターばっかりだったと思うけど」
ジェットさんの言うことはもっともだ。アントは敏感だからある程度離れてても戦闘が始まればやってくるし、キノミン、トレントはそれぞれ木の実と木に擬態し、ビーは縄張りに入れば襲い掛かってくる。だから感知で敵の位置を把握しなければ不意打ちを喰らう可能性が高くなる。
だけど私が強気なのは、近づけば「釘付け」でしばらく動きを封じれるからだ。
そんなことを考えているとアントが一匹。
私はブーメランを投げる。ザシュッと一撃、そして返ってこない…。
「あっ」
まだコントロールが完璧ではないらしく、投げたところから若干の位置調整した場所へと返ってこさせるような軌道をイメージして投げると、失敗する。
アントが迫ってくる前にブーメランを回収。ダガーに切り替えて投げつける。
一匹倒すとまた一匹アントがやってくる。動きを止めてるうちにブーメランに持ち替えて投げる。今回は余裕があったので投げた位置からそのままに戻ってこさせる。若干それて動きつつもキャッチ。
そしてまた…アントが寄ってきて。
「ナギちゃん、どうして寄ってきたアントが一度動きを止めるのかな? あとさ、無駄なことやってる気がするんだけど?」
ジェットさんはアントが動きを止める光景を不思議に思っているらしい。それと、無駄なことというのはおそらく派生を選んでないのにブーメランを駆使していることだと思う。
「ジェットさん、交代お願いしていいですか?」
私はジェットさんにアントの処理を頼み、ジェットさんが片づけた後モンスターが寄ってきてないか確認し、一旦街に戻る。キノミンは結局狩ってないけど気にしない。
「じゃあまずは、なんで動きを止めてたのか教えてくれないかな? あれがナギちゃんが余裕こいて森に入った理由でしょ?」
「はい、あれは【魅力】のスキルによるものです、範囲内の自分より実力の劣る敵を「釘付け」状態にするんです」
「へぇー、解放条件があるスキルなんだろうね、俺の選択肢の中にはないし」
一人で納得しているジェットさんに、一応イベントのMVPのときにもらったアイテムで習得したと伝えておいた。
「うん、【魅力】については分かった、それで次はナギちゃん、特化はまだしてないみたいだけどブーメランを使う理由は? 使いやすさの検証なら他のエリアでできると思うけど」
「森だから…です、荒野だと開かれてるじゃないですか」
私の答えを聞いてジェットさんも頷き、「ナギちゃんも慎重に考えてるんだね」と言ってくれる。どうやら地形が違うとどうなるか検証していたと解釈されたらしい。優柔不断ですなんて言えない。
「ソロでやるならやっぱりブーメランがいいんじゃない」
「…やっぱりそう思いますか」
ジェットさんの言葉に押されて私も踏ん切りがつく。どうせゲームだし、いわゆる「ガチ勢」でもないから勢いで選べばいいかな。
私はスキルの画面を開き【投擲】の特化派生【ブーメラン】を選択する。
<一度選択してしまうと取り消せません。それでも選択しますか?>
はい/いいえ
念を押された私は「はい」を選択し、sp5が消費される。これで晴れて私はブーメラン使いとなった。
「ジェットさん」
「ん?」
「ブーメランに…特化しました、それで、あのぅ」
「一緒に狩りを手伝えって!? 行くよ!」
ジェットさんはやる気満々。いやだけど手伝ってほしいんじゃなくて、近くで見ていてくれればいいというか、むしろそうしてほしいというか。
私の目標はまず、「釘付け」で動きを止めた状態から先制できる、ということを活かすために確実に投げた時と戻ってくる時に攻撃を当てられるようにすることだ。
ブーメランの制御がまだ完璧ではないこともあってあっちこっちに動き回り…というよりブーメランに振り回されるように動かされながら戦う。
「その服装動きやすいみたいだね、それと動き回ってると視線も…ね、変なところに集まらないと思うよ」
「……まだそこ見てたんですか」
私が戦う姿を見て、そんな感想を持つ相変わらず変態なジェットさんに呆れつつ、アント、キノミンイエロー、トレントなんかを狩った。
そうして私は満足いくところで狩りを終えて街に戻った。
「ジェットさんありがとうございました」
「ん? 全然いいよ」
正直ジェットさんには色々お世話になっている気がする。でも何かお礼をしたことがない、というかジェットさんが何かのお詫びと言って私を手伝ってくれることが多い気もする。
「そういえばナギちゃん」
「ん?」
私が考え事をしているうちにジェットさんが私に何か話があるみたいだ。
「簡単にゴブリン王国の件オッケーしてたけど…あ、いや今更どうとかじゃなくて、ナギちゃん北の方行けるんだっけ…?」
あ、まったくそんなこと考えてなかった。
「まだ行ったことがないです、北のエリアって第五エリアより強いモンスターが出るんでしたっけ?」
「うん、俺一人がついて行ってもナギちゃんを無事に連れて行く自信がないから、マーガレット達に頼むか、元々向こうの提案だし」
「そうですね、まったくそのこと考えてませんでした、今日はジェットさんにお世話になりっぱなしですね、…何かお礼しますよ?」
そういうとジェットさんがぴくっと反応した。そのあとものすごーく気まずそうにして一言。
「じゃあお礼でスクショを撮らせてもらったってことでいいよ…ね?」
それってお礼するって言わなかった場合はどうなっていたんですかねぇ。結局無許可で撮ったままだったわけでは…。
私は深くため息をつき、それを見たジェットさんはなぜか幸せそうな顔をしていた。
――――――――――
NAME:ナギ
【ブーメラン】Lv6【STR上昇】Lv29【幸運】Lv31【SPD上昇】Lv23【言語学】Lv32【視力】Lv35【魅力】Lv16【】【】【】
SP30
称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者




